【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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85.ブルーグレイ初訪問

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富国ブルーグレイ。
周辺諸国に比べ国の隅々まで教育や道路整備が行き届き、民の顔が明るく輝く豊かな大国だ。
それは街を見るだけで一目でわかるほど。
心ない者達はブルーグレイは血も涙もない恐怖政治を行う国だと言ったりはするが、それは多分この国を見たことがないだけではないだろうか?
本当にそんな国ならきっと民の顔は暗く沈み込んでいることだろう。
これだけ皆の顔が明るいなら憂いはないと言うことに他ならないのに。

そんなことを思いながら俺はブルーグレイの王宮へと降り立った。
けれどそこに居並ぶ面々の顔は先程見た民達とは違い一様に強張っている。
まあ原因は待ち構えていたセドリック王子を見れば一目瞭然なのだけど。

「ロキ陛下。随分遅かったな?」

怒りながら笑うなんて器用だなと思いながら、一応謝っておく。

「すみません。ご迷惑をおかけしてしまったようで」
「…………」

空気がビリビリしている気はするけど、まあ相当怒っているようだし仕方がない。

「取り敢えず後回しにすると渡し忘れそうなので先にこれを。前回手紙で問い合わせしてもらった物になります」
「…もらおうか」
「ええ。あと、こちらは前回頂いたツンナガールの御礼にお持ちしました。そちらを見に行った際に楽しそうな物を見つけたので、是非活用していただけたらと思って」
「どんな物だ?」
「はい。セドリック王子がお好きそうな応用が利きそうな機器です」
「聞こうか。ここではなんだ。部屋に案内しよう」
「そうですか?」
「ああ。シャイナーよりこちらの方が楽しそうだ」
「ですよね?俺もこれを見つけた時にセドリック王子と話したいと思ったんですよ」

嫌なことは後回しだ。
絶対シャイナーにうんざりさせられるよりセドリック王子と話している方が楽しい。

「それで?」

どうやら怒りも少しおさまったらしく、ソファにゆったり腰掛けながらセドリック王子は俺の用意した機器について訊いてくれた。

「はい。実はこれ、映像を対となる機器に飛ばすことができると言う代物らしいんです」
「ほぉ?」
「こっちの機器でこう、画像を固定して…」

適当なものをシャメルでやるのと同じようにカシャリと画面に落とし、それをもう一つの方の機器へと送信する。

「こんな感じですぐに送ることができます」
「なるほど」
「どうもシャメルから発想を得て作られたものらしく、発信機の機能と合わせて応用させたようですね」
「発信機?」
「ええ。俺も持っているんですけど、対となる機器に相手の居場所を教えてくれる機器です」
「そんなものがあるのか」
「元は暗殺者御用達の機器らしいので、表には出てこないだけだと思います」
「なるほどな」
「それで今回のこの機器の応用できる点ですが…」

そんな感じで長々と話していたら普通にお茶も出されてもてなしもしてもらえた。
ベルを振ったセドリック王子に呼ばれてやってきた侍女は最初は震えていたものの、二人で楽しく話していたからかどこかホッとした顔ですぐにお茶をお持ちしますと言って部屋から出ていき、本当にすぐさま戻ってきてくれたのだ。
丁度喉も乾いていたし有難かった。

「さて。じゃあそろそろ面倒ですがシャイナーに会いに行きますか」

一通り話し終わったところでいい加減目的を果たさないととうんざりしながらそう溢す。

「ロキ陛下にとってはそちらの方がついでだったようだな」
「それはそうですよ。面倒臭い。セドリック王子と話す方が気楽で楽しいに決まっています」
「そうか」

俺の言葉にセドリック王子が少しだけ楽し気に笑った。

「随分シャイナーを嫌っているな。親しくしていたのではなかったのか?」
「兄上を嵌めて冤罪を吹っかけてきたので躾けて国に返してやったらまたこんな面倒を起こしてきたんですよ?嫌うなという方がおかしいです」
「なるほどな」
「あ。シャイナーを鞭で縛り上げて連れ帰ろうと思ってるんですが、場所はどこでしょう?」
「ああ、俺も一緒に行こう。面白いものが見られそうだしな」
「そうですか?では」

宜しくお願いしますと言ってそのままセドリック王子に案内を頼む。

「一応あれでも国王だからな。父から言われて牢から出した後は貴賓用の部屋に放り込んでおいた」
「そうですか。そう言えば牢で思い出しましたが、ミラルカの鉱山ホテルに行ってきましたよ。ちょうど牢屋部屋で兄上と立場逆転プレイを楽しんできたところだったので、今回シャイナーの話を聞いて思わず笑ってしまいました」
「随分マニアックだな」
「ええ。兄が拷問官の服を選んできたので、それなら俺は囚われの王子風の衣装を着ますと言って…ふふっ」
「楽しそうで何よりだ」
「他の部屋も色々見させてもらいましたが、セドリック王子がお望みだった教会風の部屋も声が響いて良さそうでしたよ?あと、鏡張りの部屋もとても楽しめましたし…」

そんな風に楽しく話しながらシャイナーがいる場所へと歩を進めると、こちらの姿を確認したシャイナーが俺を目にした途端喜び勇んで飛んできた。

「ロキ!会いたかっ…っ!」

ヒュンッ!ビシィッ!

「んぁあっ!」

鞭を振るってすぐさま床へと引き倒し、そのまま足で踏みつける。

「シャイナー?言いましたよね?ちゃんとこれまで通り仕事に励んで、いい子にアンシャンテをより良い国にしていくように…と」
「あ…ご主人様…」

俺の声掛けにシャイナーがうっとりと見上げてくるが、これはいただけない。
ここですべきは反省だ。

「ちゃんと言うことを聞かず、セドリック王子にまで迷惑をかけるなんて……」
「す、すまなかったっ!」

もうしないから許してほしいと涙目で懇願されるが、許すはずがない。

「セドリック王子。ちょっと玩具で甚振って思い知らせてからアンシャンテに返そうと思うんですが、構いませんか?」
「別に構わないが?」
「では少しだけ場所をお借りします」
「ああ。この部屋を使うといい。迎えの者達は俺がもてなすよう手配しておこう」
「ありがとうございます」

そうして笑顔でセドリック王子を見送った後、俺は玩具でしっかりシャイナーを躾け直して、リヒターに頼んで身を清めてもらってからアンシャンテの者達へと引き渡した。

その合間にリヒターからこっそり『あまり情をかけ過ぎないよう気を付けてください』と叱られたけど、多分『ツンナガールで話しながら相手をしてやってもいい』とシャイナーに言ったのが悪かったのだろうと思う。
俺としてはまた面倒なことを起こされたくないのと、どうせ話すのは朝だからどう考えても無理だろうと思って軽い気持ちで口にしただけだったんだが、人によっては朝からしたくなる者もいるからダメなんだそう。
うん。反省して以後気をつけよう。

「セドリック王子。今回は本当にお騒がせして申し訳ありませんでした」
「いや。有意義な話が主だったしな。結果的に悪くはなかった」
「そう言っていただけて良かったです。また手紙で近況をお伝えしますし、何かまたご希望があればその際にでもお知らせくださいね」
「ああ」
「では。これで」

きっちりと失礼がないように礼だけはして、俺は再度アンシャンテのワイバーンへと乗せてもらい飛び立った。

「はぁ…早く兄上のところに帰ってあげたいな」
「きっと心配しているでしょう」
「そうだな」

全く大丈夫だったけど、セドリック王子に迷惑をかけて怒らせてしまったのは事実だ。
シャイナーにはセドリック王子にも今後一切迷惑はかけないと誓わせたし今後は大丈夫だろうけど、ツンナガールを置いて旅行に行くのは今後は控えようかなと思ったのだった。


****************

※一話で終わってしまったように思われるかもしれませんが、今回はロキがセドと仲良しなのをブルーグレイで見せつけただけなので、後日国王から招待状が送られてくる予定です。
本格的なブルーグレイ編はそちらで書きたいと思いますのでよろしくお願いします。
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