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70.名前で呼んで
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その日は千客万来とでもいうのだろうか?
三か国事業の打合せ兼ブルーグレイから入手した魔道具───シャメルの使用について、ミラルカのレオナルド皇子とレトロンの外交官ハルネス公爵、フォルティエンヌの魔道具師ジョン氏がガヴァムに来る予定だったのだが、どこから聞きつけたのかシャイナー陛下が今後長い付き合いになると思うので、是非顔合わせをと言って同席を願ってきて、一緒に加わることになった。
ちなみにこちらは俺と外務大臣が参加する予定なので兄はいない。
二人きりじゃないし大丈夫だとは思うけど、セクハラには気を付けるようにとだけ言われた。
誰が好き好んで俺にセクハラをするんだろう?謎だ。
「シャイナー陛下…ロキ陛下の隣は俺の席なんだけど?」
「レオナルド皇子。当然だが地位の高い者の方が上座に座ることになる。なので諦めてそちらに座ってほしい」
にこやかにそう言われレオナルド皇子はイラッとしたような笑みで負けじと言い放つ。
「本来ならそうなるのは重々承知だけど、俺の大親友を攫った相手を隣に座らせてあげられるほど心は広くないんだ。ロキ陛下が許しても俺やカリン陛下が許さないから、下がっててもらえるかな?」
バチバチと火花を散らす二人が面倒臭い。
レオナルド皇子は敬語すら飛ぶほどシャイナー陛下が嫌いなようだし、多分放っておいたら長引くだろう。
なので俺はさっさと席を立ち、一番下座に座って『お好きな席にどうぞ』と言った。
皆からギョッとした顔を向けられたけど、くだらないことはさっさと終わらせて本題に入りたかった。
変に長引いたら兄上に会う時間が減るから本気でやめてほしい。
「皆忙しい中集まってくれているのだし早めに本題に入りたい。レオナルド皇子ならわかってくれるでしょう?」
「ぐぅっ!俺の大親友があざとい!」
「どうでもいいのでさっさと始めましょう。ハルネス公爵、ジョン殿、今日はよろしくお願いしますね」
「はい、ロキ陛下」
その声を皮切りに、皆一斉に思い思いの席に着く。
「ではまず車両の件ですが────先日お借りしたシャメルでいくつか画像を印刷したのでまずはこれを」
そう言いながら皆に主要な箇所の画像を見せてくる。
そこには大型馬車の荷台のようなものが印刷されていて、これまで口頭や手書きの絵でしかわからなかったものが一目でわかるように変わっていた。
「本体の中はこんな感じになっていて、向かい合わせの形で座席数は全部で40席ほど用意してみました」
「御者のようにこれを操縦する者が乗る席がこちらで、操作する手順がこちらの紙に詳しく書かれています。可動部はこことここで、魔石の魔力はミスリルを通して全体にいきわたるので問題なく動かせましたし、ブレーキもテスト済みです」
「レールの強度もバッチリだったし、ミラルカの王都からテスト施行で経由商業都市まで動かしたけど、問題なくいけそうだった」
「この魔石は取り替え式ですよね?ミラルカからガヴァムの王都まではどれくらい必要になるんでしょう?」
「そうですね。全部で8つくらいしか街は回りませんが、距離はそこそこあるので片道5つほどは必要になるかと」
「多いですね。これは使い切りタイプになるんでしょうか?」
「そうですね。ですが仕方ありませんし、数もそれくらいは必要になってくると思いますよ?その分乗車時の料金を多めにとって採算を合わせるのが一番では?」
「…………その、例えばなんですが、光魔石のように日の光で復帰できるようにここの魔石を上手く変更できませんか?」
「え?」
光魔石というのはランプなどに使われている加工された魔石で、主にクズ魔石と呼ばれるものが原料となっている。
昼間外に出しておいたら光をそこに蓄えて夜には明るい光で部屋を照らしてくれるという代物だ。
大体どこの国でも使われている石だし、別に珍しくもなんともない。
単純にそんな感じでこの動力部の魔石も使用できたらいいなと思って口にしてみただけだったのだが、やはり難しいだろうか?
でも発信機に使われている魔石やシャメルに使われている魔石もよく考えたら長期利用可能な魔石だし、絶対に無理と言うことはないと思うんだけど……。
「ロ…ロキ陛下?」
「なんでしょう?」
「一体どうしてそんなご提案を?」
「え?だってシャメルもそうだし、長期利用に向いた魔石はあるでしょう?それに加工すれば、やりようによってはいけるかなと…」
「……!確かに!」
そこからジョン氏はブツブツと何やら考え込み始めて、魔石の形がとか大きさがとか色々呟いていた。
「多分いけますよ!光魔石を作っている工場に変換装置があるんですが、それを改良して大きな魔石に加工できるようにしたら今よりずっと効率的な魔石が搭載できるようになるはずです!」
しかも上手くいけば他にもいくらでも応用ができそうだとジョン氏は頬を紅潮させながら興奮気味に話してくる。
よくよく聞くと人工的に安定した品ができる可能性が高くなるようだし、ふとロックオンの方にそれを使ったら長時間の安定した録画映像が撮れるのではないかなと思った。
「あの、それができたら一ついただけませんか?ちょっとお知らせしたい方がいるので」
「え?」
「お世話になったセドリック王子に」
「ああ、なるほど!それは確かに!わかりました。それでは試作品ができればブルーグレイにもお渡ししましょう」
「ありがとうございます」
思いがけず恩返しの機会が得られてよかったと思いながら微笑んでいたら横から妙に熱い眼差しを向けられていることに気づいた。
「ロキ陛下はやはりすごいな」
うっとりした目でシャイナー陛下が見てきていたけど、上座じゃなくてよかったのかと首を傾げてしまう。
すると今度は反対側からレオナルド皇子が『流石ロキ陛下!』と持ち上げてきた。
「ロキ陛下の発想にはミラルカもずいぶん助けられたし、やっぱり頼りになるなぁ」
しみじみそう言われるけど、頑張ったのはレオナルド皇子であって俺ではないのになと思った。
「こうしてはいられない。サクサクこれからの事を決めてすぐにでもこちらの魔石の件に取り掛からないと!」
そう言ってジョン氏はきびきびと詳細を詰め、ハルネス公爵にシャメル購入についてブルーグレイとの交渉を任せるとすぐさまワイバーンに飛び乗って自国へと帰っていった。
みんなフットワークが軽いなぁと感心してしまう。
「ではロキ陛下。私も国に戻り次第シャメルの件でブルーグレイへと交渉に向かいますので」
「ええ。ありがとうございます。セドリック王子によろしくお伝えください」
「はい。魔石の件と合わせてお伝えしておきます。失礼します」
そう言いながらハルネス公爵も退席していった。
残ったのはシャイナー陛下とレオナルド皇子だ。
「ロキ陛下。これまでの経緯を含めて少し時間をとって話してもらえるだろうか?」
「え?ええ、いいですよ?」
早く兄のところに戻りたかったが、こう言われてしまっては仕方がない。
「それなら俺も同席しようかな。この事業はそもそも二人で考えたものだし」
「……レオナルド皇子は別の事業で忙しいだろう?ここはロキ陛下に任せて帰って頂いて構わないが?」
バチバチッとまた二人の間で火花を散らしている。
どうしてこんなに仲が悪いんだろう?
心配してくれるのは有難いが、一応和解は済ませたし大丈夫だと思うんだけど…。
「はぁ…取り敢えずお茶でも頼みましょうか」
先程出してもらったお茶はもう冷めてしまったし、簡単な軽食でも持ってこさせてもう少し和やかな話し合いをしてもらえるよう手配してみようと俺は渋々侍従を呼んだ。
***
「ロキ。休憩をすると言うから来たが、大丈夫か?」
三人でお茶をしていると兄が来てくれたので俺の気分は一気に晴れやかになる。
「兄上。兄上もご休憩ですか?」
「ああ。レオナルド皇子、シャイナー陛下、同席してもいいだろうか?」
「もちろん!寧ろ来てくれてよかった」
「………忙しい中無理に来なくてもよかったのでは?」
「休憩時間は大事だとロキからも言われているし、心配には及ばない。ではレオナルド皇子の好意に甘えさせてもらうとしようか」
待ってましたと歓迎したレオナルド皇子とは反対にシャイナー陛下は兄の仕事の心配をしてくれたようだ。
シャイナー陛下の心遣いは嬉しいが、俺もレオナルド皇子同様兄が来てくれて嬉しいと思ってしまったので、少し申し訳ない気持ちになってしまう。
兄を大事に思ってもらえるのは俺も嬉しいし、御礼は伝えておきたい。
「お気遣いありがとうございます、シャイナー陛下」
「ロキ……」
「ですが先程からレオナルド皇子とシャイナー陛下はピリピリしていたでしょう?兄上も混ざれば空気も変わるでしょうし、俺だけよりも却ってよかったのでは?ここはひとつ和やかにお話でもしませんか?」
ニコッと笑うとちょっと嬉しそうな顔になって、コホンと咳払いしゆっくりとカップに手を伸ばした。
「そ、そうだな。では和やかに話せるよう、ここはひとつ堅苦しいことはなしにして、フレンドリーに話そう」
その方がきっとリラックスできる言われたので、そういうことならと承諾した。
「はぁ…どうしてこうなるかな?」
「レオナルド皇子?」
「まあいいや。じゃあ、俺もロキ陛下のことはロキって呼ぶから、俺のことはレオって呼んでほしい」
「俺は前にも言ったがシャイナーで構わない。気軽に呼んでくれ」
「わかりました」
そんなやり取りをする中、兄は何故か二人を凄い目で見てたんだけど、どうしてだろう?
「兄上?」
「~~~~っ!俺だってロキに名前を呼んでもらったことはないのに…!」
「え?兄上は兄上ですよね?」
流石に兄の名を呼ぶのはどうかと思ってそう言ったのに、何故か不満げな顔をされてしまった。
そんなに呼ばれたかったんだろうか?
よくわからないけど、そういうことなら閨で試しに呼んでみるのもありかもしれない。
そう思ったので、そっと兄に身を寄せて耳元で言っておいてあげた。
「兄上?今夜の閨で、カリンって呼んで抱いてもいいですか?」
「え…あ…うっ…」
「ふふっ。どれだけ乱れてくれるのか楽しみですね?」
「~~~~っ!」
真っ赤になって絶句した兄が可愛すぎて俺もつい笑顔になってしまう。
試しに言ってみて良かった。
「さて、落ち着いたところでシャイナーにもレオと一緒にこれまでの経緯でもお話ししましょうか?」
そのつもりのお茶会でしたよね?と思いながらにこやかに切り出したのに、何故か全員頬を染めて照れてしまったのはどうしてなんだろう?
自分達で言い出したくせに実に不可解だ。
よくわからないなと思いながら俺は溜息を吐き、そっと紅茶のカップを口に運んだのだった。
****************
※なんて言うんだろうってドキドキしながら耳を澄ませていたせいで聞こえてしまい、その後で自分の名前を呼ばれたので内心動揺が激しかったというオチ。
三か国事業の打合せ兼ブルーグレイから入手した魔道具───シャメルの使用について、ミラルカのレオナルド皇子とレトロンの外交官ハルネス公爵、フォルティエンヌの魔道具師ジョン氏がガヴァムに来る予定だったのだが、どこから聞きつけたのかシャイナー陛下が今後長い付き合いになると思うので、是非顔合わせをと言って同席を願ってきて、一緒に加わることになった。
ちなみにこちらは俺と外務大臣が参加する予定なので兄はいない。
二人きりじゃないし大丈夫だとは思うけど、セクハラには気を付けるようにとだけ言われた。
誰が好き好んで俺にセクハラをするんだろう?謎だ。
「シャイナー陛下…ロキ陛下の隣は俺の席なんだけど?」
「レオナルド皇子。当然だが地位の高い者の方が上座に座ることになる。なので諦めてそちらに座ってほしい」
にこやかにそう言われレオナルド皇子はイラッとしたような笑みで負けじと言い放つ。
「本来ならそうなるのは重々承知だけど、俺の大親友を攫った相手を隣に座らせてあげられるほど心は広くないんだ。ロキ陛下が許しても俺やカリン陛下が許さないから、下がっててもらえるかな?」
バチバチと火花を散らす二人が面倒臭い。
レオナルド皇子は敬語すら飛ぶほどシャイナー陛下が嫌いなようだし、多分放っておいたら長引くだろう。
なので俺はさっさと席を立ち、一番下座に座って『お好きな席にどうぞ』と言った。
皆からギョッとした顔を向けられたけど、くだらないことはさっさと終わらせて本題に入りたかった。
変に長引いたら兄上に会う時間が減るから本気でやめてほしい。
「皆忙しい中集まってくれているのだし早めに本題に入りたい。レオナルド皇子ならわかってくれるでしょう?」
「ぐぅっ!俺の大親友があざとい!」
「どうでもいいのでさっさと始めましょう。ハルネス公爵、ジョン殿、今日はよろしくお願いしますね」
「はい、ロキ陛下」
その声を皮切りに、皆一斉に思い思いの席に着く。
「ではまず車両の件ですが────先日お借りしたシャメルでいくつか画像を印刷したのでまずはこれを」
そう言いながら皆に主要な箇所の画像を見せてくる。
そこには大型馬車の荷台のようなものが印刷されていて、これまで口頭や手書きの絵でしかわからなかったものが一目でわかるように変わっていた。
「本体の中はこんな感じになっていて、向かい合わせの形で座席数は全部で40席ほど用意してみました」
「御者のようにこれを操縦する者が乗る席がこちらで、操作する手順がこちらの紙に詳しく書かれています。可動部はこことここで、魔石の魔力はミスリルを通して全体にいきわたるので問題なく動かせましたし、ブレーキもテスト済みです」
「レールの強度もバッチリだったし、ミラルカの王都からテスト施行で経由商業都市まで動かしたけど、問題なくいけそうだった」
「この魔石は取り替え式ですよね?ミラルカからガヴァムの王都まではどれくらい必要になるんでしょう?」
「そうですね。全部で8つくらいしか街は回りませんが、距離はそこそこあるので片道5つほどは必要になるかと」
「多いですね。これは使い切りタイプになるんでしょうか?」
「そうですね。ですが仕方ありませんし、数もそれくらいは必要になってくると思いますよ?その分乗車時の料金を多めにとって採算を合わせるのが一番では?」
「…………その、例えばなんですが、光魔石のように日の光で復帰できるようにここの魔石を上手く変更できませんか?」
「え?」
光魔石というのはランプなどに使われている加工された魔石で、主にクズ魔石と呼ばれるものが原料となっている。
昼間外に出しておいたら光をそこに蓄えて夜には明るい光で部屋を照らしてくれるという代物だ。
大体どこの国でも使われている石だし、別に珍しくもなんともない。
単純にそんな感じでこの動力部の魔石も使用できたらいいなと思って口にしてみただけだったのだが、やはり難しいだろうか?
でも発信機に使われている魔石やシャメルに使われている魔石もよく考えたら長期利用可能な魔石だし、絶対に無理と言うことはないと思うんだけど……。
「ロ…ロキ陛下?」
「なんでしょう?」
「一体どうしてそんなご提案を?」
「え?だってシャメルもそうだし、長期利用に向いた魔石はあるでしょう?それに加工すれば、やりようによってはいけるかなと…」
「……!確かに!」
そこからジョン氏はブツブツと何やら考え込み始めて、魔石の形がとか大きさがとか色々呟いていた。
「多分いけますよ!光魔石を作っている工場に変換装置があるんですが、それを改良して大きな魔石に加工できるようにしたら今よりずっと効率的な魔石が搭載できるようになるはずです!」
しかも上手くいけば他にもいくらでも応用ができそうだとジョン氏は頬を紅潮させながら興奮気味に話してくる。
よくよく聞くと人工的に安定した品ができる可能性が高くなるようだし、ふとロックオンの方にそれを使ったら長時間の安定した録画映像が撮れるのではないかなと思った。
「あの、それができたら一ついただけませんか?ちょっとお知らせしたい方がいるので」
「え?」
「お世話になったセドリック王子に」
「ああ、なるほど!それは確かに!わかりました。それでは試作品ができればブルーグレイにもお渡ししましょう」
「ありがとうございます」
思いがけず恩返しの機会が得られてよかったと思いながら微笑んでいたら横から妙に熱い眼差しを向けられていることに気づいた。
「ロキ陛下はやはりすごいな」
うっとりした目でシャイナー陛下が見てきていたけど、上座じゃなくてよかったのかと首を傾げてしまう。
すると今度は反対側からレオナルド皇子が『流石ロキ陛下!』と持ち上げてきた。
「ロキ陛下の発想にはミラルカもずいぶん助けられたし、やっぱり頼りになるなぁ」
しみじみそう言われるけど、頑張ったのはレオナルド皇子であって俺ではないのになと思った。
「こうしてはいられない。サクサクこれからの事を決めてすぐにでもこちらの魔石の件に取り掛からないと!」
そう言ってジョン氏はきびきびと詳細を詰め、ハルネス公爵にシャメル購入についてブルーグレイとの交渉を任せるとすぐさまワイバーンに飛び乗って自国へと帰っていった。
みんなフットワークが軽いなぁと感心してしまう。
「ではロキ陛下。私も国に戻り次第シャメルの件でブルーグレイへと交渉に向かいますので」
「ええ。ありがとうございます。セドリック王子によろしくお伝えください」
「はい。魔石の件と合わせてお伝えしておきます。失礼します」
そう言いながらハルネス公爵も退席していった。
残ったのはシャイナー陛下とレオナルド皇子だ。
「ロキ陛下。これまでの経緯を含めて少し時間をとって話してもらえるだろうか?」
「え?ええ、いいですよ?」
早く兄のところに戻りたかったが、こう言われてしまっては仕方がない。
「それなら俺も同席しようかな。この事業はそもそも二人で考えたものだし」
「……レオナルド皇子は別の事業で忙しいだろう?ここはロキ陛下に任せて帰って頂いて構わないが?」
バチバチッとまた二人の間で火花を散らしている。
どうしてこんなに仲が悪いんだろう?
心配してくれるのは有難いが、一応和解は済ませたし大丈夫だと思うんだけど…。
「はぁ…取り敢えずお茶でも頼みましょうか」
先程出してもらったお茶はもう冷めてしまったし、簡単な軽食でも持ってこさせてもう少し和やかな話し合いをしてもらえるよう手配してみようと俺は渋々侍従を呼んだ。
***
「ロキ。休憩をすると言うから来たが、大丈夫か?」
三人でお茶をしていると兄が来てくれたので俺の気分は一気に晴れやかになる。
「兄上。兄上もご休憩ですか?」
「ああ。レオナルド皇子、シャイナー陛下、同席してもいいだろうか?」
「もちろん!寧ろ来てくれてよかった」
「………忙しい中無理に来なくてもよかったのでは?」
「休憩時間は大事だとロキからも言われているし、心配には及ばない。ではレオナルド皇子の好意に甘えさせてもらうとしようか」
待ってましたと歓迎したレオナルド皇子とは反対にシャイナー陛下は兄の仕事の心配をしてくれたようだ。
シャイナー陛下の心遣いは嬉しいが、俺もレオナルド皇子同様兄が来てくれて嬉しいと思ってしまったので、少し申し訳ない気持ちになってしまう。
兄を大事に思ってもらえるのは俺も嬉しいし、御礼は伝えておきたい。
「お気遣いありがとうございます、シャイナー陛下」
「ロキ……」
「ですが先程からレオナルド皇子とシャイナー陛下はピリピリしていたでしょう?兄上も混ざれば空気も変わるでしょうし、俺だけよりも却ってよかったのでは?ここはひとつ和やかにお話でもしませんか?」
ニコッと笑うとちょっと嬉しそうな顔になって、コホンと咳払いしゆっくりとカップに手を伸ばした。
「そ、そうだな。では和やかに話せるよう、ここはひとつ堅苦しいことはなしにして、フレンドリーに話そう」
その方がきっとリラックスできる言われたので、そういうことならと承諾した。
「はぁ…どうしてこうなるかな?」
「レオナルド皇子?」
「まあいいや。じゃあ、俺もロキ陛下のことはロキって呼ぶから、俺のことはレオって呼んでほしい」
「俺は前にも言ったがシャイナーで構わない。気軽に呼んでくれ」
「わかりました」
そんなやり取りをする中、兄は何故か二人を凄い目で見てたんだけど、どうしてだろう?
「兄上?」
「~~~~っ!俺だってロキに名前を呼んでもらったことはないのに…!」
「え?兄上は兄上ですよね?」
流石に兄の名を呼ぶのはどうかと思ってそう言ったのに、何故か不満げな顔をされてしまった。
そんなに呼ばれたかったんだろうか?
よくわからないけど、そういうことなら閨で試しに呼んでみるのもありかもしれない。
そう思ったので、そっと兄に身を寄せて耳元で言っておいてあげた。
「兄上?今夜の閨で、カリンって呼んで抱いてもいいですか?」
「え…あ…うっ…」
「ふふっ。どれだけ乱れてくれるのか楽しみですね?」
「~~~~っ!」
真っ赤になって絶句した兄が可愛すぎて俺もつい笑顔になってしまう。
試しに言ってみて良かった。
「さて、落ち着いたところでシャイナーにもレオと一緒にこれまでの経緯でもお話ししましょうか?」
そのつもりのお茶会でしたよね?と思いながらにこやかに切り出したのに、何故か全員頬を染めて照れてしまったのはどうしてなんだろう?
自分達で言い出したくせに実に不可解だ。
よくわからないなと思いながら俺は溜息を吐き、そっと紅茶のカップを口に運んだのだった。
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※なんて言うんだろうってドキドキしながら耳を澄ませていたせいで聞こえてしまい、その後で自分の名前を呼ばれたので内心動揺が激しかったというオチ。
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