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閑話9.酒場にて
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ぶっ壊れ野郎が初めて一人ではなく護衛付きでこの酒場へとやってきた。
俺達はいつも通りの声掛けをしつつ、連れの表情を観察する。
うん。大丈夫そうだ。
一人は知ってる奴で、ここ最近ぶっ壊れ野郎が気に入って側に置いてる騎士だ。
もう一人は地下道で見かけた、俺達裏稼業と近しい暗部と言う職の奴だった。
見たところ二人共腕はそこそこ立つようだし、護衛としては申し分なさそうだ。
その目も曇ってはなさそうで、ちゃんとぶっ壊れ野郎を見てくれそうで安心した。
しょうもない奴らなら門前払いでここから追い出しただろうが、これなら大丈夫だろうと判断し、皆で歓迎してやる。
そうこうしているとぶっ壊れ野郎が闇医者と店の隅で飲み始めたので、これ幸いと残された二人に聞き取りを行なった。
それによると今回の誘拐はどうやら騎士達の怠慢が大きな原因のようだった。
まああの騎士達は昔からぶっ壊れ野郎を放置していたから、当然と言えば当然だ。
寧ろわかってなかったのかと言ってやりたい。
「ぶっ壊れ野郎はな、こーんなちっこい頃からここに来てたんだぜ?」
「そうそう。俺達みたいな奴らがドン引きするようなことばっかり言うから放って置けなくてな……」
「ああ。俺が一番ビビったのはあれだな。娼館事件!」
「ああ、あれはビビったなあ。なんだっけ?『自分みたいな者でも買ってくれる娼館って所があるって聞いたんだけど、そこで臓器が売れるって事なのか?』だろ?」
「ぶははっ!そうそう!んなわけねえだろって言ってやったら、でも身売りできるって聞いたし、二つある臓器は需要があるって本で読んだって言ってきて、詳しく聞いたら教師に虐められてたんだよな」
そう。あの頃、ぶっ壊れ野郎の教師は酷いものだったのだ。
『無能でも娼館なら買ってくれる者もいるかもしれませんよ?』
『娼館?』
『ええ。能無しでも身売りができるところです』
『へぇ…』
『陛下に捨てられたら行ってみては如何です?手っ取り早く稼げますし、貴方にお似合いかもしれませんね。ホホホ』
そんなやり取りがあったと聞いて、こんなガキに何言ってんだって滅茶苦茶腹が立った。
「あのババア、王宮辞めたって聞いてすぐ拉致ってやったなぁ…」
「そうそう。望み通り娼館送りにしてやったっけ。俺らの弟分虐めてんじゃねえよって言って悪評高い娼館に送ってやったから二度と出てこれねえよ」
ざまあみろと言って俺らは笑う。
ぶっ壊れ野郎は本当にあり得ないくらい王宮で酷い目にあっていた。
だからちょいちょい裏稼業の新人研修やら腕試しやら肩慣らしで様子を見に行き、ふざけた奴らをチェックし、後から始末してやったものだ。
もちろんぶっ壊れ野郎はそんな事は知らない。
精々知ったところで依頼でも受けたんだろうと思うはず。
お前なんて奴隷以下だと言ってまだまだちっこいぶっ壊れ野郎を踏みつけにして甚振ってた騎士はカジノで破産させて犯罪奴隷に落としてやったし、次にやってきた騎士は無能でも媚びれば変態親父に可愛がって貰えるかもなと嘲笑っていたので、変態で有名な犯罪奴隷のおっさん共を数名用意し輪姦してから殺してやった。
でも俺達が本当に殺してやりたかったのは王や王妃、それと兄王子だ。
ぶっ壊れ野郎がぶっ壊れたのはあいつらのせいだから。
だから許せなかった。
でもぶっ壊れ野郎はそれを望んではいなかったし、寧ろ殺してしまえばぶっ壊れ野郎は生きる気力をなくすだろうと闇医者が言うから我慢したのだ。
正直兄王子と懇ろになったと聞いた時はとうとうイカレたのかと思った。
でも闇医者に詳しく話を聞いて、それであいつが救われるのならと妥協したのだ。
ぶっ壊れ野郎がぶっ壊れすぎてドSになってたというのも大きい。
放っておいても自分で兄を嬲るんだから、俺達が敢えて手を出す必要もない。
これはこれである種の復讐にも繋がるだろう。
ぶっ壊れ野郎がそこに幸せを見出したのならそれはそれでいい。
「あいつは幸せにならなきゃいけないんだよ」
そうやってしんみり声を出したら、連れの二人も真剣な顔で頷いてた。
どうやらそのあたりの認識は俺達と同じらしい。
「さ、辛気臭い話はやめだ、やめ!楽しく酒盛りでもしようや!」
そうして今度は闇医者と飲んでいたぶっ壊れ野郎に声を掛けて、今回の冒険譚を楽しく冷やかしながら聞いてやる。
辛いことも笑い飛ばせば辛さもマシになる。
俺達はこれ以上こいつがぶっ壊れないようそうやって支えてやるだけだ。
俺達裏稼業の者達はいつ死んでもおかしくないから、ずっとは守ってやれない。
だから生きるすべを教えて、心意気を教えて、こいつを生かしてやるんだ。
自分から安易に死を選んだりしないように。
自分自身の力で生きていけるように。
今回はそれが役に立っただけの話だ。
今はもう死んじまっていないが、昔仲間がぶっ壊れ野郎に生きてりゃいいことがあるんだから笑って死ねるように頑張って生きろと言っていた。
それはきっとここにいる誰もが思っていることだろう。
なんだかんだで、この王様はもうずっと前から俺達の仲間なんだから────。
「俺らの大事な弟分なんだ。しっかり守ってやってくれよ?」
(俺らを全員敵に回したくないならな?)
そうして俺達はニヤリと笑い、新しいぶっ壊れ野郎の身内に酒を注いだのだった。
****************
※実は密かに報復は行われていたという話。
カリン王子はここに来たら多分ヤバいと思われるので、来なくて正解だったりします。
俺達はいつも通りの声掛けをしつつ、連れの表情を観察する。
うん。大丈夫そうだ。
一人は知ってる奴で、ここ最近ぶっ壊れ野郎が気に入って側に置いてる騎士だ。
もう一人は地下道で見かけた、俺達裏稼業と近しい暗部と言う職の奴だった。
見たところ二人共腕はそこそこ立つようだし、護衛としては申し分なさそうだ。
その目も曇ってはなさそうで、ちゃんとぶっ壊れ野郎を見てくれそうで安心した。
しょうもない奴らなら門前払いでここから追い出しただろうが、これなら大丈夫だろうと判断し、皆で歓迎してやる。
そうこうしているとぶっ壊れ野郎が闇医者と店の隅で飲み始めたので、これ幸いと残された二人に聞き取りを行なった。
それによると今回の誘拐はどうやら騎士達の怠慢が大きな原因のようだった。
まああの騎士達は昔からぶっ壊れ野郎を放置していたから、当然と言えば当然だ。
寧ろわかってなかったのかと言ってやりたい。
「ぶっ壊れ野郎はな、こーんなちっこい頃からここに来てたんだぜ?」
「そうそう。俺達みたいな奴らがドン引きするようなことばっかり言うから放って置けなくてな……」
「ああ。俺が一番ビビったのはあれだな。娼館事件!」
「ああ、あれはビビったなあ。なんだっけ?『自分みたいな者でも買ってくれる娼館って所があるって聞いたんだけど、そこで臓器が売れるって事なのか?』だろ?」
「ぶははっ!そうそう!んなわけねえだろって言ってやったら、でも身売りできるって聞いたし、二つある臓器は需要があるって本で読んだって言ってきて、詳しく聞いたら教師に虐められてたんだよな」
そう。あの頃、ぶっ壊れ野郎の教師は酷いものだったのだ。
『無能でも娼館なら買ってくれる者もいるかもしれませんよ?』
『娼館?』
『ええ。能無しでも身売りができるところです』
『へぇ…』
『陛下に捨てられたら行ってみては如何です?手っ取り早く稼げますし、貴方にお似合いかもしれませんね。ホホホ』
そんなやり取りがあったと聞いて、こんなガキに何言ってんだって滅茶苦茶腹が立った。
「あのババア、王宮辞めたって聞いてすぐ拉致ってやったなぁ…」
「そうそう。望み通り娼館送りにしてやったっけ。俺らの弟分虐めてんじゃねえよって言って悪評高い娼館に送ってやったから二度と出てこれねえよ」
ざまあみろと言って俺らは笑う。
ぶっ壊れ野郎は本当にあり得ないくらい王宮で酷い目にあっていた。
だからちょいちょい裏稼業の新人研修やら腕試しやら肩慣らしで様子を見に行き、ふざけた奴らをチェックし、後から始末してやったものだ。
もちろんぶっ壊れ野郎はそんな事は知らない。
精々知ったところで依頼でも受けたんだろうと思うはず。
お前なんて奴隷以下だと言ってまだまだちっこいぶっ壊れ野郎を踏みつけにして甚振ってた騎士はカジノで破産させて犯罪奴隷に落としてやったし、次にやってきた騎士は無能でも媚びれば変態親父に可愛がって貰えるかもなと嘲笑っていたので、変態で有名な犯罪奴隷のおっさん共を数名用意し輪姦してから殺してやった。
でも俺達が本当に殺してやりたかったのは王や王妃、それと兄王子だ。
ぶっ壊れ野郎がぶっ壊れたのはあいつらのせいだから。
だから許せなかった。
でもぶっ壊れ野郎はそれを望んではいなかったし、寧ろ殺してしまえばぶっ壊れ野郎は生きる気力をなくすだろうと闇医者が言うから我慢したのだ。
正直兄王子と懇ろになったと聞いた時はとうとうイカレたのかと思った。
でも闇医者に詳しく話を聞いて、それであいつが救われるのならと妥協したのだ。
ぶっ壊れ野郎がぶっ壊れすぎてドSになってたというのも大きい。
放っておいても自分で兄を嬲るんだから、俺達が敢えて手を出す必要もない。
これはこれである種の復讐にも繋がるだろう。
ぶっ壊れ野郎がそこに幸せを見出したのならそれはそれでいい。
「あいつは幸せにならなきゃいけないんだよ」
そうやってしんみり声を出したら、連れの二人も真剣な顔で頷いてた。
どうやらそのあたりの認識は俺達と同じらしい。
「さ、辛気臭い話はやめだ、やめ!楽しく酒盛りでもしようや!」
そうして今度は闇医者と飲んでいたぶっ壊れ野郎に声を掛けて、今回の冒険譚を楽しく冷やかしながら聞いてやる。
辛いことも笑い飛ばせば辛さもマシになる。
俺達はこれ以上こいつがぶっ壊れないようそうやって支えてやるだけだ。
俺達裏稼業の者達はいつ死んでもおかしくないから、ずっとは守ってやれない。
だから生きるすべを教えて、心意気を教えて、こいつを生かしてやるんだ。
自分から安易に死を選んだりしないように。
自分自身の力で生きていけるように。
今回はそれが役に立っただけの話だ。
今はもう死んじまっていないが、昔仲間がぶっ壊れ野郎に生きてりゃいいことがあるんだから笑って死ねるように頑張って生きろと言っていた。
それはきっとここにいる誰もが思っていることだろう。
なんだかんだで、この王様はもうずっと前から俺達の仲間なんだから────。
「俺らの大事な弟分なんだ。しっかり守ってやってくれよ?」
(俺らを全員敵に回したくないならな?)
そうして俺達はニヤリと笑い、新しいぶっ壊れ野郎の身内に酒を注いだのだった。
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※実は密かに報復は行われていたという話。
カリン王子はここに来たら多分ヤバいと思われるので、来なくて正解だったりします。
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