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52.国際会議㊲ Side.カリン王子
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ロキの行方が分からなくなって4時間ほどが経過した。
パーティー会場の方が混乱しないよう配慮し、一応ロキは悪酔いしたので休んでいるということにしておいた。
これなら俺が何度か席を外しても不審に思われにくいし、下がる時も下がりやすいだろうという宰相と相談した上での判断からだ。
けれどそうやって誤魔化しがきくのも今だけだろう。
どこの上層部も自分のルートで暗部を飼っている。
情報がいつ出回っても全くおかしくはない。
「こっちも暗部を使って調べてみたけど、特に怪しい人物は見てないって」
「そうか…。俺の方も色々手を尽くして調べてみたがやはりロキの姿がどこにもない」
騎士団長指揮の元、城下にも捜索の手は伸ばしてみたものの、これといって手掛かりに繋がるような報告は入ってきてはいない。
念のためロキの知り合いである闇医者とコンタクトもとってみたが、そちらにもやはり接触はなかったらしい。
ここまで手掛かりがないのでは追い掛けようがない。
八方塞がりだと焦燥感に駆られていると、突然セドリック王子から話しかけられ、飛び上がってしまう。
「カリン王子。少しいいだろうか?」
「あ…う……」
心臓がバクバク鳴って息が苦しい。
今ここにいつも助けてくれるロキはいないのに…。
そう思っていると、セドリック王子の口からあり得ない言葉が飛び出してきた。
「ロキ陛下の件について、情報を共有したい」
ヒュッ…と思わず息を呑む。
もしやロキはブルーグレイの何かしらの問題に巻き込まれたのではと思ったからだ。
でなければわざわざ向こうから俺に話しかけてくるはずがない。
そう考えてなんとかグッと腹に力を入れて、深呼吸を行い気をしっかりと持ち直した。
「…聞かせてもらおう」
そうして一先ず別室へと移動し、俺とレオナルド皇子、セドリック王子、アルフレッドの四人で話す事に。
二人でと言われたらきっと思考が停止してしまっただろうが、レオナルド皇子とアルフレッドがいる事で幾分気が楽にはなった。
だからきっと大丈夫だ。
そんな気持ちで話を聞いたのだけれど……。
「シャイナー王が犯人だと?!」
その言葉にガタッと思わず席を立ってしまう。
どうして他国の王がロキをと思考が混乱する。
けれど続く言葉に思わず絶句してしまった。
「シャイナーは教会でカリン王子を抱くロキを見て、欲しくなったらしい」
「…………は?」
国の利の為とか、何らかの交渉のためとかそういった思惑からではないと聞き、驚き過ぎて思考がうまく働かない。
けれどそんな自分をなんとか引き戻したのはレオナルド皇子の一言だった。
「ロキ陛下、モッテモテだね。俺もロキ陛下にならちょっと可愛がられたいなって思ったことがあるし、気持ちもわからないではないなぁ」
「……っ?!なっ…!」
「あ、もちろん今は友情100%だからご心配なく」
「~~~~っ!!」
本当だろうなと思わず思い切り睨みつけてしまうがレオナルド皇子は飄々としていて全く堪えた様子を見せない。
そんな俺達にセドリック王子が暗部から手に入れたという情報を共有してくれる。
「既にロキの身柄はここから遠く離れた山の側だ。護衛騎士が誰もついていなかったのがあだになったな。暗部が一人近くにいた騎士に声を掛けてから追っていったようだが、その後は連絡手段がないようでついていくしかできなかったようだ」
「う…」
「まあそのあたりは言っても仕方がない。だが……この先事態は動くぞ?」
「と言うと?」
「ロキが脱出したと先程報告が入った」
「……え?」
それは暗部に助けられてということだろうか?
まあ普通に考えれば当然そうだろう。
気絶したロキが目覚めたタイミングで馬車から脱出と言うのは妥当な判断ではある。
無難に行くなら追っ手を躱しながら目立たない宿などでやり過ごし、救助を待つといったところか。
「それならすぐに迎えを…!」
けれど、これまた予想外なことにロキは自力で行動し始めたらしい。
「いや。それは必要ない。あの男は本当に面白くてな…」
セドリック王子の話によるとロキは走る馬車から上手く脱出した後、山中で月華と言う薬効を持つ植物をゲットし街まで移動。
そこで薬師ギルドに入りそれを売り払って金を作ったらしい。
「……逞しいな」
「その後酒場で裏カジノの情報を得て裏カジノに潜入。資金を稼いだ上に裏家業の者を味方につけて裏の者専用の宿を紹介してもらったらしい。あいつは本当に王族か?あれは流石に俺でも無理だぞ?」
「……ロキ」
それを聞いて俺はガックリと脱力してしまうが、無事でよかったという安心感で胸がいっぱいになる。
それもこれも裏稼業の者達との縁のお陰だろうか。
今回に限っては非常に助かった。
「まあそういうことで、逃げ出したとしてもあれなら捕まることなく自力でここまで帰ってこれるだろう」
「ああ」
その宿の安全性はどうか知らないが、一般的な宿でないことは確かだ。
ロキを攫ったアンシャンテの手の者もまさかロキが裏に精通しているなんて思いもしないだろうし、きっと表の宿の方を中心に捜索することだろう。
見つかる可能性は低い。
「ということは…」
「そうだ」
俺達がすることはロキを救出することではない。
「アンシャンテのシャイナー王を捕縛しなければならないということか…」
「ああ」
とは言え相手は他国の王だ。
安易に拘束するなど不可能に近い。
余程の証拠を揃えなければまず無理だ。
「どうすれば…」
そんな俺にセドリック王子がなんでもないことのようにあっさりと言ってくる。
「どうせそろそろロキが逃げたと報告が入る頃だ。暗部に見張らせておけばいい」
「それで尻尾を出すと?」
「ああ。だが暗部の証言だけでは難しいだろう。だからこのシャメルとこちらの機器…ロックオンを貸してやろう。短時間なら映像を撮ることが可能だ」
「……これは」
「使い方は簡単だ。精々上手く使って証拠を固めろ。俺が手を貸してやるのはここまでだ」
「あ……」
「ロキに言っておけ。これで貸し一つだとな」
「あり…ありがとう、ございます」
自分一人ならこんなに早くロキを攫った相手を特定する事は出来なかった。
セドリック王子の協力なくして真相を知ることも、ロキの行方を突き止めることもできなかったに違いない。
だからこそ悔しく、けれど心底からの感謝しかなかった。
複雑な思いを抑え込みギュッと拳を強く握りしめる。
たとえこれでセドリック王子に貸しができたとしても、ロキの安否には代えられないのだから。
「マクロス。頼んだ」
「はっ」
暗部に指示を出し、セドリック王子から預かった機器を手渡しシャイナーの元へと速やかに向かわせる。
あちらにも暗部はいるだろうが、きっと上手く陽動して証拠を押さえてきてくれるだろう。
(ロキ。お前が帰る頃には全て終わらせておいてやるからな)
そう思いながら改めて対策を考えるため主要なメンバーへの招集を命じ、事態の収拾へと動き始めた。
パーティー会場の方が混乱しないよう配慮し、一応ロキは悪酔いしたので休んでいるということにしておいた。
これなら俺が何度か席を外しても不審に思われにくいし、下がる時も下がりやすいだろうという宰相と相談した上での判断からだ。
けれどそうやって誤魔化しがきくのも今だけだろう。
どこの上層部も自分のルートで暗部を飼っている。
情報がいつ出回っても全くおかしくはない。
「こっちも暗部を使って調べてみたけど、特に怪しい人物は見てないって」
「そうか…。俺の方も色々手を尽くして調べてみたがやはりロキの姿がどこにもない」
騎士団長指揮の元、城下にも捜索の手は伸ばしてみたものの、これといって手掛かりに繋がるような報告は入ってきてはいない。
念のためロキの知り合いである闇医者とコンタクトもとってみたが、そちらにもやはり接触はなかったらしい。
ここまで手掛かりがないのでは追い掛けようがない。
八方塞がりだと焦燥感に駆られていると、突然セドリック王子から話しかけられ、飛び上がってしまう。
「カリン王子。少しいいだろうか?」
「あ…う……」
心臓がバクバク鳴って息が苦しい。
今ここにいつも助けてくれるロキはいないのに…。
そう思っていると、セドリック王子の口からあり得ない言葉が飛び出してきた。
「ロキ陛下の件について、情報を共有したい」
ヒュッ…と思わず息を呑む。
もしやロキはブルーグレイの何かしらの問題に巻き込まれたのではと思ったからだ。
でなければわざわざ向こうから俺に話しかけてくるはずがない。
そう考えてなんとかグッと腹に力を入れて、深呼吸を行い気をしっかりと持ち直した。
「…聞かせてもらおう」
そうして一先ず別室へと移動し、俺とレオナルド皇子、セドリック王子、アルフレッドの四人で話す事に。
二人でと言われたらきっと思考が停止してしまっただろうが、レオナルド皇子とアルフレッドがいる事で幾分気が楽にはなった。
だからきっと大丈夫だ。
そんな気持ちで話を聞いたのだけれど……。
「シャイナー王が犯人だと?!」
その言葉にガタッと思わず席を立ってしまう。
どうして他国の王がロキをと思考が混乱する。
けれど続く言葉に思わず絶句してしまった。
「シャイナーは教会でカリン王子を抱くロキを見て、欲しくなったらしい」
「…………は?」
国の利の為とか、何らかの交渉のためとかそういった思惑からではないと聞き、驚き過ぎて思考がうまく働かない。
けれどそんな自分をなんとか引き戻したのはレオナルド皇子の一言だった。
「ロキ陛下、モッテモテだね。俺もロキ陛下にならちょっと可愛がられたいなって思ったことがあるし、気持ちもわからないではないなぁ」
「……っ?!なっ…!」
「あ、もちろん今は友情100%だからご心配なく」
「~~~~っ!!」
本当だろうなと思わず思い切り睨みつけてしまうがレオナルド皇子は飄々としていて全く堪えた様子を見せない。
そんな俺達にセドリック王子が暗部から手に入れたという情報を共有してくれる。
「既にロキの身柄はここから遠く離れた山の側だ。護衛騎士が誰もついていなかったのがあだになったな。暗部が一人近くにいた騎士に声を掛けてから追っていったようだが、その後は連絡手段がないようでついていくしかできなかったようだ」
「う…」
「まあそのあたりは言っても仕方がない。だが……この先事態は動くぞ?」
「と言うと?」
「ロキが脱出したと先程報告が入った」
「……え?」
それは暗部に助けられてということだろうか?
まあ普通に考えれば当然そうだろう。
気絶したロキが目覚めたタイミングで馬車から脱出と言うのは妥当な判断ではある。
無難に行くなら追っ手を躱しながら目立たない宿などでやり過ごし、救助を待つといったところか。
「それならすぐに迎えを…!」
けれど、これまた予想外なことにロキは自力で行動し始めたらしい。
「いや。それは必要ない。あの男は本当に面白くてな…」
セドリック王子の話によるとロキは走る馬車から上手く脱出した後、山中で月華と言う薬効を持つ植物をゲットし街まで移動。
そこで薬師ギルドに入りそれを売り払って金を作ったらしい。
「……逞しいな」
「その後酒場で裏カジノの情報を得て裏カジノに潜入。資金を稼いだ上に裏家業の者を味方につけて裏の者専用の宿を紹介してもらったらしい。あいつは本当に王族か?あれは流石に俺でも無理だぞ?」
「……ロキ」
それを聞いて俺はガックリと脱力してしまうが、無事でよかったという安心感で胸がいっぱいになる。
それもこれも裏稼業の者達との縁のお陰だろうか。
今回に限っては非常に助かった。
「まあそういうことで、逃げ出したとしてもあれなら捕まることなく自力でここまで帰ってこれるだろう」
「ああ」
その宿の安全性はどうか知らないが、一般的な宿でないことは確かだ。
ロキを攫ったアンシャンテの手の者もまさかロキが裏に精通しているなんて思いもしないだろうし、きっと表の宿の方を中心に捜索することだろう。
見つかる可能性は低い。
「ということは…」
「そうだ」
俺達がすることはロキを救出することではない。
「アンシャンテのシャイナー王を捕縛しなければならないということか…」
「ああ」
とは言え相手は他国の王だ。
安易に拘束するなど不可能に近い。
余程の証拠を揃えなければまず無理だ。
「どうすれば…」
そんな俺にセドリック王子がなんでもないことのようにあっさりと言ってくる。
「どうせそろそろロキが逃げたと報告が入る頃だ。暗部に見張らせておけばいい」
「それで尻尾を出すと?」
「ああ。だが暗部の証言だけでは難しいだろう。だからこのシャメルとこちらの機器…ロックオンを貸してやろう。短時間なら映像を撮ることが可能だ」
「……これは」
「使い方は簡単だ。精々上手く使って証拠を固めろ。俺が手を貸してやるのはここまでだ」
「あ……」
「ロキに言っておけ。これで貸し一つだとな」
「あり…ありがとう、ございます」
自分一人ならこんなに早くロキを攫った相手を特定する事は出来なかった。
セドリック王子の協力なくして真相を知ることも、ロキの行方を突き止めることもできなかったに違いない。
だからこそ悔しく、けれど心底からの感謝しかなかった。
複雑な思いを抑え込みギュッと拳を強く握りしめる。
たとえこれでセドリック王子に貸しができたとしても、ロキの安否には代えられないのだから。
「マクロス。頼んだ」
「はっ」
暗部に指示を出し、セドリック王子から預かった機器を手渡しシャイナーの元へと速やかに向かわせる。
あちらにも暗部はいるだろうが、きっと上手く陽動して証拠を押さえてきてくれるだろう。
(ロキ。お前が帰る頃には全て終わらせておいてやるからな)
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