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112.幸せな日々
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ブルーグレイから帰って来てから兄との距離がグッと近くなったような気がする。
毎日毎日兄からこれでもかと愛情を伝えてもらえるから凄く幸せで嬉しくて仕方がなかった。
不安があればなんでも聞いていいし、問題があるなら一緒に考えたいと言ってくれたから相談もしやすくなった。
兄曰く、それが夫婦というものらしい。
こんなに幸せで本当にいいんだろうか?
そう思って勉強の時間にリヒターに聞いてみたら、俺にはその権利があるんだと言われた。
過去が辛かった分、人の倍幸せになってもいいんだと言われたけど本当だろうか?
もし本当なら凄く嬉しいのだけど…。
童貞の件も杞憂だったし、兄的に現状で十分満足してくれているらしい。
その日の夜ももう一度念の為聞いてみたけど、そもそも矛盾してるぞと苦笑された。
これまでの多人数やリヒターとの事をまず思い出せと言われて反芻してみる。
その上で自分のテクニックを比べてみろと次に言われた。
「どっちが上手いと思う?」
そう聞かれて、よくわからないと答えたら、「じゃあどっちの俺の方が気持ち良さそうだった?」と聞かれたからそれにはすぐに自分の時だと答えを返せた。
「そうだろう?つまりお前の方がどう考えても上手いという事だ」
本当にそうなんだろうか?
兄が乱暴に激しく犯されるのが好きなだけという気もしないでもないけど…。
でも兄はそれは違うと言うのだ。
ただ乱暴にされても気持ちよくはない。
そこに愛情があってこそ気持ちよくなれる。
だからこそ乱交パーティーは意味がないと。
「ロキ以上に俺に愛情をくれる相手なんてどこにもいないだろう?」
それは確かに言われてみればその通りかもしれない。
「それに俺をこれでもかと感じさせようと頑張ってる奴も他にいないんだから、比べるまでもなくお前が一番上手いに決まっている。だから俺はお前が居てくれるなら他はいらないんだ」
「他はいらない…」
「ああ。何度も言ってきたけど、嘘じゃない。後は経験が少ない…だったか?それだっておかしいだろう?ほぼ毎日俺を抱いているんだから」
兄からそう言われてよく考えると確かにそれも言われている通りだった。
「お前は自信がなさ過ぎてわかってなかったようだが、凄く上手なんだ。だから自信を持て」
「兄上…」
その言葉に不覚にも凄く感動してしまった。
そう言えばいつだったか俺は無能じゃないとも言ってくれて、最高の弟だと褒めてくれた事もあった。
どうして忘れていたんだろう?
兄はずっと前からちゃんと俺を認めてくれていたのに…。
「兄上。これからももっともっと兄上を満足させられるよう頑張りますね」
俺を認めてくれた兄に感謝してもっともっと尽くしたいと思った。
この日、俺の中にあったコンプレックスが一つ、綺麗になくなったように思う。
兄には心からお礼が言いたい。
その夜はこれでもかと気持ちよく溺れさせてあげたのは言うまでもない。
そんなある日のこと。闇医者がセドリック王子に送ってほしいと発信機とマジックバッグを持ってやってきた。
どうやらあっちの裏市場では手に入らなかったから、デルタ経由でこっちに頼んで来たらしい。
購入時に人気商品と聞いたし、そのせいで品薄だったのかもしれない。
何はともあれ闇医者は確実にセドリック王子に届くよう俺に頼みに来たのだろう。
昔から世話になっているしこれくらいお安い御用だ。
そう言えばちょうどアルメリア姫からも相談の手紙が送られてきていた。
なんでもアルフレッドがつれない態度で接するからセドリック王子の機嫌が悪いらしい。
(相変わらず仲が良いな)
正直感想はそれしかない。
アルフレッドに対して溢れる愛情を持っているからこそセドリック王子は構ってもらえないと機嫌が悪くなるし、逆にセドリック王子からの愛情が足りているからアルフレッドは安心してそんな態度がとれるのだろう。
ラブラブとしか言いようがない。
ただそれですれ違っては目も当てられないし、セドリック王子には恩もあるから少しだけ手を貸そうかなと思った。
サラサラと思いついたことを手紙にしたため、闇医者から預かった発信機とマジックバッグの件についても触れる。
後はついでに鉱山ホテルの宣伝でもしておこうか?
あそこは本当にお勧めだから、仕事が落ち着いたら是非マンネリ防止に行ってきてほしいと思う。
きっと楽しんでもらえるだろう。
後はこれだけだと姫に言われたから書いたとバレバレなので、私事も少々書き足しておいた。
これならきっと大丈夫だろう。
そして読み返しておかしなところがないのを確認後封をして、今度はアルメリア姫への返事を書いた。
まずは滞在中の礼を述べ、次いで茶葉の件で当り障りなく話を綴る。
ちょうどキャサリン嬢にも気に入ってもらえたし、近況として報告ができて良かった。
リヒターから貴族の手紙の書き方を教わっていて本当に良かったと思うのはこういう時だ。
昔の自分ならきっと難しかっただろう。
加えてセドリック王子との頻繁な手紙のやり取りも凄く勉強になったように思う。
実践は大事だ。
(さて…本題はどう書こうかな)
姫とアルフレッドの関係は主従関係だ。
正妃と側妃と言う関係の前にそちらをアルフレッドが優先するから困るという話も街歩きの時に少しだけ聞いたし、それできっと姫も余計にやきもきする羽目になったのだろう。
こういう時、主人も大変だと思う。
だからセドリック王子に手紙を出しておくと書きつつアルフレッドを刺激しないようにと書き添えておいた。
姫の心配が少しでもなくなれば良いけれど。
その日の夜、兄からじっと見つめられ『ロキ、幸せか?』と聞かれた。
もしかしたら闇医者と久し振りに話して以前の事を振り返ったのかもしれない。
カウンセリングはそういう一面もあるものだ。
兄が正気を取り戻した時も色々あったなと懐かしく思いながら、笑顔で『幸せですよ』と答えを返す。
だって本当にあの頃と比べて今の自分は凄く幸せなのだから。
「兄上。沢山愛してくれてありがとうございます」
だから心の底から幸せいっぱいに笑ってそう言ったのに、何故か言った途端めちゃくちゃ泣かれてしまった。
『もっといっぱい俺が幸せにしてやるからな』と言われたけど、もう既にいっぱい幸せなのに。
泣かれる理由がわからない。
(そう見えないのかな?)
「兄上。泣かないでください。俺は毎日幸せですよ?」
すれ違いもなくなって、なんだったら今が一番幸せだと思うのだけど…。
何か心配事でもあるんだろうか?
「今日はどうしますか?添い寝にしますか?」
「…………添い寝にする」
「そうですか」
たまにはこういう日もいいかもしれない。
「兄上が安心して泣き止めるようにちゃんと抱きしめていてあげますからね」
でもそう言ったらまた泣きながらぎゅうぎゅう抱き着かれた。
可愛い。
「幸せ…」
毎日毎日こうやって俺を幸せにしてくれる兄が大切で、誰よりも愛おしい。
(俺も…兄上をもっといっぱい幸せにしてあげますね)
そんなことを思いながら幸せな夜を過ごした。
***
それから暫くしてレオがこちらへとやってきた。
なんでもセドリック王子やアルメリア姫達が鉱山ホテルに遊びにきてくれるのだとか。
「ロキが勧めてくれたって聞いたから嬉しくて」
「まあ、ついでだったので」
「相変わらずだなぁ。まあいいや。それで、折角だからロキも一緒にどう?」
どうやらレオは今回その話に便乗して誘いに来たらしい。
でも────。
「う~ん。今回はパスで」
「え?!」
どうしてと驚かれたけど、セドリック王子達にはこの間会ったばかりだし、手紙に書いてあった件を考えるに邪魔しない方がいいと思ったからだ。
それに俺も今は兄とラブラブで全くマンネリにはなっていないから、今すぐはいいかなと。
「今は兄上と二人だけの甘い時間を過ごしたくて」
「うっ…ロキが可愛い」
笑顔で言ったら何故かレオからそんな珍しいことを言われてしまった。
「そりゃあアルメリアも誤解するか…」
何やらそんな意味深な言葉を口にしていたけど、用が済んだらもう帰ってほしい。
「レオ。気をつけて帰ってくださいね」
「早っ?!」
「兄上に仕事を任せてこっちに来たので早く戻りたいんです」
「はぁ…本音はカリン陛下の側にいたいだけなんだろ?もうわかってるし!俺は客人だから、今はちょっとだけもてなしの練習!」
「…段々図々しくなってる気が」
「大親友は友人のためなら心を鬼にするんです~」
「それは俺と兄上の時間を奪うと言っているのと変わらないんですが?」
「そこ!そこがロキのダメなところ!」
「え?」
何かダメなところがあっただろうか?
「いつもベッタリだとカリン陛下も疲れるかもしれないし、何にでも緩急は大事だって知ってるだろ?」
確かに言われてみればそうかもしれない。
「マンネリ防止にもなるし一石二鳥!って事で、たまには大親友にも構ってくれ!」
「ただそれが言いたかっただけなのでは?」
「いいじゃないか。そもそも、そろそろもっとタメ口で話そう?知り合って随分経つし親しくもなったのに、ロキは全然変わってくれないから気になってしょうがないんだけど」
「…………」
「ほら、その面倒臭いなぁって顔!本当にロキってわかりやすい」
そう…なのだろうか?
あんまりそう言われたことはないんだけど。
「俺は大親友だからわかるの!」
自信満々にレオが言う。
「カリン陛下命って感じのロキにはこれくらい図々しくいかないと!」
「押し付けがましい…」
「ハハッ!ほら本音が出た」
レオは俺が本音をこぼしても全然引いたりしない。
性癖についても驚かれたことはあっても否定せず寧ろ興味津々とばかりに聞いてきたりするから、正直変わった人だと思う。
子供っぽいし陽気なキャラでちょっと頭がお花畑なくせに、機動力が高くて意外とできる男だということも知っている。
気遣いもできるし、お節介なところもあるし、決して悪い人ではない。
でもだからこそ不思議だった。
「レオはどうしてそんなに俺に良くしてくれるんです?」
普通に考えても理解できない。
でもレオはあっけらかんと言い放った。
「ロキが気に入ってるから!」
「どの辺りが?」
「全部!」
レオが目をキラキラさせながらそう言い放ってくる。
「ロキは自分に自信がなさそうだけど、俺からしたらロキって凄いんだ!だってロキのお陰で俺はセドリック王子に殺されなくて済んだし、花畑事業に鉱山ホテル事業、大きなものでは三カ国事業とかさ、そのお陰で国庫を救ってもらえて、言ったら恩人だよね?!なのにそれを全部俺が頑張っただけだって言っちゃってさ、全然偉ぶらないし恩も売ってこない。カリン陛下だけっていう盲目的に一途なところもブレないし好感が持てる!」
他にも『天然なところは放って置けない』とか、『話してると突飛な言葉が飛び出してきて面白い』とか色々言われて驚いた。
「知れば知るほどロキが好きになる。嫌いになる要素がない!だから、安心して俺とタメ口で話して、末長く俺と仲良くしてくれたら嬉しいな!」
そこにあるのは嘘偽りない輝く笑顔。
「レオは変わってる」
「…!うん!よく言われる」
「馬鹿正直だし、お人好しだし」
「うんうん。もっと言って!」
「意外とドMだし」
「ええっ?!どの辺が?!」
「俺が突き放してもめげずに突撃してくるところとか?」
「ぐっ…でもそこはさぁ、ロキと親しくなるには必要って言うか…」
「そういうところはありがたいなと思ってる」
「うん!」
「だから」
「うん!」
「これからも、宜しく?」
「やったー!やっとロキから言ってもらえたー!これで遠慮なく末長く付き合える~!ロキ大好き!」
「はぁ…。抱きつかないでください」
「タメ口が消えた?!」
「……ウザい」
「緩急が俺に降ってきた?!でもこれはこれで楽しい!」
やっぱりドMだと思いながら、それでも他のドM達とは違うなとほんのりと微笑んだ。
そんなやり取りをしていたら兄がやってきて、俺にベタベタしているレオを一目見るや否や慌てたように引き離してきた。
「ロキ!何があった?!」
「え?レオが俺が大好きで末長く仲良くしたいんですって」
「そう!俺達大親友だから!」
「なっ?!ロキ!騙されるな!普通親友はこんなにベタベタしないぞ?!」
「そうなんですか?」
「そうだ!」
「でも俺達大親友だし!」
「う~ん…大親友と親友との差はそこってことなんでしょうか?」
「違っ…!」
「そう!だからロキは気にしなくていいから!それより相談に乗って欲しいんだけど」
「……そっちが今日の訪問目的だったとか?」
「え?どっちもだって!だって相談事ってセドリック王子のことだし」
そう言ってあっさり俺から離れたレオはソファに大人しく座り直す。
兄は俺に抱きついてレオを威嚇してるけど、俺は兄のその行動が凄く嬉しかったし、もしかしてレオはこれを狙って行動してくれたのかもしれない。
(なるほど。これが友情ってやつなのかな?)
折角の好意からの申し出だったし、これからは有難くレオから友情を学ばさせてもらおうと思いながら、俺はレオの相談とやらに耳を傾けたのだった。
****************
※カリンとの幸せを掴んだロキの幸せ満喫中なお話でした。
本編とのリンクは一応このあたりで一区切り(^^)
レオはこれからあちらでおもてなしです。
こちらはこちらでアンシャンテ編にまた突入していく予定ですので、宜しくお願いしますm(_ _)m
毎日毎日兄からこれでもかと愛情を伝えてもらえるから凄く幸せで嬉しくて仕方がなかった。
不安があればなんでも聞いていいし、問題があるなら一緒に考えたいと言ってくれたから相談もしやすくなった。
兄曰く、それが夫婦というものらしい。
こんなに幸せで本当にいいんだろうか?
そう思って勉強の時間にリヒターに聞いてみたら、俺にはその権利があるんだと言われた。
過去が辛かった分、人の倍幸せになってもいいんだと言われたけど本当だろうか?
もし本当なら凄く嬉しいのだけど…。
童貞の件も杞憂だったし、兄的に現状で十分満足してくれているらしい。
その日の夜ももう一度念の為聞いてみたけど、そもそも矛盾してるぞと苦笑された。
これまでの多人数やリヒターとの事をまず思い出せと言われて反芻してみる。
その上で自分のテクニックを比べてみろと次に言われた。
「どっちが上手いと思う?」
そう聞かれて、よくわからないと答えたら、「じゃあどっちの俺の方が気持ち良さそうだった?」と聞かれたからそれにはすぐに自分の時だと答えを返せた。
「そうだろう?つまりお前の方がどう考えても上手いという事だ」
本当にそうなんだろうか?
兄が乱暴に激しく犯されるのが好きなだけという気もしないでもないけど…。
でも兄はそれは違うと言うのだ。
ただ乱暴にされても気持ちよくはない。
そこに愛情があってこそ気持ちよくなれる。
だからこそ乱交パーティーは意味がないと。
「ロキ以上に俺に愛情をくれる相手なんてどこにもいないだろう?」
それは確かに言われてみればその通りかもしれない。
「それに俺をこれでもかと感じさせようと頑張ってる奴も他にいないんだから、比べるまでもなくお前が一番上手いに決まっている。だから俺はお前が居てくれるなら他はいらないんだ」
「他はいらない…」
「ああ。何度も言ってきたけど、嘘じゃない。後は経験が少ない…だったか?それだっておかしいだろう?ほぼ毎日俺を抱いているんだから」
兄からそう言われてよく考えると確かにそれも言われている通りだった。
「お前は自信がなさ過ぎてわかってなかったようだが、凄く上手なんだ。だから自信を持て」
「兄上…」
その言葉に不覚にも凄く感動してしまった。
そう言えばいつだったか俺は無能じゃないとも言ってくれて、最高の弟だと褒めてくれた事もあった。
どうして忘れていたんだろう?
兄はずっと前からちゃんと俺を認めてくれていたのに…。
「兄上。これからももっともっと兄上を満足させられるよう頑張りますね」
俺を認めてくれた兄に感謝してもっともっと尽くしたいと思った。
この日、俺の中にあったコンプレックスが一つ、綺麗になくなったように思う。
兄には心からお礼が言いたい。
その夜はこれでもかと気持ちよく溺れさせてあげたのは言うまでもない。
そんなある日のこと。闇医者がセドリック王子に送ってほしいと発信機とマジックバッグを持ってやってきた。
どうやらあっちの裏市場では手に入らなかったから、デルタ経由でこっちに頼んで来たらしい。
購入時に人気商品と聞いたし、そのせいで品薄だったのかもしれない。
何はともあれ闇医者は確実にセドリック王子に届くよう俺に頼みに来たのだろう。
昔から世話になっているしこれくらいお安い御用だ。
そう言えばちょうどアルメリア姫からも相談の手紙が送られてきていた。
なんでもアルフレッドがつれない態度で接するからセドリック王子の機嫌が悪いらしい。
(相変わらず仲が良いな)
正直感想はそれしかない。
アルフレッドに対して溢れる愛情を持っているからこそセドリック王子は構ってもらえないと機嫌が悪くなるし、逆にセドリック王子からの愛情が足りているからアルフレッドは安心してそんな態度がとれるのだろう。
ラブラブとしか言いようがない。
ただそれですれ違っては目も当てられないし、セドリック王子には恩もあるから少しだけ手を貸そうかなと思った。
サラサラと思いついたことを手紙にしたため、闇医者から預かった発信機とマジックバッグの件についても触れる。
後はついでに鉱山ホテルの宣伝でもしておこうか?
あそこは本当にお勧めだから、仕事が落ち着いたら是非マンネリ防止に行ってきてほしいと思う。
きっと楽しんでもらえるだろう。
後はこれだけだと姫に言われたから書いたとバレバレなので、私事も少々書き足しておいた。
これならきっと大丈夫だろう。
そして読み返しておかしなところがないのを確認後封をして、今度はアルメリア姫への返事を書いた。
まずは滞在中の礼を述べ、次いで茶葉の件で当り障りなく話を綴る。
ちょうどキャサリン嬢にも気に入ってもらえたし、近況として報告ができて良かった。
リヒターから貴族の手紙の書き方を教わっていて本当に良かったと思うのはこういう時だ。
昔の自分ならきっと難しかっただろう。
加えてセドリック王子との頻繁な手紙のやり取りも凄く勉強になったように思う。
実践は大事だ。
(さて…本題はどう書こうかな)
姫とアルフレッドの関係は主従関係だ。
正妃と側妃と言う関係の前にそちらをアルフレッドが優先するから困るという話も街歩きの時に少しだけ聞いたし、それできっと姫も余計にやきもきする羽目になったのだろう。
こういう時、主人も大変だと思う。
だからセドリック王子に手紙を出しておくと書きつつアルフレッドを刺激しないようにと書き添えておいた。
姫の心配が少しでもなくなれば良いけれど。
その日の夜、兄からじっと見つめられ『ロキ、幸せか?』と聞かれた。
もしかしたら闇医者と久し振りに話して以前の事を振り返ったのかもしれない。
カウンセリングはそういう一面もあるものだ。
兄が正気を取り戻した時も色々あったなと懐かしく思いながら、笑顔で『幸せですよ』と答えを返す。
だって本当にあの頃と比べて今の自分は凄く幸せなのだから。
「兄上。沢山愛してくれてありがとうございます」
だから心の底から幸せいっぱいに笑ってそう言ったのに、何故か言った途端めちゃくちゃ泣かれてしまった。
『もっといっぱい俺が幸せにしてやるからな』と言われたけど、もう既にいっぱい幸せなのに。
泣かれる理由がわからない。
(そう見えないのかな?)
「兄上。泣かないでください。俺は毎日幸せですよ?」
すれ違いもなくなって、なんだったら今が一番幸せだと思うのだけど…。
何か心配事でもあるんだろうか?
「今日はどうしますか?添い寝にしますか?」
「…………添い寝にする」
「そうですか」
たまにはこういう日もいいかもしれない。
「兄上が安心して泣き止めるようにちゃんと抱きしめていてあげますからね」
でもそう言ったらまた泣きながらぎゅうぎゅう抱き着かれた。
可愛い。
「幸せ…」
毎日毎日こうやって俺を幸せにしてくれる兄が大切で、誰よりも愛おしい。
(俺も…兄上をもっといっぱい幸せにしてあげますね)
そんなことを思いながら幸せな夜を過ごした。
***
それから暫くしてレオがこちらへとやってきた。
なんでもセドリック王子やアルメリア姫達が鉱山ホテルに遊びにきてくれるのだとか。
「ロキが勧めてくれたって聞いたから嬉しくて」
「まあ、ついでだったので」
「相変わらずだなぁ。まあいいや。それで、折角だからロキも一緒にどう?」
どうやらレオは今回その話に便乗して誘いに来たらしい。
でも────。
「う~ん。今回はパスで」
「え?!」
どうしてと驚かれたけど、セドリック王子達にはこの間会ったばかりだし、手紙に書いてあった件を考えるに邪魔しない方がいいと思ったからだ。
それに俺も今は兄とラブラブで全くマンネリにはなっていないから、今すぐはいいかなと。
「今は兄上と二人だけの甘い時間を過ごしたくて」
「うっ…ロキが可愛い」
笑顔で言ったら何故かレオからそんな珍しいことを言われてしまった。
「そりゃあアルメリアも誤解するか…」
何やらそんな意味深な言葉を口にしていたけど、用が済んだらもう帰ってほしい。
「レオ。気をつけて帰ってくださいね」
「早っ?!」
「兄上に仕事を任せてこっちに来たので早く戻りたいんです」
「はぁ…本音はカリン陛下の側にいたいだけなんだろ?もうわかってるし!俺は客人だから、今はちょっとだけもてなしの練習!」
「…段々図々しくなってる気が」
「大親友は友人のためなら心を鬼にするんです~」
「それは俺と兄上の時間を奪うと言っているのと変わらないんですが?」
「そこ!そこがロキのダメなところ!」
「え?」
何かダメなところがあっただろうか?
「いつもベッタリだとカリン陛下も疲れるかもしれないし、何にでも緩急は大事だって知ってるだろ?」
確かに言われてみればそうかもしれない。
「マンネリ防止にもなるし一石二鳥!って事で、たまには大親友にも構ってくれ!」
「ただそれが言いたかっただけなのでは?」
「いいじゃないか。そもそも、そろそろもっとタメ口で話そう?知り合って随分経つし親しくもなったのに、ロキは全然変わってくれないから気になってしょうがないんだけど」
「…………」
「ほら、その面倒臭いなぁって顔!本当にロキってわかりやすい」
そう…なのだろうか?
あんまりそう言われたことはないんだけど。
「俺は大親友だからわかるの!」
自信満々にレオが言う。
「カリン陛下命って感じのロキにはこれくらい図々しくいかないと!」
「押し付けがましい…」
「ハハッ!ほら本音が出た」
レオは俺が本音をこぼしても全然引いたりしない。
性癖についても驚かれたことはあっても否定せず寧ろ興味津々とばかりに聞いてきたりするから、正直変わった人だと思う。
子供っぽいし陽気なキャラでちょっと頭がお花畑なくせに、機動力が高くて意外とできる男だということも知っている。
気遣いもできるし、お節介なところもあるし、決して悪い人ではない。
でもだからこそ不思議だった。
「レオはどうしてそんなに俺に良くしてくれるんです?」
普通に考えても理解できない。
でもレオはあっけらかんと言い放った。
「ロキが気に入ってるから!」
「どの辺りが?」
「全部!」
レオが目をキラキラさせながらそう言い放ってくる。
「ロキは自分に自信がなさそうだけど、俺からしたらロキって凄いんだ!だってロキのお陰で俺はセドリック王子に殺されなくて済んだし、花畑事業に鉱山ホテル事業、大きなものでは三カ国事業とかさ、そのお陰で国庫を救ってもらえて、言ったら恩人だよね?!なのにそれを全部俺が頑張っただけだって言っちゃってさ、全然偉ぶらないし恩も売ってこない。カリン陛下だけっていう盲目的に一途なところもブレないし好感が持てる!」
他にも『天然なところは放って置けない』とか、『話してると突飛な言葉が飛び出してきて面白い』とか色々言われて驚いた。
「知れば知るほどロキが好きになる。嫌いになる要素がない!だから、安心して俺とタメ口で話して、末長く俺と仲良くしてくれたら嬉しいな!」
そこにあるのは嘘偽りない輝く笑顔。
「レオは変わってる」
「…!うん!よく言われる」
「馬鹿正直だし、お人好しだし」
「うんうん。もっと言って!」
「意外とドMだし」
「ええっ?!どの辺が?!」
「俺が突き放してもめげずに突撃してくるところとか?」
「ぐっ…でもそこはさぁ、ロキと親しくなるには必要って言うか…」
「そういうところはありがたいなと思ってる」
「うん!」
「だから」
「うん!」
「これからも、宜しく?」
「やったー!やっとロキから言ってもらえたー!これで遠慮なく末長く付き合える~!ロキ大好き!」
「はぁ…。抱きつかないでください」
「タメ口が消えた?!」
「……ウザい」
「緩急が俺に降ってきた?!でもこれはこれで楽しい!」
やっぱりドMだと思いながら、それでも他のドM達とは違うなとほんのりと微笑んだ。
そんなやり取りをしていたら兄がやってきて、俺にベタベタしているレオを一目見るや否や慌てたように引き離してきた。
「ロキ!何があった?!」
「え?レオが俺が大好きで末長く仲良くしたいんですって」
「そう!俺達大親友だから!」
「なっ?!ロキ!騙されるな!普通親友はこんなにベタベタしないぞ?!」
「そうなんですか?」
「そうだ!」
「でも俺達大親友だし!」
「う~ん…大親友と親友との差はそこってことなんでしょうか?」
「違っ…!」
「そう!だからロキは気にしなくていいから!それより相談に乗って欲しいんだけど」
「……そっちが今日の訪問目的だったとか?」
「え?どっちもだって!だって相談事ってセドリック王子のことだし」
そう言ってあっさり俺から離れたレオはソファに大人しく座り直す。
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(なるほど。これが友情ってやつなのかな?)
折角の好意からの申し出だったし、これからは有難くレオから友情を学ばさせてもらおうと思いながら、俺はレオの相談とやらに耳を傾けたのだった。
****************
※カリンとの幸せを掴んだロキの幸せ満喫中なお話でした。
本編とのリンクは一応このあたりで一区切り(^^)
レオはこれからあちらでおもてなしです。
こちらはこちらでアンシャンテ編にまた突入していく予定ですので、宜しくお願いしますm(_ _)m
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2/28 番外編を更新しました
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普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
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