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119.薔薇の棘⑦
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リヒターに慰めてもらった後、カーライルが明るい声で『朝食後すぐに帰りましょうね』と言ってくれた。
本当は昨夜兄が俺のために『すぐに帰る』と言ってくれていたらしく、もう荷物もまとめてくれているらしい。
すぐにでも発てますからと言われてホッと安堵の息を吐く。
「兄上。ありがとうございます」
「いや。大丈夫だから、一緒に帰ろう?」
そう言って兄はどこかぎこちなく俺を抱きしめて、何度も何度も謝ってくれた。
こんなに心配をかけてしまうなんて、本当に申し訳なくて仕方がない。
(もっとしっかりしないと…)
兄を不安にさせないようにちゃんと自分を立て直さないといけない。
でもすぐには難しそうだったから、ギュッと抱きしめ返して『ちょっとだけこのままでいさせてください』と少しだけ甘えさせてもらった。
朝食の席に向かうとそこにはすでに母達の姿があって、食事を始めていた。
「あら。昨日あんなことがあったくせによく顔を出せたわね」
母が心底呆れたというような嫌悪に満ちた顔でこちらを見てくる。
それを見た途端胸がおかしなほどにバクバクしてきたような気がする。
怖い…?
胸が苦しい。悲しい。その目を見たくない。
どうして?
「…………」
「まあこれでカリンも目が覚めたでしょう」
母はどこか満足げな顔で兄を見遣り、次いで俺へと冷たい言葉を発してきた。
「もう貴方はお払い箱よ」
「それは、どういう……」
「所詮スペアはスペアでしかなかったということよ。王位はカリンとカリンの子供が継ぎます」
「……え?」
「意外そうね。でもね、カリンは昨日あの後彼女の部屋に行ったのよ?」
「え……」
「気を失った彼女を心配そうに腕に抱きながら私の部屋を訪ねてきてね?彼女の部屋を聞いてきたの」
そう言って母はクリスティン嬢の方に目をやり、彼女はポッと頬を染めてどこか嬉しそうに兄の方に目をやった。
「いい雰囲気だったから邪魔になってもいけないと思って、案内してすぐに私は部屋を出たけど、カリンは部屋からず~っと出てこなかったわ」
『その意味が分かるわよね?』と母がこちらに思わせぶりな視線を送ってくる。
母は兄が彼女と寝たと言いたいのだ。
とは言え当然それを信じる気はない。
兄はそういうところはきっちりしていて、意識のない相手に手を出すようなことはしないと知っているからだ。
でも────兄が昨夜自分の傍に居てくれなかったのは確かなことで…。
「カリン陛下は倒れた私に付き添って優しく介抱してくださっただけですわ。カリン陛下?ショックで倒れた私の側にずっとついて居てくださってありがとうございます」
「え?…あ、ああ」
その言葉に衝撃を受け、胸が激しく抉られた気がした。
(否定…しなかった……)
つまりはそういうことなのだろう。
彼女に手を出してはいなくても、ずっと側についていたというのは事実なのだ。
兄が自分より彼女を優先した事実が胸に深く突き刺さる。
別にその行動をダメとは言わない。
兄は優しいから、倒れた彼女を心配して側についていてあげただけの話だと頭ではわかっている。
でも、俺はこのタイミングでそうされたのが何よりもショックだった。
せめて…何もない日であればよかったのに────。
(笑わ…ないと……)
辛くても笑えるうちはまだ大丈夫。
昔何かでそう読んだ。
だから────俺は笑わないといけないんだ。
そう思って笑おうとするのに…。
(笑え…ない……)
心がどこか遠くにあるように、思うように笑えなかった。
兄が俺の名を呼んでいる。
不安になっている。
だから…ちゃんと笑って『大丈夫ですよ』って、『気にしてないですよ』って、…俺はそう言ってあげないといけないのに。
感情が乱れすぎて、息さえ止まってしまいそうだ。
「陛下!」
誰かが俺を揺さぶっている。
でも…何も感じないんだ。
(ダメだ…心を守らないと……)
このままだと自分を保てなくなる────そう思って心を閉ざす。
誰にも傷つけられないように、痛みを鈍くさせて、心を遠くへやって、そうして…笑わないといけない。
「……っ!もう沢山です!カリン陛下!俺は今すぐロキ陛下を連れ帰ります!」
そんな言葉と共に唐突に浮遊感に襲われた。
どうやら誰かに抱き上げられたらしい。
「こんな場所、来なければよかった。こんなにロキ陛下を追い詰めるなんて許せません!カリン陛下、必要であれば俺はロキ陛下を連れて国を出ます。どうかそれをお忘れなく」
「リヒ…ター?」
誰よりも俺の為を思って動いてくれる騎士の名を俺はそっと口にする。
「ロキ陛下、大丈夫です。闇医者のところにすぐに行きましょう?きっと楽になりますから」
心が乱れてどうしようもないけれど、俺はなんとか頷きだけを返した。
「失礼します」
リヒターのこんな冷たい声は初めて聞いた気がする。
でもリヒターが俺を助けようと動いてくれているのだけは凄くわかって、安心したら意識がプツリと途切れて、俺はそこで気を失ってしまったのだった。
***
【Side.リヒター】
(信じられない、絶対に!)
たった二日。たった二日だ。
その二日間で大事なロキ陛下が幸福から絶望へと突き落とされてしまった。
幸せの絶頂だったからこそショックも大きかったのだろう。
これまでのように『期待してはいけない』『もしかしたら────になるかもしれない』そう言った心構えを持っていなかったことが見事に裏目に出た。
幸せ一色だったロキ陛下を突然襲った悪夢の数々。
昨夜の事だけでも危うかったのに、まさか追い打ちまで掛けられるなんて思いもよらなかった。
『この後すぐに帰るし、朝食に出されるものに毒物の警戒をすればいい』
そう思っていたけれど、見通しが甘かった。
できるならあの悪魔のような母親を今すぐにでも殺してやりたい。
カリン陛下の立て続けの迂闊な行動にも苛立ちが募って仕方がなかった。
「リヒター!」
カーライルが馬車を用意してくれたが、今の俺には全てが疑わしく思えて、ついその言葉を口にしていた。
「カーライル。車輪や馬は調べたか?」
「…っ!すぐ調べる」
そうして調べてみると車輪に細工がされているのが見つかった。
誰だか知らないがロキ陛下を事故死させる気満々だ。
悪質にも程がある。
「カーライル。ついでにこの先で野盗が待ち伏せしていないか見てきてほしい」
「わかった」
念には念をと誰かが画策していても全くおかしくはない。
(女性不信になりそうだ)
「ロキ陛下。必ず俺がお守りするので気をしっかり持っていてください」
そう言って俺は持っていたツンナガールを使ってある場所へと連絡を入れる。
『おぅ!珍しいな。リヒター』
「……トーシャス。手の空いている裏の人間に依頼を頼みたい」
『何かあったのか?』
いつもの調子で通話口に出たトーシャスだったが、こちらの真剣な声にすぐさま状況を察してくれる。
「避暑に出掛けたらロキ陛下が壊された。敵を根こそぎ始末してやりたい」
『……真面目で温厚なお前をそこまで怒らせるとはな。ぶっ壊れ野郎はどんな感じだ?』
「レイプされて暴力まで振るわれた。その上で追い打ちのように母親達から精神的に絶望に突き落とされて…今は気を失っている。はっきり言って壊れかけ寸前だ」
『…闇医者には言っておく。無事に戻って来れそうか?』
「馬車に細工がされていてすぐには動けそうにない」
『伝手で迎えを寄越してやる。合言葉は闇医者の名だ。わかるな?』
「ああ」
『後は任せろ』
そう言ってトーシャスは通話を切った。
「ロキ陛下…」
早く助けてあげたいと、気ばかりが急く。
ぐったりと気を失っているロキ陛下を抱きしめながら俺はカーライルが戻ってくるのを待った。
「リヒター!十数名待ち伏せしてる。どうする?」
「今トーシャスに連絡したら伝手で迎えを寄越してくれるらしい」
「…!ありがたい」
「とは言え待ち伏せがいるとなると厄介だな」
そうして迎えを待っていたところ、大して時間も置かずバサァと空からワイバーンがやってくる。
乗っていた男は知らない男だったが、ぶっきらぼうに『合言葉は?』と聞かれたので、短く「ロンギス」とだけ答えたら『乗れ』と言われた。
「助かった」
ワイバーンで来てくれたから待ち伏せにも遭遇せずに済んだし、闇医者の元へも迅速に向かうことができる。
本当に有難くて心から礼を言うと、軽く手を振られた。
気にするなと言う事だろうか。
「ロキ坊とは知らない仲じゃないからな」
「ロキ陛下を?」
「ああ。最初は他の孤児達みたいにどうせギラついた目をしながら不屈の精神で生きてくんだろうって思って遠目に見てたんだが…こいつはどうもその辺が繊細でな」
変なところで王族なんだよなと男が笑う。
「人生を悲観しすぎていつ死んでも構わないって感じの奴もまあ裏には結構いるし、じゃあそいつらと同じ感じかとも思ったもんだ」
でもそれともまた違ったのだと男は言った。
「なんて言うんだろうなぁ…最後の一線で悪足掻きしててな、どこか期待しては落胆しての繰り返し。自分が壊れていることにも気づいてないし、発言がおかしいことにも気づいていない。そんな姿がどうにも危なっかしくてな…。気づけば放って置けなかった」
「……わかる気がする」
「そうか。わかってくれるか」
そんな話をしながら俺達は王都に程近い拓けた場所へと降り立った。
途中カーライルがカリン陛下と話していたが、対応は任せておいた。
俺はロキ陛下を助けることで頭がいっぱいだったからだ。
それに今カリン陛下と話しても多分怒りしか湧いてこないだろう。
「ここから入れ。地下はわかるな?」
「ああ」
「よし。じゃあな」
気をつけてと見送られ俺達は地下道へと静かに降りる。
そうして決して邪魔が入らない安全な道を通って、俺達はロキ陛下を闇医者の元へと運び込んだのだった。
****************
※上手く伝わるかわかりませんが、攻め思考と言うか、ロキの中でのカリンは『守ってあげたい存在』『頼ってほしい相手』だったりするので、ああいう思考寄りになっています。
だからロキ自身がカリンに怒ることもないという…。
代わりにリヒターが激怒しちゃいました。
本当は昨夜兄が俺のために『すぐに帰る』と言ってくれていたらしく、もう荷物もまとめてくれているらしい。
すぐにでも発てますからと言われてホッと安堵の息を吐く。
「兄上。ありがとうございます」
「いや。大丈夫だから、一緒に帰ろう?」
そう言って兄はどこかぎこちなく俺を抱きしめて、何度も何度も謝ってくれた。
こんなに心配をかけてしまうなんて、本当に申し訳なくて仕方がない。
(もっとしっかりしないと…)
兄を不安にさせないようにちゃんと自分を立て直さないといけない。
でもすぐには難しそうだったから、ギュッと抱きしめ返して『ちょっとだけこのままでいさせてください』と少しだけ甘えさせてもらった。
朝食の席に向かうとそこにはすでに母達の姿があって、食事を始めていた。
「あら。昨日あんなことがあったくせによく顔を出せたわね」
母が心底呆れたというような嫌悪に満ちた顔でこちらを見てくる。
それを見た途端胸がおかしなほどにバクバクしてきたような気がする。
怖い…?
胸が苦しい。悲しい。その目を見たくない。
どうして?
「…………」
「まあこれでカリンも目が覚めたでしょう」
母はどこか満足げな顔で兄を見遣り、次いで俺へと冷たい言葉を発してきた。
「もう貴方はお払い箱よ」
「それは、どういう……」
「所詮スペアはスペアでしかなかったということよ。王位はカリンとカリンの子供が継ぎます」
「……え?」
「意外そうね。でもね、カリンは昨日あの後彼女の部屋に行ったのよ?」
「え……」
「気を失った彼女を心配そうに腕に抱きながら私の部屋を訪ねてきてね?彼女の部屋を聞いてきたの」
そう言って母はクリスティン嬢の方に目をやり、彼女はポッと頬を染めてどこか嬉しそうに兄の方に目をやった。
「いい雰囲気だったから邪魔になってもいけないと思って、案内してすぐに私は部屋を出たけど、カリンは部屋からず~っと出てこなかったわ」
『その意味が分かるわよね?』と母がこちらに思わせぶりな視線を送ってくる。
母は兄が彼女と寝たと言いたいのだ。
とは言え当然それを信じる気はない。
兄はそういうところはきっちりしていて、意識のない相手に手を出すようなことはしないと知っているからだ。
でも────兄が昨夜自分の傍に居てくれなかったのは確かなことで…。
「カリン陛下は倒れた私に付き添って優しく介抱してくださっただけですわ。カリン陛下?ショックで倒れた私の側にずっとついて居てくださってありがとうございます」
「え?…あ、ああ」
その言葉に衝撃を受け、胸が激しく抉られた気がした。
(否定…しなかった……)
つまりはそういうことなのだろう。
彼女に手を出してはいなくても、ずっと側についていたというのは事実なのだ。
兄が自分より彼女を優先した事実が胸に深く突き刺さる。
別にその行動をダメとは言わない。
兄は優しいから、倒れた彼女を心配して側についていてあげただけの話だと頭ではわかっている。
でも、俺はこのタイミングでそうされたのが何よりもショックだった。
せめて…何もない日であればよかったのに────。
(笑わ…ないと……)
辛くても笑えるうちはまだ大丈夫。
昔何かでそう読んだ。
だから────俺は笑わないといけないんだ。
そう思って笑おうとするのに…。
(笑え…ない……)
心がどこか遠くにあるように、思うように笑えなかった。
兄が俺の名を呼んでいる。
不安になっている。
だから…ちゃんと笑って『大丈夫ですよ』って、『気にしてないですよ』って、…俺はそう言ってあげないといけないのに。
感情が乱れすぎて、息さえ止まってしまいそうだ。
「陛下!」
誰かが俺を揺さぶっている。
でも…何も感じないんだ。
(ダメだ…心を守らないと……)
このままだと自分を保てなくなる────そう思って心を閉ざす。
誰にも傷つけられないように、痛みを鈍くさせて、心を遠くへやって、そうして…笑わないといけない。
「……っ!もう沢山です!カリン陛下!俺は今すぐロキ陛下を連れ帰ります!」
そんな言葉と共に唐突に浮遊感に襲われた。
どうやら誰かに抱き上げられたらしい。
「こんな場所、来なければよかった。こんなにロキ陛下を追い詰めるなんて許せません!カリン陛下、必要であれば俺はロキ陛下を連れて国を出ます。どうかそれをお忘れなく」
「リヒ…ター?」
誰よりも俺の為を思って動いてくれる騎士の名を俺はそっと口にする。
「ロキ陛下、大丈夫です。闇医者のところにすぐに行きましょう?きっと楽になりますから」
心が乱れてどうしようもないけれど、俺はなんとか頷きだけを返した。
「失礼します」
リヒターのこんな冷たい声は初めて聞いた気がする。
でもリヒターが俺を助けようと動いてくれているのだけは凄くわかって、安心したら意識がプツリと途切れて、俺はそこで気を失ってしまったのだった。
***
【Side.リヒター】
(信じられない、絶対に!)
たった二日。たった二日だ。
その二日間で大事なロキ陛下が幸福から絶望へと突き落とされてしまった。
幸せの絶頂だったからこそショックも大きかったのだろう。
これまでのように『期待してはいけない』『もしかしたら────になるかもしれない』そう言った心構えを持っていなかったことが見事に裏目に出た。
幸せ一色だったロキ陛下を突然襲った悪夢の数々。
昨夜の事だけでも危うかったのに、まさか追い打ちまで掛けられるなんて思いもよらなかった。
『この後すぐに帰るし、朝食に出されるものに毒物の警戒をすればいい』
そう思っていたけれど、見通しが甘かった。
できるならあの悪魔のような母親を今すぐにでも殺してやりたい。
カリン陛下の立て続けの迂闊な行動にも苛立ちが募って仕方がなかった。
「リヒター!」
カーライルが馬車を用意してくれたが、今の俺には全てが疑わしく思えて、ついその言葉を口にしていた。
「カーライル。車輪や馬は調べたか?」
「…っ!すぐ調べる」
そうして調べてみると車輪に細工がされているのが見つかった。
誰だか知らないがロキ陛下を事故死させる気満々だ。
悪質にも程がある。
「カーライル。ついでにこの先で野盗が待ち伏せしていないか見てきてほしい」
「わかった」
念には念をと誰かが画策していても全くおかしくはない。
(女性不信になりそうだ)
「ロキ陛下。必ず俺がお守りするので気をしっかり持っていてください」
そう言って俺は持っていたツンナガールを使ってある場所へと連絡を入れる。
『おぅ!珍しいな。リヒター』
「……トーシャス。手の空いている裏の人間に依頼を頼みたい」
『何かあったのか?』
いつもの調子で通話口に出たトーシャスだったが、こちらの真剣な声にすぐさま状況を察してくれる。
「避暑に出掛けたらロキ陛下が壊された。敵を根こそぎ始末してやりたい」
『……真面目で温厚なお前をそこまで怒らせるとはな。ぶっ壊れ野郎はどんな感じだ?』
「レイプされて暴力まで振るわれた。その上で追い打ちのように母親達から精神的に絶望に突き落とされて…今は気を失っている。はっきり言って壊れかけ寸前だ」
『…闇医者には言っておく。無事に戻って来れそうか?』
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『伝手で迎えを寄越してやる。合言葉は闇医者の名だ。わかるな?』
「ああ」
『後は任せろ』
そう言ってトーシャスは通話を切った。
「ロキ陛下…」
早く助けてあげたいと、気ばかりが急く。
ぐったりと気を失っているロキ陛下を抱きしめながら俺はカーライルが戻ってくるのを待った。
「リヒター!十数名待ち伏せしてる。どうする?」
「今トーシャスに連絡したら伝手で迎えを寄越してくれるらしい」
「…!ありがたい」
「とは言え待ち伏せがいるとなると厄介だな」
そうして迎えを待っていたところ、大して時間も置かずバサァと空からワイバーンがやってくる。
乗っていた男は知らない男だったが、ぶっきらぼうに『合言葉は?』と聞かれたので、短く「ロンギス」とだけ答えたら『乗れ』と言われた。
「助かった」
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本当に有難くて心から礼を言うと、軽く手を振られた。
気にするなと言う事だろうか。
「ロキ坊とは知らない仲じゃないからな」
「ロキ陛下を?」
「ああ。最初は他の孤児達みたいにどうせギラついた目をしながら不屈の精神で生きてくんだろうって思って遠目に見てたんだが…こいつはどうもその辺が繊細でな」
変なところで王族なんだよなと男が笑う。
「人生を悲観しすぎていつ死んでも構わないって感じの奴もまあ裏には結構いるし、じゃあそいつらと同じ感じかとも思ったもんだ」
でもそれともまた違ったのだと男は言った。
「なんて言うんだろうなぁ…最後の一線で悪足掻きしててな、どこか期待しては落胆しての繰り返し。自分が壊れていることにも気づいてないし、発言がおかしいことにも気づいていない。そんな姿がどうにも危なっかしくてな…。気づけば放って置けなかった」
「……わかる気がする」
「そうか。わかってくれるか」
そんな話をしながら俺達は王都に程近い拓けた場所へと降り立った。
途中カーライルがカリン陛下と話していたが、対応は任せておいた。
俺はロキ陛下を助けることで頭がいっぱいだったからだ。
それに今カリン陛下と話しても多分怒りしか湧いてこないだろう。
「ここから入れ。地下はわかるな?」
「ああ」
「よし。じゃあな」
気をつけてと見送られ俺達は地下道へと静かに降りる。
そうして決して邪魔が入らない安全な道を通って、俺達はロキ陛下を闇医者の元へと運び込んだのだった。
****************
※上手く伝わるかわかりませんが、攻め思考と言うか、ロキの中でのカリンは『守ってあげたい存在』『頼ってほしい相手』だったりするので、ああいう思考寄りになっています。
だからロキ自身がカリンに怒ることもないという…。
代わりにリヒターが激怒しちゃいました。
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