【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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65.近づきたい Side.シャイナー

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国に帰り不穏分子を一掃し、不良債権である叔母をブルーグレイへと送り出した。
そんな中、ガヴァムに送った手紙の返事が届いた。

暗部派遣の件は気持ちだけ有難く受け取っておくという丁寧な断りの返事で当り障りのないものではあったが、心配りが嬉しかったとも書かれてあったので思わず微笑んでしまう。

「ロキ…」

きっとこの手紙を書きながら俺を思って字を綴ってくれたんだろうと思うと、大事に取っておきたい気持ちになり、丁寧に文箱の中へと仕舞いワイバーンの手配を頼む。

「すぐにガヴァムに飛ぶ。護衛は適当に6人ほど選んでおけ」
「はっ!」

そして契約書を手に四体のワイバーンでガヴァムへと向かった。
馬車で行くなんてまどろっこしいことをする気はない。
先触れを出し、ワイバーンを着陸させてもいい場所を尋ね、そちらへと到着するとすぐさま外務大臣がやってきて応接間へと通された。

「シャイナー陛下。お待ちしておりました」
「ロキ…陛下。予定よりも少々遅くなってすまなかった。契約書を持ってきたので確認をして欲しい」

邪魔者のカリンも同席しているが、ここでいきなり対立する気はない。

「如何です?」
「ええ。問題ないと思います。賠償金としても十分だと思うので、皆も納得してくれるでしょう」
「本当に申し訳なかった。そう言えば先日面白い報告があって────」

そしてさり気なくアンシャンテは興味深く楽しい国なのだと紹介をしておく。
ついでにロキの好みも探れるし一石二鳥だ。
どうやらこれまで待遇が悪かったせいで知らないことも多いらしく、どんな話を振ってもほとんど興味深そうに聞いてもらえた。
だが逆にガヴァムのことについて突っ込んで聞くのは得策ではなさそうな空気を感じたので、程々で話を切り替えながら話題を探す。
観光地巡りは興味はなさそうだし詳しくもなさそうだ。
特産品の話は…これもイマイチだな。
産出物は少し話せたが、然程関心も高くはなさそうに思える。

(それなら……)

「ロキ陛下、即位から半年以上経って何か思うことはあるだろうか?」
「え?」
「こちらは代替わりに伴って不穏分子が動き出して結構大変だったんですよ」
「ああ、なるほど。それは大変でしたね。こちらは兄上が色々手配をしてくれたのでそう言ったことは大丈夫だったんです」
「なるほど。それは…兄上に助けられましたね」
「ええ。兄はいつも俺を助けてくれるので」

(くそっ!そんなに嬉しそうにするなんて…)

別にカリンのことなんて褒める気は全くないのだが、ちょっとロキの笑顔が見れるかもと思って口にしてみただけだ。
けれど悔しくて仕方がない。
まだまだ新婚だから仕方のないこととは言え、ロキはカリンしか見ていない様子。
なんとかこちらに振り向いてもらえるようアプローチをしたいところだ。
そう思って色々探りを入れながら地道に話していたのだが────。

(神は俺に微笑んだ!)

最近の出来事としてデビュタントの話が出て、アンシャンテでもそういうのはやはりあるのかと聞かれ、普通にあると答えたら『実は…』と言って相談のように話を振られたのだ。
それによるとロキはなんとダンス講師から嫌がらせで女性パートしか教えてもらえなかったらしいことが判明した。

(なんたる幸運!!)

ロキの不幸を喜ぶべきではないが、これならダンスを誘いやすくなったと思ってしまっても仕方がないだろう。
案の定親身になって話を聞き、手伝いたいと申し出ると、二つ返事で招待を受けることができた。
ロキとしては俺が手伝うことでカリンとの時間が確保出来て嬉しいと言ったところのようだったが、俺としてはロキとのダンスの約束ができて嬉しいと言ったところだろうか。
カリンは反対したが、ロキは意見を曲げなかったし、お互いがwin-winの関係なので何も問題はない。




そして迎えたデビュタントパーティー当日。
それはもう、ここまで酷かったのかと思わず同情してしまう程、貴族子女のロキへ向ける目は酷かった。
あれなら確かにロキが俺を頼りたくなる気持ちもよくわかる。

(可哀想に…)

あんな小娘達は全部カリンに押し付けて、ロキはもう俺とだけ踊っていればいいのではとさえ思ってしまう。
やっぱり早くロキを迎えに来てあげたい。
そんな思いで俺はロキとダンスを踊り、せめて楽しんでもらおうと色々話を盛り上げた。
その甲斐あって二曲続けて踊れたし、個人的には満足だ。
本当は三曲目も踊りたかったがカリンが邪魔してきたので仕方がない。
元々デビュタントの娘達と踊るために来ているので少しくらいは踊らないとダメだろう。
見たところ今回のデビュタントの娘は11名ほど。
カリンと分ければそれほど多くはない。
全部踊り終わったら息抜きと称してロキを誘い、二人で酒でも飲みながら楽しく話そう。
あんな視線に晒され続けたらロキが可哀想だし、俺が誘えば誰も文句は言わないはず。
こういう時、互いに王なのは立場的に有利だ。
そうしてダンス後の楽しみを考えながら笑顔でダンスを踊っていたのだが、時折視界に入るカリンが何やらバルコニーの方をちらちら見ていることに気づいた。
何だと思いそちらに目をやると、いつの間にかそちらに移動していたロキが、見たことのある近衛騎士の男と踊っているのが目に入った。

(なっ…!?)

どうしてそんな奴とそんなに楽し気に踊っているんだと驚愕の目を向けてしまう。
ライバルはカリンだけだと思っていたが、もしかして違ったのだろうか?
気が気でなく、俺もそちらをチラチラとつい見遣ってしまった。

(これは後で調べさせておかないと…)

そうしてヤキモキしながら踊り切ったところで、サッとロキの方を見ると、なんと騎士に手を取られ口づけを落とされているではないか。

(あの男…!)

思わず舌打ちしてしまう程腹が立ち、つい憎々し気に睨みつけてしまった。
けれどその光景は自分だけではなくカリンにも衝撃的なものだったらしく、慌てたようにそちらへと飛んでいった。
これで罰せられればいいのだが……。

けれど成り行きを見守っていると、どうもあの男に言い包められたようで、カリンはロキと共にこちらへと戻ってきてしまった。
つまりはお咎めなしということだ。

(あの男…何者だ?)

ただの近衛騎士ではないのだろうか?
あんな風に口づけを落とされてもロキは全く怒ってはいない。
それだけではなくカリンも先程とは違い、この男を許した様子。
ダンスも一緒に踊っていたくらいだし、それだけ二人の信頼を得ているということなのだろう。

そして残念なことにロキはこのまま部屋へと戻ることにしたらしい。
確かにあんな風に今回の主役であるデビュタントの令嬢達からあからさまに嫌な目を向けられれば下がりたくもなるだろう。
ここで変に引き留めてしまうとロキの俺への印象が悪くなってしまう。
幸い明日の昼食を共にと言ってもらえたことだし、今はそれで良しとしておこう。
そう思い、おとなしく引き下がることにした。
何はともあれ今大事なのは近衛騎士の素性を調べることだ。

ロキ達が下がり、笑顔で適度に貴族達と話し、適当なところで俺も切り上げ部屋へと下がる。
そして暗部にあの男のことを調べろと指示を出し、そのままシャワーを浴びて寝たのだが────。

「ロキとカリンの愛人…?」

翌朝聞いた報告は思っていた以上に驚きの内容だった。

「はっ。昨夜も三人でベッドの上でお楽しみのようでした」
「……つまり、閨に呼ぶほど親しい者ということか」

実際あれだけ相思相愛の二人の間に入り込み、閨を共にする者がいること自体に驚きを隠せないが、暗部がそうだというのなら恐らく間違ってはいないのだろう。

「近衛騎士リヒター…か」

他の暗部が騎士団に潜り込み調べたところ、彼は侯爵家の次男で、近衛騎士歴はここ2年くらいのものらしい。

「目障りだな」

はっきり言ってそれに尽きる。

「ちなみにリヒターは閨ではどういった位置づけだった?」
「はい。ロキ陛下と一緒にカリン陛下を抱いておりました」
「そうか」

つまりはあの男が直接ロキの相手をしていたわけではないということだ。
カリンが淫乱すぎてロキだけで足りず、一緒に巻き込んだだけの可能性も高い。
なにせロキはカリンの言うことならなんでも聞き入れてしまいそうな危うさを持っているのだから。

「取り敢えず暫くは様子見だな」

まだまだロキを落とすためにこちらは動き始めたばかりだ。
リヒターの事は一先ず置いておいて、ここは焦らずじっくり好感度を上げていくとしよう。
その為にもできることは全てやってから帰国しなければならない。
そう頻繁に来れるわけではないから、少しでもこちらに有利になるよう動く必要がある。

(ロキには親切に、カリンには適度な挑発を…だな)

それでカリンが躍起になって動けばこちらの思う壺だ。
カリンがロキに嫌われるよう、上手く煽って行動させてやろう。
後は弱ったロキに甘い言葉で近づいて更に好感度を上げてやればいい。
そうやって少しずつ絡め取って捕まえよう。
仲良くなればなるほどカリンは嫉妬から暴走してくれることだろう。

「さて。楽しいランチタイムの始まりだ」

そうして俺は不敵な笑みを浮かべたのだった。

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