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91.ブルーグレイ再訪②
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今目の前にいるのは威厳あるブルーグレイの国王陛下。
これぞ国王という堂々たる姿に惚れ惚れとしてしまう。
(やっぱりこれを見ると俺は仕方なく国王の座に就いてるというのがよくわかるな)
そんな風に思いながらきちんと礼をとり、挨拶を行う。
「ご無沙汰しております、陛下。その節は戴冠の儀にお越し頂きありがとうございました」
「うむ、元気そうで何よりだ、ロキ陛下」
堅苦しいことは抜きにしてゆっくりと寛いでほしいと言い、ブルーグレイ国王はにこやかに席を勧めてくれた。
今この場で俺以外に席に着いているのは陛下とセドリック王子、それとセドリック王子の正妃であるアルメリア姫と側妃アルフレッドの四人。
リヒター達は後で部屋に戻ってから食べるらしい。
なので俺は勧められるがままに席に着き、ブルーグレイの美味しい食事を堪能させてもらう。
富国ブルーグレイの名はだてではなく、食は種類豊富で新鮮な食材がこれでもかと使われ非常に美味しかった。
「このサーモンのマリネは私もこの国に来て初めて食べたのですけれど、いかがでしょう?」
「とても美味しいと思います」
「ロキ陛下のお口に合ったようで何よりですわ」
「ありがとうございます」
何故かアルメリア姫が気を遣って話しかけてくれるけど、気の利いたことを返せなくてちょっと申し訳ない。
でもこういうところはレオナルド皇子と似ているかもなと何となく思った。
兄妹揃って積極的に話しかけてくるところがそっくりだ。
「ロキ陛下、遠いところをわざわざ来てくれたのだ。折角だし一週間程滞在してブルーグレイで羽を伸ばしてほしい」
(一週間…長いな)
国王の思惑はわからないが、滞在が一週間で行きと帰りの行程を合わせると実質半月も兄に会えないことになる。
できればそれは避けたい。
「有難いお申し出ですが、俺はまだ半人前の国王なので長々と国を空けてしまうと政務が滞ってしまいます。兄に負担をかけるわけにもいきませんので、できれば三日ほどでお暇したく思います」
「そうか。それは残念だ。ではその間だけでもセドリックと存分に仲良く語り合ってほしい」
「お気遣いありがとうございます」
そこからは食事の合間合間にセドリック王子との手紙のやり取りではどういったことをよく語り合っているのかとか、機器にどれくらい興味があるのかなどなど色々話した。
俺自身は別に詳しくはないので、淡々と興味があることについて話し、あれば便利だなと思うものを口にしてブルーグレイにあればお土産に買って帰りたいとだけ伝えておいた。
そうしたら大笑いされながら、作ってまた送ろうと言われてしまった。
ないならないで別にわざわざ作ってくれなくてもいいのにと思って、困ったようにセドリック王子の方を見たら、楽しげにしながら黙って受け取っておけと言われてしまった。
この辺り親子で似ているなとつい思ってしまう。
きっと良好な親子関係とはこういったものを言うのだろう。
でもご機嫌な声で紡がれたこの言葉はちょっといただけない。
「セドリックにロキ陛下のような友人ができて私も安心だ」
「……非常に申し上げにくいのですが、違いますよ?」
そこに更にセドリック王子の言葉が続く。
「ほら、父上。言ったでしょう?」
俺達は友人じゃないとそうやって口にしたのだけど、何故か全員から『嘘だ!』みたいな目で見られてしまった。
「全く…。ロキ陛下、気にするな」
「ええ、ありがとうございます。そう言えば先日アンシャンテの街で見たんですけど……」
セドリック王子も気にするなと言ってくれたことだし、こういう時はさっさと話題を変えるに限る。
「ああ、その食べ物は屋台でよくある奴だな。最近では少しアレンジを加えたものが出回り始めたようだ」
「へぇ…。どんなアレンジが?」
「これまでのタレか塩という単純なものではなく、カリー粉というスパイスを使ったものや、チリペッパーという辛い粉を振りかけたものなんかは人気と聞いたぞ?」
「どんな味なのか想像がつかないですね」
「ふっ…午後にでも街に出て食べてみるか?」
「いいんですか?それならついでにちょっと行ってみたい場所もあるんですが…」
「ロキ陛下が行きたい場所なら楽しそうだな。後で教えてくれ」
「はい」
にこやかにそうして二人で話してたのに、何故かその場の皆が固まっている。
何かおかしな事でも言ってしまっただろうか?
もしかして流行とかを知らない奴だと呆れられたのかもしれない。
「すみません。ものを知らないもので」
困ったようにそう言ったら、皆に違う違うと首を振られたけど、気遣ってくれたのは明らかだ。
「あ、もちろんセドリック王子とアルフレッド妃殿下の邪魔をする気はないですし、こちらはこちらで騎士を同行させますのでお気遣いなく」
当然アルフレッドも同行するのだろうと思い一応気を遣ってそう言ってみると、同行者はリヒターかとセドリック王子から聞かれたのでそのつもりだと答えた。
するとそれなら安心だと言われて首を傾げてしまう。
「あの男はロキ陛下しか見てないしな。丁度いい」
「ありがとうございます。いつも尽くしてくれる騎士なので、セドリック王子にそう言っていただけて嬉しいです」
そんな感じで昼食の時間は和やかに過ぎ、一度部屋に戻って軽装へと着替え直した。
「リヒター、昼食を食べる暇がなかっただろう?街で好きな物を食べてくれて構わないから」
「ありがとうございます。少しだけ頂きます」
「少しと言わずしっかり食べてくれ」
そして連れ立ってセドリック王子と合流し、アルフレッドも含めて四人で街へと出掛けた。
「ほらロキ、これだ」
「へぇ…良い香りですね」
ついでに街では陛下呼びはやめてもらおうと思って伝えたら、あっさりと呼び捨てにしてもらえた。
うん。この方が落ち着く。
「んっ…独特の風味で、意外と癖になりそうです」
「そうか」
「リヒターもどうだ?お腹が空いているだろう?」
「ありがとうございます。ロキ様」
俺が差し出したそれを受け取りリヒターも素直に食して舌鼓を打つ。
「ああ、これは美味しいですね」
「兄上にも食べさせてあげたかったな」
「それならスパイスの店を探してみてはどうですか?」
「ああ、確かにいいかもしれないな」
(流石リヒター。気が利くな)
「セドリック王子、スパイスの店はご存知ないですか?」
「よくは知らないな」
「それならそっちは後で知り合いに聞いてみます」
どうせ後でこっちの裏稼業の者達に挨拶もしに行くつもりだったし、その時にでも聞いてみよう。
そう思いながらいくつか目についた店の物を飲み食いしてからそちらへと向かった。
これぞ国王という堂々たる姿に惚れ惚れとしてしまう。
(やっぱりこれを見ると俺は仕方なく国王の座に就いてるというのがよくわかるな)
そんな風に思いながらきちんと礼をとり、挨拶を行う。
「ご無沙汰しております、陛下。その節は戴冠の儀にお越し頂きありがとうございました」
「うむ、元気そうで何よりだ、ロキ陛下」
堅苦しいことは抜きにしてゆっくりと寛いでほしいと言い、ブルーグレイ国王はにこやかに席を勧めてくれた。
今この場で俺以外に席に着いているのは陛下とセドリック王子、それとセドリック王子の正妃であるアルメリア姫と側妃アルフレッドの四人。
リヒター達は後で部屋に戻ってから食べるらしい。
なので俺は勧められるがままに席に着き、ブルーグレイの美味しい食事を堪能させてもらう。
富国ブルーグレイの名はだてではなく、食は種類豊富で新鮮な食材がこれでもかと使われ非常に美味しかった。
「このサーモンのマリネは私もこの国に来て初めて食べたのですけれど、いかがでしょう?」
「とても美味しいと思います」
「ロキ陛下のお口に合ったようで何よりですわ」
「ありがとうございます」
何故かアルメリア姫が気を遣って話しかけてくれるけど、気の利いたことを返せなくてちょっと申し訳ない。
でもこういうところはレオナルド皇子と似ているかもなと何となく思った。
兄妹揃って積極的に話しかけてくるところがそっくりだ。
「ロキ陛下、遠いところをわざわざ来てくれたのだ。折角だし一週間程滞在してブルーグレイで羽を伸ばしてほしい」
(一週間…長いな)
国王の思惑はわからないが、滞在が一週間で行きと帰りの行程を合わせると実質半月も兄に会えないことになる。
できればそれは避けたい。
「有難いお申し出ですが、俺はまだ半人前の国王なので長々と国を空けてしまうと政務が滞ってしまいます。兄に負担をかけるわけにもいきませんので、できれば三日ほどでお暇したく思います」
「そうか。それは残念だ。ではその間だけでもセドリックと存分に仲良く語り合ってほしい」
「お気遣いありがとうございます」
そこからは食事の合間合間にセドリック王子との手紙のやり取りではどういったことをよく語り合っているのかとか、機器にどれくらい興味があるのかなどなど色々話した。
俺自身は別に詳しくはないので、淡々と興味があることについて話し、あれば便利だなと思うものを口にしてブルーグレイにあればお土産に買って帰りたいとだけ伝えておいた。
そうしたら大笑いされながら、作ってまた送ろうと言われてしまった。
ないならないで別にわざわざ作ってくれなくてもいいのにと思って、困ったようにセドリック王子の方を見たら、楽しげにしながら黙って受け取っておけと言われてしまった。
この辺り親子で似ているなとつい思ってしまう。
きっと良好な親子関係とはこういったものを言うのだろう。
でもご機嫌な声で紡がれたこの言葉はちょっといただけない。
「セドリックにロキ陛下のような友人ができて私も安心だ」
「……非常に申し上げにくいのですが、違いますよ?」
そこに更にセドリック王子の言葉が続く。
「ほら、父上。言ったでしょう?」
俺達は友人じゃないとそうやって口にしたのだけど、何故か全員から『嘘だ!』みたいな目で見られてしまった。
「全く…。ロキ陛下、気にするな」
「ええ、ありがとうございます。そう言えば先日アンシャンテの街で見たんですけど……」
セドリック王子も気にするなと言ってくれたことだし、こういう時はさっさと話題を変えるに限る。
「ああ、その食べ物は屋台でよくある奴だな。最近では少しアレンジを加えたものが出回り始めたようだ」
「へぇ…。どんなアレンジが?」
「これまでのタレか塩という単純なものではなく、カリー粉というスパイスを使ったものや、チリペッパーという辛い粉を振りかけたものなんかは人気と聞いたぞ?」
「どんな味なのか想像がつかないですね」
「ふっ…午後にでも街に出て食べてみるか?」
「いいんですか?それならついでにちょっと行ってみたい場所もあるんですが…」
「ロキ陛下が行きたい場所なら楽しそうだな。後で教えてくれ」
「はい」
にこやかにそうして二人で話してたのに、何故かその場の皆が固まっている。
何かおかしな事でも言ってしまっただろうか?
もしかして流行とかを知らない奴だと呆れられたのかもしれない。
「すみません。ものを知らないもので」
困ったようにそう言ったら、皆に違う違うと首を振られたけど、気遣ってくれたのは明らかだ。
「あ、もちろんセドリック王子とアルフレッド妃殿下の邪魔をする気はないですし、こちらはこちらで騎士を同行させますのでお気遣いなく」
当然アルフレッドも同行するのだろうと思い一応気を遣ってそう言ってみると、同行者はリヒターかとセドリック王子から聞かれたのでそのつもりだと答えた。
するとそれなら安心だと言われて首を傾げてしまう。
「あの男はロキ陛下しか見てないしな。丁度いい」
「ありがとうございます。いつも尽くしてくれる騎士なので、セドリック王子にそう言っていただけて嬉しいです」
そんな感じで昼食の時間は和やかに過ぎ、一度部屋に戻って軽装へと着替え直した。
「リヒター、昼食を食べる暇がなかっただろう?街で好きな物を食べてくれて構わないから」
「ありがとうございます。少しだけ頂きます」
「少しと言わずしっかり食べてくれ」
そして連れ立ってセドリック王子と合流し、アルフレッドも含めて四人で街へと出掛けた。
「ほらロキ、これだ」
「へぇ…良い香りですね」
ついでに街では陛下呼びはやめてもらおうと思って伝えたら、あっさりと呼び捨てにしてもらえた。
うん。この方が落ち着く。
「んっ…独特の風味で、意外と癖になりそうです」
「そうか」
「リヒターもどうだ?お腹が空いているだろう?」
「ありがとうございます。ロキ様」
俺が差し出したそれを受け取りリヒターも素直に食して舌鼓を打つ。
「ああ、これは美味しいですね」
「兄上にも食べさせてあげたかったな」
「それならスパイスの店を探してみてはどうですか?」
「ああ、確かにいいかもしれないな」
(流石リヒター。気が利くな)
「セドリック王子、スパイスの店はご存知ないですか?」
「よくは知らないな」
「それならそっちは後で知り合いに聞いてみます」
どうせ後でこっちの裏稼業の者達に挨拶もしに行くつもりだったし、その時にでも聞いてみよう。
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