【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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閑話14. シャイナーの嫁選び

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【Side.キャサリン】

私───キャサリンは、ここアンシャンテのとある侯爵家に三女として生まれた。
性格を一言で言うとするなら女らしくない女と言えるかもしれない。
一応猫を被ることはできるけど、正直言って面倒臭いと思っているし、家にいる時は素でいるからよくお父様からは叱られている。

「キャシー!!」

そんな私の元へまた大きな声で愛称を叫びながら駆けてきたお父様。
今日はまだ何も叱られるようなことはしてないつもりだけれど、何かあったのかしら?
そう思って取り敢えず走ってきた父に足を引っかけて転ばしてやる。

「ふぎゃっ?!」
「お父様?屋敷内で走らないよう言ったのはお父様だったと思いますが?」
「だからって足を引っかけるなこのバカ娘!」

折角朗報を持ってきたのにと父は憤るが、どうせ婚姻の件か何かに決まっている。
ここ最近年頃になってからというもの全部そう言った類で嫌気が差しているのだ。
だからこれまで全部返り討ちにしてきたのだけど、また性懲りもなく持ってきたに違いない。

「今度はどこの令息です?たかが腕を捻り上げただけで悲鳴を上げるような人じゃありませんよね?」
「ひっ?!お、お前、今回は絶対にそんなことをしてはならんぞ?!」
「どこの誰です?」

冷ややかに見つめるとお父様はコホンと居住まいを正し、あり得ないことを口にしてきた。

「シャイナー陛下だ」
「は?誰ですって?」
「だから、この国の国王、シャイナー陛下だ」

どうやら聞き間違いではなかったらしい。
シャイナー陛下と言えば美形なだけではなく、文武両道、賢王と名高い若き王で、人当たりはよく令嬢方に大変人気の人である。
それこそわざわざ私のような侯爵家の三女に話が来るような人ではない(ちなみに姉二人は既に嫁入りして家を出ております)。

「誰かに騙されてません?」
「そんなわけがないだろう!宰相御自ら話を下さったのだぞ?!」

どうやら多産家系であることも考慮されて(うちは一男三女)、侯爵家の中では一番に話を持ってきてもらえたらしい。
正直言って嫌すぎる。
非の打ち所がない出来すぎた相手なんて無理無理。
そもそも私は元々シャイナー陛下のような万人受けするような男はタイプではないのだ。

(だって面白みが全くないじゃない)

昔からちょっと変わった人の方が私は好みなのだ。
お隣のガヴァムで言えば昔から女性人気が高いカリン陛下よりもその弟の、壊れていると言う噂のロキ陛下の方が話してみたいと思うし、あっちこっちの姫にそっぽを向かれたと言う大国ブルーグレイのセドリック王子なんかもちょっと興味津々ではあった。
大体にしてそういうちょっと『普通じゃない』と皆から言われるような人の方が面白いと思うのは私だけだろうか?
そう言った意味ではシャイナー陛下は論外なのだ。
諦めて欲しい。

そう思ったのに父は私をドレスアップさせ、無理矢理城へと連れて行った。

「シャイナー陛下。この度娘をご紹介する栄誉をお与えいただき感謝申し上げます。こちらが私の娘、キャサリンでございます」
「キャサリン=ミランでございます。どうぞ良しなに」

(あ~面倒臭い。こんな茶番さっさと終わらせて帰りたいわ)

どうせすぐに幻滅されて家に帰されるんだから、とっとと嫌われて帰っちゃおうと考えていた。
でもそうは問屋が卸さないとばかりにシャイナー陛下と二人きりにされ、数々のエスコートをされる羽目になった。
ニコニコと笑顔を振りまき、卆なく女性をエスコートする様はまさに噂通り。
庭園に出れば花の名を教えてくれ、茶を共に飲めば豊富な話題でこちらの耳を楽しませる。
頭の回転もよく、会話の糸口を見つけるのも上手。
流行にも敏感で、本当に隙なく確実に女性を虜にする印象を受けた。
普通の貴族女性なら一発で虜にされてしまうだろう。

(ま、私には関係ないけど)

そもそもそういう男がストライクゾーンではない私からすればどうでもいい話でしかない。
会う前でも会った後でもその印象は全く変わりそうになかった。
どうぞ他の誰かとくっついてくださいなと思いながら表面上は優雅に見える仕草で紅茶を頂く。
全く無駄な時間だと思った。

そんな状況が変わったのはそろそろ帰れるかなと思った頃の事。

突然改まったような真剣な表情で、シャイナー陛下は言ったのだ。

「キャサリン嬢」
「はい?」
「突然だが、君は俺を踏むことはできるだろうか?」
「……は?」

正直言われている意味がさっぱり分からなかった。
けれど続く言葉に正直唖然とし、やっと自分が呼ばれた意味が分かった気がした。

それによると、まず最初は当然の事ながら公爵家の令嬢から候補が選ばれ王妃候補として挨拶に来たらしい。
それこそすぐにシャイナー陛下に骨抜きになって、これでもかと惚れ込まれたと言う。
けれど最後に先程と同じ質問を投げかけてみた所、一人目の回答は『愛するシャイナー陛下を踏みつけるだなんて…そんな酷いこと、できるはずがありませんわ』とそれがまるで正しい答えであるかのように頬を染めながら言われたそうだ。
その時点でそのご令嬢は候補からすぐさま外され、何故そうなったのかわからないと日々泣き暮らしているらしい。

二人目のご令嬢も同じくシャイナー陛下に惚れこみ、更に父親からなにがなんでもシャイナー陛下のお眼鏡に適うようにと言い聞かせられていたようで、思い切ってシャイナー陛下を踏んではみたらしい。
でも四つん這いになったシャイナー陛下の背を軽くそっと踏んだだけで終わってしまったのだとか。
これまたその時点でそのご令嬢も不適格とみなされ、候補から外されてしまう。

そしてやってきた三度目の正直というのが私だったのだとか。

(これは厄介だわ…)

きっとシャイナー陛下は王妃になるからには王に遠慮などすることなく、対等であるべきと考えてそんなおかしな選定を思いついたのだろう。

踏みつけるのはできると言えばできる。
でも自分は面白みのない男とくっついて人生を棒に振る気は一切ないのだ。
ここで下手に思い切り踏みつけておめでとうとばかりに王妃にさせられるのは正直いって御免被る。
だから考えた末に私はこうした。

四つん這いになったシャイナー陛下にそっと近づいて、『さあやってくれ』と言ったシャイナー陛下の顔面に、ゲシッと蹴りを入れたのだ(ヒールは一応脱ぎましたわよ?)。
それプラス、これだけじゃ足りないかなと思ったので確実に断られるようにそのままグリグリと嬲ってやる。

「ごめんあそばせ?私、お上品なご令嬢ではありませんの。他を当たってくださいな」

十分不敬な行為だし、これくらい言ってやれば怒りだしてこの縁談は綺麗に白紙になるだろうと思ったのだけど……。

「君に決めた!!」

足を下ろして靴を履いた途端、それまで放心して固まっていたシャイナー陛下が急に目を輝かせ、どこか嬉しそうな顔をして私を見上げてきたのでドン引きしてしまう。

「……は?」
「だから、俺の妃は君に決めた!!」


それからあれよあれよという間に話は進んで、ようやくハッと我に返った時にはシャイナー陛下の婚約者として城に住むことが決まってしまっていたのである。

(何故~~~~?!)

そうして何がどうなって選ばれたのかしっかり説明を受けた私は、結局その話を受けることにした。
もう決まってしまったものは仕方ない?
そんなわけあるかと最初でこそ抵抗したものの、話を聞くとすっごく面白そうだったので了承したのだ。
だってこのこれっぽっちも面白みのなかったシャイナー陛下がドMに目覚めたなんて聞かされたら面白くて仕方がないでしょう?
しかもそうしたのはガヴァムのロキ陛下なんですって。
シャイナー陛下と結婚したらロキ陛下自らそのシャイナー陛下を御す方法をご教授してくださると聞いて、私は嬉しくて飛び上がりそうになった。
なんて面白い展開なのかしら?

(これよ!こういうのを求めていたのよ!)

人生は楽しくなくちゃがモットーの私からすれば渡りに船の話だった。
シャイナー陛下がロキ陛下を愛してると言っていても全く問題はない。
私からすればシャイナー陛下からの愛情なんて別にどうでも良かったからだ。

「ロキ陛下に会えるのが今から楽しみですわ!」
「俺もとても楽しみだ」
「どんな素敵なことを教えて頂けるのでしょう?」
「それはもう素晴らしいあれこれだ」

そうして私は、表向きはこれまで通りのシャイナー陛下を前に来るべき日を心待ちにしつつその日を指折り数えることとなる。

「取り敢えずまずは挨拶だな」

どうやらロキ陛下は今ブルーグレイに招待されて国を空けているらしいので、挨拶は帰ってからになるとのこと。

(ロキ陛下はどんな方かしら?)

そんな事を考えながら私はにっこりと笑ったのだった。


****************

※ある種お似合い?な二人かもしれません。
そのうちシャイナーよりロキと仲良くなってシャイナーが悔しがる予定。

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