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閑話7.とある騎士の独白

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※ガヴァムの騎士サイドのお話です。
ちょい胸糞な感じなので、苦手な方は一話飛ばしてください。
宜しくお願いします。

****************

俺はガヴァム王国でガヴァム王に長年仕えてきた騎士の一人だ。
王は偉大で間違ったことなんてするはずがないとずっと思っていた。
そんな王が『無能』と言って虐げてきたのが第二王子であるロキ王子だった。
優秀な兄王子と比べ、勉学も武術もなにもできない無能な弟王子。
そんな弟王子の指導をしていたのは俺と親しい同僚だった。
その同僚はよく言っていた。

『あの王子は王からも見捨てられているからサンドバッグにちょうどいい』

あの時はまあ無能王子だからしょうがないよなと一緒になって笑っていたが、今から思えばそれは大きな間違いだった。

段々と成長していくロキ王子。
ある日同僚が蒼白な顔をしながら騎士をやめると言って王宮を去った。
最後の言葉は「あの王子はイカレてる」だっただろうか?
何があったのかまでは聞けなかったが、いつからか第二王子は密かに『狂王子』と呼ばれるようになっていた。
第二第三の教育係がつけられても暫くすると皆蒼白になってやめていく。
何があったのかは知らないが皆が皆口を揃えて「やめさせてください」と言ってやめていくのだ。
皆最初は「あの無能王子の性根を叩き直すのは自分だ!」と張り切っていたというのに。
そうして段々と大っぴらに王子に無能と言う者はいなくなり、気づけば皆陰でひそひそと囁き、関わるな、近づくなと言うようになっていった。

そんな日々がこれからもずっと続くのだと思っていたある日、あまりにも突然終止符が打たれた。
将来を有望視されていたカリン王子がブルーグレイから壊れて帰ってきたからだ。

そして告げられる王太子の座の変更。
当然だがそこに据えられるのは自分達が無能と言い続けてきたロキ王子だった。
王としては苦渋の判断だったのだろう。
カリン王子の病状の回復は見込めないとのことで、そのまま部屋で隔離。
口の堅い者で周囲を固め、俺達一部の騎士達にその相手をせよとの命が下された。

正直言って王族を犯すなんて不敬以外の何ものでもない話だ。
だから最初はおっかなびっくり皆で抱いた。
けれど壊れ切ったカリン王子はよがりまくって喜んで俺達に抱かれ、もっともっととせがんだ。
そんな姿に俺達の意識が段々変わっていく。
尊い王族と言えど、こうなってしまっては俺達と変わらない。
あのロキ王子だって考えてみればそうじゃないか。
王に捨てられたらどちらにせよ一緒なのだ。

そこからは嬉々としてカリン王子を抱き欲望を晴らした。
けれどそんな日々もまた、すぐに変化が訪れる。
なんとロキ王子が兄をもらい受けたいと王に進言したのだ。
王は苦々しい顔をしたらしいが、結局は持て余していたこともあって、ロキ王子にカリン王子を与えた。

それからロキ王子がカリン王子に何をしたのかは知らない。
気づけば回復は不可能と言われていたカリン王子が正気に戻り、同時にロキ王子の愛人になっていた。
そんな俺達の元に、ある日お呼びがかかった。
なんとカリン王子が犯されているところを見たいから抱けと言うのだ。
その時のロキ王子の顔はどこまでも嬉しそうなもので、一目で「狂ってる」と思ったものだ。
どこの世界に兄を輪姦させて喜ぶ弟がいると言うのか。
しかもこの王子は泣いて自分の名を呼ぶカリン王子に目隠しをして、どれが自分のかを当てられたらやめてやると言って笑いながら混ざってきたのだ。
更にあり得ない事に、俺に抱かせながらまるで自分で抱いているかのように偽装し、楽しげに囁きを落としながらカリン王子を翻弄していた。
はっきり言って怖いなんてもんじゃない。
その場にいた全員がドン引きだった。

他の奴らはどうだか知らないが、俺はその時初めてこの王子には逆らわない方がいいと実感した。
その勘は正しくて、どんどんと目まぐるしく王宮内は変化していく。

偉い宰相や大臣達、果ては騎士団長までがロキ王子に恭順の意を示した。
次いで若い文官達がどんどんロキ王子に傾倒していく。
狂った王子を中心に周囲がどんどん巻き込まれ狂わされていくようにしか見えなくて、俺は怖くて怖くて仕方がなかった。

けれどそんな俺とは違い、周囲の騎士達の意識は全く変わらなかった。
狂王子と呼んではいても、実際は無能としか思っていないから誰も気にしない。
敢えて言えば、ロキ王子の閨で一緒にカリン王子を抱いた連中は俺と同じく恐怖を覚えているように見えたくらいか…。

そしてとうとう王が討たれた。
いや、正確には退位に追い込まれたのだ。
誰あろう、息子の手によって────。

追い込んだのはカリン王子の手の者と協力者達。
つまりはロキ王子に傾倒している者達だ。
それは酷く衝撃的なことで、騎士達の間に大きな動揺が走った。

絶対君主である王が、無能と言われた王子に退位に追い込まれたのだ。
驚くなと言う方がおかしいだろう。
『俺達の王が…』と皆が皆、愕然としていた。
これからの未来に不安がよぎる。
自分達が信じてきたものがすべてなくなったも同然だったからだ。
それに加え、国際会議で刺客に狙われたとかなんとか聞かされ、戴冠にあたってロキ王子のために全員鍛え直すと騎士団長が言い出し、とばっちりがやってきた。
自分達からしたら踏んだり蹴ったりだ。
主を失ったのに何故主を追いやった王子のために頑張らねばならないのか。
そんな思いで皆不満を募らせ、訓練をしっかりやっているふりをしながら怒りを呑み込んだ。

そしてロキ王子は王の地位を簒奪し、やってきた結婚式の日、愛人であるカリン王子と結婚した。
国民達は尊い王族同士の結婚だと喜んでいたようだが、騎士達は違う。
無能が愛人と結婚した。ただそれだけの話でしかなかった。
めでたくもなんともないというのが本音だった。
とは言え仕事は仕事だ。
他国から沢山の祝い客が訪れる日。
警備に手を抜く気はない。
だから皆仕事はちゃんとしていたのだ。
サボってなんていなかった。
それなのに────まさか国王が攫われるなんて誰も思わないだろう?

姿が見えないなんていつものことだ。
あの王子──いや、もう王か──はいつだってフラッとどこかへ行ってしまう。
いなくなったって誰も探さない。
誰もあんな王を必要としていないんだから当然だ。
自分達の主は死んでしまったのだ。
そんな思いが抜けきっていなくて、カリン王子や騎士団長が命に代えても探し出せと言ってきても皆やる気なんて全く出なかった。
どうせそのうちひょっこり戻ってきますよとほとんどの者達が軽く考えていたのだ。
必死に探していたのはロキ陛下を慕っているとかいう一部の者達だけ。
とは言え、一応俺を始めロキ陛下の怖さを知っている者はちゃんと真面目には探していた。
万が一にでも後であの狂気が自分に向けられてはたまったものではないからだ。
けれどそのうちひょっこり戻ってくるという考えは俺の中にも確かにあって、その言葉通りロキ陛下は翌日には自力で城に帰ってきた。

問題だったのは自分の意志でいなくなっていたわけではなく、本当に攫われていて、且つ攫った相手が他国の王だったということ……。

その事実は俺達ガヴァムの騎士達全ての無能ぶりを諸外国に知らしめる結果となってしまった。

どうしてこうなったのだろう?
自分達の何が間違っていたのだろう?
誰か教えて欲しい。
きっとほとんどの騎士がそう思ったに違いない。
自分達はいつだって正しくて、仕事だってちゃんとしてきたつもりだったのに……。

そんな俺達の前に今、ロキ陛下が鞭を手に立っている。
騎士団長が鍛え直しだ!と言っていたのでボチボチやるかと思っていた矢先の出来事だ。
何やら怒ってやってきたようで、騎士団長に訓練メニューを取って来いと言っていた。

はっきり言ってこちらの領分に入ってくるなと皆が皆迷惑そうにしていた。
いくら相手が王と言えど、ここには反発心しか持っていない奴ばかりなので仕方がない。
皆うんざりした顔でそっと視線をそらし、さっさと帰れと言わんばかりの態度だった。
ちゃんと前を向いていたのは俺を始めとするロキ陛下の怖さを知っている者達くらいじゃないだろうか?

(イカレている奴から目を逸らすなんて怖い真似、できるわけねぇだろ)

そんな事をすれば嬲ってくださいと言っているようなものだ。
案の定、このイカレた王様はおかしなことを口にして恍惚とした表情で騎士達を言葉で嬲り始めた。

(怖ぇぇえっ!!)

俺や空気を読める奴らなんかはすぐさま気持ちを切り替えビシッと気合いを入れ直したが、血気盛んでこれまでロキ陛下を認めていなかった一部の騎士が舐められてたまるかと言わんばかりに声を上げてしまう。

「お言葉ですが陛下!我々は本職の騎士です!職務の逸脱はおやめください!」
「そうです!騎士には騎士の流儀があるのです!勝手な指導は迷惑です!」

そんな彼らに狂った王の目がゆっくりと向けられ、嗜虐的な笑みがその顔に広がり、その手の鞭が振るわれようとしたタイミングで……。

ザシュッ!!

「陛下。無礼者を粛清しておきました」

どこからか現れた男が鋭い剣閃を振るい、一瞬で騎士二人を斬り伏せてしまった。

「……カーク」

どうやらそれはロキ陛下の暗部だったらしい。

「殺したら使いものにならないだろう?勝手なことをするな」

気分が削がれたように暗部を叱るロキ陛下。
そんな主人に暗部が小犬のような眼差しを向け、「でも」と言葉を紡ぐ。

「急所は外してますよ。俺も貴方の役に立ちたいんです。使ってやって頂けませんか?」
「気持ちは有難く受け取っておくが、兄上の為に俺が決めたことだ。まだ下がっていろ」
「はっ」

そう言って渋々暗部は下がるがその目は主人を馬鹿にしたら許さないぞと言わんばかり。
あれでは小犬ではなく狂犬だ。
狂王の飼い犬なら仕方がないのか?

そして始まった地獄の猛特訓。
逃れられたのは斬り伏せられ医務室に運ばれていった二人の騎士だけだ。
ロキ陛下ははっきり言って鬼だった。
騎士団長の目さえ誤魔化せる『やっているふり』が全く通用しない。

「ああ、ここにもまた一人…俺に鞭打たれたがっていた者がいたな。気づかなくて悪かった」
「ひぃっ!!」

バシッ!と振るわれる鞭にビクッと震える者が続出する。
当然だ。
騎士とは剣で戦う者であって、鞭打たれることなんてまずないのだから。
そんなもの、慣れるはずがない。
でもロキ陛下のどこか優しい口調にこちらは反発する気持ちは削がれていくし、酷いことをされているはずなのに実に絶妙な鞭使いをされ、気づけばロキ陛下に陥落してしまっている者が大量発生していた。

「はぁはぁ…ヤバイ…気持ち良くなってきた気がする…」
「俺もだ…もっと頑張ったらもっと気持ち良くなりそうな気がしてきた…」
「鞭打ち…ヤバイ…ハマるぅ…」
「なんだよあの鞭…?絶対普通の鞭じゃないだろ…。ご褒美か……?」
「ロキ陛下の声にまで幸せを感じてきて、俺…おかしくなったのかも…」

(本気で怖い!怖すぎる!!)

あんな風になりたくはないと、被虐思考のない者達は泣きながら必死に訓練に励み始める。
泣き事なんて聞いてもらえない。
しっかり身を入れて訓練をこなさないと変態の仲間に引き込まれてしまう。
鞭打たれて悦びを感じるようにはなりたくない。
声にまで喜びを感じるなんて重傷だし、もっと御免だ。
そんな思いでひたすら頑張った。

それから何時間が経っただろうか?
死屍累々で地に伏せる者が続出しやっと得られた休憩時に、恐ろしいブルーグレイの王太子が王太子妃であるアルフレッドと訓練場にやってきて手合わせを始めた。

それはもうその名が広く知れ渡っているのも納得がいく素晴らしい剣技の数々で、俺達騎士は皆憧れの眼差しで魅入ってしまったほどだ。
けれどそんな中、ロキ陛下の口からとんでもない言葉がポツリと零れ落ちた。

「なるほど。あそこを目標にすればいいのか…」

それには流石に転がっていた者達もギョッとしたような目をし、無理無理と言わんばかりに蒼白になりながらブンブン首を振りまくっていた。
けれどこのイカレた王は笑顔で言うのだ。

「大丈夫だ。毎日は無理だが、あのレベルになれるよう俺が抜き打ちでちゃんと様子を見に来てやろう。兄上を死ぬ気で守れるよう、しっかり騎士の本分を全うしてくれ」

(できるか────!!)

きっと全員が全員心の中で同じ叫びをあげたことだろう。
あんな最高峰の剣技を一騎士がそう簡単に習得できるはずがないではないか。
騎士として憧れる気持ちはもちろんあるが、あれは目標とすべきものではない。
鑑賞して賛美すべきものだ。
それくらいわかってほしい。

けれどその後、ブルーグレイの王太子との会話で鬼畜な発言を繰り返したことから、どうやらこれは本気でヤバいと皆が皆思い直したらしく、慌てて疲れた身体に鞭打って起き上がり剣を手にして動き始めた。

強制労働に三~五年?しかも一日2食の粗末な飯?
規定量の採掘が終わらない限り帰ってこれないなんて絶対に御免だ!!

逃げたい────誰もが本心ではそう思っただろう。
けれどそれ以上に、今日一日でこの王から逃げる事は不可能なのだと思い知らされた。

絶対にこの王に逆らえば死ぬより辛い目に合わされる────。

ジワリと嫌な汗が滲み出て、逃れようのない選択肢を否応なく選ばされる。

(…もうやるしかない)

きっとカリン陛下を失ったらこの狂った王は嬉々として俺達に復讐を始め、皆殺しを始めるだろう。
俺達はそれだけの扱いをこれまでこの王にしてきたではないか。
どうして無事でいられると思い込んでいたのだろう?

そう考えて、初めて身震いしてしまった。
自分達に残された道は結局のところ一つしかないのだ。

これからは尊敬する王のためと言うよりも、このイカレた王の不興を買わぬよう精進し、唯一この狂王をコントロールできるであろうカリン陛下を命懸けで守らなければならない。
それこそが、唯一自分達に残された平和的に生きていくすべなのだ。

何としてでもカリン陛下を守り抜けるよう、本気で訓練に参加しこれからは真面目に鍛練に励もう────全ての騎士達はここにきてやっと一丸となり心を入れ替えたのだった。



****************

※騎士達の心境としては大体こんな感じです。
おいおい、そうじゃないだろ!とツッコミを入れたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、結果的に騎士達はロキの思った方向に頑張り始めました。
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