【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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122.薔薇の棘⑩ Side.トーシャス&カリン

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【Side.トーシャス】

「それで…ロキ坊は?」
「ぶっ壊れ野郎は闇医者に預けたし大丈夫だろ。それより、やるぞ」

そう言ったらすぐにスパイの奴らが本格的に動き出す。
裏の商人達にもリヒターからの第一報が入ると同時に素早く声を掛け、既に手を回しておいた。
ぶっ壊れ野郎がどう思ってるかは知らないが、あいつはこの国の商人達からの支持率は物凄く高い。
他国との関係をバンバン良くして事業に取り掛かっている関係で、今や裏だけでなく表の商人達からも認められている。
その恩恵は計り知れない。
その王が殺されかけたのだ。
動かないはずがない。

裏社会の後ろ盾を持ち、表の経済をも押さえている王を攻撃してただで済むと思っているのならただの馬鹿だと思う。

(まああいつはそれを全く分かってはいないし、興味すら持っていないから、その権力を使って自らどうこうする気は一切ないんだがな)

だからこそ余計にこういう時、自主的に全力で動いてやりたくなるのかもしれない。
商人達も恩返しとばかりに速やかに動き始めた。

何が怖いって、他国との取引が多く、高級でレアな物を取り扱っている商人達ほど意欲的に動く所が怖いのだ。
彼らの得意先は当然ガヴァム以外にもあるし、今回は裏ルートで他にさばく場所も選びたい放題。

貴族達が必要とする諸々の物流は確実に混乱をきたし始めるだろう。
これまで安易に手に入っていた品も彼らが本気になればこちらへは入って来なくなる。
宝石もドレスを作る布さえ全て商人達を通さないと手には入れられないのだから。
弱みを巧みに使ってじわじわと四方から切り崩していく。
その上で金庫からごっそり頂いたっていい。
裏稼業の者は泥棒だってお手の物だ。

(精々慌てるがいい)

気づいた時には手遅れだ。
問題のある貴族だけではなく、今回は他の貴族達へもしっかりと教えてやる。
あの王を殺そうとすれば自分達がどうなるのかを。
裏稼業の連中や商人達が皆自主的にやっていることだから、貴族達が気づいたとしても文句を言う先は精々あの兄陛下くらいのものだろう。
万が一商人達を潰しにかかられても裏の俺達がそれを許さないから潰せるはずもない。
加えて警邏の連中にも俺達の仲間はいる。
どう足掻こうとこちらが捕まるはずがない。
裏と商人達がタッグを組んでいるのだ。
最強に決まっている。

彼らにできることは元凶となった敵の摘発と、王への謝罪くらいのもの。
嫌でもそうなるように仕向けてみせる。
二度とあいつを危険に晒さないためにも────。

後はぶっ壊れ野郎を殺そうとした本人達についてだが、そちらはスパイ連中がいい動きをしてくれるはずだ。
奴らはワイバーンで迅速に現地へ飛び、何食わぬ顔で別荘へと紛れ込む。
速やかに証拠を掴み場合によってはその場で報復だってできるのだ。
ある意味自分のような暗殺者よりも彼らは物騒だ。
オールマイティに何でもこなすのだから。
正直今回の件で自分に出番があるかどうか……。

(あのクソばばぁだけは俺がこの手で仕留めてやりてぇんだがな)

ある意味ずっとずっと殺してやりたかった特別な相手だ。
リヒターからあの女がぶっ壊れ野郎を壊したと聞いて憤りを隠せなかった。
八つ裂きにしてもし足りない相手だ。
どう始末してやるべきか……。

そうこうしているうちに手元のツンナガールが鳴った。
この道具はぶっ壊れ野郎がブルーグレイのセドリック王子に言って改良してもらった物を裏の技術者に回して新しく作った特別な品だ。
これで更に仲間内での情報伝達が早くできるようになったし、とても重宝している。
これだってぶっ壊れ野郎に感謝している奴は大勢いるのだ。
魔力タンク石とやらの存在は革命だと技術者達が歓喜の声を上げたと聞く。
これのお陰で他国に散っている仲間から情報がリアルタイムでもらえるようになった。
当然情報戦にも有利になるし、その用途は計り知れない。

「俺だ」
『潜入成功。ターゲット確認。こちらの判断で動く』
「任せる。王配野郎についてはどんな感じか後で報告をくれ。ふざけた事でもしようもんなら俺が殺る」
『了解』

リヒターの話では王配である兄の方は向こうに残ったらしい。

(ぶっ壊れ野郎の敵討ちのために動いているようならいいが…万が一にでもクソ女共と同調してあいつを貶めていたらただじゃおかねぇ)

あの男の『愛情』とやらが本物かどうか、俺達が見届けてやる────そんな思いで俺もまた動き始めた。


***


【Side.カリン】

暗部を動かし情報を得る。
最近平和ボケし過ぎていたと反省しきりだ。
敵は把握し、的確に対処せねばならない。
そう父から教わっていたはずなのに…。
父に嫌悪を抱き過ぎて失念していた気がする。
感情的にならず、物事を客観的に見て冷静に対処せねばならない。
この場合敵は母と令嬢二人。
アンシャンテの令嬢は巻き込まれただけだから除外してもいいだろう。
そう思っていたのに……。

「あの女が主犯…?」

暗部からの情報に目を見開いてしまう。

「はっ。先程四人で茶を囲みながら話していたことから考えるに、まず間違いないかと」
「どういうことだ?!」

彼女はロキを心配していたはずだ。
他の令嬢達がロキを扱き下ろす間、心配そうに気遣っていたように思う。

「あれが全て演技だとでも?」
「その可能性は高いかと。もう暫く様子を見られますか?」
「ああ。頼む」

とても信じることはできないが、暗部が言うならほぼ間違いはないのだろう。
巻き込まれただけの令嬢ならこの後早々に国に帰ってもらおうと思っていたのだが、こうなってくるとどうすべきかを考えなければならない。
勝手に他国の公爵令嬢を裁くわけにはいかないし、シャイナーに頼むわけにもいかない。
恐らく話を持っていけばすぐにでも動いてはくれるだろうが、その代わりに責任を取ってロキを暫く預かるとでも言い出されかねないし、できれば頼りたくはなかった。

「くそっ…!」

てっきり母が主犯だとばかり思っていたのに────。

(どうする?)

いくら他国の公爵令嬢だろうと主犯であると言うのなら絶対に許すつもりはないが、どうやったら国際問題にならずに済むのかも考えなければならない。

(向こうから手を出したという証拠がいる)

それさえあればそれを元に強く出ることもできるだろう。
ならば暫く泳がせてそれを掴むより他にない。

そんな事を考えているとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「誰だ」
「すみません。カリン陛下にお手紙が届いているのですが」
「俺に?」

こんな場所に送ってくる相手に心当たりはない。
けれど何となく気になって扉へと近づく。
当然だが剣でいつでも反撃できるようにだ。
万が一にでも刺客と言う可能性もなくはない。

扉を開けるとそこには使用人らしき男の姿があり、ペコペコと頭を下げながら一通の手紙を手渡してきた。

「こちらになります」

俺は黙ってそれを手にし、下がれと言った。
でも去り際に『考えて動けよ?』と言われた気がしてハッと顔を上げる。
けれど男は全くそんな素振りも見せずにあっという間に姿を消したからもしかしたら聞き間違いだったのかもしれない。
なんだか落ち着かないが、俺は部屋に戻ってその手紙をそっと開いてみた。

「これは……」

ツンナガールの特定番号と誰かのサイン。
これだけだと多分何のことだかわからず無視しただろう。
でも手紙に添えられていた言葉に目を見開いた。

『敵を討ちたきゃプライドは捨てて掛けてこい。証拠はきっちり揃えてやる』

「裏の…奴らか」

恐らくリヒターが闇医者を頼った時点で裏の奴らが動き出したのだ。
奴らはロキを可愛がっているからもしかしたら今回の件で怒ったのかもしれない。
味方のいない現状でこれほど心強い相手も他にいないだろう。
たとえ自分のために動いてくれたのではなくロキの為だったとしても、今は味方には違いない。

「背に腹はかえられない」

そう呟き、俺はそっとツンナガールを手に取った。

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