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105.※ブルーグレイ再訪⑯ Side.カリン
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ロキを抱いた。
誰にも取られないように、俺だけを見て欲しくて。
ちょっと始まりは乱暴だったかもしれないけど、優しく抱いたつもりだ。
なのに────。
「え?終わりですか?」
それはもう見事なくらい俺の心を叩き折って来られた。
酷すぎる。
「うぅぅ…ロキのドS…酷い……」
「兄上?大丈夫です。痛くなかったし、ちゃんと優しかったですよ?」
「嘘だ…満足させてやらなかったからあんな事言ったんだろ?」
「えっと……ちょっとした認識の違いですから…」
「どうせセドリック王子の方が良かったんだ…」
「う~ん?多分あの人の場合初めてでも割と激しくしてきそうですし、俺としては大好きな兄上にあげられて良かったと思いますけど」
「ウッウッ…」
「泣かないでください。俺が悪かったしちゃんと反省してます」
グスグスと泣く俺をロキが一生懸命慰めてくれたけど、俺はそんな言葉に誤魔化されたりしない。
でも捨てられたくもなくて、ギュウギュウ抱きつきながら心の内を吐露していたように思う。
「ロキ…ロキ…捨てないで」
「捨てませんよ。俺が好きなのは兄上だけだって何度も言っているでしょう?」
「嫌いにならないでほしい…」
「嫌いになんてなりたくてもなれません。だって俺の中は兄上一色なんですから」
「…!なりたいのか?!」
「いえ。その…たまにフラッシュバックして勝手に凹んでいるだけなので────」
「悪かった!」
気まずそうにそう言われて俺は慌てて謝罪の言葉を口にする。
それは即ち、ロキは俺のブルーグレイでのトラウマをいつの間にか払拭してくれていたのに、俺は結局ロキの心の傷を癒しきれていなかったということに違いないからだ。
過去は変えられないし、ロキと結婚してから色々あったりはしたけどずっと幸せだったからもう大丈夫だと勝手に思い込んでいた面は無きにしも非ずだ。
ちゃんと反省する。だから離れていかないで────そう伝えたら、困ったように笑って『もういいんです』と言われた。
「さっきセドリック王子が言ってくれたんです」
「なに…を?」
「他の何を信じられなくてもいいから、自分に認められていることを忘れずそれを誇れと」
その言葉に俺は殴られたようなショックを受けた。
つまりそれは……俺の事は信じられないけど、セドリック王子の事ならロキは信じられるという事なのでは?
(もう駄目だ……)
こんなに信頼度が下がってしまったらもうロキは俺が何と言おうと俺から離れていってしまうかもしれない。
思わずそう考えてしまうほど衝撃を受けたと言っても過言ではなかった。
「ウッウッ……」
「あれ?兄上?」
「…………ロキ、離縁なんてしたくないっ!」
「え?離縁なんてしませんよ?だってその言葉のお陰で気が楽になって、安心して兄上と過ごせるようになったんですから」
「…………え?」
正直言ってロキの言葉の意味がさっぱりわからない。
どうしてそんな結論になるんだろう?
「もしかして俺がセドリック王子を好きになったとでも思いましたか?」
「だって……」
(俺よりあの冷酷王子の方が信じられると言ったじゃないか…)
それなのに────。
「セドリック王子は言ってみれば恩人のようなものです。兄上とは全然違いますよ」
「でも……」
「兄上。俺の愛情の重さを本気でわかってないんですね」
「え?」
「セドリック王子には感謝してますけど、こういうことで兄上から離れられるならとっくの昔に他に相手を作ってますよ」
「…………本当に?」
「ええ。だってその最たる相手がいるでしょう?」
その言葉でロキが誰を示唆しているのかすぐにわかった。
「……リヒターか」
「ええ。ずっと傍に居て、誰よりも俺のことを理解してくれて、困った時は支えてくれるんですよ?多分普通の人ならとっくの昔にそっちに傾いているでしょう?」
それは確かにそうだ。
だからこそ俺も一番警戒していると言っても過言ではない。
「でもね?俺はそれでも兄上しか欲しくないし、抱きたくないんです」
『リヒターを抱きたいと言ったことはないでしょう?』と言ってこられて、それは確かにと答えを返す。
処女をあげてもいいとは言っていたが、逆はそう言えば一度もなかった。
「愛してます、兄上。他の誰よりも」
そう言ってくれたロキに抱きついて俺は何度も思いのままにキスを交わした。
いまいち何かが納得いかないが、ロキは嬉しそうだし、相変わらず俺だけを見てくれているようだから、良かった…のか?
その後ロキに抱いてもらったけど、やっぱり俺はロキに抱かれる方が好きだと改めて思った。
ロキに全身愛される幸せは他の何ものにも代えがたい至福の時だと快楽に溺れる。
でも最初はロキに言われた例の言葉が尾を引いていたのか全く勃ってくれなくて、もう勃たなくなったらどうしようと半泣きになってしまった。
そんな俺をロキは大丈夫だと優しく宥めてくれて、鬼畜の如くこれでもかと感じさせ何度も何度も勃ち上がらせながら言葉で嬲ってきた。
「兄上?俺の手でこんなにはしたなく蜜を溢して元気に勃ちあがらせているくせに、そんな事を言うなんて…本当にしょうがない人ですね?」
「あっあぁんっ!そこグリグリしちゃ、やぁっ!」
「嘘つき。早くこっちにも挿れてって言ってますよ?」
「んぅ…!あ……」
「ほら、そんなに期待して。大好きですもんね?これが」
そう言いながら太めのプジーを俺の前へと差し入れてくるロキの顔は俺を魅了するに余りあるほどの魅惑の笑みを浮かべていた。
(ああ…このドSな顔がたまらなく好きだ……)
そして俺はロキにその後もたっぷり可愛がられて、とんでもなく乱れまくった。
「はぁ…やっぱり兄上を犯すのは最高です」
俺以外好きになれないと言い放つロキに俺はこう言ってやりたいと思った。
過去の俺への不満は全部俺にぶつけていいから、ずっと俺だけに夢中になって────と。
罪は全部背負うしちゃんと償うから、愛情を添えて俺を責め立てて欲しいと思う。
「ロキ、一生俺のご主人様でいて……っ!」
口から出たのはそんな言葉だったけど、少しでも気持ちが伝わるといいなと思いながら俺はロキの愛情をこれでもかと受け取った。
***
その日の晩餐はちょっと気まずかったものの明日の朝には帰ると言うことで夫婦揃って出席したのだが、セドリック王子はいなかった。
きっとアルフレッドとお楽しみ中なんだろう。
「ロキ。なんだかすっきりした顔してるね」
「ええ。セドリック王子のお陰で悩みが解消できたので」
レオナルド皇子にそうにこやかに言ったロキにブルーグレイの国王も驚いたように声を上げた。
「セドリックが?」
「はい。出会った時から親切な方でしたが、今回は本当に助かりました」
「…………ロキ陛下!」
「なんでしょう?」
「どうか末永くあの子の友人でいてやって欲しい」
「…?いえ、元々友人ではないのですが?」
「いや!口で何と言おうと二人は友人だ!」
「そうですか?まあ、親しくはさせていただきたいと思っているので、これからも宜しくお願い致します」
「もちろんだ!あんな子だがロキ陛下のような友人に恵まれて本当に良かった。何か困ったことがあればいつでも頼ってほしい。私の力の及ぶ限り、手を尽くすと誓おう」
「ありがとうございます」
サラッとロキは流したが、これは物凄いことなのだとわかっているのだろうか?
一時は敵に回しそうになった大国を逆に好意から後ろ盾にしたようなこの奇跡的状況を────。
「…ロキって何気にやっぱり凄い」
レオナルド皇子も思わず呟くほどの出来事だと、きっと本人だけがわかっていないのだろう。
ただの社交辞令ですよねと言わんばかりのその態度でロキのその心情が手に取るようにわかってしまう。
「そうだ、陛下。今回滞在も伸びてしまった上に沢山ご迷惑をおかけしてしまいましたので、国に帰ったら何かお詫びの品でもお送りしようと思っているんですが、何かお好きなものとかありますか?」
「わ、私にも気遣ってくれるのか…」
「え?ええ。お世話になったので遠慮なく仰ってください」
「そうかそうか。では手紙のやり取りをセドリックだけではなく私ともしようではないか。それでロキ陛下がこれだと思ったものでも送ってくれたら嬉しく思う」
「いいんですか?遅くなりますけど」
「全く構わん。ついでにロキ陛下が言っていた機器類もまた開発して進捗状況なども知らせるとしよう」
「ありがとうございます。ふふっ。なんだか嬉しいですね」
「うんうん。ロキ陛下。良かったら私のことは父親のように思って頼ってくれ」
温かな眼差しで唐突にそう告げられてロキが驚いたように言葉を返す。
「え?…でもその、父には頼ったことがないのでよくわからないのですが……」
その言葉に父の業の深さを感じ、俺は苦々しい気持ちに襲われてしまった。
けれどヴィンセント陛下はそんなロキに優しく言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「…!そうか。では私が教えてやろう。父親とは子供のことを思って厳しくも優しくもできる相手のことを言うのだ。だから何か悩み事があればなんでも相談してほしい」
「厳しくも優しくもできる…」
「ああ。そうだ」
「その……冷たく蔑むのと厳しくすることは違うのですか?」
「もちろん違うぞ?冷たく蔑んで得られるのは概ね卑屈な心だけだが、厳しくされて得られるのは成長だ。親とは目標をもって子を導く者。それをわかっていない者も多いが、少なくとも私はセドリックをそう育ててきた自負がある。だからロキ陛下も安心して頼ってくれ」
まさかのそんな申し出に俺は激しく動揺してしまった。
ヴィンセント陛下が社交辞令でなく言ってくれているのが凄く伝わってきたからだ。
ロキはどうしてこんなにとんでもない相手を次々釣り上げるのか。
「ヴィンセント陛下…温かなお言葉感謝致します。御尊敬申し上げます」
しかもなんでロキははにかみながらそんな風に言うんだ?
なんだったらセドリック王子を見る時より目が輝いてないか?
(もしかしてお前が好む相手に年齢制限はないのか?!)
「陛下と手紙のやり取りができるのを楽しみにしています」
「ああ。私も楽しみにしている」
そう言ったヴィンセント陛下の隣でアルメリア姫も声を上げる。
「ロキ陛下。もしアンシャンテのシャイナー陛下のお相手との間に困ったことでもありましたら私にもご相談ください。相手が女性であれば私もお力になれると思いますので」
「ありがとうございます。助かります」
(姫までか?!)
姫のロキに対する態度も好意的で、どこからどう見ても社交辞令からはかけ離れているようにしか見えない。
心底から任せてくれと言わんばかり。
そうしてショックで手が止まっている俺にレオナルド皇子がそっと話しかけてきた。
「カリン陛下。ロキは天然だから本当に気をつけて!性別年齢タイプ問わず落とせるみたいだから、俺もすっごく心配になってきた…」
「…………い、言われなくてもっ」
そう答えながらも手がフルフル震えてしまうのはどうしようもない。
(どうしてこうなった?!)
ロキが俺しか見ていないのは変わらないのに、周囲ばかりを虜にしていくのは何故だ?!
気づけばライバルばかり増えている気がする。
そこでさっき話していた時のロキの言葉がグルグル頭の中を回り始めた。
(あれこれ言ってたが、ロキは俺が信じられないと言っていなかったか?)
どうしてスルーしてしまっていたんだろう?
俺への不信が根底にあるならやっぱり親切な周囲に揺らぐ可能性は凄く高い。
そもそもどうして信頼がなくなったんだ?
(信頼の取り戻し方って、一体どうやったらいいんだ?!)
そんな事を考えつつ俺は強い危機感を感じていた。
(やっぱり誰にも取られないように帰ったら監禁してしまおうか?)
最悪それしかない。
正直その夜はどう話し合ったらいいのかわからなくて、物凄くぎこちなくおやすみと言ったのだけど、ロキは普通におやすみなさいと返してすぐに寝てしまった。
これは単純に気にしていないだけなのか、心の何処かで見切りをつけられたのかどっちなんだろう?
そんな事を考えながら、俺は眠れぬ夜を過ごしたのだった。
****************
※夕食時のロキの心境は「流石あのセドリック王子を育てた人なだけある。凄い。尊敬する」という感じ。
これまで誰かを心底尊敬した事がなかったので、余計に目がキラキラしていたのだと思われる。
ヴィンセント陛下の心境は「セドリックと比べて素直だ!可愛い!構いたい!こんな息子が欲しかった!」といったところ。
ついでに姫の心境は「まあ!あんなにヴィンセント陛下に懐いて!凄く可愛いですわ!ちょっと憂いを含んだ顔をされたら勝手に助けてあげたくなっちゃう!なんて罪作りなの?」
ドSが前面に出てないせいで逆に庇護欲的なものが刺激されてしまった二人でした。
カリンの方はもうちょっとだけジレジレ。
帰りの宿で頑張って向き合います。
ロキとのちゃんとした話し合い&仲直り?元サヤ?まで後ちょっと!
誰にも取られないように、俺だけを見て欲しくて。
ちょっと始まりは乱暴だったかもしれないけど、優しく抱いたつもりだ。
なのに────。
「え?終わりですか?」
それはもう見事なくらい俺の心を叩き折って来られた。
酷すぎる。
「うぅぅ…ロキのドS…酷い……」
「兄上?大丈夫です。痛くなかったし、ちゃんと優しかったですよ?」
「嘘だ…満足させてやらなかったからあんな事言ったんだろ?」
「えっと……ちょっとした認識の違いですから…」
「どうせセドリック王子の方が良かったんだ…」
「う~ん?多分あの人の場合初めてでも割と激しくしてきそうですし、俺としては大好きな兄上にあげられて良かったと思いますけど」
「ウッウッ…」
「泣かないでください。俺が悪かったしちゃんと反省してます」
グスグスと泣く俺をロキが一生懸命慰めてくれたけど、俺はそんな言葉に誤魔化されたりしない。
でも捨てられたくもなくて、ギュウギュウ抱きつきながら心の内を吐露していたように思う。
「ロキ…ロキ…捨てないで」
「捨てませんよ。俺が好きなのは兄上だけだって何度も言っているでしょう?」
「嫌いにならないでほしい…」
「嫌いになんてなりたくてもなれません。だって俺の中は兄上一色なんですから」
「…!なりたいのか?!」
「いえ。その…たまにフラッシュバックして勝手に凹んでいるだけなので────」
「悪かった!」
気まずそうにそう言われて俺は慌てて謝罪の言葉を口にする。
それは即ち、ロキは俺のブルーグレイでのトラウマをいつの間にか払拭してくれていたのに、俺は結局ロキの心の傷を癒しきれていなかったということに違いないからだ。
過去は変えられないし、ロキと結婚してから色々あったりはしたけどずっと幸せだったからもう大丈夫だと勝手に思い込んでいた面は無きにしも非ずだ。
ちゃんと反省する。だから離れていかないで────そう伝えたら、困ったように笑って『もういいんです』と言われた。
「さっきセドリック王子が言ってくれたんです」
「なに…を?」
「他の何を信じられなくてもいいから、自分に認められていることを忘れずそれを誇れと」
その言葉に俺は殴られたようなショックを受けた。
つまりそれは……俺の事は信じられないけど、セドリック王子の事ならロキは信じられるという事なのでは?
(もう駄目だ……)
こんなに信頼度が下がってしまったらもうロキは俺が何と言おうと俺から離れていってしまうかもしれない。
思わずそう考えてしまうほど衝撃を受けたと言っても過言ではなかった。
「ウッウッ……」
「あれ?兄上?」
「…………ロキ、離縁なんてしたくないっ!」
「え?離縁なんてしませんよ?だってその言葉のお陰で気が楽になって、安心して兄上と過ごせるようになったんですから」
「…………え?」
正直言ってロキの言葉の意味がさっぱりわからない。
どうしてそんな結論になるんだろう?
「もしかして俺がセドリック王子を好きになったとでも思いましたか?」
「だって……」
(俺よりあの冷酷王子の方が信じられると言ったじゃないか…)
それなのに────。
「セドリック王子は言ってみれば恩人のようなものです。兄上とは全然違いますよ」
「でも……」
「兄上。俺の愛情の重さを本気でわかってないんですね」
「え?」
「セドリック王子には感謝してますけど、こういうことで兄上から離れられるならとっくの昔に他に相手を作ってますよ」
「…………本当に?」
「ええ。だってその最たる相手がいるでしょう?」
その言葉でロキが誰を示唆しているのかすぐにわかった。
「……リヒターか」
「ええ。ずっと傍に居て、誰よりも俺のことを理解してくれて、困った時は支えてくれるんですよ?多分普通の人ならとっくの昔にそっちに傾いているでしょう?」
それは確かにそうだ。
だからこそ俺も一番警戒していると言っても過言ではない。
「でもね?俺はそれでも兄上しか欲しくないし、抱きたくないんです」
『リヒターを抱きたいと言ったことはないでしょう?』と言ってこられて、それは確かにと答えを返す。
処女をあげてもいいとは言っていたが、逆はそう言えば一度もなかった。
「愛してます、兄上。他の誰よりも」
そう言ってくれたロキに抱きついて俺は何度も思いのままにキスを交わした。
いまいち何かが納得いかないが、ロキは嬉しそうだし、相変わらず俺だけを見てくれているようだから、良かった…のか?
その後ロキに抱いてもらったけど、やっぱり俺はロキに抱かれる方が好きだと改めて思った。
ロキに全身愛される幸せは他の何ものにも代えがたい至福の時だと快楽に溺れる。
でも最初はロキに言われた例の言葉が尾を引いていたのか全く勃ってくれなくて、もう勃たなくなったらどうしようと半泣きになってしまった。
そんな俺をロキは大丈夫だと優しく宥めてくれて、鬼畜の如くこれでもかと感じさせ何度も何度も勃ち上がらせながら言葉で嬲ってきた。
「兄上?俺の手でこんなにはしたなく蜜を溢して元気に勃ちあがらせているくせに、そんな事を言うなんて…本当にしょうがない人ですね?」
「あっあぁんっ!そこグリグリしちゃ、やぁっ!」
「嘘つき。早くこっちにも挿れてって言ってますよ?」
「んぅ…!あ……」
「ほら、そんなに期待して。大好きですもんね?これが」
そう言いながら太めのプジーを俺の前へと差し入れてくるロキの顔は俺を魅了するに余りあるほどの魅惑の笑みを浮かべていた。
(ああ…このドSな顔がたまらなく好きだ……)
そして俺はロキにその後もたっぷり可愛がられて、とんでもなく乱れまくった。
「はぁ…やっぱり兄上を犯すのは最高です」
俺以外好きになれないと言い放つロキに俺はこう言ってやりたいと思った。
過去の俺への不満は全部俺にぶつけていいから、ずっと俺だけに夢中になって────と。
罪は全部背負うしちゃんと償うから、愛情を添えて俺を責め立てて欲しいと思う。
「ロキ、一生俺のご主人様でいて……っ!」
口から出たのはそんな言葉だったけど、少しでも気持ちが伝わるといいなと思いながら俺はロキの愛情をこれでもかと受け取った。
***
その日の晩餐はちょっと気まずかったものの明日の朝には帰ると言うことで夫婦揃って出席したのだが、セドリック王子はいなかった。
きっとアルフレッドとお楽しみ中なんだろう。
「ロキ。なんだかすっきりした顔してるね」
「ええ。セドリック王子のお陰で悩みが解消できたので」
レオナルド皇子にそうにこやかに言ったロキにブルーグレイの国王も驚いたように声を上げた。
「セドリックが?」
「はい。出会った時から親切な方でしたが、今回は本当に助かりました」
「…………ロキ陛下!」
「なんでしょう?」
「どうか末永くあの子の友人でいてやって欲しい」
「…?いえ、元々友人ではないのですが?」
「いや!口で何と言おうと二人は友人だ!」
「そうですか?まあ、親しくはさせていただきたいと思っているので、これからも宜しくお願い致します」
「もちろんだ!あんな子だがロキ陛下のような友人に恵まれて本当に良かった。何か困ったことがあればいつでも頼ってほしい。私の力の及ぶ限り、手を尽くすと誓おう」
「ありがとうございます」
サラッとロキは流したが、これは物凄いことなのだとわかっているのだろうか?
一時は敵に回しそうになった大国を逆に好意から後ろ盾にしたようなこの奇跡的状況を────。
「…ロキって何気にやっぱり凄い」
レオナルド皇子も思わず呟くほどの出来事だと、きっと本人だけがわかっていないのだろう。
ただの社交辞令ですよねと言わんばかりのその態度でロキのその心情が手に取るようにわかってしまう。
「そうだ、陛下。今回滞在も伸びてしまった上に沢山ご迷惑をおかけしてしまいましたので、国に帰ったら何かお詫びの品でもお送りしようと思っているんですが、何かお好きなものとかありますか?」
「わ、私にも気遣ってくれるのか…」
「え?ええ。お世話になったので遠慮なく仰ってください」
「そうかそうか。では手紙のやり取りをセドリックだけではなく私ともしようではないか。それでロキ陛下がこれだと思ったものでも送ってくれたら嬉しく思う」
「いいんですか?遅くなりますけど」
「全く構わん。ついでにロキ陛下が言っていた機器類もまた開発して進捗状況なども知らせるとしよう」
「ありがとうございます。ふふっ。なんだか嬉しいですね」
「うんうん。ロキ陛下。良かったら私のことは父親のように思って頼ってくれ」
温かな眼差しで唐突にそう告げられてロキが驚いたように言葉を返す。
「え?…でもその、父には頼ったことがないのでよくわからないのですが……」
その言葉に父の業の深さを感じ、俺は苦々しい気持ちに襲われてしまった。
けれどヴィンセント陛下はそんなロキに優しく言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「…!そうか。では私が教えてやろう。父親とは子供のことを思って厳しくも優しくもできる相手のことを言うのだ。だから何か悩み事があればなんでも相談してほしい」
「厳しくも優しくもできる…」
「ああ。そうだ」
「その……冷たく蔑むのと厳しくすることは違うのですか?」
「もちろん違うぞ?冷たく蔑んで得られるのは概ね卑屈な心だけだが、厳しくされて得られるのは成長だ。親とは目標をもって子を導く者。それをわかっていない者も多いが、少なくとも私はセドリックをそう育ててきた自負がある。だからロキ陛下も安心して頼ってくれ」
まさかのそんな申し出に俺は激しく動揺してしまった。
ヴィンセント陛下が社交辞令でなく言ってくれているのが凄く伝わってきたからだ。
ロキはどうしてこんなにとんでもない相手を次々釣り上げるのか。
「ヴィンセント陛下…温かなお言葉感謝致します。御尊敬申し上げます」
しかもなんでロキははにかみながらそんな風に言うんだ?
なんだったらセドリック王子を見る時より目が輝いてないか?
(もしかしてお前が好む相手に年齢制限はないのか?!)
「陛下と手紙のやり取りができるのを楽しみにしています」
「ああ。私も楽しみにしている」
そう言ったヴィンセント陛下の隣でアルメリア姫も声を上げる。
「ロキ陛下。もしアンシャンテのシャイナー陛下のお相手との間に困ったことでもありましたら私にもご相談ください。相手が女性であれば私もお力になれると思いますので」
「ありがとうございます。助かります」
(姫までか?!)
姫のロキに対する態度も好意的で、どこからどう見ても社交辞令からはかけ離れているようにしか見えない。
心底から任せてくれと言わんばかり。
そうしてショックで手が止まっている俺にレオナルド皇子がそっと話しかけてきた。
「カリン陛下。ロキは天然だから本当に気をつけて!性別年齢タイプ問わず落とせるみたいだから、俺もすっごく心配になってきた…」
「…………い、言われなくてもっ」
そう答えながらも手がフルフル震えてしまうのはどうしようもない。
(どうしてこうなった?!)
ロキが俺しか見ていないのは変わらないのに、周囲ばかりを虜にしていくのは何故だ?!
気づけばライバルばかり増えている気がする。
そこでさっき話していた時のロキの言葉がグルグル頭の中を回り始めた。
(あれこれ言ってたが、ロキは俺が信じられないと言っていなかったか?)
どうしてスルーしてしまっていたんだろう?
俺への不信が根底にあるならやっぱり親切な周囲に揺らぐ可能性は凄く高い。
そもそもどうして信頼がなくなったんだ?
(信頼の取り戻し方って、一体どうやったらいいんだ?!)
そんな事を考えつつ俺は強い危機感を感じていた。
(やっぱり誰にも取られないように帰ったら監禁してしまおうか?)
最悪それしかない。
正直その夜はどう話し合ったらいいのかわからなくて、物凄くぎこちなくおやすみと言ったのだけど、ロキは普通におやすみなさいと返してすぐに寝てしまった。
これは単純に気にしていないだけなのか、心の何処かで見切りをつけられたのかどっちなんだろう?
そんな事を考えながら、俺は眠れぬ夜を過ごしたのだった。
****************
※夕食時のロキの心境は「流石あのセドリック王子を育てた人なだけある。凄い。尊敬する」という感じ。
これまで誰かを心底尊敬した事がなかったので、余計に目がキラキラしていたのだと思われる。
ヴィンセント陛下の心境は「セドリックと比べて素直だ!可愛い!構いたい!こんな息子が欲しかった!」といったところ。
ついでに姫の心境は「まあ!あんなにヴィンセント陛下に懐いて!凄く可愛いですわ!ちょっと憂いを含んだ顔をされたら勝手に助けてあげたくなっちゃう!なんて罪作りなの?」
ドSが前面に出てないせいで逆に庇護欲的なものが刺激されてしまった二人でした。
カリンの方はもうちょっとだけジレジレ。
帰りの宿で頑張って向き合います。
ロキとのちゃんとした話し合い&仲直り?元サヤ?まで後ちょっと!
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