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63.デビュタントパーティー①
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※本編後日談になります。
まあシャイナーいいとこ取り、ロキ隙だらけって感じなのでいいとこ取りが許せない!な方はスルーしてください。
宜しくお願いしますm(_ _)m
****************
アンシャンテからの暗部二人の受け入れについて改めてリヒターとカーライルに確認したところ、二人揃って反対されたので、先方には丁寧に断りの返事を入れることになった。
二人曰く、「当然でしょう?!」とのこと。
信頼に値すると思うんだけどなと首を傾げていたら、深呼吸をしたリヒターから懇切丁寧に説明がされた。
「ロキ陛下、カリン陛下の心の安寧の為にも受けるべきではありません。陛下を攫った相手の手の者が逐一傍に居るとカリン陛下がイライラしたり不安に思ったりするのは容易に想像できるでしょう?」
そう言われてみれば確かにその通りかもしれない。
「でも向こうは謝罪も兼ねての心配から言ってくれているし、断ると角が立たないか?」
「そこは言いようです。ロキ陛下は貴族との親しい交流がこれまでほぼなかったためピンとこないのもわかりますが、お断りの返事という便利なものがあるので後でお教えしますね」
「へぇ…」
そんな便利なものがあるんだと思いつつ、貴族同士の付き合いもなかなか面倒なものなんだなと思った。
無視されてきた俺からすれば全くわからない世界だから、このあたりはリヒターの言葉に従うべきだろう。
そんな俺に、リヒターがふとこんなことを聞いてきた。
「ちなみにロキ陛下はダンスは踊れますか?」
「え?ああ。一応習ったけど……」
「けど?」
リヒターが笑顔で圧をかけてくるので、正直にその先を続ける。
「その…男性パートは少ししか教わってなくて…」
「…………詳しく聞きましょうか」
ダンスの講師は勉強や体術を教える者とは別に、俺が14歳頃に派遣されてきた。
多分それまでなかなか俺の身長が伸びなくて小さかったから呼ばれなかったんだと思う。
やっと160㎝くらいになった頃、どこかの伯爵夫人が俺の元へとやってきた。
初対面から俺に侮蔑の眼差しを向けてきて、今日からダンスを教えると言われたのだ。
最初に言われたのは確かこんなセリフだっただろうか?
『貴方がどんな無能でも一通りは覚えて頂きます』
侮蔑の眼差しは別にいいんだ。
大体俺のところに来る輩は皆そんな感じだったから。
ただ、割と衝撃を受けたのは確かだ。
だって、この人は『一通り覚えて頂きます』って言ったんだ。
俺にちゃんと教える気がある人なんているんだってびっくりした。
そうしてダンスのレッスンが始まったのはいいけれど、一度で見て覚えろと言われ、まずは目の前で相手役として連れてこられた男とその伯爵夫人がクルクルと踊り始めた。
こうして『一度で覚えろ』と言われることはよくあったから、俺は一応ちゃんと見てできるだけ覚えるように努力はした。
でも、見るのとやるのでは実際全然違う。
そんなことは当然のことで、頭で理解したステップを体で覚えるのはまた別の話だ。
俺以外の人達だって何度も何度も練習して上手くなるはず。
でもその伯爵夫人は一時間ほどかけて一通り俺に男性パートを踊らせた後、大きな溜息を吐いて『やはり無能は無能ですね。全くリードするという意味を分かっていません。そんなことでは女性をリードしながら踊るのなんて夢のまた夢の話ですわ。いっそのこと男性パートではなく女性パートでも覚えられては如何です?そうすればリードされる側の気持ちがわかるようになると思いますわ』そんなことを言われた。
それからはダンスの時間は延々女性パートを踊らされた。
一応相手をしてくれる男性側のステップを見て覚えはしたけれど、ただそれだけだ。
二人曰く、必要に迫られれば相手役のステップを思い出して踊ればいいとのこと。
『下手くそ』『もっと優雅に踊れないのか』『そんなステップだと誰にもダンスを誘えないぞ』等々二人がかりで嘲笑され続けながら、折角教えてもらえているのだからと女性のステップを必死に覚え込む。
夜にこっそり一人で男性パートの復習もやってはみたけれど、相手がいないとあってるんだか間違ってるんだかよくわからなくて、どうせ使わないだろうしいいかとすぐにやめてしまった。
「だから、女性パートは踊れるけど、男性パートを踊る必要があるなら思い出して練習しないと難しいと思う」
「…………陛下。そういう時はクビにして新しい講師を迎えましょう?」
「え?いや。どうせ皆似たり寄ったりの者しか来ないし、体罰とかもしてこない上に一応ちゃんと教えてくれているだけマシだったから、まあいいかと思って」
「陛下……」
どうしてそんな悲しそうな顔をするんだろう?
本当に、うんざりはしたけど女性パートだけでもちゃんと習得させてくれた貴重な講師だったと思うんだけどな。
「それに、ほら。よく考えたら兄上は男性パートを踊るだろう?反って良かったんじゃないか?」
「うっ…。そ、それは確かに」
「そうだろう?なんでも悲観的に捕らえる必要はない」
それでどうしてそんな話を振ってきたのかと尋ねると、俺が戴冠して以降一度もダンスパーティーというものが開かれていないので、デビュタントを控えた令嬢を抱える貴族達から年に一度は王宮でパーティーを開いてほしいという声が上がったらしい。
「そう言えばそんなものもあったんだったか…」
自分には全く関係してこなかったので失念していたが、そういうものがあるということくらいは知っているので、ちょっと申し訳なかったなとは思った。
「ちなみにそれはどんな感じなんだ?」
「そうですね。昨年までは王の開くダンスパーティーでデビュタントを控えた令嬢達を集め、白いドレスに身を包んだ令嬢達が王子であったカリン陛下と順に踊っていました」
「兄上と……」
「はい。当時カリン陛下には婚約者候補しかおられなかったので、デビュタントで気に入られれば正式に婚約者としての立場を得ることもできたんですよ。言ってみればお見合いも兼ねたダンスといったところでしょうか」
「なるほど…」
(そんな大人気の兄上を俺が奪ってしまったということか…)
とは言えもう結婚だってしたし、誰にも渡す気はないが。
「ということは、別に今回のデビュタントの令嬢達と兄上が踊る必要はないんだな?」
「はい。ですがロキ陛下とカリン陛下のお二人でファーストダンスは踊る必要があるかと思ったので、一応踊れるかの確認をと思って…」
「なるほどな」
そういうことなら確かに言いたいことはよくわかった。
俺が踊れなかったら練習をさせるか、もしくは兄と他の誰かを踊らせる必要が出てくると思ったんだろう。
そうなると当然兄と踊る可能性が高いのはスカーレット嬢だろうと思われる。
補佐官であるミュゼの婚約者だし、公爵令嬢だから俺以外誰も文句は言わないだろう。
「……俺が女性パートで踊ってもいいと思うか?」
「そうですね。国王が女性パートを踊るのは初めてなので何とも言えないですが多分大丈夫だと思います。カリン陛下にも聞いてみましょう」
「そうだな」
そうして兄に仕事中何気なく聞いてみたんだけど……。
「ロキ。女性パートしか踊れないというのは本当か?」
まずそこに驚かれ────。
「俺が教えてやる!」
何故かそうやって気合いを入れて言ってこられた。
だから嬉しくてその後一緒に練習しようと思ったんだけど、一通りステップを教わった後、実際に踊ってみようとなったところで女性パートを踊れる者が俺以外にいないことが判明し、結局笑いながら俺が試しに踊ることに。
曲は休憩がてら補佐官の皆が楽器を持ち寄って演奏してくれたんだけど、貴族の嗜みだというだけあって皆凄く上手かった。
そんな演奏の中、兄のリードで踊りだす。
久しぶりのダンスではあったけど意外にも身体は覚えているもので、割ときっちり踊る事ができた。
『滑らかに優雅に踊るのです!』
伯爵夫人の厳しい指導を思い出すけれど、同時に男性のリードが大事だと言っていたことも思い出した。
(なるほど。兄上はリードが上手なんだな)
あの時の相手役の男性が特別下手だったというわけではないが、兄とのダンスはとても踊りやすくて身を任せやすい。
これは確かに自分には無理だったかもしれない。
「兄上と踊れるなんて嬉しいです」
「そうか。でもその…代わってやれなくてすまないな。俺も時間を見つけて練習しておこう」
「いえ。兄上のリードは完璧なので、このままの方がいいと思いますよ?」
そうして俺はとても幸せな気持ちで踊る事ができたのだった。
その後、宰相はじめ他の貴族達に聞いてパーティーの詳細を詰めたのだが、王族がデビュタントの令嬢達と踊るのは伝統なのでできれば兄と俺には彼女達の相手をして欲しいと言われてしまった。
王太子がいない場合はどうやらそうなるらしい。
けれど実際にデビュタントのダンスパーティーを開いたところ、初っ端から貴族女性達は俺に対して蔑んだような目を向けてきていたから、これはもうほぼ全員俺には来ないなと察することができてしまった。
それこそ親に促されても絶対に俺の方には来ないことだろう。
彼女達の反応を見て、素直にシャイナー陛下からの申し出を受けておいて良かったと心から思ったものだ。
実はこのダンスパーティーにはアンシャンテのシャイナー陛下も出席している。
元々彼を招待する予定はなかったが、暗部を断る手紙を出してから程なくこちらへ契約書片手にやってきて、色々世間話をしているうちにこのデビュタントパーティーの話になった。
一応練習はしたが、俺が基本的に女性パートしか上手に踊れないから兄に負担を掛けるのが申し訳ないと溢したところ、それは大変だろうと親身になって聞いてくれ、自分ならきっと力になれると思うし花を添える意味でも是非招待してもらえないかと笑顔で言われたのでお願いしたのだ。
御礼の方もシャイナー陛下から『ロキ陛下が一曲踊ってくれればそれだけで十分嬉しいし、他の何よりも礼になる』と言われたので驚いてしまった。
普通なら俺なんかとのダンスがお礼になるなんてあり得ないのに、心底嬉しそうに笑うからなんとなくそれでいいような気にさせられてしまい素直に礼を言った。
隣で話を聞いていた兄は物凄く怒っていたけど、そもそも俺は長々と兄を令嬢達に取られたくはないのだ。
シャイナー陛下が手伝ってくれるのならそれに越したことはない。
兄の負担だって減るし良いこと尽くめだ。
俺にも兄にもメリットはあるんだから許してほしい。
それにそんなに怒らなくても、浮気なんてしないと何度も言っているのに…。
そんなこんなで当日を迎えたわけだが────。
「ロキ陛下。こうして踊ってもらえてとても光栄だ」
「そうですか?女性より踊りにくいかもしれませんが…」
「いや。とても上手だし、このままずっと踊っていたいほどだ」
お世辞が上手だなと思いつつ、とっても嬉しそうだからあながちそういうわけでもないのかもしれない。
そうやって何気なく会話しながら踊っていたんだけど、気づけば二曲続けて踊っていたので三曲目に突入しそうなタイミングで兄に回収されてしまった。
ちょっと仕事の話をしていてたまたまそうなっただけなのに……。
「ロキ!シャイナー陛下はデビュタントの令嬢の相手もあるだろう?俺が連れていくからあっちで座っていろ」
そうは言ってもその目はシャイナー陛下を睨みつけ、嫉妬全開といった感じだ。
(可愛いな)
思わずクスリと笑ってしまったが、兄は俺に近づくと『隙がありすぎる』と小さく囁き、とっても怒っていた。
その後はシャイナー陛下と兄が令嬢達と踊るのを見ながら高みの見物をさせてもらう。
勿論見ている間にひっきりなしに貴族の者達が挨拶に来ていたからずっと見ていたわけじゃないけど、どちらもリードするのが上手だなという印象を受けた。
「陛下。少し息抜きに風に当たってみては?」
ちょっと疲れたなと思ったタイミングでリヒターが声を掛けてくれたので少しだけ席を外し、バルコニーへと出る。
「お疲れ様です」
「ああ。助かった」
流石にずっとあの中にいるのは疲れるので、風に当たりながらフゥと息を吐く。
「リヒターも踊ったか?」
「ええ。今日は侯爵家の一員として参加しているので、親戚の令嬢と二人ほど」
「そうか」
身内にデビュタントの者がいれば踊るんだなと何気なく思っていたら、何を思ったのかリヒターが俺に手を差し出してきた。
「陛下。俺のリードも試してみませんか?」
どうやら俺がシャイナー陛下と兄のリードを見比べていたのをわかっていたらしい。
「ハハッ。リヒターも負けず嫌いだな」
「いいえ。陛下と踊りたかっただけですよ」
「ふふっ。そういうことにしておこうか」
そうして中から漏れ聞こえる楽曲の演奏に身を任せ、俺とリヒターはひっそりとバルコニーでダンスを踊った。
誰の目もない場所で踊るのは気が楽でいい。
それに加えてリヒターのリードもまたとても上手で、兄やシャイナー陛下にも劣らぬ巧さで感心してしまう。
「リヒターもリードが上手いな。高位貴族は皆こんなに上手いのか?」
「そうですね。大体幼少の頃から練習しているので、皆こんなものだと思います」
「そうか」
「逆に陛下のように途中から覚えたのにこれだけ流れるように優雅に踊れる方が凄いですよ」
「え?」
「とてもお上手です」
「…そうか」
なんだか褒められて嬉しい気持ちになる。
「陛下。シャイナー陛下にはあまり心を傾けないでくださいね?カリン陛下だけではなく、俺やカーライルも嫉妬してしまいますよ?」
「リヒター?」
「特にカーライルは貴方が攫われたら、地の果てまで追っていきそうですしね」
「ハハッ。お前は来てくれないのか?」
「もちろん追いかけますよ。必ず。カリン陛下以外に取られたくはありませんから」
「そうか」
何かあれば俺のために動いてくれると、言葉だけではなくその優しい目が語ってくれる。
「俺は貴方の剣であることをお忘れなく」
そうしてダンスが終わると共にそっと手を取られ、そのまま敬意を表すかのように優雅な仕草でその指先に静かに口づけを落とされた。
****************
※悪意を受け流すのは得意だけど好意を受け流すのは慣れてなくて危なっかしい、そんなロキの話。
兄以外どうでもいいと思っているからこそ対応が甘くて、リヒターはなんだかんだそんなロキを気にして動きました。
一応カリンの許可は取ってから動いてます。
次回はカリン視点&リヒター込みの3PでのR-18なのでお気をつけください。
宜しくお願いします。
まあシャイナーいいとこ取り、ロキ隙だらけって感じなのでいいとこ取りが許せない!な方はスルーしてください。
宜しくお願いしますm(_ _)m
****************
アンシャンテからの暗部二人の受け入れについて改めてリヒターとカーライルに確認したところ、二人揃って反対されたので、先方には丁寧に断りの返事を入れることになった。
二人曰く、「当然でしょう?!」とのこと。
信頼に値すると思うんだけどなと首を傾げていたら、深呼吸をしたリヒターから懇切丁寧に説明がされた。
「ロキ陛下、カリン陛下の心の安寧の為にも受けるべきではありません。陛下を攫った相手の手の者が逐一傍に居るとカリン陛下がイライラしたり不安に思ったりするのは容易に想像できるでしょう?」
そう言われてみれば確かにその通りかもしれない。
「でも向こうは謝罪も兼ねての心配から言ってくれているし、断ると角が立たないか?」
「そこは言いようです。ロキ陛下は貴族との親しい交流がこれまでほぼなかったためピンとこないのもわかりますが、お断りの返事という便利なものがあるので後でお教えしますね」
「へぇ…」
そんな便利なものがあるんだと思いつつ、貴族同士の付き合いもなかなか面倒なものなんだなと思った。
無視されてきた俺からすれば全くわからない世界だから、このあたりはリヒターの言葉に従うべきだろう。
そんな俺に、リヒターがふとこんなことを聞いてきた。
「ちなみにロキ陛下はダンスは踊れますか?」
「え?ああ。一応習ったけど……」
「けど?」
リヒターが笑顔で圧をかけてくるので、正直にその先を続ける。
「その…男性パートは少ししか教わってなくて…」
「…………詳しく聞きましょうか」
ダンスの講師は勉強や体術を教える者とは別に、俺が14歳頃に派遣されてきた。
多分それまでなかなか俺の身長が伸びなくて小さかったから呼ばれなかったんだと思う。
やっと160㎝くらいになった頃、どこかの伯爵夫人が俺の元へとやってきた。
初対面から俺に侮蔑の眼差しを向けてきて、今日からダンスを教えると言われたのだ。
最初に言われたのは確かこんなセリフだっただろうか?
『貴方がどんな無能でも一通りは覚えて頂きます』
侮蔑の眼差しは別にいいんだ。
大体俺のところに来る輩は皆そんな感じだったから。
ただ、割と衝撃を受けたのは確かだ。
だって、この人は『一通り覚えて頂きます』って言ったんだ。
俺にちゃんと教える気がある人なんているんだってびっくりした。
そうしてダンスのレッスンが始まったのはいいけれど、一度で見て覚えろと言われ、まずは目の前で相手役として連れてこられた男とその伯爵夫人がクルクルと踊り始めた。
こうして『一度で覚えろ』と言われることはよくあったから、俺は一応ちゃんと見てできるだけ覚えるように努力はした。
でも、見るのとやるのでは実際全然違う。
そんなことは当然のことで、頭で理解したステップを体で覚えるのはまた別の話だ。
俺以外の人達だって何度も何度も練習して上手くなるはず。
でもその伯爵夫人は一時間ほどかけて一通り俺に男性パートを踊らせた後、大きな溜息を吐いて『やはり無能は無能ですね。全くリードするという意味を分かっていません。そんなことでは女性をリードしながら踊るのなんて夢のまた夢の話ですわ。いっそのこと男性パートではなく女性パートでも覚えられては如何です?そうすればリードされる側の気持ちがわかるようになると思いますわ』そんなことを言われた。
それからはダンスの時間は延々女性パートを踊らされた。
一応相手をしてくれる男性側のステップを見て覚えはしたけれど、ただそれだけだ。
二人曰く、必要に迫られれば相手役のステップを思い出して踊ればいいとのこと。
『下手くそ』『もっと優雅に踊れないのか』『そんなステップだと誰にもダンスを誘えないぞ』等々二人がかりで嘲笑され続けながら、折角教えてもらえているのだからと女性のステップを必死に覚え込む。
夜にこっそり一人で男性パートの復習もやってはみたけれど、相手がいないとあってるんだか間違ってるんだかよくわからなくて、どうせ使わないだろうしいいかとすぐにやめてしまった。
「だから、女性パートは踊れるけど、男性パートを踊る必要があるなら思い出して練習しないと難しいと思う」
「…………陛下。そういう時はクビにして新しい講師を迎えましょう?」
「え?いや。どうせ皆似たり寄ったりの者しか来ないし、体罰とかもしてこない上に一応ちゃんと教えてくれているだけマシだったから、まあいいかと思って」
「陛下……」
どうしてそんな悲しそうな顔をするんだろう?
本当に、うんざりはしたけど女性パートだけでもちゃんと習得させてくれた貴重な講師だったと思うんだけどな。
「それに、ほら。よく考えたら兄上は男性パートを踊るだろう?反って良かったんじゃないか?」
「うっ…。そ、それは確かに」
「そうだろう?なんでも悲観的に捕らえる必要はない」
それでどうしてそんな話を振ってきたのかと尋ねると、俺が戴冠して以降一度もダンスパーティーというものが開かれていないので、デビュタントを控えた令嬢を抱える貴族達から年に一度は王宮でパーティーを開いてほしいという声が上がったらしい。
「そう言えばそんなものもあったんだったか…」
自分には全く関係してこなかったので失念していたが、そういうものがあるということくらいは知っているので、ちょっと申し訳なかったなとは思った。
「ちなみにそれはどんな感じなんだ?」
「そうですね。昨年までは王の開くダンスパーティーでデビュタントを控えた令嬢達を集め、白いドレスに身を包んだ令嬢達が王子であったカリン陛下と順に踊っていました」
「兄上と……」
「はい。当時カリン陛下には婚約者候補しかおられなかったので、デビュタントで気に入られれば正式に婚約者としての立場を得ることもできたんですよ。言ってみればお見合いも兼ねたダンスといったところでしょうか」
「なるほど…」
(そんな大人気の兄上を俺が奪ってしまったということか…)
とは言えもう結婚だってしたし、誰にも渡す気はないが。
「ということは、別に今回のデビュタントの令嬢達と兄上が踊る必要はないんだな?」
「はい。ですがロキ陛下とカリン陛下のお二人でファーストダンスは踊る必要があるかと思ったので、一応踊れるかの確認をと思って…」
「なるほどな」
そういうことなら確かに言いたいことはよくわかった。
俺が踊れなかったら練習をさせるか、もしくは兄と他の誰かを踊らせる必要が出てくると思ったんだろう。
そうなると当然兄と踊る可能性が高いのはスカーレット嬢だろうと思われる。
補佐官であるミュゼの婚約者だし、公爵令嬢だから俺以外誰も文句は言わないだろう。
「……俺が女性パートで踊ってもいいと思うか?」
「そうですね。国王が女性パートを踊るのは初めてなので何とも言えないですが多分大丈夫だと思います。カリン陛下にも聞いてみましょう」
「そうだな」
そうして兄に仕事中何気なく聞いてみたんだけど……。
「ロキ。女性パートしか踊れないというのは本当か?」
まずそこに驚かれ────。
「俺が教えてやる!」
何故かそうやって気合いを入れて言ってこられた。
だから嬉しくてその後一緒に練習しようと思ったんだけど、一通りステップを教わった後、実際に踊ってみようとなったところで女性パートを踊れる者が俺以外にいないことが判明し、結局笑いながら俺が試しに踊ることに。
曲は休憩がてら補佐官の皆が楽器を持ち寄って演奏してくれたんだけど、貴族の嗜みだというだけあって皆凄く上手かった。
そんな演奏の中、兄のリードで踊りだす。
久しぶりのダンスではあったけど意外にも身体は覚えているもので、割ときっちり踊る事ができた。
『滑らかに優雅に踊るのです!』
伯爵夫人の厳しい指導を思い出すけれど、同時に男性のリードが大事だと言っていたことも思い出した。
(なるほど。兄上はリードが上手なんだな)
あの時の相手役の男性が特別下手だったというわけではないが、兄とのダンスはとても踊りやすくて身を任せやすい。
これは確かに自分には無理だったかもしれない。
「兄上と踊れるなんて嬉しいです」
「そうか。でもその…代わってやれなくてすまないな。俺も時間を見つけて練習しておこう」
「いえ。兄上のリードは完璧なので、このままの方がいいと思いますよ?」
そうして俺はとても幸せな気持ちで踊る事ができたのだった。
その後、宰相はじめ他の貴族達に聞いてパーティーの詳細を詰めたのだが、王族がデビュタントの令嬢達と踊るのは伝統なのでできれば兄と俺には彼女達の相手をして欲しいと言われてしまった。
王太子がいない場合はどうやらそうなるらしい。
けれど実際にデビュタントのダンスパーティーを開いたところ、初っ端から貴族女性達は俺に対して蔑んだような目を向けてきていたから、これはもうほぼ全員俺には来ないなと察することができてしまった。
それこそ親に促されても絶対に俺の方には来ないことだろう。
彼女達の反応を見て、素直にシャイナー陛下からの申し出を受けておいて良かったと心から思ったものだ。
実はこのダンスパーティーにはアンシャンテのシャイナー陛下も出席している。
元々彼を招待する予定はなかったが、暗部を断る手紙を出してから程なくこちらへ契約書片手にやってきて、色々世間話をしているうちにこのデビュタントパーティーの話になった。
一応練習はしたが、俺が基本的に女性パートしか上手に踊れないから兄に負担を掛けるのが申し訳ないと溢したところ、それは大変だろうと親身になって聞いてくれ、自分ならきっと力になれると思うし花を添える意味でも是非招待してもらえないかと笑顔で言われたのでお願いしたのだ。
御礼の方もシャイナー陛下から『ロキ陛下が一曲踊ってくれればそれだけで十分嬉しいし、他の何よりも礼になる』と言われたので驚いてしまった。
普通なら俺なんかとのダンスがお礼になるなんてあり得ないのに、心底嬉しそうに笑うからなんとなくそれでいいような気にさせられてしまい素直に礼を言った。
隣で話を聞いていた兄は物凄く怒っていたけど、そもそも俺は長々と兄を令嬢達に取られたくはないのだ。
シャイナー陛下が手伝ってくれるのならそれに越したことはない。
兄の負担だって減るし良いこと尽くめだ。
俺にも兄にもメリットはあるんだから許してほしい。
それにそんなに怒らなくても、浮気なんてしないと何度も言っているのに…。
そんなこんなで当日を迎えたわけだが────。
「ロキ陛下。こうして踊ってもらえてとても光栄だ」
「そうですか?女性より踊りにくいかもしれませんが…」
「いや。とても上手だし、このままずっと踊っていたいほどだ」
お世辞が上手だなと思いつつ、とっても嬉しそうだからあながちそういうわけでもないのかもしれない。
そうやって何気なく会話しながら踊っていたんだけど、気づけば二曲続けて踊っていたので三曲目に突入しそうなタイミングで兄に回収されてしまった。
ちょっと仕事の話をしていてたまたまそうなっただけなのに……。
「ロキ!シャイナー陛下はデビュタントの令嬢の相手もあるだろう?俺が連れていくからあっちで座っていろ」
そうは言ってもその目はシャイナー陛下を睨みつけ、嫉妬全開といった感じだ。
(可愛いな)
思わずクスリと笑ってしまったが、兄は俺に近づくと『隙がありすぎる』と小さく囁き、とっても怒っていた。
その後はシャイナー陛下と兄が令嬢達と踊るのを見ながら高みの見物をさせてもらう。
勿論見ている間にひっきりなしに貴族の者達が挨拶に来ていたからずっと見ていたわけじゃないけど、どちらもリードするのが上手だなという印象を受けた。
「陛下。少し息抜きに風に当たってみては?」
ちょっと疲れたなと思ったタイミングでリヒターが声を掛けてくれたので少しだけ席を外し、バルコニーへと出る。
「お疲れ様です」
「ああ。助かった」
流石にずっとあの中にいるのは疲れるので、風に当たりながらフゥと息を吐く。
「リヒターも踊ったか?」
「ええ。今日は侯爵家の一員として参加しているので、親戚の令嬢と二人ほど」
「そうか」
身内にデビュタントの者がいれば踊るんだなと何気なく思っていたら、何を思ったのかリヒターが俺に手を差し出してきた。
「陛下。俺のリードも試してみませんか?」
どうやら俺がシャイナー陛下と兄のリードを見比べていたのをわかっていたらしい。
「ハハッ。リヒターも負けず嫌いだな」
「いいえ。陛下と踊りたかっただけですよ」
「ふふっ。そういうことにしておこうか」
そうして中から漏れ聞こえる楽曲の演奏に身を任せ、俺とリヒターはひっそりとバルコニーでダンスを踊った。
誰の目もない場所で踊るのは気が楽でいい。
それに加えてリヒターのリードもまたとても上手で、兄やシャイナー陛下にも劣らぬ巧さで感心してしまう。
「リヒターもリードが上手いな。高位貴族は皆こんなに上手いのか?」
「そうですね。大体幼少の頃から練習しているので、皆こんなものだと思います」
「そうか」
「逆に陛下のように途中から覚えたのにこれだけ流れるように優雅に踊れる方が凄いですよ」
「え?」
「とてもお上手です」
「…そうか」
なんだか褒められて嬉しい気持ちになる。
「陛下。シャイナー陛下にはあまり心を傾けないでくださいね?カリン陛下だけではなく、俺やカーライルも嫉妬してしまいますよ?」
「リヒター?」
「特にカーライルは貴方が攫われたら、地の果てまで追っていきそうですしね」
「ハハッ。お前は来てくれないのか?」
「もちろん追いかけますよ。必ず。カリン陛下以外に取られたくはありませんから」
「そうか」
何かあれば俺のために動いてくれると、言葉だけではなくその優しい目が語ってくれる。
「俺は貴方の剣であることをお忘れなく」
そうしてダンスが終わると共にそっと手を取られ、そのまま敬意を表すかのように優雅な仕草でその指先に静かに口づけを落とされた。
****************
※悪意を受け流すのは得意だけど好意を受け流すのは慣れてなくて危なっかしい、そんなロキの話。
兄以外どうでもいいと思っているからこそ対応が甘くて、リヒターはなんだかんだそんなロキを気にして動きました。
一応カリンの許可は取ってから動いてます。
次回はカリン視点&リヒター込みの3PでのR-18なのでお気をつけください。
宜しくお願いします。
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王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
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