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69.贈り物
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リヒターから結婚祝いに香水を受け取った。
わざわざ俺が気に入ったと言った白バラの香りで調合してくれた特製品だ。
甘すぎずどこかスッキリとした香りはとても好ましくて、気持ちが安らぐような気がする。
だから気に入って毎日のように使っていたのだけど────。
「良い香りだな」
兄がそんなことを言ってきてくれたので、バラ園で気に入ったバラがあったからその香りで調合してもらったのだと話した。
「リヒターが結婚祝いにと言って贈ってくれたんです。兄上にも気に入ってもらえて嬉しいです」
にこやかにそう言ったら一瞬固まって、その後何故かリヒターを睨みつけていたんだけどどうかしたんだろうか?
「ロキ…その、俺もお前に何か贈りたいんだが、何か欲しい物はないか?」
「欲しい物…ですか?兄上と楽しめるものならなんでも嬉しいですけど?」
「~~~~っ!そういうものじゃなくて…!」
「それ以外のものでですか?特に思いつきませんね」
どうして『貴重な枠をリヒターに奪われた!』みたいな顔で悔しそうにしているのかがわからない。
これは兄との結婚を祝ってくれたものなのに。
「リヒターにおかしな対抗意識は持たないでくださいね。あくまでもこれはお祝いの品なんですから」
「うっ…」
「……そうですね。じゃあ俺とお揃いの物とかでも身につけてみますか?嫌でなければ、ですけど」
そう言うと、兄は物凄く嬉しそうな顔になって『それだ!』と言うように顔を輝かせた。
「俺が考えてもいいか?」
「兄上が?」
「ああ。俺からロキにあげたいし、お前の事を考えながら色々検討してみたい」
「そうですか。それは…とても楽しみですね」
嬉しそうな兄を見るのも、俺のことを思って選んでくれるのも凄く嬉しいから思わず頬が綻んでしまう。
「兄上。何を贈ってもらえるのか、楽しみにしていますね」
幸せだなと思いながら俺はここ暫くで一番の笑みを浮かべた。
***
【Side.カリン】
ロキ自身をここ最近ちゃんと見ていなかったことに気づいた俺はロキを改めて観察してみた。
息抜きをしに外出して以降、ロキの機嫌は良くなった気がする。
魔道具でロキの居場所もわかるから、以前ほど複数の者を傍に置くようにはしなくなったし、それでかもしれない。
基本的にリヒターとマーシャルのどちらかは常にロキの傍に居るし、カーライルと俺の暗部も陰についている。
よく考えたらそこに更に誰かというのは確かに多かったのだ。
因みに他にも近衛はいるが、基本的に俺の側に交代で配置されている。
どちらかというとこちらの方がロキの傍にいる者より多いのだが、俺は昔から慣れているし、彼らは空気のようなものだから普段は気にしたこともない。
それ故に余計ロキの心境に気づくのが遅れてしまったというのはある。
だからちゃんとロキを見て、ロキが何を望んでいて、何を苦手としているのかをちゃんと知ろうと思った。
(ロキは堅苦しいのは嫌い。これは知っている)
ついでに言うと人も嫌いだし、それに付随して人が多い場所も嫌いだ。
騎士達の件も、そもそも俺があんな風に言わなければそちらにはいかなかっただろう。
それは多分騎士は自分の敵だとわかっていたからじゃないだろうか?
過去を鑑みても、好き好んで彼らに近づきたくはなかったはず。
侍女達に関しても最低限しか接触したりはしないし、貴族にもそうだ。
仕事が絡むときにしかわざわざ自分から話しかけに行ったりはしない。
基本的に自分のことは自分でして、必要なことだけ他に頼む。
困ったことがあれば外に出て、闇医者などを頼ることが多い。
それ以外でロキが頼りにしているのは俺やリヒターなど一部の者だけ。
最近は貴族のことを沢山リヒターに教えてもらっているらしい。
ミュゼがリヒターばかり狡いと愚痴っていたが、そこは信頼度の差だと思う。
後は意外なところでスカーレットの兄であるライオネルとはそこそこ仲が良いらしい。
他の補佐官と同じだと思い込んでいたが、仕事をしている時に何気に一番声を掛けることが多いのだ。
単純に頼みやすいとかだろうかと不思議に思っていたが、ロキにさり気なく聞いたら彼は対等だからという返事が返ってきて驚いた。
「犬はしっぽを振って仕事に励みますが、それ故に『これを言って機嫌を損ねたら』という一瞬の躊躇が入ることが多いんです。質問した時にそれだとこっちが困るので、そう言った意味では明快に答えをくれるライオネルが一番頼りになりますね」
『もちろん兄上を除いてですけど』と言っていたので、ロキなりに基準はありそうではある。
ライオネルの方もロキと仕事をし始めて『最初は心配でしたが、実に鍛えがいがあっていいですね。控えめに言って最高です』などと言っていた。
ちょっとドSっぽい顔をのぞかせていたのは気のせいだろうか?
ドSと病んでるドSはどっちが強いんだろう…なんてちょっと考えてしまった。
それは置いておいて、ロキの好みの話をしてみよう。
ロキは食にはあまり興味がなくて、お菓子の類もほとんど食べない。
お茶にもこだわりはないし、嗜好品などなければないで全く平気。
趣味も特にはなく、特別身体を動かすことが好きなわけでもない。
敢えて言うなら本はよく読むようだということくらいだろうか。
でも好きなジャンルがあるというわけでもないようで、気になって手に取ったのを読んでいるだけのようにも思う。
『食べられる野草と中毒を起こす草』
『急所の的確な狙い方』
『生と死の狭間で』
『最新サバイバル読本』
『隠し武器の極意』
『滅びた国に学ぶ、栄華と衰退』
『国の在り方』
ここ最近読んでいたのはこんな本達だ。
『国の在り方』なんて本を手に取っているし、一応政務に取り組み始めた影響もあるのかなとは思うが、他はなんとなく役立つ知識を仕入れているのかなと言った感じだ。
統一性がなくてよくわからないが、息抜きに読んでいる可能性が高いし、俺が口を出すのもおかしいだろう。
他に興味があるものと言えば夜の閨で使う道具の類くらいのものだろうか?
そう言えば以前読んでいた縛り方の本も全部頭に入ったようで、もう練習は十分したしとばかりに器用に素早く俺を縛るようになった。
控えめに言っても縛られてされるのも大好きだ。
玩具も大好きだし、嬲られるのだって全部好き。
でもそういうことじゃなくて────。
「俺はロキの喜ぶ物をあげたいんだ!」
(俺が悦んでどうする?!)
そう言った意味では香水は盲点だった。
ロキがあんなに嬉しそうに毎日身に纏う香りがリヒターからのプレゼントだというのが物凄く腹立たしい。
しかも悔しいことに凄くロキに合った香りでついフラフラと寄っていきたくなるし、なんだったら────いや、それは置いておこう。
できればあれは俺が贈ってやりたかったくらいだ。
でも結婚祝いとして贈られたものだからあまり文句も言えない。
(あいつは本当に嫌味な奴だな)
リヒターは俺を立てつつロキに上手く取り入るからこちらが折れざるを得ないのだ。
悔しくてしょうがない。
あれに匹敵する贈り物は何かないものだろうか?
「指輪は発信機とかぶるしな…」
ロキはアクセサリーの類も然程興味はなさそうだし、身に着けると言ってもなかなか難しい。
「…………そうだ!あれなら…!」
俺はふと思いついたものがあったので、すぐさま職人を呼ぶよう指示を出した。
それから二週間後、やっと注文したものが手元に届いたのでそれを手にロキの元へと向かう。
「ロキ!」
「兄上。なんだか随分ご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか?」
「ああ。お前に手配していたプレゼントがついさっき届いてな」
そう言ってそっと手に持っていた箱をロキへと手渡し、開けてみろと言ってみた。
「これは…」
「懐中時計だ。俺とお揃いだぞ?」
どんな服装にも合わせやすい白銀の懐中時計。
精緻な作りで王族の紋章も刻ませた。
ついでに蓋を開けると一部中の歯車が見えるような造りになっているので、時間を確認すると共にそちらも目で楽しむことができるデザインになっている。
チェーンは丈夫なミスリルにしたので、万が一にも切れることはない。
本当は本体もミスリルにしてもよかったのだが、柔らかな色合いが気に入ったので白銀の方で作らせてみた。
出来上がったものを見ると、夜の静謐な月と言った感じがロキを思わせて、なんだかロキといつも一緒のように思えて嬉しいなとも思ってしまった。
自己満足と言ってしまえばその通りだが、ロキは気に入ってくれるだろうか?
「ロキをイメージして俺がデザインしてみたんだが…どうだ?」
「兄上がわざわざデザインを考えてくれたんですか?」
「ああ。ほら、ロキをイメージしたらいつも一緒みたいでいいだろう?」
「兄上……それだと兄上の懐中時計に嫉妬してしまいますよ?」
ふふっと楽しそうに笑うロキだが、その表情はとても嬉しそうで明るく感じられる。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「ああ。できれば毎日使ってほしい」
「はい。兄上が同じ物を持ち歩いてくれているんだと思えば、愛着も湧きますしね」
「ロキ…」
こんなに嬉しそうに喜んでもらえたのなら作った甲斐もあるというものだ。
「じゃあ俺からはこれを」
そして思いがけずロキから渡されたのはひと瓶の香水だった。
「リヒターに調香師を紹介してもらって、兄上のイメージで配合してもらった香水です。気に入ってもらえたらいいんですが」
「え?」
ロキから手渡された香水を手に取り、そっと蓋を開けると何とも言えない上品で落ち着いた香りが漂ってきた。
「『王者の風格』というバラの香りをベースにスッキリとしたミントの爽やかな香りを足して仕上げてもらいました。兄上が仕事中に発情しないように」
「~~~~っ?!」
「最近俺の香りに敏感に反応するようになってしまってるでしょう?だから調香師に相談して、調整してもらったんですよ」
まさかバレているとは思っていなかったので物凄く居た堪れない。
でもロキが好き過ぎてたまらないんだから仕方がないじゃないか!
リヒターが贈っただけあってあの香水は本当にロキにぴったりで、以前にも増して俺を虜にしてくるのだから。
「あんなに可愛い顔を仕事中にされたら補佐官達に下がれって言いたくなるので困るんです」
「…………」
「兄上が発情するのは夕方以降になるようラストノートで調整してもらいましたし、夜は夜で楽しみましょうね?」
ふふふと楽しそうに笑われて、俺は真っ赤になって俯いてしまった。
これはこれで最高の贈り物だと思う。
やっぱりロキには勝てそうにない。
「兄上。最高の贈り物をありがとうございます」
そう言って、ロキは嬉しそうに俺にキスをした。
わざわざ俺が気に入ったと言った白バラの香りで調合してくれた特製品だ。
甘すぎずどこかスッキリとした香りはとても好ましくて、気持ちが安らぐような気がする。
だから気に入って毎日のように使っていたのだけど────。
「良い香りだな」
兄がそんなことを言ってきてくれたので、バラ園で気に入ったバラがあったからその香りで調合してもらったのだと話した。
「リヒターが結婚祝いにと言って贈ってくれたんです。兄上にも気に入ってもらえて嬉しいです」
にこやかにそう言ったら一瞬固まって、その後何故かリヒターを睨みつけていたんだけどどうかしたんだろうか?
「ロキ…その、俺もお前に何か贈りたいんだが、何か欲しい物はないか?」
「欲しい物…ですか?兄上と楽しめるものならなんでも嬉しいですけど?」
「~~~~っ!そういうものじゃなくて…!」
「それ以外のものでですか?特に思いつきませんね」
どうして『貴重な枠をリヒターに奪われた!』みたいな顔で悔しそうにしているのかがわからない。
これは兄との結婚を祝ってくれたものなのに。
「リヒターにおかしな対抗意識は持たないでくださいね。あくまでもこれはお祝いの品なんですから」
「うっ…」
「……そうですね。じゃあ俺とお揃いの物とかでも身につけてみますか?嫌でなければ、ですけど」
そう言うと、兄は物凄く嬉しそうな顔になって『それだ!』と言うように顔を輝かせた。
「俺が考えてもいいか?」
「兄上が?」
「ああ。俺からロキにあげたいし、お前の事を考えながら色々検討してみたい」
「そうですか。それは…とても楽しみですね」
嬉しそうな兄を見るのも、俺のことを思って選んでくれるのも凄く嬉しいから思わず頬が綻んでしまう。
「兄上。何を贈ってもらえるのか、楽しみにしていますね」
幸せだなと思いながら俺はここ暫くで一番の笑みを浮かべた。
***
【Side.カリン】
ロキ自身をここ最近ちゃんと見ていなかったことに気づいた俺はロキを改めて観察してみた。
息抜きをしに外出して以降、ロキの機嫌は良くなった気がする。
魔道具でロキの居場所もわかるから、以前ほど複数の者を傍に置くようにはしなくなったし、それでかもしれない。
基本的にリヒターとマーシャルのどちらかは常にロキの傍に居るし、カーライルと俺の暗部も陰についている。
よく考えたらそこに更に誰かというのは確かに多かったのだ。
因みに他にも近衛はいるが、基本的に俺の側に交代で配置されている。
どちらかというとこちらの方がロキの傍にいる者より多いのだが、俺は昔から慣れているし、彼らは空気のようなものだから普段は気にしたこともない。
それ故に余計ロキの心境に気づくのが遅れてしまったというのはある。
だからちゃんとロキを見て、ロキが何を望んでいて、何を苦手としているのかをちゃんと知ろうと思った。
(ロキは堅苦しいのは嫌い。これは知っている)
ついでに言うと人も嫌いだし、それに付随して人が多い場所も嫌いだ。
騎士達の件も、そもそも俺があんな風に言わなければそちらにはいかなかっただろう。
それは多分騎士は自分の敵だとわかっていたからじゃないだろうか?
過去を鑑みても、好き好んで彼らに近づきたくはなかったはず。
侍女達に関しても最低限しか接触したりはしないし、貴族にもそうだ。
仕事が絡むときにしかわざわざ自分から話しかけに行ったりはしない。
基本的に自分のことは自分でして、必要なことだけ他に頼む。
困ったことがあれば外に出て、闇医者などを頼ることが多い。
それ以外でロキが頼りにしているのは俺やリヒターなど一部の者だけ。
最近は貴族のことを沢山リヒターに教えてもらっているらしい。
ミュゼがリヒターばかり狡いと愚痴っていたが、そこは信頼度の差だと思う。
後は意外なところでスカーレットの兄であるライオネルとはそこそこ仲が良いらしい。
他の補佐官と同じだと思い込んでいたが、仕事をしている時に何気に一番声を掛けることが多いのだ。
単純に頼みやすいとかだろうかと不思議に思っていたが、ロキにさり気なく聞いたら彼は対等だからという返事が返ってきて驚いた。
「犬はしっぽを振って仕事に励みますが、それ故に『これを言って機嫌を損ねたら』という一瞬の躊躇が入ることが多いんです。質問した時にそれだとこっちが困るので、そう言った意味では明快に答えをくれるライオネルが一番頼りになりますね」
『もちろん兄上を除いてですけど』と言っていたので、ロキなりに基準はありそうではある。
ライオネルの方もロキと仕事をし始めて『最初は心配でしたが、実に鍛えがいがあっていいですね。控えめに言って最高です』などと言っていた。
ちょっとドSっぽい顔をのぞかせていたのは気のせいだろうか?
ドSと病んでるドSはどっちが強いんだろう…なんてちょっと考えてしまった。
それは置いておいて、ロキの好みの話をしてみよう。
ロキは食にはあまり興味がなくて、お菓子の類もほとんど食べない。
お茶にもこだわりはないし、嗜好品などなければないで全く平気。
趣味も特にはなく、特別身体を動かすことが好きなわけでもない。
敢えて言うなら本はよく読むようだということくらいだろうか。
でも好きなジャンルがあるというわけでもないようで、気になって手に取ったのを読んでいるだけのようにも思う。
『食べられる野草と中毒を起こす草』
『急所の的確な狙い方』
『生と死の狭間で』
『最新サバイバル読本』
『隠し武器の極意』
『滅びた国に学ぶ、栄華と衰退』
『国の在り方』
ここ最近読んでいたのはこんな本達だ。
『国の在り方』なんて本を手に取っているし、一応政務に取り組み始めた影響もあるのかなとは思うが、他はなんとなく役立つ知識を仕入れているのかなと言った感じだ。
統一性がなくてよくわからないが、息抜きに読んでいる可能性が高いし、俺が口を出すのもおかしいだろう。
他に興味があるものと言えば夜の閨で使う道具の類くらいのものだろうか?
そう言えば以前読んでいた縛り方の本も全部頭に入ったようで、もう練習は十分したしとばかりに器用に素早く俺を縛るようになった。
控えめに言っても縛られてされるのも大好きだ。
玩具も大好きだし、嬲られるのだって全部好き。
でもそういうことじゃなくて────。
「俺はロキの喜ぶ物をあげたいんだ!」
(俺が悦んでどうする?!)
そう言った意味では香水は盲点だった。
ロキがあんなに嬉しそうに毎日身に纏う香りがリヒターからのプレゼントだというのが物凄く腹立たしい。
しかも悔しいことに凄くロキに合った香りでついフラフラと寄っていきたくなるし、なんだったら────いや、それは置いておこう。
できればあれは俺が贈ってやりたかったくらいだ。
でも結婚祝いとして贈られたものだからあまり文句も言えない。
(あいつは本当に嫌味な奴だな)
リヒターは俺を立てつつロキに上手く取り入るからこちらが折れざるを得ないのだ。
悔しくてしょうがない。
あれに匹敵する贈り物は何かないものだろうか?
「指輪は発信機とかぶるしな…」
ロキはアクセサリーの類も然程興味はなさそうだし、身に着けると言ってもなかなか難しい。
「…………そうだ!あれなら…!」
俺はふと思いついたものがあったので、すぐさま職人を呼ぶよう指示を出した。
それから二週間後、やっと注文したものが手元に届いたのでそれを手にロキの元へと向かう。
「ロキ!」
「兄上。なんだか随分ご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか?」
「ああ。お前に手配していたプレゼントがついさっき届いてな」
そう言ってそっと手に持っていた箱をロキへと手渡し、開けてみろと言ってみた。
「これは…」
「懐中時計だ。俺とお揃いだぞ?」
どんな服装にも合わせやすい白銀の懐中時計。
精緻な作りで王族の紋章も刻ませた。
ついでに蓋を開けると一部中の歯車が見えるような造りになっているので、時間を確認すると共にそちらも目で楽しむことができるデザインになっている。
チェーンは丈夫なミスリルにしたので、万が一にも切れることはない。
本当は本体もミスリルにしてもよかったのだが、柔らかな色合いが気に入ったので白銀の方で作らせてみた。
出来上がったものを見ると、夜の静謐な月と言った感じがロキを思わせて、なんだかロキといつも一緒のように思えて嬉しいなとも思ってしまった。
自己満足と言ってしまえばその通りだが、ロキは気に入ってくれるだろうか?
「ロキをイメージして俺がデザインしてみたんだが…どうだ?」
「兄上がわざわざデザインを考えてくれたんですか?」
「ああ。ほら、ロキをイメージしたらいつも一緒みたいでいいだろう?」
「兄上……それだと兄上の懐中時計に嫉妬してしまいますよ?」
ふふっと楽しそうに笑うロキだが、その表情はとても嬉しそうで明るく感じられる。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「ああ。できれば毎日使ってほしい」
「はい。兄上が同じ物を持ち歩いてくれているんだと思えば、愛着も湧きますしね」
「ロキ…」
こんなに嬉しそうに喜んでもらえたのなら作った甲斐もあるというものだ。
「じゃあ俺からはこれを」
そして思いがけずロキから渡されたのはひと瓶の香水だった。
「リヒターに調香師を紹介してもらって、兄上のイメージで配合してもらった香水です。気に入ってもらえたらいいんですが」
「え?」
ロキから手渡された香水を手に取り、そっと蓋を開けると何とも言えない上品で落ち着いた香りが漂ってきた。
「『王者の風格』というバラの香りをベースにスッキリとしたミントの爽やかな香りを足して仕上げてもらいました。兄上が仕事中に発情しないように」
「~~~~っ?!」
「最近俺の香りに敏感に反応するようになってしまってるでしょう?だから調香師に相談して、調整してもらったんですよ」
まさかバレているとは思っていなかったので物凄く居た堪れない。
でもロキが好き過ぎてたまらないんだから仕方がないじゃないか!
リヒターが贈っただけあってあの香水は本当にロキにぴったりで、以前にも増して俺を虜にしてくるのだから。
「あんなに可愛い顔を仕事中にされたら補佐官達に下がれって言いたくなるので困るんです」
「…………」
「兄上が発情するのは夕方以降になるようラストノートで調整してもらいましたし、夜は夜で楽しみましょうね?」
ふふふと楽しそうに笑われて、俺は真っ赤になって俯いてしまった。
これはこれで最高の贈り物だと思う。
やっぱりロキには勝てそうにない。
「兄上。最高の贈り物をありがとうございます」
そう言って、ロキは嬉しそうに俺にキスをした。
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