【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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25.国際会議⑩

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「ロキ。遅かったが、皇太子に脅されたりしなかったか?」

部屋に戻って早々兄からそんな心配をされたのでちょっと嬉しくなり、甘えるように抱き着いてみる。

「大丈夫です。もう用は済んだので。それより兄上に会えなくて寂しかったです」
「う……そ、そうか。俺もだ」
「ちょっと手間取ってしまったせいで遅くなってしまいましたけど、昼食はもう済ませてしまいましたか?」

そう尋ねるとまだだと言われたので、久しぶりに食べさせてあげることにした。

「兄上。はい、口を開けてください」

食事の用意をしてもらい、ひと匙掬って差し出すと兄は気恥ずかしそうにしながらもそっと口を開けて食べてくれる。
これはまだ兄が正気じゃなかった頃を思い出させ、俺としては懐かしい気持ちになってついつい笑顔に。

「美味しいですか?」
「ああ」

そう言いながら美味しそうに食べてくれて、しかもお返しだと言って逆に食べさせてもくれて幸せな気持ちでいっぱいになる。
さっきまでツイてないなと思っていたのに、まさかこんなご褒美がもらえるなんて…。

「兄上。ありがとうございます」

思っていた以上に気持ちが高揚し、俺は笑顔で礼を言った。




今日の会議の付き添いは外務大臣ではなく何故か宰相だった。
今日も一緒だと思っていたのに何かあったんだろうか?
そう思って尋ねると、昨日の夕食会で仲良くなった相手と交流会で話す約束をしたので今日は交代したのだという。

「ロキ王子のためのパイプ作りをしっかり行っておきたいと言うので代わることにしました」
「そうですか」

本来ありがたいことなのだろうけど、正直どうでもいいので特に何か言うこともない。
そして今日は騎士団長と近衛が手分けして刺客の残党がいないか調査をするということで、リヒターに兄の護衛を任せた。
そうなってくるともう一人のフォロー役は当然ミュゼとなるわけで…。

「私もロキ様の役に立つところをお見せいたします!リヒターには負けません!」

どうやら多少は真面になってくれたらしい。
最初は頼れる補佐官だったわけだし、ずっとこのままでいてもらいたいものだ。

そうして会議に挑んだのだが────。
やっぱり昨日と同じようにほとんど宰相任せになってしまった。
ミュゼも色々後ろからアドバイスしてくれたから少しくらいは上手く受け答えできたとは思うけれど…。
今日の議題はほとんどが輸出入の件だったので正直疲れてしまった。
各国の交易についてよくわかったのと、特産品などがわかった点は楽しかったが、具体的な交渉も宰相任せになってしまったし、細かな数字も正直よくわからないのでミュゼに聞いたりせざるを得なかった。

でもそんな俺に意地の悪い質問をしてくる者は昨日とは違って皆無で、ミラルカ皇国の王が優しくフォローを入れてくれたり、昨日のクレメンツの宰相が上手く説明を加えてくれたりとよくわからないまま平和的に終わったとは思う。
と言うよりも、今日はブルーグレイの王太子に質問が集中していたお陰かもしれない。
卆なく答える姿は流石大国の王太子だと思う。
昼間に皇太子を押し付けたりしてきたけれど、やっぱりあの王太子はこうしてみると普通に立派な王太子だし、特に悪い人には見えないのだが…。
後で兄にそう溢したら、正気かと叫ばれ『絶対に違う!帰るまでは絶対に油断するな!』と強く肩を揺さぶられた。

(揺さぶらなくても俺は正気ですよ?兄上)

そんなに過剰に警戒しなくても大丈夫だと思うけど…。


***


そして今日も昨日に引き続き懇親会と言う名のパーティーが催されている。
皆思い思いのグラスを手に和気藹々と歓談しているのだが、その中に兄が知り合いを見つけたようで、挨拶にと連れていかれた。

「ロッシュ宰相」
「おお、カリン王子ではないですか。お久しぶりです」
「はい。ロキ、こちらはフォルクスリーニアス国の宰相、ロッシュ卿だ」
「お初にお目に掛かります。ガヴァム王国王太子、ロキ=アーク=ヴァドラシアと申します。以後お見知りおきを」

兄の紹介ならきっちり挨拶をと思いそう言って丁寧に頭を下げたのだが、相手はチラリとこちらを一瞥しただけですぐに兄へと視線を移してしまう。

「カリン王子に弟がいたとは知りませんでしたな」
「はい。けれど王太子に就いてからは頑張って政務に取り組んでくれているので、是非顔合わせをと思いまして」
「そうですか。……なるほど」

そう言って再度こちらへと冷たい目を向けてくる。

(見定められている…)

正直この視線はとても苦手だ。
兄と比べてダメダメな王太子だとでも評価されているのだろう。
そう思い、苦しくなる前に興味を持たないようそっと心の距離を置く。
それだけでフッと心が軽くなっていくのを感じた。

そんな中、昨日会った鞭コレクターのクレメンツの宰相が合流してきた。

「ロッシュ卿」
「おや、サーディ卿ではないですか。お久しぶりです」

どうやら彼の名前はサーディ卿と言うらしい。

(こっちは覚えておこう)

鞭についてまた色々訊ける機会もあるかもしれない。
そう思って俺は彼にも挨拶をしておいた。

「サーディ卿。昨日はありがとうございました」
「おお、ロキ王子!聞きましたよ。昨夜は何やら大変だったようで」
「ああ、襲撃の件でしょうか?」
「ええ、ええ。ミラルカの警備はどうなっているのか…。我々も少々心配でね」
「まあ昨日の件で兵の配置も見直されたようですし、今日のところは大丈夫ではないでしょうか?」
「そうですね。そうそう。昨日の賊を縛り上げたのはロキ王子と小耳に挟んだのですが本当ですか?」
「ええ。近衛が何故か動いてくれなかったので仕方なく……」
「おお、やはりそうなのですね!ロッシュ卿!ロキ王子はどうやら緊縛にお詳しいようですよ!こっそりアレをお聞きになられてはいかがです?」

唐突に声量を抑え言われたその言葉に首を傾げていると、言われた方のロッシュ卿の目の色が明らかに変わった。
これまであからさまに見下した目でこちらを見ていたというのにおかしなものだ。

「ロキ王子」
「はい?」
「……自分で自分を上手く縛る方法はありませんか?」
「一応ありますけど…?」

自分でやることはないが、ミュゼが煩いので自分で自分を縛って待っていろと言ってやったことがあり、一応やり方自体は知っている。

するといきなりガシッと両手を掴まれ、ひたむきな熱い眼差しを向けられてしまった。

「ロキ王子。是非、教えて頂きたい」
「はあ…」

そんなことくらいで目の色を変えないでほしい。

「別室に、別室に行きましょう…!」
「いえ…兄上を一人にはできないので……」
「カリン王子!」
「は、はい?!」

兄はロッシュ卿のあまりの勢いに慄いてしまっている。
普通に俺のパイプ作りにと紹介してくれたのだろうに、どうしてこうなったのかと混乱しているのだろう。

「心配なら同席していただいても構いませんので」
「……いえ。どうぞごゆっくり」
「ではお借りいたします。ロキ王子!参りましょう!」
「はあ」

兄の許可が出たのならまあ仕方がない。
大人しく付き合うとしようか。
とは言え……。

(本当に、世界には沢山の変態がいるな……)

鞭のコレクターがいたり緊縛趣味の宰相が居たり。
リヒターが言うように世界は広くて、自分の視野がいかに狭かったのかを思い知らされる。
これならきっと自分はまだまだ『普通』の枠組みの中にいるんだろうな…と不思議と安心できた。

ちなみに余談だが、その後別室にてロッシュ卿にとても気に入られて、仕事のフォローは周囲に優秀な者を置けばいいから俺は気にしなくてもいいと言われてしまった。
言っていることがうちの宰相達と同じだ。

でもそれは以前ミュゼが言っていた操り人形というものではないのかと思い少し口にしてみたのだが、懇切丁寧に傀儡との違いを教えられ、俺は絶対にそうはならないと太鼓判を押されてしまった。

「よろしいですかな?一般的に傀儡の王というものは周囲の者達の思惑のみで操られている状況を言うのです。言わばお飾りの王ですな」
「はい」
「ですがその周囲の者達が自分達の利の為ではなく、王の利の為に動くとしたら、どうですかな?」
「…………確かに違ってきますね」
「然り。王の利の為に動くのであればそれは最早操り人形ではなく、立派な王制なのです」

ロッシュ卿曰く、王に絶対的な政治能力がなくとも、そのカリスマ性があるのなら周囲が勝手に動くとのこと。
とは言え俺にはそんなカリスマ性などというものはないのだが……。

「見る限りロキ王子は政権に無欲でいらっしゃる」
「…………」
「自分の興味がある部分には学ぶ意欲を示すがそれ以外はそうではない。それは世間一般的には愚王となっても全くおかしくはない素質です」

だから最初相手にしなかったのだとロッシュ卿はきっぱりと言い切った。

「ですが、こうして良いことを教えて頂けたので、一つ貴方に大事なことをお教えいたしましょう」
「大事なこと、ですか?」
「ええ。その前に、貴方から見たカリン王子はどうですかな?」
「とても立派な人だと思います」

王太子として申し分のない資質を持つ人。それが兄だ。
やってみて王太子とは色々大変な仕事だと実感しているし、それを卒なくこなしていた兄は本当にすごいのだと思う。
それこそ今の自分と比べるのも烏滸がましいほどに。

けれどその言葉を聞いて、ロッシュ卿はこう言ってきた。

「よろしいですかな?貴方がすべきなのはカリン王子と自分を比べることではなく、カリン王子ならこういう時どうするかと考えることでもない。それは貴方は貴方でしかないからです」
「はい」
「本当に考えるべきことは、貴方が理想とするカリン王子の隣に立つ自分を想像し、そのために今の自分に何ができるのかを常々考えることなのです」
「兄上の隣に立つ自分……」
「そうです。王になる気もない、民のために動く気もない貴方にいくら人道を説いても、政治について語っても、全て無駄です。貴方は貴方の道をいくしかない。だから…それを踏まえた上でのアドバイスです」

カリン王子のことが好きなのは見ていて分かったのでと笑われてしまったが、確かにそういうことなら考えようという気にもなる。

「なるほど。大変勉強になりました」
「ええ。今度はこのような話ではなく、是非緊縛談義でも致しましょう。趣味友として末永く交流していきましょう」

勿論なにか相談事があれば情報と引き換えに相談に乗りますぞと笑いながらロッシュ卿はそのまま俺を見送ってくれたのだが……。

(あれ、自分でちゃんと解けるのかな?)

一人で服の上から試しに縛っていたロッシュ卿は幸せそうではあったが、多分一人ではほどけないと思うので会場に戻ったらサーディ卿に一言言っておいてあげようとこっそり思ったのだった。


****************

※ちょっと一般的ではない方法で何気なく変態な知り合いを増やしているロキですが、サーディ卿もロッシュ卿も双方の国では敏腕と謳われるほどの人達なので、本来なら普通に知り合いになろうとしてもなかなか名前すら覚えてもらえない人物だったりします。
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