【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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118.薔薇の棘⑥ Side.カリン

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心配して『帰ろう』と言いに行ったのに『混ざります?』と聞かれて腹が立ち、思わず『ロキのバカ』と言って飛び出した俺は暫くしたらすぐに冷静になった。
リヒターは、ロキは下剤のせいで寝込んで先に休んだと言っていた。
そんなロキが俺達が席を外していた短い時間で男を連れ込めるはずがない。
そもそもロキは俺以外の誰かと好き好んで寝たりもしない。
となるとあれはきっと寝込みを襲われたのだ。
あの時はそう見えなかったけど…いや、滅茶苦茶ご主人様モードだったけど…し、信じたいけど…うん、多分そのはず。
いっそのことあの場から連れ去って事情を聞けばよかった。
そうしたらこんな不安になんて襲われなかっただろうに。

(戻ってすぐに謝って事情を聞こう)

そう思って部屋へと戻ってみると、そこには無残な姿になった男の姿があった。

「これは…」

そう呟いたところで誰かの気配を感じてそちらへと目を向けると、そこにはアンシャンテのクリスティン嬢が立っていた。

「カリン陛下…も、もしや……」

どうやら状況から彼女に俺がこの男を斬り捨てたと思われてしまったらしく、蒼白な顔でふるふると震えられてしまう。

「ち、違う!」

慌てて弁明しようと口を開きかけたところで、ショックからか彼女は倒れてしまった。
『これは俺のせいか?!』と思いながら彼女を抱き上げ、急いで母の元へと連れて行く。
彼女の部屋がわからなかったからだ。

でもこれは失敗だった。
それを見た母が嬉々として誤解してしまったのだ。
自分で抱き上げるのではなく誰かに頼めばよかったと後悔してももう遅い。

「彼女の部屋はこっちよ。カリンったら手が早いのね」
「違います」
「優しくね」
「ですから違います!」

クスクス笑われて「上手くやるのよ」と言って母は去っていき、重く溜息を吐く。

(取り敢えず寝室に…)

そう思って彼女をベッドまで運んでそのまま出て行こうと思ったのに、クンッと袖に引っ掛かりを覚えた。

「え……」

見ると彼女の手が俺の服を掴んでいて離してくれない。
眠っているのにどうしてこんなに力が強いのだろう?
余程不安だったのだろうか?

『女性はとても繊細なのよ。絶対に手荒に扱ってはいけないわ。優しく紳士的に接して、決して冷たくしてはダメよ?簡単に傷ついてしまいますからね』

そうやって幼少期から教え込まれてきたから、意識のない令嬢の手を無理矢理引き剥がすなんてとてもできそうになかった。
でもまさかこの状況でここに居続けるなんてできるはずもない。
その結果、なんとか彼女が離してくれるのを待つ羽目に。

(早くロキのところに行きたいのに…!)

そう思いながら俺は重い溜息を吐いた。




それから深夜遅くになんとか脱出できたものの、今度はロキの居場所がわからない。
元々の部屋がああだから絶対に別の部屋で休んだはずだけど、その行き先がわからないのだ。
リヒターならわかるだろうが、流石にもう休んでいるだろう。
願わくばロキの部屋で添い寝でもして慰めてくれているといいのだけど…。
本当は嫌だが仕方がない。
そして適当な部屋で俺も休んで、朝早く取り敢えずリヒターの部屋へと急いだ。

「…………よ、予想通りと言えば予想通り…なのか?」

そこで見たのはロキを挟んで眠る護衛達の姿。
リヒターが背中側からしっかりとロキを抱きしめて、そのロキはカーライルに抱きついている。
こんなことなら令嬢の部屋を抜け出してすぐ、ここへ来ておけばよかったとがっくりと肩を落とす。
たとえ床で寝ることになったとしても、その方がずっと良かった気がしてならない。
そんな中、カーライルが嬉しそうにニコニコしながら俺に声を掛けてきた。

「あ、おはようございます。カリン陛下」
「お、おはよう」

頬がヒクつくがここは許そう。

「カーライル。これはどういう状況だ?」
「ロキ様がレイプされて傷ついてたので二人で添い寝してただけですが?」

その言葉に衝撃を受ける。
何故なら昨日のロキはいつも通りのご主人様に見えたし、襲われたにしても主導権は握っていたように見えたから、『傷ついた』と言う表現はあまり当てはまらないように思ったのだ。
だから添い寝の理由は、自分に誤解されたと落ち込んでのことくらいに思っていたのだが…。

「その顔はわかってないですよね?気丈に振る舞ってましたけど、昨日ロキ様、頬をぶたれて虚ろな目になってましたよ?」
「え…」
「俺が思うに多分ロキ様の場合、レイプよりそっちの方がショックだったんじゃないですか?」

それは十分あり得ることだった。
自分より大きな相手に押さえ込まれて暴力を振るわれる。
過去を彷彿とさせるその状況はロキが傷つくには十分過ぎるシチュエーションだ。

「だから、カリン陛下はあの時ロキ様を抱きしめてあげるべきだったんですよ」

『わかります?』と言われて混乱し、蒼白になって立ち尽くしていると、ロキが目を覚まして不機嫌な声を上げてきた。

「カーク、余計なことを言うな」
「ロキ様。おはようございます」
「…おはよう」
「お身体は大丈夫ですか?」
「ああ。とは言えこのままだと動けないな」

そう言って今度はリヒターへと声を掛ける。

「リヒター。起きてくれ」
「ん…今起きました」

リヒターはそっとロキから手を離し、そのままベッドの縁へと腰掛けてロキの顔色を確認する。

「ちゃんと眠れたようで良かったです」
「ありがとう」

そんなやり取りを見て、何も知らなかった自分を悔しく思った。

「兄上。おはようございます」
「お、おはよう」
「昨日は誤解させてしまってすみませんでした」
「いや…俺も誤解して悪かった」

ちょっと考えたらわかったのにと言えばロキがほんの微かに笑みを浮かべる。

「大丈夫です」
「…何があったか、聞いても大丈夫か?」

ダメなら無理はしなくていいと言い添えてロキの顔色を窺った。
でもロキは大丈夫ですよと言って昨夜の事を話し始めた。

昨日は腹痛で薬を飲んで休んでいたら違和感を覚えて目を覚ましたらしい。
見ると男が自分の後ろを指でほぐしている真っ最中だったらしく、逃げようと試みたけど完全に押さえ込まれていて無理だったからもう諦めて折角だし俺の気持ちを理解するため抱かれるかと割り切ることにしたらしい。
この辺りは実にロキらしいと言えばロキらしかった。

「それでね?まあ抱かれてみたわけですよ」

男のモノはかなり大きくて自信満々でロキに挿れてきたらしい。

「でもあまりに下手くそ過ぎて、つい本当は童貞だったのかもと思って…」
「まさか言ったのか?!」
「言っちゃいましたね。そのままストレートに」

そうしたら頬を何度もぶたれて、お前は泣きながらよがってたらいいんだよと言われてしまったらしい。

「だからまあ、叩かれたのも罵られたのも言って見れば俺の自業自得なんです」

それはそうかもしれないが、多分そこがロキが一番傷ついた瞬間だったんだろう。
急に目が虚ろになった。

「ロ、ロキ。無理して話さなくていいぞ?」

どうやって最終的に形勢逆転したのかはわからないけど、多分そこに至るまではただただ犯されて酷い目にあったんだろう。
そう思って声を掛けたが、ロキはちょっと逝ってしまった目でアハハと笑った。

「大丈夫ですよ。そこからは窒息プレイで甚振りながらイケないように根元を押さえつけて散々中イキさせてやりましたから」

(ち、窒息プレイ?)

「知ってます?脳に酸素が足りないとフワフワしてきて快楽と勘違いするんですよ?」

『兄上にはする気は無かったから、ちょうど試す機会ができて良かったです』と笑いながら話しているが、怖い!
大人しく蹂躙されていないところがロキらしいと言えばロキらしいが、いつもの笑い方と全然違うし、見るからに壊れてしまいそうで凄く怖かった。
どう見ても病んでるのが前面に出ていて、下手な事は絶対に言えない状況だ。

昨日もこんな感じだっただろうか?
確か縄を手にして俺にあのセリフを言ってきた時はもうその窒息プレイというのは終わっていたはず。
そこからお仕置きに移ろうとしていた?
そこに俺がバカとか言ったせいでこうなったのか?

どうしたらいいんだとオロオロしていたら、リヒターがこちらを見た後落胆したように溜息を吐き、代わりとばかりにロキをギュッと強く抱きしめた。

「陛下。大丈夫…大丈夫ですよ」

そう言いながら宥めるように何度も頭を撫でて、髪に口づけを落として優しく言葉を紡ぐ。

「リヒター…」
「ぶたれて怖かったですね」

その言葉にロキの目が潤み始める。

「ここには貴方を傷つける者はいません。だから、素直に泣いて、甘えてもいいんですよ」

そう言ったらロキはリヒターに抱きついて暫く肩を震わせていた。

(まただ…)

こういう時、俺はいつもリヒターには勝てない。
ロキの過去を知っても対処法がわからなくて一歩届かないのだ。

(悔しい…)

こういったことはどう学べばいいのだろう?
俺だってロキを癒してやりたい。
守ってやりたい。
そう思うのに気持ちばかりが空回りして、結局間違った行動をしてしまう。
ちゃんと心配しているのに動けなくてもどかしくて仕方がない。

これだってさっきカーライルが俺にアドバイスをしてくれたばかりの事じゃないか。
どうしてできなかったんだろう?
そんな自分がどうしようもなく情けなかった。
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