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76.これからの方針
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昼時、シャイナーから際どい話を振られた。
どうやらこんな俺にどこまでも執心してくれているらしく、真剣な表情で熱く見つめられる。
どうもこれまで受けた印象だとシャイナーはミュゼのように俺に嬲られたいという欲求よりも、俺に愛されたい欲求の方が強いようだったので、この際変に期待を持たせずはっきりと言っておいてあげようとそれを口にしておいた。
────俺は兄しか愛せないのだと。
一応国と国のトップ同士だし、いつまでもおかしな方向に勘違いさせるのもなと思ったのはある。
だから敢えて言ったのだ。
それを聞きシャイナーはわかってはくれたようだけど、そうすぐには諦められないようだったので、それならと言い分は聞いておいた。
求められたのは手紙と他者同席での会話、それと他者から俺の話を聞くこと。
前者は国王同士なのだし仕方のない面も大きいし、後者はまあ気持ちの整理に繋がるかもしれないと思って了承した。
俺の話なんてロクでもない話ばかりだし、幻滅してくれればいいと思ったのだ。
シャイナーをあまり追い詰めても良いことはない。
下手な事をすれば兄に手を出されるような気もしたし、直感でこれくらいは妥協すべきと判断した。
俺を攫った件を踏まえて考えてもこの判断は別に間違ってはいないはずだ。
シャイナーは良い人だが、それは平穏な状況下においての話だ。
イコール無害と言う訳ではない。
彼はセドリック王子と同じで王としての資質を持ち合わせている人だから、時にその行動力と判断力で攻勢に出てくることだってあるだろう。
俺は王としては半人前だが、だからと言ってそう簡単に兄を危険に晒す気はないし、兄を守るための勘だけはしっかりと働かせたいと思っている。
ここで無理に拒否をして苛烈な手段に出られることほど怖いものはない。
下手なことをして今度は兄が攫われでもしたら目も当てられないし、そうなるくらいならこれくらいの提案は呑んだほうが無難だろう。
それほどに、いっそのこと手の内に引き込み懐柔するのが一番安全かもしれないとさえ思えるような何かを感じたのだ。
とは言え……。
(兄上とリヒターは絶対に許さないだろうけど)
それを実行するには二人が納得するような理由が必要だ。
俺はできれば兄しか抱きたくないけれど、兄の為ならいくらでも妥協する。
そしてもしシャイナーを抱くしかない状況になれば、躊躇うことなく徹底的に調教すると思う。
それが兄の安全確保という点で一番手っ取り早いからだ。
だからその際は是非兄には同席してもらいたい。
(まあ泣いて拒否されそうだし、無理だとは思うけど)
その時はその時で何か考えよう。
「カーク。兄上の暗部に念のため警戒をと伝えておいてくれないか?」
「了解です。でも危険なのはロキ様も一緒なので気をつけてくださいよ?」
「もちろん。でもシャイナーの目的から考えると兄上の方が危険だろう?」
「それはまあそうですけどね?」
そう言ってカーライルは溜息を吐きつつもすぐに動いてくれる。
ちなみにリヒターは今シャイナーとの件を兄に報告しに行っている真っ最中だからこの場にはマーシャルしかいない。
「…マーシャル」
「何でしょう?」
「この間の4Pで俺に抱かれた時、どうだった?」
とりあえず考え方を知るためにも新しい仲間と話してみようかとなんとなく声を掛けてみる。
「え?最高に気持ち良くて天にも昇る心地でしたが?」
「そうか」
「あの時はロキ陛下が食べ比べだと言って順に挿入されたでしょう?あの際に思ったんですが、ロキ陛下が一番だと改めて思いました!」
「…そうか」
そんなに違うものなのだろうか?
自分にはよくわからない。
「カリン陛下はやはり元々ノーマルな方なので、男に挿れるのは遠慮がちな感じなんですよね。あとはどうもご自身と重ねられているのか、責め立てもどこか優しいです」
「なるほど」
少し物足りないんですとマーシャルは言う。
そういうのは確かに有るのかもしれない。
「リヒターはあの通り真面目な奴なので、ロキ陛下の命令でしているだけでしょう?気遣ってはくれるし気持ち良くはさせてくれるんですけど、目の奥が冷めてるのでなんというかセフレな感じがどうしてもあるんですよね。あれならエディオンと遊んでる時と大差はないなといった印象を受けました」
「ふぅん?」
わかるような、わからないような。
気持ち良さそうに抱かれていたと思うけど…。
「でもそれだと俺も同じだろう?」
多分そうだろうと思ってそう口にしたら、マーシャルは何を仰るんですかと驚いたように力説してきた。
「ロキ陛下は全然違いますよ!まず視姦レベルからして半端ないのに!」
「……え?」
「もちろんカリン陛下を抱かれていらっしゃる時の感じとは全然違うんですが、あの遠慮なんてするはずがないと言わんばかりの容赦ない犯し方!しかも全然ガツガツした印象はなくて、緩急が素晴らしいんです!嬲ってやるという意気込みが感じられますよね。快楽堕ちにしてやろうかと言わんばかりの嗜虐的な眼差しとそれと合わせた責め立てがまた素晴らしくて、たまらなく癖になります。これでもかと視姦され優しく囁かれながら犯されるんですよ?もう好きにしてッて感じで最高に悶えさせられます。是非今度また呼んでください!いつでもお応えしますので!」
「…………」
まさかマーシャルがそんなにハマっていたとは知らなかった。
リヒターが言うから閨に引き込んだのだけど、良かったんだろうか?
まあミュゼと違ってあからさまに普段からアピールしてきたりはしないし、職務にも忠実な男だから特に問題はないように思うが。
それに当初抱いていた兄に対する気持ちが逸れてくれたのならまあ良かったと言えば良かったのだろう。
「なので、そんな俺からの進言ですが…」
「……?」
「ロキ陛下がシャイナー陛下を抱いたとしたら、絶対にシャイナー陛下はロキ陛下から離れられなくなると思います」
「つまりは絶対抱くな、と?」
やっぱりマーシャルも兄達と同じ意見なのかと思ってしまったのだが、ここで珍しく逆の意見が出された。
「違います。逆にさっさと抱いてしまった方が安全だと思います!」
「……うん。それで?」
自分と同じ考えを持ってくれたのは正直嬉しい。
なので先を促してみる。
「はい。カリン陛下は嫉妬から、リヒターは抱く側からしかロキ陛下のことを見ていないのでどうしても反対意見になりがちですが、抱かれた俺からするとアレは愛情がなくてもハマると思うんです」
「なるほど?」
「なのでまずはロキ陛下自らがシャイナー陛下を陥落させて、言うことを聞かせてしまえばいいのではないかと」
「……」
「カリン陛下の安全を約束してくれるなら少しは相手してやるぞとか、折角国王同士なんですし、互いの国益に繋げるために取引に使ってみるとか、やり方は色々あると思うんですよね」
マーシャルは、俺は抱く側で抱かれたいのは向こうの方なんだからそれを逆手にとって有効活用すべきだと持論を展開した。
この意見には俺も深く賛同できるし、同意できると口にしようとしたのだけれど────。
「ロキ陛下。マーシャルの意見など聞く必要はありません」
どこから聞いていたのかはわからないが、戻ってきたリヒターから一蹴され反対されてしまった。
「先程カーライルとも話しましたが、陛下がシャイナー陛下を抱いてしまったらそれこそ彼はロキ陛下から離れられなくなり、カリン陛下の身が危険に晒されることになると思います。どうか陛下の安全の為にもご自重ください」
「…わかった」
どちらにも一長一短がある。
それならいざという時になってから自分の勘で動こう。
兄の安全を第一に、暫くは様子見だ。
「双方の意見は尊重する。それで兄上は?」
「少しは安心されたようです。振られたならさっさと諦めて国に帰ればいいのにと仰っていましたが」
「まあ兄上ならそう言うだろうな」
容易に想像がつくと思いながら苦笑し、人払いをしていた部屋を出て執務室へと向かう。
「本当に、シャイナーも俺なんかの何がいいのか…」
そこだけは理解できないなと溜息を吐きながら…。
***
それから4カ月。
シャイナー側に不審な動きがみられることはない。
定期的な手紙のやり取り。
事業に関する会議の参加。
俺との接点はそれくらいのものだ。
その間たまに国同士のやり取りでこちらへと足を運んでくることもなくはなかったが、そちらに関しては全て兄や補佐官達、大臣などが対処して俺との接触はなかった。
一見平穏に過ぎ去る日々。
最初はピリピリしていた兄も補佐官達も何も起こらない日々に少し態度を軟化させていく。
シャイナー自身は人当たりがいい性格なので緊張も長持ちしにくいのだろう。
警戒を解かないのはリヒターとカーライルくらいではないだろうか。
因みに俺は常に自然体なので、態度は変わっていないと思う。
良くも悪くも自分を過信して油断してしまう可愛いところがあったりするのが兄だ。
セドリック王子に快楽堕ちさせられた時の話を聞いたことがあったが、それの要因はやはりそこにあったように思う。
優秀が故に結論を早く出したがる癖があるのだ。
見極めが早いと言ってしまえばそこまでの話なのだが…。
「シャイナーもそろそろロキを諦めてきた気がする」
「最近ロキ陛下の話を聞く時も落ち着いてますしね」
「あ~確かに。最初の頃は悔しそうにカリン陛下を睨んでたこともありましたけど、最近はカリン陛下と話しててもそういう態度はなくなってきてるし、表情が柔らかくなった気がします」
仕事をこなしつつ話を聞いていると、どこか嬉しそうな兄に同調するように補佐官達が口々にそんな事を言っていた。
でもこんな話を聞いて俺が真っ先に思い出したのは裏稼業の者達が酒場でいつだったか言っていた言葉だ。
『本当、あいつら簡単に油断しすぎだろ?』
『言ってやるなよ!油断してくれた方がこっちは短期で仕事が終わるんだからよ』
『ハハッ!違ぇねぇ!おぅ、ぶっ壊れ野郎。よく覚えとけ。スパイっていうのはな、相手が油断するのを今か今かと笑顔の下で待ってるもんなんだぜ?』
『そうそう。スパイだけじゃなく暗殺者もだな。相手が警戒を強めている時には動かない。動くとしたらそれは相手を油断させるための裏工作をする時くらいだ。やることはケースバイケースだが共通して言える点がある』
『共通してる点?』
『ああ。それはな、時間がいくらかかろうと目的を達成するために相手が油断する隙をじっと狙ってるって点だ』
『スパイなんて場合によっては数ヶ月じゃすまなくて、年単位で挑むネタだってある。潜伏期間なんてあってないようなもんだ。だからな?』
「心に引っ掛かる奴はちゃんと観察しておけ…だったな」
目安はまず三か月。次は半年。その次は一年。次が三年…と言っていたっけ?
スパイにも色々あるらしい。
まあシャイナーは別にスパイでも暗殺者でもないが、多分『目的を達成する』といった点においては似通った行動を起こしてくる可能性は高い。
狙われてるのが自分だけだったらこんなにいつまでもシャイナーを観察し続けることもなかったのだが、兄が絡んでいるとなると手が抜けないから仕方がない。
そもそも俺は人間観察はドのつく素人だ。
これまで他人に興味なんてなかったし、観察するとしたら対面時に攻撃してくる相手か否か程度。
慣れないことをしなければいけないのだし、ここは面倒臭がらずちゃんとやろう。
チャンスは生かせってよく酒場でも皆から言われたし。
そんな事を考えていたところで、いよいよシャイナーが動きを見せた。
それも思いもよらぬ方法で────。
どうやらこんな俺にどこまでも執心してくれているらしく、真剣な表情で熱く見つめられる。
どうもこれまで受けた印象だとシャイナーはミュゼのように俺に嬲られたいという欲求よりも、俺に愛されたい欲求の方が強いようだったので、この際変に期待を持たせずはっきりと言っておいてあげようとそれを口にしておいた。
────俺は兄しか愛せないのだと。
一応国と国のトップ同士だし、いつまでもおかしな方向に勘違いさせるのもなと思ったのはある。
だから敢えて言ったのだ。
それを聞きシャイナーはわかってはくれたようだけど、そうすぐには諦められないようだったので、それならと言い分は聞いておいた。
求められたのは手紙と他者同席での会話、それと他者から俺の話を聞くこと。
前者は国王同士なのだし仕方のない面も大きいし、後者はまあ気持ちの整理に繋がるかもしれないと思って了承した。
俺の話なんてロクでもない話ばかりだし、幻滅してくれればいいと思ったのだ。
シャイナーをあまり追い詰めても良いことはない。
下手な事をすれば兄に手を出されるような気もしたし、直感でこれくらいは妥協すべきと判断した。
俺を攫った件を踏まえて考えてもこの判断は別に間違ってはいないはずだ。
シャイナーは良い人だが、それは平穏な状況下においての話だ。
イコール無害と言う訳ではない。
彼はセドリック王子と同じで王としての資質を持ち合わせている人だから、時にその行動力と判断力で攻勢に出てくることだってあるだろう。
俺は王としては半人前だが、だからと言ってそう簡単に兄を危険に晒す気はないし、兄を守るための勘だけはしっかりと働かせたいと思っている。
ここで無理に拒否をして苛烈な手段に出られることほど怖いものはない。
下手なことをして今度は兄が攫われでもしたら目も当てられないし、そうなるくらいならこれくらいの提案は呑んだほうが無難だろう。
それほどに、いっそのこと手の内に引き込み懐柔するのが一番安全かもしれないとさえ思えるような何かを感じたのだ。
とは言え……。
(兄上とリヒターは絶対に許さないだろうけど)
それを実行するには二人が納得するような理由が必要だ。
俺はできれば兄しか抱きたくないけれど、兄の為ならいくらでも妥協する。
そしてもしシャイナーを抱くしかない状況になれば、躊躇うことなく徹底的に調教すると思う。
それが兄の安全確保という点で一番手っ取り早いからだ。
だからその際は是非兄には同席してもらいたい。
(まあ泣いて拒否されそうだし、無理だとは思うけど)
その時はその時で何か考えよう。
「カーク。兄上の暗部に念のため警戒をと伝えておいてくれないか?」
「了解です。でも危険なのはロキ様も一緒なので気をつけてくださいよ?」
「もちろん。でもシャイナーの目的から考えると兄上の方が危険だろう?」
「それはまあそうですけどね?」
そう言ってカーライルは溜息を吐きつつもすぐに動いてくれる。
ちなみにリヒターは今シャイナーとの件を兄に報告しに行っている真っ最中だからこの場にはマーシャルしかいない。
「…マーシャル」
「何でしょう?」
「この間の4Pで俺に抱かれた時、どうだった?」
とりあえず考え方を知るためにも新しい仲間と話してみようかとなんとなく声を掛けてみる。
「え?最高に気持ち良くて天にも昇る心地でしたが?」
「そうか」
「あの時はロキ陛下が食べ比べだと言って順に挿入されたでしょう?あの際に思ったんですが、ロキ陛下が一番だと改めて思いました!」
「…そうか」
そんなに違うものなのだろうか?
自分にはよくわからない。
「カリン陛下はやはり元々ノーマルな方なので、男に挿れるのは遠慮がちな感じなんですよね。あとはどうもご自身と重ねられているのか、責め立てもどこか優しいです」
「なるほど」
少し物足りないんですとマーシャルは言う。
そういうのは確かに有るのかもしれない。
「リヒターはあの通り真面目な奴なので、ロキ陛下の命令でしているだけでしょう?気遣ってはくれるし気持ち良くはさせてくれるんですけど、目の奥が冷めてるのでなんというかセフレな感じがどうしてもあるんですよね。あれならエディオンと遊んでる時と大差はないなといった印象を受けました」
「ふぅん?」
わかるような、わからないような。
気持ち良さそうに抱かれていたと思うけど…。
「でもそれだと俺も同じだろう?」
多分そうだろうと思ってそう口にしたら、マーシャルは何を仰るんですかと驚いたように力説してきた。
「ロキ陛下は全然違いますよ!まず視姦レベルからして半端ないのに!」
「……え?」
「もちろんカリン陛下を抱かれていらっしゃる時の感じとは全然違うんですが、あの遠慮なんてするはずがないと言わんばかりの容赦ない犯し方!しかも全然ガツガツした印象はなくて、緩急が素晴らしいんです!嬲ってやるという意気込みが感じられますよね。快楽堕ちにしてやろうかと言わんばかりの嗜虐的な眼差しとそれと合わせた責め立てがまた素晴らしくて、たまらなく癖になります。これでもかと視姦され優しく囁かれながら犯されるんですよ?もう好きにしてッて感じで最高に悶えさせられます。是非今度また呼んでください!いつでもお応えしますので!」
「…………」
まさかマーシャルがそんなにハマっていたとは知らなかった。
リヒターが言うから閨に引き込んだのだけど、良かったんだろうか?
まあミュゼと違ってあからさまに普段からアピールしてきたりはしないし、職務にも忠実な男だから特に問題はないように思うが。
それに当初抱いていた兄に対する気持ちが逸れてくれたのならまあ良かったと言えば良かったのだろう。
「なので、そんな俺からの進言ですが…」
「……?」
「ロキ陛下がシャイナー陛下を抱いたとしたら、絶対にシャイナー陛下はロキ陛下から離れられなくなると思います」
「つまりは絶対抱くな、と?」
やっぱりマーシャルも兄達と同じ意見なのかと思ってしまったのだが、ここで珍しく逆の意見が出された。
「違います。逆にさっさと抱いてしまった方が安全だと思います!」
「……うん。それで?」
自分と同じ考えを持ってくれたのは正直嬉しい。
なので先を促してみる。
「はい。カリン陛下は嫉妬から、リヒターは抱く側からしかロキ陛下のことを見ていないのでどうしても反対意見になりがちですが、抱かれた俺からするとアレは愛情がなくてもハマると思うんです」
「なるほど?」
「なのでまずはロキ陛下自らがシャイナー陛下を陥落させて、言うことを聞かせてしまえばいいのではないかと」
「……」
「カリン陛下の安全を約束してくれるなら少しは相手してやるぞとか、折角国王同士なんですし、互いの国益に繋げるために取引に使ってみるとか、やり方は色々あると思うんですよね」
マーシャルは、俺は抱く側で抱かれたいのは向こうの方なんだからそれを逆手にとって有効活用すべきだと持論を展開した。
この意見には俺も深く賛同できるし、同意できると口にしようとしたのだけれど────。
「ロキ陛下。マーシャルの意見など聞く必要はありません」
どこから聞いていたのかはわからないが、戻ってきたリヒターから一蹴され反対されてしまった。
「先程カーライルとも話しましたが、陛下がシャイナー陛下を抱いてしまったらそれこそ彼はロキ陛下から離れられなくなり、カリン陛下の身が危険に晒されることになると思います。どうか陛下の安全の為にもご自重ください」
「…わかった」
どちらにも一長一短がある。
それならいざという時になってから自分の勘で動こう。
兄の安全を第一に、暫くは様子見だ。
「双方の意見は尊重する。それで兄上は?」
「少しは安心されたようです。振られたならさっさと諦めて国に帰ればいいのにと仰っていましたが」
「まあ兄上ならそう言うだろうな」
容易に想像がつくと思いながら苦笑し、人払いをしていた部屋を出て執務室へと向かう。
「本当に、シャイナーも俺なんかの何がいいのか…」
そこだけは理解できないなと溜息を吐きながら…。
***
それから4カ月。
シャイナー側に不審な動きがみられることはない。
定期的な手紙のやり取り。
事業に関する会議の参加。
俺との接点はそれくらいのものだ。
その間たまに国同士のやり取りでこちらへと足を運んでくることもなくはなかったが、そちらに関しては全て兄や補佐官達、大臣などが対処して俺との接触はなかった。
一見平穏に過ぎ去る日々。
最初はピリピリしていた兄も補佐官達も何も起こらない日々に少し態度を軟化させていく。
シャイナー自身は人当たりがいい性格なので緊張も長持ちしにくいのだろう。
警戒を解かないのはリヒターとカーライルくらいではないだろうか。
因みに俺は常に自然体なので、態度は変わっていないと思う。
良くも悪くも自分を過信して油断してしまう可愛いところがあったりするのが兄だ。
セドリック王子に快楽堕ちさせられた時の話を聞いたことがあったが、それの要因はやはりそこにあったように思う。
優秀が故に結論を早く出したがる癖があるのだ。
見極めが早いと言ってしまえばそこまでの話なのだが…。
「シャイナーもそろそろロキを諦めてきた気がする」
「最近ロキ陛下の話を聞く時も落ち着いてますしね」
「あ~確かに。最初の頃は悔しそうにカリン陛下を睨んでたこともありましたけど、最近はカリン陛下と話しててもそういう態度はなくなってきてるし、表情が柔らかくなった気がします」
仕事をこなしつつ話を聞いていると、どこか嬉しそうな兄に同調するように補佐官達が口々にそんな事を言っていた。
でもこんな話を聞いて俺が真っ先に思い出したのは裏稼業の者達が酒場でいつだったか言っていた言葉だ。
『本当、あいつら簡単に油断しすぎだろ?』
『言ってやるなよ!油断してくれた方がこっちは短期で仕事が終わるんだからよ』
『ハハッ!違ぇねぇ!おぅ、ぶっ壊れ野郎。よく覚えとけ。スパイっていうのはな、相手が油断するのを今か今かと笑顔の下で待ってるもんなんだぜ?』
『そうそう。スパイだけじゃなく暗殺者もだな。相手が警戒を強めている時には動かない。動くとしたらそれは相手を油断させるための裏工作をする時くらいだ。やることはケースバイケースだが共通して言える点がある』
『共通してる点?』
『ああ。それはな、時間がいくらかかろうと目的を達成するために相手が油断する隙をじっと狙ってるって点だ』
『スパイなんて場合によっては数ヶ月じゃすまなくて、年単位で挑むネタだってある。潜伏期間なんてあってないようなもんだ。だからな?』
「心に引っ掛かる奴はちゃんと観察しておけ…だったな」
目安はまず三か月。次は半年。その次は一年。次が三年…と言っていたっけ?
スパイにも色々あるらしい。
まあシャイナーは別にスパイでも暗殺者でもないが、多分『目的を達成する』といった点においては似通った行動を起こしてくる可能性は高い。
狙われてるのが自分だけだったらこんなにいつまでもシャイナーを観察し続けることもなかったのだが、兄が絡んでいるとなると手が抜けないから仕方がない。
そもそも俺は人間観察はドのつく素人だ。
これまで他人に興味なんてなかったし、観察するとしたら対面時に攻撃してくる相手か否か程度。
慣れないことをしなければいけないのだし、ここは面倒臭がらずちゃんとやろう。
チャンスは生かせってよく酒場でも皆から言われたし。
そんな事を考えていたところで、いよいよシャイナーが動きを見せた。
それも思いもよらぬ方法で────。
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