【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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102.ブルーグレイ再訪⑬

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今日はブルーグレイ滞在最終日。
別に今日帰ってもよかったのでレオの予定も聞いてみたら、今日は普段なかなか会えないアルメリア姫と話したり、アルフレッドやオーガストとも剣を交えたりしたいから明日朝一で帰るのでもいいかと言われた。
確かにレオはまだ来たばかりだしそれも仕方がないだろうと思い、兄にも今日は一日フリーだからどこか行きたい場所ややりたいことはないかと聞いてみることにした。

「……俺はロキと一緒ならなんでもいい」
「そうですか?じゃあ今日は部屋でゆっくりしましょうか」

ついでにこっちに来る前に何か自分がいなかったことで困ったことはなかったかと尋ねてみる。
仕事は大丈夫だろうけど、兄を虐める輩でも居たらしっかり把握しておきたいなと思ったからだ。

「兄上は変わりないと言ってましたけど、本当に向こうで何かあったから逃げてきたとかそういうわけじゃないんですよね?」

単純に寂しくてレオに頼んで来ただけだとは思うけど、念のためとそう尋ねただけだったのに────。

「うっ…いや、まあお前に会いたくて来たのは来たんだ。そこは絶対だ」

そう言いながらも兄は何かを言いあぐねているようで…。

「兄上?怒らないので言ってください。何かあったんですか?」

できるだけ優しい声で、優しくその身体を引き寄せながら尋ねてみる。

「言い難いならミュゼにでもツンナガールで聞いてみますけど…」
「っダメだ!」
「…………ミュゼが何かやらかしたんですか?」

まさか兄を害そうとでもしたんだろうか?
もしそうなら絶対に許す気はないが。

「いやっ違う…。その…スカーレット嬢が……」

そうして渋々と口を開いた兄が明かしてくれたのだが、ミュゼの婚約者であるスカーレットが日が暮れた後、兄の部屋までやってきて衣服を脱ぎ捨て関係を迫ってきたらしい。

「すぐに騎士達が取り押さえて牢に入れてくれたし、別に実害はなかった。でもその…」
「なるほど。国を捨てたくなるほど嫌になったんですね?構いませんよ?兄上一人くらい俺が養ってあげます。宰相に手紙で王の後任は適当に選べと伝えておきます。このまま二人で他所で暮らしましょう」
「……え?」
「あんな国いつ捨てても良かったので、兄上が捨ててくれたなら却って良かったです」

清々しましたとニコッと笑ったら兄だけでなく周囲からも全力で止められたし、何故か一名に大笑いされた。

「待て待て待てっ!」
「陛下!落ち着いてください!」
「ロキ様極端すぎ!」

「ロキ!退位はしてもいいけど順序は考えろ、この馬鹿!」
「ぶっ壊れ具合が凄いのはわかったから落ち着け!」
「ブワハハハッ!最高だな、おい!」

兄からは全力でストップがかかったけど、裏稼業の三名は概ね好意的。
リヒターとカーライルは困惑顔だけど、多分この二人は最終的には許してくれそうな気がする。

「兄上のお望みのままに」
「俺が悪かった!ちゃんと戻る気だから早まるな!」
「そうなんですか?無理はしなくていいですよ?」
「無理なんてしてない!大体どうやって暮らす気だ?!」
「まあ最初は貯蓄で?」

実はセドリック王子からアイデア料をもらったり、三カ国事業で提案して採用された魔力タンク魔石がフォルティエンヌで特許というものが取れたりとかで、個人の口座にお金が振り込まれていて蓄えは割とある。
財務大臣に相談もしたけど個人資産だと言われたので取り敢えず受け取っておくことに。

加えて裏稼業の者達が最近儲け話があると言ってきて、俺の個人資産を勝手に増やして還元してきたので手持ち資金も潤沢だった。
俺がトラブルに巻き込まれやすかったりするからか、もしもの時はそれで安全な他国に逃げて潜伏しとけと言われたのだが、正直心配のしすぎだと思う。

何はともあれそれらのお金で取り敢えず家を買って、後は裏稼業で何かしら稼げばいいし、なんならこのままブルーグレイで職を探してもいいかなと思った。
セドリック王子に一度相談してみるのもありだ。
兄のためならどんな職にでも挑戦してみよう。
そんな事を考えていると戻ってこいと言って肩をガクガク揺らされた。酷い。

「ロキ!退位はダメだ!」
「え……」
「俺と頑張るんだろう?!」
「兄上がそこにこだわるなら?」
「こだわる!だから退位は考えるな!」
「そうですか…残念ですけど、仕方がないですね」

折角の退位のチャンスだったから本当に仕方なくそう言ったら、どこかホッとしたようにしながら凭れかかられた。

「はぁ…やっぱり黙っておけばよかった」
「黙っていても帰ったらわかったことでしょう?」
「それはそうだが…」
「まあいいです。国を捨てないなら彼女の処分を考えないといけませんね」

国を捨てるなら指示だけ与えておしまいでも良かったが、退位しないなら話は別だ。
公爵令嬢とは言え王の伴侶に無許可で手を出そうとしたのだ。
罰はきっちり受けてもらわないと。
特に兄を怯えさせたという点においては簡単に許せるものではない。
シャイナーの件で冤罪に過敏になってる兄にショックを与えた罪は大きいと言えるだろう。
それを鑑みて罰は与えるべきだ。

「そうなると、取り敢えずスカーレット嬢には拷問用の特殊な媚薬でも盛ってやって、そのまま放置プレイが妥当でしょうか」
「……え?」
「ついでに卑猥な格好で縛り上げて自分で慰められないようにしてやらないと」
「……ロキ?」
「兄上も前に試したことがあるでしょう?あの気絶できないのに感度が凄く上がるやつです。ふふふ…楽しみですね?あれで放置プレイなんてしたら気が狂いそうなくらい暴れるんじゃないですか?まああの薬の特性上、気が狂うことすら許されませんけど」

身悶え絶望に苦しみながら延々と与えられない熱の行き場に翻弄され泣き叫べばいい。

「ま、三日もあれば勝手に薬も抜けるとは思いますし、処刑よりずっとマシですよね?」
「いや…あれは発散しないとずっと抜けないタイプじゃなかったか?」
「そうでしたか?じゃあ一週間くらいしたらミュゼに渡してやったらいいのでは?婚約者なんですからそのまま孕んで結婚でも問題ないでしょうし。厄介払いができていいかもしれませんよ?」
「い…一週間……あれで放置…?酷い…」
「…?兄上は気持ち良かったでしょう?沢山悶えながら楽しんでくれていたのに…」

そんな言い方をされたらダメだったのかと落ち込んでしまう。

「いや、最高だったけど、それはお前が抱いてくれたからだ!あれで放置はないっ!絶対に薬が切れた後スカーレットは気が狂うぞ?!」
「別にいいんじゃないですか?兄上に手を出そうとしたんだし」
「……お前は俺を好き過ぎないか?!」
「何を今更。兄上が俺の全てですよ?」
「そ…そうか…」

そうやって話していたらディグが苦笑しながら『ほどほどにな』と言ってくる。

「まあ媚薬盛った上で騎士達の慰み者にと言い出したら流石に止めようと思ったけど、無難な線じゃねぇか?」
「俺もそう思う」
「うんうん。ロキの好きな相手に手を出そうとしたんだし、それくらいやっても全然OKだろ」

他の面々もこれならいいんじゃないかとのことだったので、帰ったら早速実行しよう。

そうして話が一段落したところで兄がリヒターだけを残して人払いをしてしまった。
何かお説教でも始まるんだろうか?

(安易に国を捨てようとするなと怒られるのかな?)

先程もダメだと凄く言われたしその可能性は高い。
でも言われたのは全然別のことだった。

「ロキ。スカーレット嬢の件は横に置いておいて、取り敢えず俺は昨日に引き続きお前の貞操観念についてきちんと話しておきたい」
「はい?」

兄は何故かいきなりそんなことを言ってきた。
正直困惑を隠せず思わずリヒターを見てしまったが、すぐに兄にこっちを向けと顔の向きを変えさせられる。
どうやら真剣な話のようだ。

「お前は俺以外と寝ることについてはどう思ってる?」
「え?基本的に兄上にしか挿れたくはないですけど、どうしても必要であれば兄上がベッドに一緒に居てくれるなら寝てもいいかなと思ってますよ?」

前も言ったけどどうして改めて聞かれたんだろう?

「お前にとってはそれは浮気には当たらないんだな?」
「ええ。だって俺が好きなのは兄上だけですし、特に好んでするわけでもないので浮気じゃないでしょう?」

誤解がないようにベッドに兄も一緒に居るから問題はないはず。そう思って答えを返す。

「じゃあ、逆に俺がお前がいない場所で誰かと寝たらそれは浮気になるか?」
「そうですね…俺が許可している相手なら別に構いませんけど?」
「それはお前が見ておく必要はないのか?」
「特には。俺が許可しているのはリヒターと、今回の旅行中に限りマーシャルとエディオンです。この三人であれば特に構いませんけど?」

俺が見ておく必要はないと言うのは別にどうでもいいと思っているからではなく、見たら嫉妬するからだ。
プレイの一環で見る分には興奮するから別に構わないけど、例えば兄が嬉々として誰かを誘った場合は見たくはないというのが本音だったりする。
じゃあ許可を出すなと思われるかもしれないけど、それはそれ、これはこれなのだ。
上手く言えないが、兄を俺一人に完全に縛り付けるのは何か違う気がする。
だからこそ許可を与えた相手とだけ認めると言う中途半端な独占欲に繋がるのかもしれない。

「ならそれ以外とだったら?」
「大変不快なので兄上にお仕置きしますが?」
「お仕置き?!…えっと、その場合相手の方は?」
「当然二度と兄上に近づかないよう手を打ちます」

『裏の誰かに頼めばやってくれるので』と言ったら兄の顔色が悪くなった。
もしかして誰か寝てみたい相手でもいるんだろうか?

(レオか?)

もしそうだったら一応話し合いの場は持ってみてもいいけれど。

「そ…そうか」
「ちなみに誰と寝たいんです?」
「え?」
「レオですか?」
「ち、違うぞ?!」
「そうですか。一応言っておきますがレオの場合は申告してください。一応話し合いの場は設けますので」
「うぅ…怒ってるのか?やっぱりロキはよくわからない…」
「そんなことはないですよ。凄くわかりやすいです」

前にレンバーが言っていたが、俺は兄の相手は全部管理したいのだ。
それは俺の独占欲に他ならないとも言われた。
それはその通りだと思う。
だからこそ把握できない相手を許す気はないし、寝たいなら寝たいで許可を取ってほしい。
ただそれだけの話なのに…。

「「はぁ……」」

そんな中、何故か俺と兄の溜息が重なった。
俺からすればこんな旅行先で急に貞操観念云々言われて憂鬱になってのことだったけど、兄はどうして溜息を吐いたんだろうか?

(もしかして…俺の束縛が嫌になってきた、とか?)

不意にそんな疑惑が頭をよぎる。
確かに否定できないくらい束縛はしてるけど、話し合いの余地は残しているつもりだし、それならそれで言って欲しいと思う。
戴冠前に話し合った時から時間も経っているし、何かしら考えが変わったのかもしれない。

「昨日も言いましたけど、俺は絶対に兄上以外を好きになったりしないので浮気はあり得ないです。もし万が一兄上が俺以外の他の誰かを好きになったのならその時はそう言ってください。潔く目の前からいなくなりますので」

浮気されて捨てられるとしたらそれは俺の方だ。
兄が俺なんていらないと言えばそれで終わってしまう関係でしかない。

そこで、そう言えば昨日だって『俺だけを好きでいてくれるでしょう?』と訊いた時、結局返事はもらえなかったなと思い出す。
あの時、兄は難しい顔をして何やら考えているようだったから不安がよぎって誤魔化すように先を促したのだ。
満足させてあげたつもりだけど、足りなかったのだろうか?
一度疑い出したら考えがどんどんマイナス方向へと向かって、止められなくなってしまった。

「それこそない!俺はロキが本当に好きなんだ」
「本当に?」
「ああ。絶対だ」

慌てて否定し、ちゃんと真っ直ぐ目を見つめて好きだと言ってもらえて嬉しいと思うと同時に、そう言えば『絶対』なんて兄にはなかったなと思い出してしまう。

『お前が視界に入るだけで一気に気分が悪くなるな。さっさと俺の目の前から消えろ』

『俺がお前を認めることなど万に一つもない。何があろうと絶対にだ』

蔑むような目でそう言われた日の光景が頭をよぎり、今の幸せな日々は幻に過ぎない気にさせられる。
だからどうしようもなく胸が痛むのだろう。
あの頃の『絶対』より今の『絶対』を信じたい。
でも心が乱れて上手くいかなかった。

「それなら…いいんですけど」
「ロキ?」
「なんでもないです。ちょっと散歩に出てきていいですか?」
「え?あ…あぁ……」

特に引き留められることなく兄がそっと傍を離れる。
でも────そこでグイッと腕を引かれてトンッと背を押されてしまい『え?』と目を瞠ってしまった。

「ロキ陛下。そんな顔をするくらいなら素直にカリン陛下に心の内を話してください」

お節介にも俺を引き留め兄の方に押しやったのはリヒターだ。

「カリン陛下がいらっしゃらない時に代わりに俺が話を聞いて慰めるのは構いませんが、今はカリン陛下がいるんですよ?不安があれば逃げずにちゃんと言えばいいじゃありませんか」
「リヒター…」

優しい眼差しにちょっと目が潤んでしまう。
リヒターはこんな時、ちゃんと俺をわかってくれる。
その上でこうすべきだと教えてくれる。
それは好意以外の何物でもない。
なのにどうして俺は兄しか好きになれないのだろう?
いっそ兄以外の他の相手を好きになれたら楽になれる気がするのに、心はどこまでも儘ならない。

「自信がない、胸が痛い、そんな顔をしてますよ?」
「…………」
「何かしら今のカリン陛下の言葉に引っかかるものがあったんですよね?傷つきたくないから先に自分から去るような発言をして…。本当に変わらない…不器用な方ですね」
「リヒター…」
「もしカリン陛下が受け止めてくれなかったら俺がいます。その時は遠慮なく頼ってくれていいので、今はカリン陛下とちゃんと向き合ってください」

そんな言葉に胸が熱くなって甘えたくなったけど、それと同時に兄にこっちに来いと引き寄せられて強く抱き締められた。

「ロキ!あんな奴は頼らなくていいから俺だけを見ろ」
「兄上…」
「不満があるなら俺に言え。その…リヒター程すぐにはわかってやれないかもしれないが、俺だってお前を負けないくらい大事に思ってるから!」

そんな言葉に心が喜びの声を上げている。
どうしようもなく俺の心を支配する兄が好き過ぎて、結局俺は兄から離れられないのだ。

それから俺は兄にこれでもかと甘やかされた。
それが昔の兄の記憶を遠くに押しやり消していく。
自分が変わったように兄も変わったのだと、今はただそれを無性に信じたかった。

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