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54.国際会議㊴
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商人の馬車に揺られ特に問題が起こることなく王都へと戻ってきたので、そのまま裏ルートを通って城へと向かう。
「え?ここ、なんです?」
「地下道だけど?」
「どうしてこんな道、知ってるんですか?」
「裏稼業の男に教えてもらった」
この王都は古いだけあってあちらこちらにかなり古い地下道が張り巡らされている。
裏稼業の者達はそれを利用して追っ手を撒くのが定石だ。
だから自分もそれを昔教えてもらったのだ。
裏稼業の男はここを俺に教えてくれながら、頼むからやけっぱちで爆破だけはしないでくれよと笑い、クソ親を殺したくなったら自分に依頼してこいって頭を撫でてくれたのを覚えている。
ここを通れば城にだって入れるし、俺にとっては外と行き来するのに一番安全安心なルートと言えた。
俺は普段使うルートにくらいしか使っていないが、城内部にある秘密通路とこの地下道を利用すればおそらく王都で行けない場所はないのではないだろうか?
因みにいつも城を抜け出す時は第五分隊の者達が警備している付近の秘密通路を利用してこの地下道へと脱出している。
無関心を貫いてくれているからこそ、簡単に城を抜け出せるのだ。
ついでに言うと脱出ルートが一か所でないのもポイントだ。
足がつかないのでいくらでも利用できるし便利以外の何ものでもない。
「なぁっ?!滅茶苦茶危険じゃないですか!敵がそこから入り込んだらどうするんですか?!」
「大丈夫だ。基本的に裏稼業の者達は依頼がない限り城にまでは入ってこない」
「でも暗殺者が地下から入り放題ってことでしょう?!危険です!」
「わかってないな。だからこそ出入り口には罠があり、道には駆逐者がいるんじゃないか」
「駆逐者?」
「裏稼業の者達が定期的に見回っていて、合言葉を知らないと駆逐されるんだ。そうだな?トーシャス」
「おぅ!ぶっ壊れ野郎!来たな」
そこには顔見知りの男が笑顔で立っていた。
「もしかして上は大変なことになってるとか?」
「ああ。びっくりしたぜ?昨日いきなりお前が攫われたって聞いてよ」
「昔教わったことが役に立った。ありがとう」
「いいってことよ!ま、こっちもまさか王様がこんなに簡単に攫われるなんて思ってなかったから、今更あの時の知識を役立ててもらえるなんて思いもしなかったがな」
「ハハッ!確かに。でも追っ手からも逃げられたし、助かった」
「おう!やっぱ表の連中にゃあ俺達裏稼業ルートは追えねぇわなぁ。くくくっ」
まさか攫った王自身が裏ルートに精通しているなんて思いもよらなかっただろうよとトーシャスは楽しげに笑う。
「で?もう帰るのか?」
「ああ。兄上が心配だし、泣いてたら慰めてあげたい」
「そうか。ま、しゃーねぇな。じゃあ皆には俺からお前の無事を伝えておいてやるよ。落ち着いたらまた酒場に顔を出せよ?祝い酒を用意しておいてやるからな」
「ああ。ありがとう。闇医者にもよろしく言っておいてくれ。今回名を使わせてもらったからと」
「そうか」
結婚早々本当にツイてなかったなと大笑いされながら見送られ、俺はそのまま通り慣れた道を通って城へと戻った。
「よいしょっと」
「こんな場所に出るんですか…」
「そうだ。わかりにくくていいだろう?」
今日選んだ出口は複雑な柱が多々乱立している王宮内の通路だ。
そのうちの一つが地下道へと繋がっている。
「これはわからないですよ」
特段他の柱と見た目が変わらないので、知らないと絶対にそこが地下道に通じているなんて思いもしないだろう。
「さて…兄上はどこかな」
「そこはやっぱり兄君優先なんですね」
「当然だ。取り敢えず執務室かな?」
そう思いながら普通に回廊を歩き、どこか賑やかな空気を感じる執務室方面へと足を運ぶ。
「あ、兄上…」
執務室の前で何やら難しい顔で指示を出していた兄を発見し、思わずカッコいいなと見惚れながら声を上げてしまう。
すると思ったよりもその声はその場に響き、驚いたような顔がこちらへと向けられて、次の瞬間クシャリとその顔が歪んだ。
「ロキ!」
そのままこちらへと駆けこんで来ようとする兄を受け止めようと両手を広げかけたその時、急に横から身体全体を引っ張られて誰かの腕の中へと引き込まれた。
「……リヒター。俺と兄上の再会の邪魔をするな」
俺を横から抱きしめたのは意外なことにリヒターで、思わずそんな言葉を口にしてしまったのだが、その身体が微かに震えていることに気づいたので叱るのはやめにして、代わりに宥めるようにポンポンと背を叩いてやる。
「お前にも心配をかけたな。すまなかった」
「……いいえ。こちらこそ…お守りできずすみませんでした。この咎は後でいくらでも…」
「ああ。そんなに思い詰めるな」
やっぱりリヒターにも相当心配をかけてしまったようなので、そこはきちんと謝罪して宥めておいた。
あまり思い詰められて居なくなられたら困る。
でもそんな俺達に兄の方は激怒していた。
「リヒター!今すぐロキから離れろ!」
「兄上…」
「ロキ!お前もそんな役立たずは突き飛ばしてしまえ!」
「兄上?リヒターは役立たずなんかじゃないですよ?」
「役立たずじゃないか!肝心な時にお前を守れない近衛騎士など必要ない!」
「全く…。それを言うなら他の近衛騎士に言ってください。リヒター程俺のために動いてくれる騎士も早々いませんよ?それにこうして心底心配してくれる騎士なんて他にはいないんですから、間違ってもクビにはしないでくださいね?」
「~~~~っ!」
「リヒター。落ち着いたら離れてくれないか?兄上にも無事を伝えたい」
「はい。申し訳ありません」
そう言ってリヒターが緩々と離れてくれたので再度兄に向き合い笑顔で帰還報告を入れる。
「兄上。心配を掛けてすみませんでした。無事に帰ったので許してくださいね?」
「ロキ!」
今度こそしっかりと兄を抱きしめながら優しく声を掛けると、兄はグスグスと可愛く泣き始めた。
「良かった…。ロキ…。無事で本当に…うっ…」
そうして一頻り感動の再会を終えたところで、騎士団長からおずおずと俺に声が掛けられる。
「その…ロキ陛下?一体どこからお戻りで?」
城門から通用門まで出入り口は全て騎士を配備し、乗り越えられそうな壁などにも全て監視を置いていたのに、一体どうやって誰の目にもとまらぬようここまでやってきたのかと問われ、きょとんとしてしまう。
「普通にいつものルートからだが?」
「いつものルート…とは?」
「……それは秘密だ」
城内にある地下へのルートは自分が知る限り12か所ほどあるが、それをこのタイミングでわざわざ口にして教えてやるほど自分は間抜けではない。
あそこはある意味自分の生命線だ。
万が一の場合兄を連れ城の外に逃げる時にも使えるルートだ。
だからこそ余程信用を置ける相手にしか教える気はない。
カーライルにもそこはきちんと口を噤むよう命じておいたしそう簡単に口は割らないだろう。
気になるなら自分達で勝手に探してほしい。
そんな思いで秘密だと言ったのに、それで納得してくれるような騎士団長ではなく、煩いほどに問い詰められる。
「陛下!それでは我々城を守る騎士の立場がないではありませんか!」
まあ言いたいことはよくわかる。
自分達の知らない出入り口などあったら危険だと誰だって思うだろう。
けれど…それを俺に吐かせようとするのは間違いだ。
「そうは言ってもこれは俺が独自で知り得たルートだからな。そう簡単に教える気はない」
「ですがそれではいざという時、我々が陛下をお守りすることもできません!」
いざという時は兄を守ってくれればいいから、これまで通り俺の事なんて気にしなければいいだろうに。
おかしな事を言うものだ。
「騎士団長…いくら言っても無駄だ。そもそも俺はこれまでこの城の中で守ってもらった試しがないし、単独で外に出てもわざわざ捜索されたことは一度もない。今更だし、その件についてとやかく言うつもりは毛頭ないが、あっさり攫われたのも案外そんな普段の騎士達の心持ちが原因じゃないのか?大体今回以上のいざという時なんてそうあるものじゃない。今回は無事だったが俺が殺されていたとしてもお前達はどうせ力及ばずと言って項垂れただけだっただろう。違うか?」
「うっ…!」
これまでがこれまでだったから、騎士団長も図星を指されて何も言えなくなる。
「別にお前達が無能だと言っているわけじゃない。俺のことは兎も角、兄上だけはしっかり守ってあげて欲しいし、城の警備はこれまで以上にしっかりやってほしい。俺が望むのはただそれだけだ」
「…………御身を守る必要はないと?」
「他国に行っている時なら兎も角、ここでは無理だろう?兄上さえ守ってくれればそれでいい」
俺だって王になったからと言って無理な事を要求する気はない。
「貴方はこの国の王なのですよ?」
「ああ。そうだな」
「そんな貴方があっさりと攫われて、我々が何も考えないとお思いか!!」
俺の言葉に騎士団長は遣る瀬無いような表情を浮かべ、激高したように叫んだ。
けれど今更そんな風に気に掛けてもらっても俺の心は全く動きはしない。
幼い頃からの積み重ねで、この城はただの住処なだけで自分を守ってくれる場所ではないという意識が強いのだ。
騎士達に俺が期待することなどこれから先もおそらくないだろう。
この城の中で俺が信じているのは兄とリヒターと新しく加わったカーライルくらいだろうか?
俺は俺自身を必要としてくれる者だけが側に居てくれればそれでいい。
騎士達は精々自分達が守りたい者を守っていればいいのだ。
それは兄であるべきで、俺ではない。
「気持ちは嬉しいが、実を伴わなければいくら言おうと無意味だとわからないか?」
「…………」
「この国の騎士は考え方も古いし、ここ最近は外敵もいないせいか鍛錬だっておざなりだ。新しい技術も、新しい兵法も、新しい特訓法も何も学ぼうとはしていないだろう?そもそも兄上がアルフレッドを獲得しようとブルーグレイで考えたのはお前達のその怠慢にこそ原因があったのではないか?」
いつまでもしつこい騎士団長との話を切り上げるために俺は次々と言葉の刃を振りかざす。
「ああ、責任を取って騎士団長自ら辞めるという言葉は一切受け付けないぞ?そんなことをされてもこの城にいる騎士達の中身は何も変わりはしないからな」
「…………では私に一体どうしろと?」
「そうだな…どうすれば今以上に兄上を守れるのか考えてみてはどうだ?ついでに他の騎士達からも幅広く意見を募ってみるといい。良い意見があれば採用させてもらうとしよう。連中には機敏に動くことができないなら精々頭を使えと言っておけ。それさえできないなら強制労働行きだと伝えろ」
「は、栄えある騎士が……きょ、強制労働……?」
「これをもって騎士達に今回の責任を取らせることとする。いいな?」
あまりにもしつこいから心持ち少し声が冷たくなってしまったではないか。
俺は兄上さえ守ってもらえれば文句はないんだから、強制労働行きになりたくなければ黙って鍛錬でもしておいてほしい。
「陛下…そのお言葉、しかと胸に刻ませて頂きます。不肖このトルネード=ハインリヒが必ずや陛下のご期待に添えてみせましょう」
「そうか。期待している」
「はっ!お前達!外に放っていた連中を全て呼び戻せ!今すぐにだ!」
「ははっ!」
やっと解放された。
どうやら外に出していた騎士達を呼び戻してすぐさま収拾を図ることにしたらしい。
今回のことを教訓に一から鍛え直して、この先これまで以上に兄をしっかりと守ってあげてほしいものだ。
それよりも……。
「ええと…兄上?リヒター?」
逃がさないぞと言わんばかりに両側から握られた手に、俺は困惑するしかなかったのだった。
「え?ここ、なんです?」
「地下道だけど?」
「どうしてこんな道、知ってるんですか?」
「裏稼業の男に教えてもらった」
この王都は古いだけあってあちらこちらにかなり古い地下道が張り巡らされている。
裏稼業の者達はそれを利用して追っ手を撒くのが定石だ。
だから自分もそれを昔教えてもらったのだ。
裏稼業の男はここを俺に教えてくれながら、頼むからやけっぱちで爆破だけはしないでくれよと笑い、クソ親を殺したくなったら自分に依頼してこいって頭を撫でてくれたのを覚えている。
ここを通れば城にだって入れるし、俺にとっては外と行き来するのに一番安全安心なルートと言えた。
俺は普段使うルートにくらいしか使っていないが、城内部にある秘密通路とこの地下道を利用すればおそらく王都で行けない場所はないのではないだろうか?
因みにいつも城を抜け出す時は第五分隊の者達が警備している付近の秘密通路を利用してこの地下道へと脱出している。
無関心を貫いてくれているからこそ、簡単に城を抜け出せるのだ。
ついでに言うと脱出ルートが一か所でないのもポイントだ。
足がつかないのでいくらでも利用できるし便利以外の何ものでもない。
「なぁっ?!滅茶苦茶危険じゃないですか!敵がそこから入り込んだらどうするんですか?!」
「大丈夫だ。基本的に裏稼業の者達は依頼がない限り城にまでは入ってこない」
「でも暗殺者が地下から入り放題ってことでしょう?!危険です!」
「わかってないな。だからこそ出入り口には罠があり、道には駆逐者がいるんじゃないか」
「駆逐者?」
「裏稼業の者達が定期的に見回っていて、合言葉を知らないと駆逐されるんだ。そうだな?トーシャス」
「おぅ!ぶっ壊れ野郎!来たな」
そこには顔見知りの男が笑顔で立っていた。
「もしかして上は大変なことになってるとか?」
「ああ。びっくりしたぜ?昨日いきなりお前が攫われたって聞いてよ」
「昔教わったことが役に立った。ありがとう」
「いいってことよ!ま、こっちもまさか王様がこんなに簡単に攫われるなんて思ってなかったから、今更あの時の知識を役立ててもらえるなんて思いもしなかったがな」
「ハハッ!確かに。でも追っ手からも逃げられたし、助かった」
「おう!やっぱ表の連中にゃあ俺達裏稼業ルートは追えねぇわなぁ。くくくっ」
まさか攫った王自身が裏ルートに精通しているなんて思いもよらなかっただろうよとトーシャスは楽しげに笑う。
「で?もう帰るのか?」
「ああ。兄上が心配だし、泣いてたら慰めてあげたい」
「そうか。ま、しゃーねぇな。じゃあ皆には俺からお前の無事を伝えておいてやるよ。落ち着いたらまた酒場に顔を出せよ?祝い酒を用意しておいてやるからな」
「ああ。ありがとう。闇医者にもよろしく言っておいてくれ。今回名を使わせてもらったからと」
「そうか」
結婚早々本当にツイてなかったなと大笑いされながら見送られ、俺はそのまま通り慣れた道を通って城へと戻った。
「よいしょっと」
「こんな場所に出るんですか…」
「そうだ。わかりにくくていいだろう?」
今日選んだ出口は複雑な柱が多々乱立している王宮内の通路だ。
そのうちの一つが地下道へと繋がっている。
「これはわからないですよ」
特段他の柱と見た目が変わらないので、知らないと絶対にそこが地下道に通じているなんて思いもしないだろう。
「さて…兄上はどこかな」
「そこはやっぱり兄君優先なんですね」
「当然だ。取り敢えず執務室かな?」
そう思いながら普通に回廊を歩き、どこか賑やかな空気を感じる執務室方面へと足を運ぶ。
「あ、兄上…」
執務室の前で何やら難しい顔で指示を出していた兄を発見し、思わずカッコいいなと見惚れながら声を上げてしまう。
すると思ったよりもその声はその場に響き、驚いたような顔がこちらへと向けられて、次の瞬間クシャリとその顔が歪んだ。
「ロキ!」
そのままこちらへと駆けこんで来ようとする兄を受け止めようと両手を広げかけたその時、急に横から身体全体を引っ張られて誰かの腕の中へと引き込まれた。
「……リヒター。俺と兄上の再会の邪魔をするな」
俺を横から抱きしめたのは意外なことにリヒターで、思わずそんな言葉を口にしてしまったのだが、その身体が微かに震えていることに気づいたので叱るのはやめにして、代わりに宥めるようにポンポンと背を叩いてやる。
「お前にも心配をかけたな。すまなかった」
「……いいえ。こちらこそ…お守りできずすみませんでした。この咎は後でいくらでも…」
「ああ。そんなに思い詰めるな」
やっぱりリヒターにも相当心配をかけてしまったようなので、そこはきちんと謝罪して宥めておいた。
あまり思い詰められて居なくなられたら困る。
でもそんな俺達に兄の方は激怒していた。
「リヒター!今すぐロキから離れろ!」
「兄上…」
「ロキ!お前もそんな役立たずは突き飛ばしてしまえ!」
「兄上?リヒターは役立たずなんかじゃないですよ?」
「役立たずじゃないか!肝心な時にお前を守れない近衛騎士など必要ない!」
「全く…。それを言うなら他の近衛騎士に言ってください。リヒター程俺のために動いてくれる騎士も早々いませんよ?それにこうして心底心配してくれる騎士なんて他にはいないんですから、間違ってもクビにはしないでくださいね?」
「~~~~っ!」
「リヒター。落ち着いたら離れてくれないか?兄上にも無事を伝えたい」
「はい。申し訳ありません」
そう言ってリヒターが緩々と離れてくれたので再度兄に向き合い笑顔で帰還報告を入れる。
「兄上。心配を掛けてすみませんでした。無事に帰ったので許してくださいね?」
「ロキ!」
今度こそしっかりと兄を抱きしめながら優しく声を掛けると、兄はグスグスと可愛く泣き始めた。
「良かった…。ロキ…。無事で本当に…うっ…」
そうして一頻り感動の再会を終えたところで、騎士団長からおずおずと俺に声が掛けられる。
「その…ロキ陛下?一体どこからお戻りで?」
城門から通用門まで出入り口は全て騎士を配備し、乗り越えられそうな壁などにも全て監視を置いていたのに、一体どうやって誰の目にもとまらぬようここまでやってきたのかと問われ、きょとんとしてしまう。
「普通にいつものルートからだが?」
「いつものルート…とは?」
「……それは秘密だ」
城内にある地下へのルートは自分が知る限り12か所ほどあるが、それをこのタイミングでわざわざ口にして教えてやるほど自分は間抜けではない。
あそこはある意味自分の生命線だ。
万が一の場合兄を連れ城の外に逃げる時にも使えるルートだ。
だからこそ余程信用を置ける相手にしか教える気はない。
カーライルにもそこはきちんと口を噤むよう命じておいたしそう簡単に口は割らないだろう。
気になるなら自分達で勝手に探してほしい。
そんな思いで秘密だと言ったのに、それで納得してくれるような騎士団長ではなく、煩いほどに問い詰められる。
「陛下!それでは我々城を守る騎士の立場がないではありませんか!」
まあ言いたいことはよくわかる。
自分達の知らない出入り口などあったら危険だと誰だって思うだろう。
けれど…それを俺に吐かせようとするのは間違いだ。
「そうは言ってもこれは俺が独自で知り得たルートだからな。そう簡単に教える気はない」
「ですがそれではいざという時、我々が陛下をお守りすることもできません!」
いざという時は兄を守ってくれればいいから、これまで通り俺の事なんて気にしなければいいだろうに。
おかしな事を言うものだ。
「騎士団長…いくら言っても無駄だ。そもそも俺はこれまでこの城の中で守ってもらった試しがないし、単独で外に出てもわざわざ捜索されたことは一度もない。今更だし、その件についてとやかく言うつもりは毛頭ないが、あっさり攫われたのも案外そんな普段の騎士達の心持ちが原因じゃないのか?大体今回以上のいざという時なんてそうあるものじゃない。今回は無事だったが俺が殺されていたとしてもお前達はどうせ力及ばずと言って項垂れただけだっただろう。違うか?」
「うっ…!」
これまでがこれまでだったから、騎士団長も図星を指されて何も言えなくなる。
「別にお前達が無能だと言っているわけじゃない。俺のことは兎も角、兄上だけはしっかり守ってあげて欲しいし、城の警備はこれまで以上にしっかりやってほしい。俺が望むのはただそれだけだ」
「…………御身を守る必要はないと?」
「他国に行っている時なら兎も角、ここでは無理だろう?兄上さえ守ってくれればそれでいい」
俺だって王になったからと言って無理な事を要求する気はない。
「貴方はこの国の王なのですよ?」
「ああ。そうだな」
「そんな貴方があっさりと攫われて、我々が何も考えないとお思いか!!」
俺の言葉に騎士団長は遣る瀬無いような表情を浮かべ、激高したように叫んだ。
けれど今更そんな風に気に掛けてもらっても俺の心は全く動きはしない。
幼い頃からの積み重ねで、この城はただの住処なだけで自分を守ってくれる場所ではないという意識が強いのだ。
騎士達に俺が期待することなどこれから先もおそらくないだろう。
この城の中で俺が信じているのは兄とリヒターと新しく加わったカーライルくらいだろうか?
俺は俺自身を必要としてくれる者だけが側に居てくれればそれでいい。
騎士達は精々自分達が守りたい者を守っていればいいのだ。
それは兄であるべきで、俺ではない。
「気持ちは嬉しいが、実を伴わなければいくら言おうと無意味だとわからないか?」
「…………」
「この国の騎士は考え方も古いし、ここ最近は外敵もいないせいか鍛錬だっておざなりだ。新しい技術も、新しい兵法も、新しい特訓法も何も学ぼうとはしていないだろう?そもそも兄上がアルフレッドを獲得しようとブルーグレイで考えたのはお前達のその怠慢にこそ原因があったのではないか?」
いつまでもしつこい騎士団長との話を切り上げるために俺は次々と言葉の刃を振りかざす。
「ああ、責任を取って騎士団長自ら辞めるという言葉は一切受け付けないぞ?そんなことをされてもこの城にいる騎士達の中身は何も変わりはしないからな」
「…………では私に一体どうしろと?」
「そうだな…どうすれば今以上に兄上を守れるのか考えてみてはどうだ?ついでに他の騎士達からも幅広く意見を募ってみるといい。良い意見があれば採用させてもらうとしよう。連中には機敏に動くことができないなら精々頭を使えと言っておけ。それさえできないなら強制労働行きだと伝えろ」
「は、栄えある騎士が……きょ、強制労働……?」
「これをもって騎士達に今回の責任を取らせることとする。いいな?」
あまりにもしつこいから心持ち少し声が冷たくなってしまったではないか。
俺は兄上さえ守ってもらえれば文句はないんだから、強制労働行きになりたくなければ黙って鍛錬でもしておいてほしい。
「陛下…そのお言葉、しかと胸に刻ませて頂きます。不肖このトルネード=ハインリヒが必ずや陛下のご期待に添えてみせましょう」
「そうか。期待している」
「はっ!お前達!外に放っていた連中を全て呼び戻せ!今すぐにだ!」
「ははっ!」
やっと解放された。
どうやら外に出していた騎士達を呼び戻してすぐさま収拾を図ることにしたらしい。
今回のことを教訓に一から鍛え直して、この先これまで以上に兄をしっかりと守ってあげてほしいものだ。
それよりも……。
「ええと…兄上?リヒター?」
逃がさないぞと言わんばかりに両側から握られた手に、俺は困惑するしかなかったのだった。
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