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閑話3.ロキ王子と俺 Side.レオナルド皇太子
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俺はこれまでミラルカ皇国の皇太子としてのびやかに育てられてきた。
妹との仲も良好で、城の者達も皆いつもにこにこと俺を見守り育ててきてくれたと思う。
怖いものなんて何もない。
世界は平和そのものだと、そう思っていた。
だから妹が嫁いだ先で怖い目に合ってるなんて想像すらしていなかったし、大国の王太子だから噂が大袈裟に伝わってるだけなんだろうと高をくくっていた。
国が滅びたのなんてたまたま。
きっとゴッドハルトのように改革者が頑張ったんだろう程度に考えていた。
それなのに────。
正直に言おう。
ブルーグレイの王太子の殺気を前に、俺は人生で生まれて初めて恐怖を覚え、ちびってしまった。
漏らさなかったのはせめてもの皇太子としての気合いだ。
気絶しなかったのも気合いだ。
多分人生で一番気合いを入れた瞬間だったと思う。
気絶してる間に殺されたらたまらないから頑張ったとも言えるかもしれないが。
でも彼らが部屋を出ていって、アルメリアが『命があって良かったですね』と言った途端安心して気絶してしまったから結局は同じことだったかもしれない。
それからはもう怖くてたまらず恐怖に震えていたけれど、アルメリアが言っていた『ミラルカが滅ぼされる』という話を不意に思い出し、会議前に真っ青になりながら父に助けを求めに行った。
けれど父は全く頼りにはならず、蒼白になって、なんとかアルメリアに頼んで嘆願してもらわなければと言うばかり。
一国の王である父にどうしようもないことをアルメリアがなんとかできるはずがないではないか。
(どうしよう、どうしよう……)
本当は寝込んでいたかったけど、主催国故にそうもいかないのが悲しい所。
こんなことは初めてで、誰に相談したらいいのかもわからない。
取り敢えず相手を刺激しないようにしてくださいと宰相から忠告を受け、その日の夕食会で少しでも印象を良くするため側妃であるアルフレッドとのイチャイチャを優先させ、アルメリアのエスコートは俺がしっかりすることになった。
「良いですか、お兄様。あの方とアルフレッドの仲を決して、決して邪魔してはいけません」
そんなアルメリアの言葉にひたすら頷き、セドリック王子の目に留まらないよう息を殺して参加した夕食会。
そんな中、遠目に様子を窺っていると不意にセドリック王子がとある方向を見遣り、誰かへとアイコンタクトを送った。
(あれは────)
カリン王子の弟のロキ王子だ。
最近王太子の座がカリン王子からロキ王子に変わったから覚えておくようにと父から言われていたので覚えていた相手で、今日の会議でも見かけたし間違いはない。
そしてここで名案が浮かんだ。
(そうだ!カリン王子とは顔見知りだから、カリン王子の方からロキ王子に頼んでもらおう!)
俺はロキ王子とはまだ直接話したことはないが、少しでも許してもらえる可能性があるのなら頼ってみるべきだろう。
そっとバルコニーの様子を窺うと二人は随分仲良さげに話しているし、穏やかそうにも見えるから間を取り持ってくれそうな気がする。
そう思ってカリン王子に話を持ちかけたのに、全く相手にもしてもらえなかった。
カリン王子は正直とっつきにくいから苦手だ。
事情を話し、情に訴え、下手に出て相談という形をとったにもかかわらずロキ王子を紹介すらしてくれなかった。
取り付く島もないとはこのことだ。冷たすぎる。
仕方がないから明日朝一番にロキ王子を直接呼び出そうと思った。
念には念を入れて一人で来てもらえるよう言っておけば邪魔は入らないだろう。
もうそれしか方法はないと気合いを入れる。
(きっとロキ王子ならわかってくれる!)
そのはずだと自分に言い聞かせ、俺はそのまま部屋に戻って明日に備えて眠ることにした。
翌朝早速ロキ王子を呼び出し、初対面ではあったが警戒されないよう仲良く話をして友好的付き合いを精一杯アピールしてみた。
そしてこれくらい話したらもう友達と思ってもらえたはずと思ったところで本題へ。
セドリック王子に謝りたいから手助けが欲しいと切り出してみた。
そうしたらロキ王子はちゃんと詳しい話も聞いてくれたんだ!
しかも誠心誠意謝れば許してもらえるだろうと太鼓判まで押してくれたのだから諸手を上げて俺は喜んだ。
それに、協力してもいいとさえ言ってくれたから、なんだやっぱり言ってみるものだとほくそ笑んでしまう。
(これで二人で頭を下げに行って、許してくださいって言えばいいんだよな?簡単だ!)
きっとロキ王子は俺が頭さえ下げてたら色々横で取り成してくれるはず!
そう思っていたのに────。
(え…っと、その手の鞭はなんですか?)
馬用の鞭を少し短くして叩く面を大きくしたような鞭を手に、ロキ王子がにっこりと笑ってくる。
正直戸惑いを隠せなかったけど、どうやらロキ王子は正しい謝り方を教えてくれるつもりのようだとわかったのでお任せすることに。
「まず、普段は失敗した時どんな風に謝っていますか?」
そう訊かれたのでよくよく自分を振り返ってみた。
剣の稽古でうっかり相手を傷つけてしまった時。
花瓶を割ってしまった時。
仕事でミスをしてしまった時。
「え~っと…反省を表すために肩を落としてすまないって素直に謝るか、やっちゃったって顔色伺いながら困ったように言うか、アハハと笑って誤魔化してゴメンって言うかのどれかかな?」
「…………そうですか。つまりはちゃんとした謝り方を全くわかっていないと」
そこでヒュンッと風を切るようにロキ王子が鞭を上から下に振った。
まるで素振りのようだ。
「そこに座ってください」
「え?」
そして唐突に床を指さされそこに座るように促される。
でもそんなところに座ったら足が痛いし汚いじゃないか。
だから正直にそう口にしたら思い切り尻を叩かれた。
パァンッ!
「ひうぅっ!」
初めての痛みに涙がにじむ。
いきなり叩くなんて酷い!
そう思って睨むようにロキ王子を見たけれど……。
(目、目が据わってる~~?!)
「レオナルド皇太子?二度、俺に同じことを言わせないでください」
「ひぃっ!」
さっきまで笑ってたロキ王子を…どうやら俺は本気で怒らせてしまったらしいと察してササッとその場に座ってみた。
普段穏やかで大人しい人を怒らせたら怖いと聞いたことがある。
これは絶対に逆らわない方が無難だ。
「いいですか?誠心誠意謝ると言うのはそんな軽いものではないんです」
「…はい」
「床に額を擦り付け、大きな声で自分のどこが悪かったのかを口にし、心から申し訳なかったと言わなければいけないんですよ。なのに…ふざけてるんですか?」
この『ふざけてるんですか?』がもう最高に怖かった。
未だかつてこんなゾクゾクするような冷ややかな声を掛けられたことも、冷徹な目で見降ろされたことも一度たりともない。
「ひっ!ふ、ふざけてないです!申し訳ありません!」
「謝るのは俺にではなくセドリック王子にでしょう?」
「は、はいっ!その通りです!」
もうそこからは必死だった。
そもそも他国を巻き込もうとしたことが悪かったなんて思ってなかったからそこに気づくのに時間がかかった時点でロキ王子の目がどんどん氷点下の冷たさになっていって、最後には最早ゴミを見るようなものに変わっていたし、何度尻を叩かれ踏みつけられたことか。
覚えが悪い、考えが甘すぎるとグリグリ踏み躙られた時は泣きそうになった。
いや、正直本気で泣いてた。
でもロキ王子の声は何故かとっても耳に心地よく響いて優しいんだ。
「レオナルド皇子?いい加減正しい姿勢くらい覚えてくださいよ?」
たとえその言葉の後に背中に足が降ってきても、俺が何が悪かったのかがわかってからは嬲るような踏み方じゃなくてゆっくり体重をかけてもっと跪けって感じで正しい角度を教えてくれるし、言葉が悪かったら鞭で尻を叩かれるんだけど、これもなんだか絶妙な叩き加減で、段々脳が悦びを感じるようになってきたからそのうち苦痛ではなくなってしまった。
でもロキ王子の要望に応えられない自分はダメな奴だと情けなくなって、必死に頭を使って謝る練習を繰り返した。
容赦なく叩き込まれる謝罪方法ではあったけど、不思議と嫌じゃない。
寧ろ頑張らないとロキ王子の期待に応えられないし、冷たい目で見降ろされるより頑張りましたねって言われたくなった。
絶対ロキ王子なら褒めてくれるはず!
だってこんなに優しい声なんだから!
だからきっちり謝罪する方法を俺は覚え込んだ。
ロキ王子の期待に応えた俺はしっかり最後はご褒美に頭を撫でてもらえたし、笑顔で頑張りましたねって言ってもらうこともできた。
(何これ。嬉しすぎる~!)
そう思ったのも束の間。
その後ロキ王子はあっさりと「じゃあ帰ります」と言って帰ろうとしたので慌てて呼び止めて一緒に行ってくれと縋ってしまった。
俺の頑張りを最後まで見届けて欲しかったし、セドリック王子に許してもらえたらその喜びを分かち合いたかったんだ。
だから「口添えしてくれるって約束したじゃないか」と言って半ば無理矢理付き合わせた。
(ここまでお世話になったんだし、友情にかけて絶対に成功させて見せる!)
今の自分にならわかる。
普通の人はきっとここまでダメな俺に付き合ってはくれない。
カリン王子がそのいい例だ。
そんな俺を冷たい目で見ながらも最後までしっかり躾けて見捨てなかったロキ王子は優しいんだと思う。
親に甘やかされた俺をちゃんと叱って教育してくれたんだ。
それに応えずしてどうするんだ!
俺は人生で一番綺麗な土下座を披露し、最高の謝罪をセドリック王子にしてみせる!
それでダメならその場でロキ王子にもう一回指導してもらおう。
うん。一石二鳥だ。
そんな思いであの怖い王子の元へと向かった。
部屋に入る前は、きっとあの王子を前にしたらガタガタ震えてしまうだろうなと思い少々震えてしまったのだが、ロキ王子が言った「土下座してたら相手の顔は見えないし、セドリック王子は話の通じる方なのでそんなに怯えなくても大丈夫ですよ」という言葉で震えもおさまってしまった。
確かにその通りだ。
顔が見えなければ顔色を変に窺う必要はないし、兎にも角にも俺は謝罪の言葉を大きな声で言い切ればいいだけなのだ。
必要以上に怯える必要はない。
それに腹の底から大きな声を出している間は余計なことを考える暇はない。
そう思ったら意外と気が楽になった。
ロキ王子も隣にいてくれるし、とっても心強い。
だから当初の予定通り、俺はセドリック王子に綺麗に土下座し、生まれて初めて誠心誠意謝ることができた。
そんな俺をセドリック王子は笑って許してくれて、おまけに今度から悪いことをしたらロキ王子に躾けてもらえとまで言ってくれた。
なんて寛大なんだろう?
俺は悩んでいた今朝までの自分が嘘のように気持ちが晴れやかになり、心からロキ王子に感謝した。
(ガヴァム王国までは馬車で10日だけど、俺のペットのワイバーンに乗って行ったらすぐだな)
これからは何かあったらロキ王子を頼ろう。
でもそれだけじゃなく、もう少し色々考えて成長し、ロキ王子のために立派な王太子になってこれまで以上にガヴァム王国と交流を深め、互いの国を発展させていきたいと思う。
(ロキ王子と俺の友情は永遠だ!)
そんなことを思いながら、俺は笑顔で父の元へと向かったのだった。
妹との仲も良好で、城の者達も皆いつもにこにこと俺を見守り育ててきてくれたと思う。
怖いものなんて何もない。
世界は平和そのものだと、そう思っていた。
だから妹が嫁いだ先で怖い目に合ってるなんて想像すらしていなかったし、大国の王太子だから噂が大袈裟に伝わってるだけなんだろうと高をくくっていた。
国が滅びたのなんてたまたま。
きっとゴッドハルトのように改革者が頑張ったんだろう程度に考えていた。
それなのに────。
正直に言おう。
ブルーグレイの王太子の殺気を前に、俺は人生で生まれて初めて恐怖を覚え、ちびってしまった。
漏らさなかったのはせめてもの皇太子としての気合いだ。
気絶しなかったのも気合いだ。
多分人生で一番気合いを入れた瞬間だったと思う。
気絶してる間に殺されたらたまらないから頑張ったとも言えるかもしれないが。
でも彼らが部屋を出ていって、アルメリアが『命があって良かったですね』と言った途端安心して気絶してしまったから結局は同じことだったかもしれない。
それからはもう怖くてたまらず恐怖に震えていたけれど、アルメリアが言っていた『ミラルカが滅ぼされる』という話を不意に思い出し、会議前に真っ青になりながら父に助けを求めに行った。
けれど父は全く頼りにはならず、蒼白になって、なんとかアルメリアに頼んで嘆願してもらわなければと言うばかり。
一国の王である父にどうしようもないことをアルメリアがなんとかできるはずがないではないか。
(どうしよう、どうしよう……)
本当は寝込んでいたかったけど、主催国故にそうもいかないのが悲しい所。
こんなことは初めてで、誰に相談したらいいのかもわからない。
取り敢えず相手を刺激しないようにしてくださいと宰相から忠告を受け、その日の夕食会で少しでも印象を良くするため側妃であるアルフレッドとのイチャイチャを優先させ、アルメリアのエスコートは俺がしっかりすることになった。
「良いですか、お兄様。あの方とアルフレッドの仲を決して、決して邪魔してはいけません」
そんなアルメリアの言葉にひたすら頷き、セドリック王子の目に留まらないよう息を殺して参加した夕食会。
そんな中、遠目に様子を窺っていると不意にセドリック王子がとある方向を見遣り、誰かへとアイコンタクトを送った。
(あれは────)
カリン王子の弟のロキ王子だ。
最近王太子の座がカリン王子からロキ王子に変わったから覚えておくようにと父から言われていたので覚えていた相手で、今日の会議でも見かけたし間違いはない。
そしてここで名案が浮かんだ。
(そうだ!カリン王子とは顔見知りだから、カリン王子の方からロキ王子に頼んでもらおう!)
俺はロキ王子とはまだ直接話したことはないが、少しでも許してもらえる可能性があるのなら頼ってみるべきだろう。
そっとバルコニーの様子を窺うと二人は随分仲良さげに話しているし、穏やかそうにも見えるから間を取り持ってくれそうな気がする。
そう思ってカリン王子に話を持ちかけたのに、全く相手にもしてもらえなかった。
カリン王子は正直とっつきにくいから苦手だ。
事情を話し、情に訴え、下手に出て相談という形をとったにもかかわらずロキ王子を紹介すらしてくれなかった。
取り付く島もないとはこのことだ。冷たすぎる。
仕方がないから明日朝一番にロキ王子を直接呼び出そうと思った。
念には念を入れて一人で来てもらえるよう言っておけば邪魔は入らないだろう。
もうそれしか方法はないと気合いを入れる。
(きっとロキ王子ならわかってくれる!)
そのはずだと自分に言い聞かせ、俺はそのまま部屋に戻って明日に備えて眠ることにした。
翌朝早速ロキ王子を呼び出し、初対面ではあったが警戒されないよう仲良く話をして友好的付き合いを精一杯アピールしてみた。
そしてこれくらい話したらもう友達と思ってもらえたはずと思ったところで本題へ。
セドリック王子に謝りたいから手助けが欲しいと切り出してみた。
そうしたらロキ王子はちゃんと詳しい話も聞いてくれたんだ!
しかも誠心誠意謝れば許してもらえるだろうと太鼓判まで押してくれたのだから諸手を上げて俺は喜んだ。
それに、協力してもいいとさえ言ってくれたから、なんだやっぱり言ってみるものだとほくそ笑んでしまう。
(これで二人で頭を下げに行って、許してくださいって言えばいいんだよな?簡単だ!)
きっとロキ王子は俺が頭さえ下げてたら色々横で取り成してくれるはず!
そう思っていたのに────。
(え…っと、その手の鞭はなんですか?)
馬用の鞭を少し短くして叩く面を大きくしたような鞭を手に、ロキ王子がにっこりと笑ってくる。
正直戸惑いを隠せなかったけど、どうやらロキ王子は正しい謝り方を教えてくれるつもりのようだとわかったのでお任せすることに。
「まず、普段は失敗した時どんな風に謝っていますか?」
そう訊かれたのでよくよく自分を振り返ってみた。
剣の稽古でうっかり相手を傷つけてしまった時。
花瓶を割ってしまった時。
仕事でミスをしてしまった時。
「え~っと…反省を表すために肩を落としてすまないって素直に謝るか、やっちゃったって顔色伺いながら困ったように言うか、アハハと笑って誤魔化してゴメンって言うかのどれかかな?」
「…………そうですか。つまりはちゃんとした謝り方を全くわかっていないと」
そこでヒュンッと風を切るようにロキ王子が鞭を上から下に振った。
まるで素振りのようだ。
「そこに座ってください」
「え?」
そして唐突に床を指さされそこに座るように促される。
でもそんなところに座ったら足が痛いし汚いじゃないか。
だから正直にそう口にしたら思い切り尻を叩かれた。
パァンッ!
「ひうぅっ!」
初めての痛みに涙がにじむ。
いきなり叩くなんて酷い!
そう思って睨むようにロキ王子を見たけれど……。
(目、目が据わってる~~?!)
「レオナルド皇太子?二度、俺に同じことを言わせないでください」
「ひぃっ!」
さっきまで笑ってたロキ王子を…どうやら俺は本気で怒らせてしまったらしいと察してササッとその場に座ってみた。
普段穏やかで大人しい人を怒らせたら怖いと聞いたことがある。
これは絶対に逆らわない方が無難だ。
「いいですか?誠心誠意謝ると言うのはそんな軽いものではないんです」
「…はい」
「床に額を擦り付け、大きな声で自分のどこが悪かったのかを口にし、心から申し訳なかったと言わなければいけないんですよ。なのに…ふざけてるんですか?」
この『ふざけてるんですか?』がもう最高に怖かった。
未だかつてこんなゾクゾクするような冷ややかな声を掛けられたことも、冷徹な目で見降ろされたことも一度たりともない。
「ひっ!ふ、ふざけてないです!申し訳ありません!」
「謝るのは俺にではなくセドリック王子にでしょう?」
「は、はいっ!その通りです!」
もうそこからは必死だった。
そもそも他国を巻き込もうとしたことが悪かったなんて思ってなかったからそこに気づくのに時間がかかった時点でロキ王子の目がどんどん氷点下の冷たさになっていって、最後には最早ゴミを見るようなものに変わっていたし、何度尻を叩かれ踏みつけられたことか。
覚えが悪い、考えが甘すぎるとグリグリ踏み躙られた時は泣きそうになった。
いや、正直本気で泣いてた。
でもロキ王子の声は何故かとっても耳に心地よく響いて優しいんだ。
「レオナルド皇子?いい加減正しい姿勢くらい覚えてくださいよ?」
たとえその言葉の後に背中に足が降ってきても、俺が何が悪かったのかがわかってからは嬲るような踏み方じゃなくてゆっくり体重をかけてもっと跪けって感じで正しい角度を教えてくれるし、言葉が悪かったら鞭で尻を叩かれるんだけど、これもなんだか絶妙な叩き加減で、段々脳が悦びを感じるようになってきたからそのうち苦痛ではなくなってしまった。
でもロキ王子の要望に応えられない自分はダメな奴だと情けなくなって、必死に頭を使って謝る練習を繰り返した。
容赦なく叩き込まれる謝罪方法ではあったけど、不思議と嫌じゃない。
寧ろ頑張らないとロキ王子の期待に応えられないし、冷たい目で見降ろされるより頑張りましたねって言われたくなった。
絶対ロキ王子なら褒めてくれるはず!
だってこんなに優しい声なんだから!
だからきっちり謝罪する方法を俺は覚え込んだ。
ロキ王子の期待に応えた俺はしっかり最後はご褒美に頭を撫でてもらえたし、笑顔で頑張りましたねって言ってもらうこともできた。
(何これ。嬉しすぎる~!)
そう思ったのも束の間。
その後ロキ王子はあっさりと「じゃあ帰ります」と言って帰ろうとしたので慌てて呼び止めて一緒に行ってくれと縋ってしまった。
俺の頑張りを最後まで見届けて欲しかったし、セドリック王子に許してもらえたらその喜びを分かち合いたかったんだ。
だから「口添えしてくれるって約束したじゃないか」と言って半ば無理矢理付き合わせた。
(ここまでお世話になったんだし、友情にかけて絶対に成功させて見せる!)
今の自分にならわかる。
普通の人はきっとここまでダメな俺に付き合ってはくれない。
カリン王子がそのいい例だ。
そんな俺を冷たい目で見ながらも最後までしっかり躾けて見捨てなかったロキ王子は優しいんだと思う。
親に甘やかされた俺をちゃんと叱って教育してくれたんだ。
それに応えずしてどうするんだ!
俺は人生で一番綺麗な土下座を披露し、最高の謝罪をセドリック王子にしてみせる!
それでダメならその場でロキ王子にもう一回指導してもらおう。
うん。一石二鳥だ。
そんな思いであの怖い王子の元へと向かった。
部屋に入る前は、きっとあの王子を前にしたらガタガタ震えてしまうだろうなと思い少々震えてしまったのだが、ロキ王子が言った「土下座してたら相手の顔は見えないし、セドリック王子は話の通じる方なのでそんなに怯えなくても大丈夫ですよ」という言葉で震えもおさまってしまった。
確かにその通りだ。
顔が見えなければ顔色を変に窺う必要はないし、兎にも角にも俺は謝罪の言葉を大きな声で言い切ればいいだけなのだ。
必要以上に怯える必要はない。
それに腹の底から大きな声を出している間は余計なことを考える暇はない。
そう思ったら意外と気が楽になった。
ロキ王子も隣にいてくれるし、とっても心強い。
だから当初の予定通り、俺はセドリック王子に綺麗に土下座し、生まれて初めて誠心誠意謝ることができた。
そんな俺をセドリック王子は笑って許してくれて、おまけに今度から悪いことをしたらロキ王子に躾けてもらえとまで言ってくれた。
なんて寛大なんだろう?
俺は悩んでいた今朝までの自分が嘘のように気持ちが晴れやかになり、心からロキ王子に感謝した。
(ガヴァム王国までは馬車で10日だけど、俺のペットのワイバーンに乗って行ったらすぐだな)
これからは何かあったらロキ王子を頼ろう。
でもそれだけじゃなく、もう少し色々考えて成長し、ロキ王子のために立派な王太子になってこれまで以上にガヴァム王国と交流を深め、互いの国を発展させていきたいと思う。
(ロキ王子と俺の友情は永遠だ!)
そんなことを思いながら、俺は笑顔で父の元へと向かったのだった。
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