【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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87.ご主人様ロスの苦しみ Side.シャイナー

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ガヴァムからアンシャンテに帰ってすぐ、俺は自分がしでかしたことについて後悔する羽目になった。
一日目はまだよかった。
けれど、二日、三日経ってそれがどれだけ罪深いことだったかを身をもって思い知った。
朝、ロキの声を聞くと幸せな気持ちになる。
でも、その手が俺に触れてくれることはないし、その眼差しを向けてもらえることもない。
もらえるのはその声だけだ。
日に日に募る想いが、夜になるともらえない快楽と共にこの身を苛む。
辛い、辛い。
朝になったら声が聞けるからそれまでの辛抱だと、ベッドに突っ伏しひたすら耐える日々。
泣き言を言うとロキは決まってこう言うのだ。

自分がしたことの結果でしょう?忘れないでくださいね────と。

残酷だ。酷い。
それでも嫌いになれない。
心がロキを求めてやまないのだ。
泣いて泣いて仕事に励む日々。
ただただ朝に声が聞けると言うただそれだけのご褒美のために頑張っていた。
それなのに────。

「ロキ陛下ですか?ご旅行中です。場所?お教えできかねます」

無情に切られる通話。
その時の絶望は如何ほどだっただろうか?
ロキの声を聞くことだけに縋るような気持ちで頑張っていたのに。

(俺は…捨てられるのか?)

このまま会うことも触れられることも、声を聞くことさえ許されないまま放置され続けるのか?
そんなこと、耐えられるはずがない。

「もう嫌だ!!」

正直限界だった心がそのことであっという間に理性を振り切ってしまったと言っても過言ではない。
旅行と聞いて咄嗟に思い浮かぶのはミラルカかブルーグレイだ。
ロキと親交がある国はフォルクスリーニアスやクレメンツなど他にもあるにはあるが、親交が深いとなるとどちらかだろう。
その二つに絞ったとして、自分を捨てる気なら遠方を選ぶに決まっている。
つまり行先はブルーグレイ以外考えにくい。
セドリック王子のところなら俺が来ないと踏んで決行していてもおかしくはない。
これまでの自分ならきっとこの時点で思いとどまっただろう。
帰ってくるのをおとなしく待とうと思っただろう。
でも理性が吹き飛んだ俺にはそんな考えが浮かぶはずもない。

「シャイナー陛下?!お待ちください、どちらへ?!」

そんな風に引き留める声なんて聞かない。聞きたくない。
ロキに会いたかった。
ガヴァムに行けないなら旅行先で会えばいいのだ。
ロキを捕まえて、捨てないでと泣いて縋ってでもまた抱いてもらいたかった。
だからこれでもかとワイバーンを飛ばし、ブルーグレイへと単独で向かった。
なのにそこにはロキはいなくて、俺は胸が潰れる思いで崩れ落ちた。

「ロキ!ロキ!」

助けて。許して。もうしないから。
捨てないで────。

そうして恐慌状態に陥っていたら、激怒したセドリック王子に牢に放り込まれた。
そんなに欲しいならご主人様をくれてやる?

「バカにするな!」

ロキ以外にご主人様が存在するはずがない。
あの絶妙な責めたてを他の誰かに出来るはずがない。
狂おしくも優しい囁きと絶妙な責め立てで快楽の海に沈められるあの至福の時を、他の誰かに与えてもらえるなんて考えられなかった。
だからそんなふざけた輩に触れられてたまるかと、思いの丈を叫びながら逆に組み敷いてやった。
このまま逆に犯してやろうかと生まれて初めてサディスティックな気持ちになったところで慌てたようにやってきたアルフレッドに止められた。

「ストップ!ストップ!シャイナー陛下!!」

そして拷問官から引き離され、やってきたセドリック王子に少し事情を聞かれたりはしたが、ロキから連絡があったらすぐに伝えに来るからここで落ち着いて過ごすようにと貴賓室へと案内された。
それからどれくらいの時間、虚脱状態で放心していただろう?
セドリック王子がロキからだと言ってツンナガールを差し出してきた。
ずっと聞きたかったロキの声に涙が止まらなくなる。

『ロキ!もう限界なんだ!助けて!』

ロキに会いたくて仕方がない。
助けてほしい。
そんな気持ちで縋るように声を上げる。

「シャイナー?誰が他国に迷惑をかけていいと言いましたか?」
『うっうっ…。だって、フィリップが…ロキ陛下はご旅行中ですと言ってきたからっ…』
「それでどうしてブルーグレイなんです?」
『だって、場所は聞いても教えてもらえなかったし…』
「取り敢えずもうガヴァムに戻ってきたので、おとなしく帰国してください」
『そんなこと言って…どうせまた放置するんだ……』

優しくて残酷なロキ。
その甘い声にもっと酔わせてほしい。
でも放置は嫌なんだ。
確実な約束が欲しい。

「…………わかりました。補佐官の誰かに迎えに行かせますから、素直に戻ってください」
『ロキじゃないと帰らない』

会いたいんだ。
俺を捨てないと、その言葉で安心させてほしい。

「我儘言わないでください。大体国を放ってブルーグレイに行きっぱなしなんて王失格ですよ?」
『ご主人様が抱いてくれないならもう退位してガヴァムに住む』

帰国してからちゃんと王として仕事に励んでいたのに、こんな仕打ちで絶望を与えてきたのはロキだろう?
それなのに…なんて残酷なご主人様。
でもこうして話せるのが涙が止まらないほど嬉しいのだ。
だからガヴァムに住んででも側に置いて欲しかった。

「…………月に一回くらいなら玩具で可愛がってあげるので妥協してください」
『嫌だ。うぅ…ロキ…ロキ……捨てないで…』

玩具なんて嫌だ。
ロキに包まれながら抱かれたい。
安心させてほしい。
何もかも忘れるほどの快感に染め上げて、絶望も何もかも忘れさせてほしい。
そう思ってグスグスと泣きながら縋っていたのに……。

「シャイナー!今すぐそこから帰らないと玩具でさえ許されると思うな!」

ご主人様の寵愛深い相手の無情な声を最後に通話が切られてしまった。
しかも絶対にロキに何か言ったのだろう。
迎えはアンシャンテの方から来て、俺は絶望から身も世もなく泣き叫んだ。

「シャイナー陛下!しっかりなさってください!」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!ロキ!ロキ!許して!カリンに冤罪を掛けたから?!だから許してくれないのか?!会ってくれないのか?!捨てないで!嫌だ!捨てないでっ!!謝るから!」

正直半ば錯乱していたように思う。
そこから医師が呼ばれて安定剤と思われる注射を打たれて俺は強制的な眠りに落とされた。


***


それから目を覚ました俺にセドリック王子からの伝言があった。
それによるとアンシャンテの者がロキを説得してくるのを待てと。
それが叶えばロキが俺を迎えに来てくれるらしい。

「全く迷惑な…」

一度だけ様子を見に来たセドリック王子が吐き捨てるようにそう言ってきたが、俺の心は死んだように全く何も感じられなかった。

そして数日。
待ちに待ったその日はやってきた。

(ロキ…ロキ……)

うんざりしたような顔で俺の前に姿を現したロキを見て、俺の胸に歓喜が込み上げてくる。

「ロキ!会いたかっ…っ!」

ヒュンッ!ビシィッ!

「んぁあっ!」

ロキは会ってすぐにその手にある鞭を振るい、俺を縛り上げ床へと引き倒し踏みつけてきた。
でもそれさえ嬉しい。
だってご主人様の手ずからのお仕置きなのだから。

「シャイナー?言いましたよね?ちゃんとこれまで通り仕事に励んで、いい子にアンシャンテをより良い国にしていくように…と」
「あ…ご主人様…」

ロキがいる。
俺を真っ直ぐに見つめてくれている。
直接声を掛けてもらえる。
その幸せに身が震えて恍惚としてしまう。
愛してる。その気持ちのままに見つめてしまう。
たとえ決して返ってこないとわかっていても、想いはどうしたって消しようがない。
カリンの次でいいんだ。
愛してもらえなくてもいいんだ。
ただ側に置いて欲しい。

それが伝わってしまったのだろう。
その後俺はロキの手でまたしても新しい扉を開ける事になった。
玩具なんてと思っていた自分がバカらしくなった。
ロキの責め苦なら玩具でも最高だったのだ。
気持ち良すぎてなんでも言うことを聞きたくなった。
セドリック王子に迷惑をかけてはいけないとしっかり教え込まれたけど、これくらいどうってことはない。
だって俺はロキさえ居てくれればそれでいいのだから。

そうして気絶するほど可愛がってもらって、目覚めてすぐにアンシャンテの者に引き渡された。
でも俺はゴネなかった。
だってロキも一緒に帰ってくれるんだ。
乗っているワイバーンは違うけど、一緒に帰るから姿はずっと見ていられる。
なんて幸せなんだろう?
リヒターがすぐ気付いて俺の目から隠すように抱き込んできたからちょっと殺意が湧いたが、ロキが何かを言い聞かせこちらへと目を向けて笑ってくれたから我慢した。
リヒターはいつか何かの機会に事故でも装って消してやればいい。
ロキが大事なのはカリンだけだし別に構わないだろう。

取り敢えず帰ったら早速玩具を買ってみよう。
ロキがどうしても辛かったらツンナガール越しに玩具で可愛がってくれるって言ってくれたし、それならきっと大丈夫だと思うんだ。
ちゃんと吟味して用意するから、だからこれからもロキには俺のご主人様でいて欲しい。
そんな思いでロキをガヴァムまで送り届けて帰国した。

でも────。

(よく考えたらロキと話せるのは夜じゃなくて朝だった…!)

こうして俺はまたご主人様ロスで苦しみ、朝にご褒美の通話、昼は政務、夜は泣き濡れる日々を送ることになった。

(もう嫌だ…)

グスグスとそうして泣いていたら気を利かせたつもりなのか何なのか、夜に女や男を用意されるようになってしまった。
俺が欲しいのはロキだけなのにあんまりだ。
俺の気持ちを汲んでくれないなんて酷すぎる。
もういっそ本気で退位して王の座は弟に譲り渡そうか?
そんな気持ちに苛まれながらグルグル考えていたある日のこと、仕事中に突然『宰相が至急お越しをとのことです』と侍従が声を掛けてきた。
急ぎなら向こうからくればいいのに。

「今は忙しい。宰相にはこちらに来いと言っておいてくれ」
「ロキ陛下がこちらまで来られているのに会われないのですか?」
「…………?」

聞き間違いだろうか?
ロキが来ていると聞こえたような気がしたのだが…。

「今、なんと?」
「ですから、今日は宰相に会いにロキ陛下が内密にお越しになっていて、シャイナー陛下をお呼びなのです」

その言葉を聞くや否や俺はすぐさま立ち上がり、勢い込んでどこだと尋ね、急いでそちらへと駆けた。

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