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104.ブルーグレイ再訪⑮
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今日は兄と二人でゆっくり過ごすつもりだった。
でもセドリック王子とレオの二人から誘われた兄は特に断るでもなくあっさりとそれを承諾してしまった。
試した自分が悪かった言えば悪かったのだと思う。
午前中に兄に甘えることができたからちょっと気持ちも上向いて、ここで他の誰より自分を優先してもらえたなら少しは自信が持てるような気がしたし、兄をもっと信じられるような気がしたのだ。
でもそれはただの勝手な希望に過ぎなくて、結局打ちひしがれる結果しか得られなかった。
自業自得でしかない。
期待するだけ無駄だとわかっていたはずなのに、どうして期待してしまったのだろう?
「はぁ……」
そのせいで兄と一緒に鍛錬場に来たのはいいけれど、全く気分は乗らないし兄がアルフレッド達と楽し気に剣を振る姿を見て気持ちは落ち込む一方だった。
やっぱり俺なんか必要ないのだと思えて胸が痛い。
だから早々にその場から離脱し、リヒターにもオーガストのところに行ってきたらどうだと言って半ば無理矢理送り出してしまった。
凄く心配されたけど誰かと話したい気分でもないから『ディグ達もいるから大丈夫だ。ちょっとだけそっとしておいてほしい』と言ったらなんとかわかってもらえた。
ディグ達は一応側にいるけど、俺の頭をクシャリと撫でて『頼りたくなったら言え』と言って放置してくれた。
昔の俺を知っているからこそ黙ってそうしてくれたんだと思う。
なんだかんだと皆優しい。
暫く俺はそんな感じで鍛錬場の隅でぼんやりしながら兄のことを考えていた。
別に兄の愛情が感じられないと言うつもりはない。
寧ろちゃんと好きでいてくれていると思う。
ただ、負担なのかなと思わなくはなかった。
俺はどうも世間一般からするとズレているようだし、兄からも普通は多人数プレイはしないと言われた。
まあそう言われればそうなのだろう。
自分がおかしいのは十分わかっている。
でもどうしても『じゃあ普通で』とは言えなかった。
結局のところいつまでも自分に自信が持てないのと、満足させてあげられない場合の兄の心変わりが怖かったのだ。
自分のことも兄のことも信じ切れない。
いつか訪れるかもしれない幸せの終わりが頭を過ぎって勝手に苦しんでいる馬鹿で面倒臭い奴。それが今の自分だった。
他の誰かと比べて兄が自分を選んでくれたら嬉しいし、俺に抱かれて悦んでくれる兄を見るのも好きだ。
そんな兄を見たら安心できるし、まだ大丈夫だと思える。
でもそれがダメなら何を指標にしたらいいんだろう?
絶対に揺らがなさそうな、信じられる何かがあればいいのに────。
解決策などないであろうそんなことをつらつらと考えてしまう自分を止められなくて、大きく溜息を吐いた。
そんな風に鬱々としていた俺に声を掛けてくれたのは、意外にもセドリック王子だった。
「ロキ、どうした?」
これがレオやアルフレッドなら放っておいてくれと言ったと思う。
でもなんとなくセドリック王子になら言ってもいいのかなと思えて、ポツリと言葉をこぼしていた。
「セドリック王子…俺ってやっぱりおかしいんでしょうか?」
凄く落ち込みながらただそうこぼした俺に、セドリック王子は実にあっさりと返してくる。
「お前は俺から見ても面白いくらいにおかしいぞ?」
何かあったのかとも、何故急にそんな事を言い出したのかとも聞かれる事なくそう言われて、思わず言われた事をそのまま口にしてしまう。
「面白い……?」
「お前はガヴァムの王族だけでなく他の国の奴と比べてもダントツにおかしい」
セドリック王子は悩み相談に乗るという感じでもなくいっそ清々しいほどはっきりとそう言い切ってきたので、なんだか落ち込んでいる俺の方がおかしい気がしてきた。
何と言うかセドリック王子の言葉には妙な力があるような気がする。
「何を落ち込んでいるのか知らないが、俺はお前の自己評価が低かろうと、多少壊れていようと、本性がドSだろうと、全く気にしないし、そんなお前を面白いと思っている」
セドリック王子はどんな俺でも気にしないと言い切り、その上で言葉を足してきた。
「それに少なくとも愚かなお前の父親や快楽堕ちさせられるようなヘマをするカリンより、俺はずっとお前を評価しているつもりだ」
「え……?」
そんな意外なことを言われて俺は驚きを隠せなかった。
こんな俺をこんなにもはっきりと評価していると言ってこられては驚くなと言う方が無理だ。
「他の何を信じられなくてもいい。ただ俺に…この大国ブルーグレイの王太子セドリックに、自分は認められているのだということだけ忘れず、誇りに思え」
堂々と言い切るその揺るぎなく自信に溢れる姿に、俺は心が震えるのを感じた。
何も話していないはずなのに、どうしてセドリック王子はこう言ってくれたんだろう?
自分が信じられなくても、兄を信じきれなくてもいいんだと、そう言ってもらえたようで凄く心が軽くなった。
セドリック王子はいつもブレない自信に溢れているから安心できるし、その場凌ぎの慰めなんて絶対しなさそうだからこそ信じられたのだと思う。
丸ごとありのままの俺を受け入れて、その上で評価し、誇れと言ってくれたのだ。
中々できることではない。
「うぅ……」
「なんだ。存外涙脆いな」
「…これはセドリック王子のお陰で悩みが解消できた涙なんです」
「そうか。よくわからんな」
「ふふっ。いいじゃないですか。セドリック王子は頼りになるという話です。こういう時こそ俺を利用してアルフレッド妃殿下に焼きもちでも妬かせたらどうです?」
泣き顔を隠すようにタオルに顔を埋めながらそう言うと、ちょっと興味深げにどうやるのかと聞かれた。
「そんなもの、妃殿下の目につくところで今の俺を慰めるように抱き寄せたらすぐですよ」
「それはいいな。試してみるか」
「ついでに兄上が飛んできてくれたら尚嬉しいです」
「フッ。それは双方にとって良い事尽くめだな」
そして周囲をさり気なく確認後、実に楽しげにセドリック王子は俺をその腕の中に引き込みそっと抱きしめてきた。
「ロキ、どっちが先に飛んでくると思う?」
「兄上だと思います」
「俺はアルフレッドだと思う」
こんな気安いやり取りも良い慰めに繋がったように思う。
そうこうしているうちに、何故か全然予想と違った相手にあっという間に引き剥がされてしまったが。
「セドリック王子!ロキの大親友は俺ですから、取らないでください!!」
「レオ…」
「レオナルド皇子…」
「ロキ!放っておいて悪かった!でも、泣きたい時に頼るならまずは大親友の俺だろう?!」
「いえ、違いますけど」
「えぇえっ?!」
レオの機動力の高さは相変わらず凄いなと感心するけど、この場合は遠慮したい。
兄待ち、アルフレッド待ちだったのに台無しだ。
「チッ…」
「セドリック王子に舌打ちされた?!」
「自業自得だと思います」
「俺の大親友が痛烈…!」
そうしてちょっと二人で残念に思っていたら、遅れてやってきた兄に腕を引かれて抱きしめられた。
「ロキ!」
まるで俺を守るように抱きしめてセドリック王子とレオを威嚇しにかかる兄に嬉しい気持ちが込み上げてくる。
(セドリック王子の事……怖がっていたはずなのに)
「ロキ。良かったな?」
「セドリック王子こそ」
セドリック王子の方にはちゃんとアルフレッドもやってきていたから、向こうは向こうで非常に満足気だ。
でもそれよりなにより兄が俺にちゃんと理由を聞いてくれたのが嬉しい。
「ロキ、何があった?セドリック王子に泣かされたのか?」
兄はセドリック王子が悪いと決めつけてそうだけど、セドリック王子は悪くない。
泣かされたと言えば泣かされたのかもしれないけど、それは別に虐められたとかそういうことではない。
敢えて言うなら俺の憂いを綺麗に晴らしてくれたと言うべきだろう。
「……いえ。セドリック王子は俺の心を軽くしてくれただけなので」
「じゃあどうして泣いている?!」
納得がいかないとばかりに兄はそう言ってきたけど、本当のことだから何とも言えない。
そしてそんな俺達の隣では同じくアルフレッドに抱き着かれたセドリック王子が何故か問い詰められていて、淡々と答えを返していた。
「お前、ロキ陛下を泣かしたのか?!」
「まあ泣かしたと言えば泣かしたな」
「何言ったんだ?!」
「別に?不甲斐ないそこの甲斐性なしの代わりに安心させてやっただけの話だが?」
そう言いながらセドリック王子は兄を見て嗤ったけど、それを見て本当にセドリック王子は兄を虐めるのが好きだなと思った。
以前アルフレッドに手を出そうとした件をずっと根に持ってるんだとしたら相当だと思う。
アルフレッド一筋といった感じで、微笑ましい限りだ。
ちなみに言われた方の兄はそれに怯えるでもなく、なんだか悔しそうな顔をしていた。
正直これは凄く意外だった。
どうしてそんな顔をしてるんだろう?
その後何が何だかよくわからないまま兄に部屋へと連れ去られ、気づけば俺はベッドに押し倒されていた。
上に乗られてキスされて、まるでこのまま犯されるみたいな状況になり、正直全く状況についていけない。
別に甘い空気になっていたわけでもないのにどうしてこうなったんだろう?
しかも兄からは唐突にこんなことまで言われてしまった。
「ロキ、もらうぞ?」
「何をですか?」
「お前の処女に決まってる!」
何がどうして急にそんな心境になったのかが全くわからなかった。
つい昨日『抱くより抱かれたい』と言っていたはずなのにと不思議でならない。
(まあいいけど)
さっきまでの自分だったら多分また後ろ向きな考えに囚われていたかもしれないけど、今は心も軽くなってスッキリしているし、ここは兄がやりたいようにしてあげるべきだろうと素直に思えた。
よくはわからないもののどうも兄は本気のようだし、以前からあげるとは言っていたため特に断る理由もない。
「はあ。どうぞ?」
色気も素っ気もないが、欲しいと言うならどうぞと差し出すまでだ。
だからそう言ったのに、どうして泣かれたのかさっぱりわからない。
「ウッウッ…」
「兄上?」
泣くほど嫌なら言ってこなければいいのに。
今の兄はさっきまでの俺以上におかしい気がする。
もしかして離れている間に何かあったんだろうか?
いきなり俺の処女をもらうと言ってきたからには、それ相応の何かがあったはずだ。
セドリック王子のお陰で気持ちを立て直すこともできたし、ちゃんとじっくり考えてみよう。
(昨日弟から処女をもらってくれと言われて困った、とかレオ達に相談しててもおかしくはない…のかな?)
それならそれで憂いはなくしてあげたい。
「兄上、無理しなくていいんですよ?誰かに何か言われたんですか?俺の処女が負担ならさっさと捨ててきますけど」
もしかしたら『サクッともらってやればいいのに』とでも言われて無理をしているのかもしれない。
だから『他で捨ててきますよ』と言ったのだけど、そう言った途端何故か急に険しい表情で問い詰められてしまった。
「……っ!誰にやる気だ?!」
「え?リヒターとか…?」
「とか?」
他には?と兄から聞かれて特に思いつかず、そもそもこんな俺を抱くような奇特な相手が早々いるようには思えないしなと思った。
「う~ん…頼めばセドリック王子ならもらってくれそうですかね?」
アルフレッドがいるからほぼないとは思うけど、場合によっては面白がって抱いてくれそうではある。
それこそ双方に嫉妬させようとさっきみたいに持ちかけたらいけるような気はする。
でもそう口にした途端、ギラギラした目で見られて乱暴に服を剥ぎ取られてしまった。
なんだか下克上プレイっぽくてドキドキする。
兄の心境はイマイチよくわからないままだけど、俺は兄が相手なら割となんでもアリなので、取り敢えず成り行きに任せようと思った。
こういう時は変に抵抗しない方がいい気もするし。
「ロキ…」
その後あれよあれよと言う間にあっさり抱かれたのだけど、感想としては『こんな感じか…』程度のもので、初めては感じにくいって本当だったんだなと一人納得していた。
ちなみに別に兄が下手だったとかそう言うわけじゃない。
単に向き不向きの話だと思う。
どうも自分は性癖がかなり偏っているようなので仕方がない。
兄は服を剥いだ時は乱暴だったけど、いざやる時には丁寧にほぐしてくれたし、優しく挿れてくれたから別に痛くはなかった。
処女を抱く時のお手本のような抱き方だったと言えばいいのだろうか?
兄はごく普通に事を成したに過ぎないのだ。
ただ俺が勝手に下克上プレイが始まるのかなと期待してたせいで『あれ?もう終わり?』と明後日方向に思考が飛んでしまい、うっかり残念そうな顔で『え?終わりですか?』って口を滑らせてしまっただけだ。
これは本気で反省している。
本当に申し訳なかった。
「うぅぅ…ロキのドS…酷い……」
「兄上?大丈夫です。痛くなかったし、ちゃんと優しかったですよ?」
「嘘だ…満足させてやらなかったからあんな事言ったんだろ?」
「えっと……ちょっとした認識の違いですから…」
「どうせセドリック王子の方が良かったんだ…」
「う~ん?多分あの人の場合初めてでも割と激しくしてきそうですし、俺としては大好きな兄上にあげられて良かったと思いますけど」
「ウッウッ…」
「泣かないでください。俺が悪かったしちゃんと反省してます」
結局グスグス泣かれて、離縁はしたくないと言われたりはしたけど、そもそも俺から離縁する気なんて一切ないから大丈夫だとちゃんと慰めておいた。
何故か俺がセドリック王子を好きになったんじゃないかと勘違いしてたっぽいからそれもちゃんと否定しておいたし、何も問題はないだろう。
今は兄は俺が好きで、俺も兄が好き。
人は人。自分は自分。
セドリック王子がこんな自分を認めてくれているんだから大丈夫だと心をしっかり持つこともできたし、少しは強くなれたような気がする。
その後可愛い兄を美味しく頂いたのだけど、ショックで勃たなくなったらどうしようと泣かれたからこれでもかと感じさせて沢山勃たせてあげた。
兄はやっぱり俺に抱かれる方が気持ちいいし凄く好きだと言っていっぱい甘えてくれたし、一生ご主人様でいてとも言ってくれたからそれでいいんだと思えた。
兄が俺に飽きるまで、できる限り長く傍に居たい。
それが今の俺が出した答えだった。
でもセドリック王子とレオの二人から誘われた兄は特に断るでもなくあっさりとそれを承諾してしまった。
試した自分が悪かった言えば悪かったのだと思う。
午前中に兄に甘えることができたからちょっと気持ちも上向いて、ここで他の誰より自分を優先してもらえたなら少しは自信が持てるような気がしたし、兄をもっと信じられるような気がしたのだ。
でもそれはただの勝手な希望に過ぎなくて、結局打ちひしがれる結果しか得られなかった。
自業自得でしかない。
期待するだけ無駄だとわかっていたはずなのに、どうして期待してしまったのだろう?
「はぁ……」
そのせいで兄と一緒に鍛錬場に来たのはいいけれど、全く気分は乗らないし兄がアルフレッド達と楽し気に剣を振る姿を見て気持ちは落ち込む一方だった。
やっぱり俺なんか必要ないのだと思えて胸が痛い。
だから早々にその場から離脱し、リヒターにもオーガストのところに行ってきたらどうだと言って半ば無理矢理送り出してしまった。
凄く心配されたけど誰かと話したい気分でもないから『ディグ達もいるから大丈夫だ。ちょっとだけそっとしておいてほしい』と言ったらなんとかわかってもらえた。
ディグ達は一応側にいるけど、俺の頭をクシャリと撫でて『頼りたくなったら言え』と言って放置してくれた。
昔の俺を知っているからこそ黙ってそうしてくれたんだと思う。
なんだかんだと皆優しい。
暫く俺はそんな感じで鍛錬場の隅でぼんやりしながら兄のことを考えていた。
別に兄の愛情が感じられないと言うつもりはない。
寧ろちゃんと好きでいてくれていると思う。
ただ、負担なのかなと思わなくはなかった。
俺はどうも世間一般からするとズレているようだし、兄からも普通は多人数プレイはしないと言われた。
まあそう言われればそうなのだろう。
自分がおかしいのは十分わかっている。
でもどうしても『じゃあ普通で』とは言えなかった。
結局のところいつまでも自分に自信が持てないのと、満足させてあげられない場合の兄の心変わりが怖かったのだ。
自分のことも兄のことも信じ切れない。
いつか訪れるかもしれない幸せの終わりが頭を過ぎって勝手に苦しんでいる馬鹿で面倒臭い奴。それが今の自分だった。
他の誰かと比べて兄が自分を選んでくれたら嬉しいし、俺に抱かれて悦んでくれる兄を見るのも好きだ。
そんな兄を見たら安心できるし、まだ大丈夫だと思える。
でもそれがダメなら何を指標にしたらいいんだろう?
絶対に揺らがなさそうな、信じられる何かがあればいいのに────。
解決策などないであろうそんなことをつらつらと考えてしまう自分を止められなくて、大きく溜息を吐いた。
そんな風に鬱々としていた俺に声を掛けてくれたのは、意外にもセドリック王子だった。
「ロキ、どうした?」
これがレオやアルフレッドなら放っておいてくれと言ったと思う。
でもなんとなくセドリック王子になら言ってもいいのかなと思えて、ポツリと言葉をこぼしていた。
「セドリック王子…俺ってやっぱりおかしいんでしょうか?」
凄く落ち込みながらただそうこぼした俺に、セドリック王子は実にあっさりと返してくる。
「お前は俺から見ても面白いくらいにおかしいぞ?」
何かあったのかとも、何故急にそんな事を言い出したのかとも聞かれる事なくそう言われて、思わず言われた事をそのまま口にしてしまう。
「面白い……?」
「お前はガヴァムの王族だけでなく他の国の奴と比べてもダントツにおかしい」
セドリック王子は悩み相談に乗るという感じでもなくいっそ清々しいほどはっきりとそう言い切ってきたので、なんだか落ち込んでいる俺の方がおかしい気がしてきた。
何と言うかセドリック王子の言葉には妙な力があるような気がする。
「何を落ち込んでいるのか知らないが、俺はお前の自己評価が低かろうと、多少壊れていようと、本性がドSだろうと、全く気にしないし、そんなお前を面白いと思っている」
セドリック王子はどんな俺でも気にしないと言い切り、その上で言葉を足してきた。
「それに少なくとも愚かなお前の父親や快楽堕ちさせられるようなヘマをするカリンより、俺はずっとお前を評価しているつもりだ」
「え……?」
そんな意外なことを言われて俺は驚きを隠せなかった。
こんな俺をこんなにもはっきりと評価していると言ってこられては驚くなと言う方が無理だ。
「他の何を信じられなくてもいい。ただ俺に…この大国ブルーグレイの王太子セドリックに、自分は認められているのだということだけ忘れず、誇りに思え」
堂々と言い切るその揺るぎなく自信に溢れる姿に、俺は心が震えるのを感じた。
何も話していないはずなのに、どうしてセドリック王子はこう言ってくれたんだろう?
自分が信じられなくても、兄を信じきれなくてもいいんだと、そう言ってもらえたようで凄く心が軽くなった。
セドリック王子はいつもブレない自信に溢れているから安心できるし、その場凌ぎの慰めなんて絶対しなさそうだからこそ信じられたのだと思う。
丸ごとありのままの俺を受け入れて、その上で評価し、誇れと言ってくれたのだ。
中々できることではない。
「うぅ……」
「なんだ。存外涙脆いな」
「…これはセドリック王子のお陰で悩みが解消できた涙なんです」
「そうか。よくわからんな」
「ふふっ。いいじゃないですか。セドリック王子は頼りになるという話です。こういう時こそ俺を利用してアルフレッド妃殿下に焼きもちでも妬かせたらどうです?」
泣き顔を隠すようにタオルに顔を埋めながらそう言うと、ちょっと興味深げにどうやるのかと聞かれた。
「そんなもの、妃殿下の目につくところで今の俺を慰めるように抱き寄せたらすぐですよ」
「それはいいな。試してみるか」
「ついでに兄上が飛んできてくれたら尚嬉しいです」
「フッ。それは双方にとって良い事尽くめだな」
そして周囲をさり気なく確認後、実に楽しげにセドリック王子は俺をその腕の中に引き込みそっと抱きしめてきた。
「ロキ、どっちが先に飛んでくると思う?」
「兄上だと思います」
「俺はアルフレッドだと思う」
こんな気安いやり取りも良い慰めに繋がったように思う。
そうこうしているうちに、何故か全然予想と違った相手にあっという間に引き剥がされてしまったが。
「セドリック王子!ロキの大親友は俺ですから、取らないでください!!」
「レオ…」
「レオナルド皇子…」
「ロキ!放っておいて悪かった!でも、泣きたい時に頼るならまずは大親友の俺だろう?!」
「いえ、違いますけど」
「えぇえっ?!」
レオの機動力の高さは相変わらず凄いなと感心するけど、この場合は遠慮したい。
兄待ち、アルフレッド待ちだったのに台無しだ。
「チッ…」
「セドリック王子に舌打ちされた?!」
「自業自得だと思います」
「俺の大親友が痛烈…!」
そうしてちょっと二人で残念に思っていたら、遅れてやってきた兄に腕を引かれて抱きしめられた。
「ロキ!」
まるで俺を守るように抱きしめてセドリック王子とレオを威嚇しにかかる兄に嬉しい気持ちが込み上げてくる。
(セドリック王子の事……怖がっていたはずなのに)
「ロキ。良かったな?」
「セドリック王子こそ」
セドリック王子の方にはちゃんとアルフレッドもやってきていたから、向こうは向こうで非常に満足気だ。
でもそれよりなにより兄が俺にちゃんと理由を聞いてくれたのが嬉しい。
「ロキ、何があった?セドリック王子に泣かされたのか?」
兄はセドリック王子が悪いと決めつけてそうだけど、セドリック王子は悪くない。
泣かされたと言えば泣かされたのかもしれないけど、それは別に虐められたとかそういうことではない。
敢えて言うなら俺の憂いを綺麗に晴らしてくれたと言うべきだろう。
「……いえ。セドリック王子は俺の心を軽くしてくれただけなので」
「じゃあどうして泣いている?!」
納得がいかないとばかりに兄はそう言ってきたけど、本当のことだから何とも言えない。
そしてそんな俺達の隣では同じくアルフレッドに抱き着かれたセドリック王子が何故か問い詰められていて、淡々と答えを返していた。
「お前、ロキ陛下を泣かしたのか?!」
「まあ泣かしたと言えば泣かしたな」
「何言ったんだ?!」
「別に?不甲斐ないそこの甲斐性なしの代わりに安心させてやっただけの話だが?」
そう言いながらセドリック王子は兄を見て嗤ったけど、それを見て本当にセドリック王子は兄を虐めるのが好きだなと思った。
以前アルフレッドに手を出そうとした件をずっと根に持ってるんだとしたら相当だと思う。
アルフレッド一筋といった感じで、微笑ましい限りだ。
ちなみに言われた方の兄はそれに怯えるでもなく、なんだか悔しそうな顔をしていた。
正直これは凄く意外だった。
どうしてそんな顔をしてるんだろう?
その後何が何だかよくわからないまま兄に部屋へと連れ去られ、気づけば俺はベッドに押し倒されていた。
上に乗られてキスされて、まるでこのまま犯されるみたいな状況になり、正直全く状況についていけない。
別に甘い空気になっていたわけでもないのにどうしてこうなったんだろう?
しかも兄からは唐突にこんなことまで言われてしまった。
「ロキ、もらうぞ?」
「何をですか?」
「お前の処女に決まってる!」
何がどうして急にそんな心境になったのかが全くわからなかった。
つい昨日『抱くより抱かれたい』と言っていたはずなのにと不思議でならない。
(まあいいけど)
さっきまでの自分だったら多分また後ろ向きな考えに囚われていたかもしれないけど、今は心も軽くなってスッキリしているし、ここは兄がやりたいようにしてあげるべきだろうと素直に思えた。
よくはわからないもののどうも兄は本気のようだし、以前からあげるとは言っていたため特に断る理由もない。
「はあ。どうぞ?」
色気も素っ気もないが、欲しいと言うならどうぞと差し出すまでだ。
だからそう言ったのに、どうして泣かれたのかさっぱりわからない。
「ウッウッ…」
「兄上?」
泣くほど嫌なら言ってこなければいいのに。
今の兄はさっきまでの俺以上におかしい気がする。
もしかして離れている間に何かあったんだろうか?
いきなり俺の処女をもらうと言ってきたからには、それ相応の何かがあったはずだ。
セドリック王子のお陰で気持ちを立て直すこともできたし、ちゃんとじっくり考えてみよう。
(昨日弟から処女をもらってくれと言われて困った、とかレオ達に相談しててもおかしくはない…のかな?)
それならそれで憂いはなくしてあげたい。
「兄上、無理しなくていいんですよ?誰かに何か言われたんですか?俺の処女が負担ならさっさと捨ててきますけど」
もしかしたら『サクッともらってやればいいのに』とでも言われて無理をしているのかもしれない。
だから『他で捨ててきますよ』と言ったのだけど、そう言った途端何故か急に険しい表情で問い詰められてしまった。
「……っ!誰にやる気だ?!」
「え?リヒターとか…?」
「とか?」
他には?と兄から聞かれて特に思いつかず、そもそもこんな俺を抱くような奇特な相手が早々いるようには思えないしなと思った。
「う~ん…頼めばセドリック王子ならもらってくれそうですかね?」
アルフレッドがいるからほぼないとは思うけど、場合によっては面白がって抱いてくれそうではある。
それこそ双方に嫉妬させようとさっきみたいに持ちかけたらいけるような気はする。
でもそう口にした途端、ギラギラした目で見られて乱暴に服を剥ぎ取られてしまった。
なんだか下克上プレイっぽくてドキドキする。
兄の心境はイマイチよくわからないままだけど、俺は兄が相手なら割となんでもアリなので、取り敢えず成り行きに任せようと思った。
こういう時は変に抵抗しない方がいい気もするし。
「ロキ…」
その後あれよあれよと言う間にあっさり抱かれたのだけど、感想としては『こんな感じか…』程度のもので、初めては感じにくいって本当だったんだなと一人納得していた。
ちなみに別に兄が下手だったとかそう言うわけじゃない。
単に向き不向きの話だと思う。
どうも自分は性癖がかなり偏っているようなので仕方がない。
兄は服を剥いだ時は乱暴だったけど、いざやる時には丁寧にほぐしてくれたし、優しく挿れてくれたから別に痛くはなかった。
処女を抱く時のお手本のような抱き方だったと言えばいいのだろうか?
兄はごく普通に事を成したに過ぎないのだ。
ただ俺が勝手に下克上プレイが始まるのかなと期待してたせいで『あれ?もう終わり?』と明後日方向に思考が飛んでしまい、うっかり残念そうな顔で『え?終わりですか?』って口を滑らせてしまっただけだ。
これは本気で反省している。
本当に申し訳なかった。
「うぅぅ…ロキのドS…酷い……」
「兄上?大丈夫です。痛くなかったし、ちゃんと優しかったですよ?」
「嘘だ…満足させてやらなかったからあんな事言ったんだろ?」
「えっと……ちょっとした認識の違いですから…」
「どうせセドリック王子の方が良かったんだ…」
「う~ん?多分あの人の場合初めてでも割と激しくしてきそうですし、俺としては大好きな兄上にあげられて良かったと思いますけど」
「ウッウッ…」
「泣かないでください。俺が悪かったしちゃんと反省してます」
結局グスグス泣かれて、離縁はしたくないと言われたりはしたけど、そもそも俺から離縁する気なんて一切ないから大丈夫だとちゃんと慰めておいた。
何故か俺がセドリック王子を好きになったんじゃないかと勘違いしてたっぽいからそれもちゃんと否定しておいたし、何も問題はないだろう。
今は兄は俺が好きで、俺も兄が好き。
人は人。自分は自分。
セドリック王子がこんな自分を認めてくれているんだから大丈夫だと心をしっかり持つこともできたし、少しは強くなれたような気がする。
その後可愛い兄を美味しく頂いたのだけど、ショックで勃たなくなったらどうしようと泣かれたからこれでもかと感じさせて沢山勃たせてあげた。
兄はやっぱり俺に抱かれる方が気持ちいいし凄く好きだと言っていっぱい甘えてくれたし、一生ご主人様でいてとも言ってくれたからそれでいいんだと思えた。
兄が俺に飽きるまで、できる限り長く傍に居たい。
それが今の俺が出した答えだった。
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婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
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