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57.国際会議㊷
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今日は午前だけではなく午後から帰る国賓も多い。
中には観光を兼ねて二、三日滞在する予定の者もいるが、結婚式が終わったのだから帰る者が多いのは当然と言えば当然だった。
「兄上。遅くなってすみません」
「ロキ!」
「ロキ陛下!」
兄が対応してくれていたところに俺が姿を現すと、どこかホッとした顔で俺を見てくる者が大勢いた。
そういった人々は恐らく自分達の暗部を持っている人達なんだろう。
もしかしたら俺が攫われたと知り、心配して帰る時間をわざわざ遅らせてくれていたのかもしれない。
ミラルカの王やロッシュ卿達なども多分そうだろう。
「昨日は折角のパーティーに最後まで参加できず申し訳ありませんでした」
「いやいや。祝い酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまうことは多々あることです。どうぞお気になさらず」
どうやら皆、真実は心に仕舞い、公になっている理由をそのまま事実として受け入れてくれるらしい。
非常に有難いことだ。
これで事を荒立てることなく平和的に収めることができる。
そうして順次感謝を込めて見送りを行っていると、セドリック王子が顔を出してくれた。
リヒターから聞いたが彼には随分今回の件でお世話になったらしい。
お礼を言いたいが、この場では難しいだろうか?
「ロキ陛下。今日は二日酔いもなく元気そうでよかった。酔い醒ましの夜の散歩は楽しめたか?」
「セドリック王子。ええ。御心配ありがとうございます。少し遠出をしてしまいましたが思いのほか楽しい散歩を堪能できました」
「そうか」
「今日はもうお帰りに?」
「いや。少し顔を見に寄っただけだ。できればロキ陛下のお勧めの場所にも足を運びたいし、二、三日世話になってから帰ろうと思う」
「そうですか。では是非楽しんで行ってください」
二、三日滞在してもらえるのならその間に御礼はできることだろう。
そんなことを思いながら話をしていると、帰り支度を整えたシャイナー陛下がこちらへと足早にやってきた。
「ロキ陛下!慌ただしいが、これから直ぐに国に帰り先程の話についての契約書を用意してくる。できるだけ早く戻ってくるつもりだ。どうか楽しみに待っていてほしい」
「ええ。焦らずお待ちしております」
ニコッと笑うとパアッと表情を輝かせてくるところがなんとも微笑ましい。
けれどそんな俺達二人を見て、そこにいた殆どの者達が目を白黒させて驚いていた。
恐らく多くの者達が今回の誘拐劇の犯人がシャイナーだと知っていたのだろう。
和やかなのが信じられないといった様子だ。
反応が違っていたのはセドリック王子くらいだろうか?
肩を震わせて笑っているから、相当おかしかったらしい。
「ロキ…?」
そんな俺の横で兄がギリギリと歯ぎしりしながらどういうことだと問い詰めるように低い声を出す。
制裁を加えたのではないのかと暗に言ってくるが、経済的な制裁はちゃんと加えているので安心してほしい。
「兄上。詳細は後できちんとご報告しますよ。それよりも寝ていないのでは?後で添い寝してあげるのできちんと寝てくださいね?」
「…………」
「ではシャイナー陛下。宜しくお願いしますね」
「ああ!ロキ陛下の為に必ずや全ての問題を片付けてみせよう。期待していてくれ」
「はい。ではお気をつけて」
颯爽と帰国していくシャイナーにその場にいた者達は唖然としている。
まるで嵐のようだ。
「…ロキ?刺客を放って構わないな?」
「ダメですよ、兄上。彼にはこれから沢山してもらうことがあるんですから」
「……俺じゃダメなのか?」
そんな捨てられた子犬のような目で訴えられても、他国の面倒臭いあれこれなんてなるべく兄にはさせたくはない。
ただでさえいつも仕事を手伝ってもらってばかりで苦労を掛けているのに。
「兄上?そんな可愛いことを言わないでください。兄上には俺を幸せにするという約束を守ってほしいです」
「ロキ…」
「王の仕事は兄上がいないとちっとも捗らないので、面倒なことは他に任せてできれば俺の隣でそちらを手伝ってほしいんですけど…ダメですか?」
「…わかった」
俺の言葉にどこか気恥ずかし気に視線をそらす兄が可愛い。
こんな兄が公的に俺のものになっただなんて、幸せ過ぎてたまらないのだが。
(まだ見送りも残っているし、我慢我慢)
早く虐めて可愛がってあげたいなと言う気持ちを抑え込み、笑顔で言葉を紡ぐ。
「さ、お祝いに来てくださった皆様に笑顔でお見送りをしましょうね」
そう言って普通に見送ったのだが、何故かこの件で彼らの俺への評価が上がったとかなんとか。
『王を攫われる間抜けなガヴァムの騎士達』とか『攫われた愚王』と呼ばれてもおかしくはなかったのに、意外にも『懐の深い交渉上手な賢王』と呼ばれて首を傾げてしまう。
(裏稼業の皆に教わった事を実行しただけだったんだけどな…?)
相手を惚れさせたらこっちの勝ちだ。
上手く使ってやれ。
俺が色々その手の手管を教えてやるよ。
そう言ってきたのは確かレンバーだ。
懐柔できそうな敵は飼い慣らせ。
資金が手に入れられる相手なら出来るだけ細く長く搾り取れ。
適度に甘い餌をチラつかせ、転がし続けろ。
飼い殺しにできれば最高だ。
殺すだけが敵を減らす手段だと思わないこった。
そしてこう言っていたのは確かトーシャスだったはず。
レンバーは明らかに面白がっていたし当時の俺でも言われている意味は何となく理解できたが、トーシャスの言っていたことは教えてもらった当初から意味が全く分からなかった。
敵は敵だし、王宮の中は悪意ある俺の敵ばかりで懐柔できるような者なんていなかった。
悪意を向けてくる者達を殺したいとまでは思わなかったけど、敵が減ればいいなとは思っていたので、何とか理解したいと当時は沢山考えたものだ。
(まあ結局わからなかったんだけどな)
でも今回の相手は元々俺に好意的で、敵は敵でも懐柔し易かった。
なんだったら味方であるはずの自国の騎士達よりもずっと好感が持てた。
おまけに一国の王だから使いやすい。
表立って敵対するより利用する方が無難だった。
だから不意に思い出したそれら二人から教わったことを合わせて実行してみただけだったんだが……。
(まあいいか)
別に害もないし、兄の迷惑にならなければそれでいいのかもしれない。
俺は兄と幸せになれればそれでいいのだから。
***
その後兄だけではなく宰相達を含め改めてシャイナーと話した内容について報告を入れておく。
「ここ半年ほどでだいぶ国の内情もわかってきていたので、アンシャンテに対して思いついた要求事項を全て呑ませておきました。これで十分制裁には繋がったでしょう。なので、特にこれ以上の罰を与える必要はないと思いますよ?」
「ロキ…」
「陛下…」
どこか苦々しい複雑そうな眼差しを向けられるが、俺がいいと言っているのだからここで妥協してほしい。
「こちらにも非はあったんですから、これで妥協してください」
「…………」
「もし追加で要求したいことがあればシャイナー陛下はすぐに戻ると言っていたのでその時にでもお話してはどうでしょう?」
「…………」
「それか急ぎで申し入れたいのであれば俺が向こうに行ってきても…」
「それはダメだ!!」
「そうですか?では待ちましょうか」
「……ロキ」
どこか不安げにしながら兄が上目遣いに俺を見上げてくる。
「あの男が気に入ったのか?」
「シャイナー陛下ですか?可愛らしい方ですよね」
「……!!」
「嫉妬しなくても別に俺は浮気をする気はありませんよ?」
「~~~~っ!」
「まあ騎士達なんかよりずっと俺を大事にしてくれるところに好感が持てたというだけの話です。行動力があって部下の指導もしっかりしているし、こちらの要求を真摯に聞いてくれて償いはすると言い、ちゃんと誠意も見せてくれました。機敏に動けるところも男らしくてまさに理想的な王と言った感じでしたし、俺とは大違…んんっ?!」
まだ話は途中だったのに、いきなり兄に引き寄せられてそれ以上喋るなとばかりにキスで口をふさがれてしまう。
「んっ…兄上?」
「ロキ。俺の前で他の男を褒めそやすな」
「別に褒めそやしたつもりは…」
単純に王らしい王を見たのでお手本にしようかなと思って口にしただけだったのに…。
けれど思いがけず兄から真剣な眼差しを向けられて途方に暮れる。
「……俺が甘かった。宰相。この先二度とロキを奪われないよう、城の者達全てに通達を出す。絶対に奪わせないよう情報局長配下の者達に特に強く働きかけろ!」
「はっ!」
「ロキ。お前はこの国の王だ。そして────なによりも俺のものだ。絶対に誰にも奪わせたりはしない」
「……?はい」
別に改めてそんなに強く宣言されなくても俺は兄上のものなんだけどなと思いながら首を傾げてしまう。
「騎士達は俺も視察に入って再度徹底的に全員鍛え直し、性根も叩き直させる」
「はあ。兄上を守ってくれるなら俺は何でも構いませんが?」
「『俺』ではなく『お前』を守らせるためにするんだ!!」
「え?でも俺は兄上が死んだらさっさとこの地位から降りますよ?兄上がいないなら俺がここに居続ける意味がないので、兄上は自身を一番大事にしてください」
兄はそれを聞くや否や苦々しい表情になったが、宰相に至っては顔面蒼白と言った感じだ。
「ロ、ロキ陛下はカリン陛下がお亡くなりになればこの国を見捨てる…と?」
「え?いらないですよね?別に。俺がいなくなっても王なんて残ったやりたい人がやればいいって確か以前似たような事を言ったような気が…」
(あれ?セドリック王子にしか言ってなかったっけ?まあいいか。遺言状には書いてるし、俺が生きてようと死んでようと王じゃなくなったら同じことだ)
兄が居なければ俺なんて別にここには必要ないだろうと軽く言ってやったら泣きそうな顔で縋られてしまった。
「へ、陛下!」
「そもそもセドリック王子に言われてなっただけの王ですし、今回のことがあってもなくても重要視されていないのは元々わかり切っていたので」
兄がいないのならこの国に用はない────。
はっきりと告げられたその言葉に、宰相の目に絶望的な色が浮かぶ。
今回のこともそうだが今までのことについても本当に悪かったと言われるけど、宰相に謝られても仕方がないので微笑で流す。
「取り敢えず兄上をしっかり守って頂けますか?」
その問い掛けに宰相は二つ返事でコクコクと頷いてくれる。
「当然です!なにがなんでもお守りいたします!」
「ええ。よろしくお願いします」
大事な兄に何かあってはいけないのでと今度は満面の笑みで言ったら、何故か泣きそうな顔で兄に抱き寄せられた。
そんな俺達を見てカーライルやリヒターの目にも涙が浮かんでいたらしいけど、俺にはどうして皆がそんな顔になるのかがさっぱりわからなかった。
中には観光を兼ねて二、三日滞在する予定の者もいるが、結婚式が終わったのだから帰る者が多いのは当然と言えば当然だった。
「兄上。遅くなってすみません」
「ロキ!」
「ロキ陛下!」
兄が対応してくれていたところに俺が姿を現すと、どこかホッとした顔で俺を見てくる者が大勢いた。
そういった人々は恐らく自分達の暗部を持っている人達なんだろう。
もしかしたら俺が攫われたと知り、心配して帰る時間をわざわざ遅らせてくれていたのかもしれない。
ミラルカの王やロッシュ卿達なども多分そうだろう。
「昨日は折角のパーティーに最後まで参加できず申し訳ありませんでした」
「いやいや。祝い酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまうことは多々あることです。どうぞお気になさらず」
どうやら皆、真実は心に仕舞い、公になっている理由をそのまま事実として受け入れてくれるらしい。
非常に有難いことだ。
これで事を荒立てることなく平和的に収めることができる。
そうして順次感謝を込めて見送りを行っていると、セドリック王子が顔を出してくれた。
リヒターから聞いたが彼には随分今回の件でお世話になったらしい。
お礼を言いたいが、この場では難しいだろうか?
「ロキ陛下。今日は二日酔いもなく元気そうでよかった。酔い醒ましの夜の散歩は楽しめたか?」
「セドリック王子。ええ。御心配ありがとうございます。少し遠出をしてしまいましたが思いのほか楽しい散歩を堪能できました」
「そうか」
「今日はもうお帰りに?」
「いや。少し顔を見に寄っただけだ。できればロキ陛下のお勧めの場所にも足を運びたいし、二、三日世話になってから帰ろうと思う」
「そうですか。では是非楽しんで行ってください」
二、三日滞在してもらえるのならその間に御礼はできることだろう。
そんなことを思いながら話をしていると、帰り支度を整えたシャイナー陛下がこちらへと足早にやってきた。
「ロキ陛下!慌ただしいが、これから直ぐに国に帰り先程の話についての契約書を用意してくる。できるだけ早く戻ってくるつもりだ。どうか楽しみに待っていてほしい」
「ええ。焦らずお待ちしております」
ニコッと笑うとパアッと表情を輝かせてくるところがなんとも微笑ましい。
けれどそんな俺達二人を見て、そこにいた殆どの者達が目を白黒させて驚いていた。
恐らく多くの者達が今回の誘拐劇の犯人がシャイナーだと知っていたのだろう。
和やかなのが信じられないといった様子だ。
反応が違っていたのはセドリック王子くらいだろうか?
肩を震わせて笑っているから、相当おかしかったらしい。
「ロキ…?」
そんな俺の横で兄がギリギリと歯ぎしりしながらどういうことだと問い詰めるように低い声を出す。
制裁を加えたのではないのかと暗に言ってくるが、経済的な制裁はちゃんと加えているので安心してほしい。
「兄上。詳細は後できちんとご報告しますよ。それよりも寝ていないのでは?後で添い寝してあげるのできちんと寝てくださいね?」
「…………」
「ではシャイナー陛下。宜しくお願いしますね」
「ああ!ロキ陛下の為に必ずや全ての問題を片付けてみせよう。期待していてくれ」
「はい。ではお気をつけて」
颯爽と帰国していくシャイナーにその場にいた者達は唖然としている。
まるで嵐のようだ。
「…ロキ?刺客を放って構わないな?」
「ダメですよ、兄上。彼にはこれから沢山してもらうことがあるんですから」
「……俺じゃダメなのか?」
そんな捨てられた子犬のような目で訴えられても、他国の面倒臭いあれこれなんてなるべく兄にはさせたくはない。
ただでさえいつも仕事を手伝ってもらってばかりで苦労を掛けているのに。
「兄上?そんな可愛いことを言わないでください。兄上には俺を幸せにするという約束を守ってほしいです」
「ロキ…」
「王の仕事は兄上がいないとちっとも捗らないので、面倒なことは他に任せてできれば俺の隣でそちらを手伝ってほしいんですけど…ダメですか?」
「…わかった」
俺の言葉にどこか気恥ずかし気に視線をそらす兄が可愛い。
こんな兄が公的に俺のものになっただなんて、幸せ過ぎてたまらないのだが。
(まだ見送りも残っているし、我慢我慢)
早く虐めて可愛がってあげたいなと言う気持ちを抑え込み、笑顔で言葉を紡ぐ。
「さ、お祝いに来てくださった皆様に笑顔でお見送りをしましょうね」
そう言って普通に見送ったのだが、何故かこの件で彼らの俺への評価が上がったとかなんとか。
『王を攫われる間抜けなガヴァムの騎士達』とか『攫われた愚王』と呼ばれてもおかしくはなかったのに、意外にも『懐の深い交渉上手な賢王』と呼ばれて首を傾げてしまう。
(裏稼業の皆に教わった事を実行しただけだったんだけどな…?)
相手を惚れさせたらこっちの勝ちだ。
上手く使ってやれ。
俺が色々その手の手管を教えてやるよ。
そう言ってきたのは確かレンバーだ。
懐柔できそうな敵は飼い慣らせ。
資金が手に入れられる相手なら出来るだけ細く長く搾り取れ。
適度に甘い餌をチラつかせ、転がし続けろ。
飼い殺しにできれば最高だ。
殺すだけが敵を減らす手段だと思わないこった。
そしてこう言っていたのは確かトーシャスだったはず。
レンバーは明らかに面白がっていたし当時の俺でも言われている意味は何となく理解できたが、トーシャスの言っていたことは教えてもらった当初から意味が全く分からなかった。
敵は敵だし、王宮の中は悪意ある俺の敵ばかりで懐柔できるような者なんていなかった。
悪意を向けてくる者達を殺したいとまでは思わなかったけど、敵が減ればいいなとは思っていたので、何とか理解したいと当時は沢山考えたものだ。
(まあ結局わからなかったんだけどな)
でも今回の相手は元々俺に好意的で、敵は敵でも懐柔し易かった。
なんだったら味方であるはずの自国の騎士達よりもずっと好感が持てた。
おまけに一国の王だから使いやすい。
表立って敵対するより利用する方が無難だった。
だから不意に思い出したそれら二人から教わったことを合わせて実行してみただけだったんだが……。
(まあいいか)
別に害もないし、兄の迷惑にならなければそれでいいのかもしれない。
俺は兄と幸せになれればそれでいいのだから。
***
その後兄だけではなく宰相達を含め改めてシャイナーと話した内容について報告を入れておく。
「ここ半年ほどでだいぶ国の内情もわかってきていたので、アンシャンテに対して思いついた要求事項を全て呑ませておきました。これで十分制裁には繋がったでしょう。なので、特にこれ以上の罰を与える必要はないと思いますよ?」
「ロキ…」
「陛下…」
どこか苦々しい複雑そうな眼差しを向けられるが、俺がいいと言っているのだからここで妥協してほしい。
「こちらにも非はあったんですから、これで妥協してください」
「…………」
「もし追加で要求したいことがあればシャイナー陛下はすぐに戻ると言っていたのでその時にでもお話してはどうでしょう?」
「…………」
「それか急ぎで申し入れたいのであれば俺が向こうに行ってきても…」
「それはダメだ!!」
「そうですか?では待ちましょうか」
「……ロキ」
どこか不安げにしながら兄が上目遣いに俺を見上げてくる。
「あの男が気に入ったのか?」
「シャイナー陛下ですか?可愛らしい方ですよね」
「……!!」
「嫉妬しなくても別に俺は浮気をする気はありませんよ?」
「~~~~っ!」
「まあ騎士達なんかよりずっと俺を大事にしてくれるところに好感が持てたというだけの話です。行動力があって部下の指導もしっかりしているし、こちらの要求を真摯に聞いてくれて償いはすると言い、ちゃんと誠意も見せてくれました。機敏に動けるところも男らしくてまさに理想的な王と言った感じでしたし、俺とは大違…んんっ?!」
まだ話は途中だったのに、いきなり兄に引き寄せられてそれ以上喋るなとばかりにキスで口をふさがれてしまう。
「んっ…兄上?」
「ロキ。俺の前で他の男を褒めそやすな」
「別に褒めそやしたつもりは…」
単純に王らしい王を見たのでお手本にしようかなと思って口にしただけだったのに…。
けれど思いがけず兄から真剣な眼差しを向けられて途方に暮れる。
「……俺が甘かった。宰相。この先二度とロキを奪われないよう、城の者達全てに通達を出す。絶対に奪わせないよう情報局長配下の者達に特に強く働きかけろ!」
「はっ!」
「ロキ。お前はこの国の王だ。そして────なによりも俺のものだ。絶対に誰にも奪わせたりはしない」
「……?はい」
別に改めてそんなに強く宣言されなくても俺は兄上のものなんだけどなと思いながら首を傾げてしまう。
「騎士達は俺も視察に入って再度徹底的に全員鍛え直し、性根も叩き直させる」
「はあ。兄上を守ってくれるなら俺は何でも構いませんが?」
「『俺』ではなく『お前』を守らせるためにするんだ!!」
「え?でも俺は兄上が死んだらさっさとこの地位から降りますよ?兄上がいないなら俺がここに居続ける意味がないので、兄上は自身を一番大事にしてください」
兄はそれを聞くや否や苦々しい表情になったが、宰相に至っては顔面蒼白と言った感じだ。
「ロ、ロキ陛下はカリン陛下がお亡くなりになればこの国を見捨てる…と?」
「え?いらないですよね?別に。俺がいなくなっても王なんて残ったやりたい人がやればいいって確か以前似たような事を言ったような気が…」
(あれ?セドリック王子にしか言ってなかったっけ?まあいいか。遺言状には書いてるし、俺が生きてようと死んでようと王じゃなくなったら同じことだ)
兄が居なければ俺なんて別にここには必要ないだろうと軽く言ってやったら泣きそうな顔で縋られてしまった。
「へ、陛下!」
「そもそもセドリック王子に言われてなっただけの王ですし、今回のことがあってもなくても重要視されていないのは元々わかり切っていたので」
兄がいないのならこの国に用はない────。
はっきりと告げられたその言葉に、宰相の目に絶望的な色が浮かぶ。
今回のこともそうだが今までのことについても本当に悪かったと言われるけど、宰相に謝られても仕方がないので微笑で流す。
「取り敢えず兄上をしっかり守って頂けますか?」
その問い掛けに宰相は二つ返事でコクコクと頷いてくれる。
「当然です!なにがなんでもお守りいたします!」
「ええ。よろしくお願いします」
大事な兄に何かあってはいけないのでと今度は満面の笑みで言ったら、何故か泣きそうな顔で兄に抱き寄せられた。
そんな俺達を見てカーライルやリヒターの目にも涙が浮かんでいたらしいけど、俺にはどうして皆がそんな顔になるのかがさっぱりわからなかった。
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