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21.国際会議⑥
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兄と一緒に参加した夕食会。
まあ夕食会とは名ばかりの立食での交流パーティーだ。
だから実は宰相達も皆参加して各国の者達と情報交換に勤しんでいる。
俺は特に興味がないので兄と一緒に参加して適度に楽しんだら部屋に戻るつもりだったのだが……。
(見ている…)
兄がサッと顔色を変えたのでゆっくりと会場を確認したら少し離れた場所にブルーグレイの王太子がいた。
朝や昼間なら別に構わないのだが、夜に近いこの時間に兄の心を占められるのは気分が悪い。
だから兄を見るなという視線を送ってやったのだが、それに対し二ッと不敵に笑ってチラリとバルコニーを見てきた。
どうやら来いということらしい。
「兄上。少しここで待っててくれますか?」
「…え?」
「不安ならミュゼ達と一緒に居てください」
「いや!ロキ、一人で行動するな!」
「大丈夫ですよ。ちょっと呼び出されただけなので」
そう言って兄の元を離れ、ワイングラス片手に王太子の後を追う。
行ってみると案の定俺を待っていた様子の王太子がいて、グラスを手に笑っていた。
「何かお話しでも?」
だからそう聞いたのだが、どうやら聞きたかったことはたった一つだけらしい。
「……どうやって治した?」
まあ確かに彼からしたら気になるところではあるだろう。
だからワイングラスを傾けながら普通に答えを返した。
「普通に医師の手で治しましたけど?」
王宮医師などという全く使えない医師ではなく、闇医者を頼った。
ただそれだけの話だ。
「廃人一歩手前にしてやったはずだが?」
全く悪びれることなくそう言い放つ王子はきっと一般的には怖い男なのだろうと思う。
でも正直幼い頃から自分の傍にいた者達と然程変わらないようにしか見えなかったので、これに対しても普通に返した。
「そうですね。とっても可愛い兄上が見られましたね」
「……」
快楽に堕ち、それ以外何も見えなくなってた兄。
そんな兄を正気に戻したのは自分だ。
でもあの兄が可愛かったのは事実なのでそこはちゃんと伝えておきたい。
「泣いて縋って身悶え堕ちていく……最高の兄上にして下さってありがとうございます」
だから笑顔でそう言ったというのに、何がおかしかったのか思い切り笑われてしまった。
「ハハッ!まるで褒美でも貰ったかのように言うのだな?」
「ええ。俺にとっては何よりの贈り物でしたから」
「……そうか」
そう返してきた王太子はどこか諦めたかのように溜息を吐く。
「本当はお礼もした方が良いのかもしれませんが、兄の方は貴方に怯えるほど酷いことをされたと思っているようなのでプラスマイナスゼロということで構いませんよね?」
「好きにしろ。寧ろ歯向かってこられたら滅ぼしてやろうと思っていたところだ」
それは…追加の褒美に繋がるので別に構わないのだが?
もしそうなったら俺は兄と二人で城を出て、リヒターと三人で暮らしてもいいなと思った。
暮らすのは別に自国に拘る気もないから国を出るのもありだ。
きっとリヒターなら生活のあれこれも丁寧に教えてくれるだろう。
とは言えこの言い方からすると、きっと歯向かってこない限りは滅ぼすのを勘弁してやると言ってくれているのだろう。
それ即ち兄を許すと言ってくれたようなものだ。
なんだかんだと話してみると実は親切な人なのかもと思い、そう言えば会議の時も助けられたのを思い出した。
「ありがとうございます。そうそう。今回の会場担当者に外でヤる時の絶好のスポットを聞くことができますよ?もしよければどうぞ」
多分この王子なら外でするのも好きだろうなとなんとなく思ったのでさり気なく情報を渡してみる。
まあちょっとしたお礼だ。
気に入ってもらえるといいのだが…。
「…………なるほど?情報提供感謝する」
「いいえ。ではまた」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
これできっと貸し借りなしと思ってもらえるだろう。
(さて。じゃあそろそろ兄上のところに戻ろうかな…)
そう思いながらバルコニーから会場へと戻ったのだが……。
「兄上?」
見る限り兄の姿が見当たらない。
どうしたのだろう?
(トイレにでも行ったのか?)
そう思いながら他の面々の姿も探してみるが、ミュゼもリヒターもいない。
辛うじて遠くに宰相と外務大臣の姿は確認できたので、何か聞いてないか聞きに行こうかとそちらへと向かう。
すると途中で後ろから話しかけられて驚いた。
「ロキ王子」
「はい?」
「もしや兄君をお探しですか?」
「え?ええ、まあ」
「兄君なら先程ミラルカの皇太子と一緒にあちらの扉から出ていかれましたよ?」
何やら深刻そうな顔をしていたと言ってこられたが、正直相手の言葉を信用する気はない。
何故なら本当に深刻な事態が起こったのなら、きっとリヒターを寄越したはずだからだ。
「そうですか。ご親切に」
だからにこやかに礼だけ言い、再度宰相の方へと向かうことにしたのだが、今度はまた別の人物に引き止められてしまった。
振り返るとそこにいたのは会議で見かけたどこかの大臣。
その大臣はその時見かけた鞭について聞いてきたので鞭仲間なのかと思い少し話してみたのだが、どうやら使うよりもコレクションする方が好きみたいで熱く語られてしまった。
まあこれはこれで色々情報が得られていいのかもしれないが、早く誰か帰ってきて欲しいなと小さく息を吐いたのだった。
まあ夕食会とは名ばかりの立食での交流パーティーだ。
だから実は宰相達も皆参加して各国の者達と情報交換に勤しんでいる。
俺は特に興味がないので兄と一緒に参加して適度に楽しんだら部屋に戻るつもりだったのだが……。
(見ている…)
兄がサッと顔色を変えたのでゆっくりと会場を確認したら少し離れた場所にブルーグレイの王太子がいた。
朝や昼間なら別に構わないのだが、夜に近いこの時間に兄の心を占められるのは気分が悪い。
だから兄を見るなという視線を送ってやったのだが、それに対し二ッと不敵に笑ってチラリとバルコニーを見てきた。
どうやら来いということらしい。
「兄上。少しここで待っててくれますか?」
「…え?」
「不安ならミュゼ達と一緒に居てください」
「いや!ロキ、一人で行動するな!」
「大丈夫ですよ。ちょっと呼び出されただけなので」
そう言って兄の元を離れ、ワイングラス片手に王太子の後を追う。
行ってみると案の定俺を待っていた様子の王太子がいて、グラスを手に笑っていた。
「何かお話しでも?」
だからそう聞いたのだが、どうやら聞きたかったことはたった一つだけらしい。
「……どうやって治した?」
まあ確かに彼からしたら気になるところではあるだろう。
だからワイングラスを傾けながら普通に答えを返した。
「普通に医師の手で治しましたけど?」
王宮医師などという全く使えない医師ではなく、闇医者を頼った。
ただそれだけの話だ。
「廃人一歩手前にしてやったはずだが?」
全く悪びれることなくそう言い放つ王子はきっと一般的には怖い男なのだろうと思う。
でも正直幼い頃から自分の傍にいた者達と然程変わらないようにしか見えなかったので、これに対しても普通に返した。
「そうですね。とっても可愛い兄上が見られましたね」
「……」
快楽に堕ち、それ以外何も見えなくなってた兄。
そんな兄を正気に戻したのは自分だ。
でもあの兄が可愛かったのは事実なのでそこはちゃんと伝えておきたい。
「泣いて縋って身悶え堕ちていく……最高の兄上にして下さってありがとうございます」
だから笑顔でそう言ったというのに、何がおかしかったのか思い切り笑われてしまった。
「ハハッ!まるで褒美でも貰ったかのように言うのだな?」
「ええ。俺にとっては何よりの贈り物でしたから」
「……そうか」
そう返してきた王太子はどこか諦めたかのように溜息を吐く。
「本当はお礼もした方が良いのかもしれませんが、兄の方は貴方に怯えるほど酷いことをされたと思っているようなのでプラスマイナスゼロということで構いませんよね?」
「好きにしろ。寧ろ歯向かってこられたら滅ぼしてやろうと思っていたところだ」
それは…追加の褒美に繋がるので別に構わないのだが?
もしそうなったら俺は兄と二人で城を出て、リヒターと三人で暮らしてもいいなと思った。
暮らすのは別に自国に拘る気もないから国を出るのもありだ。
きっとリヒターなら生活のあれこれも丁寧に教えてくれるだろう。
とは言えこの言い方からすると、きっと歯向かってこない限りは滅ぼすのを勘弁してやると言ってくれているのだろう。
それ即ち兄を許すと言ってくれたようなものだ。
なんだかんだと話してみると実は親切な人なのかもと思い、そう言えば会議の時も助けられたのを思い出した。
「ありがとうございます。そうそう。今回の会場担当者に外でヤる時の絶好のスポットを聞くことができますよ?もしよければどうぞ」
多分この王子なら外でするのも好きだろうなとなんとなく思ったのでさり気なく情報を渡してみる。
まあちょっとしたお礼だ。
気に入ってもらえるといいのだが…。
「…………なるほど?情報提供感謝する」
「いいえ。ではまた」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
これできっと貸し借りなしと思ってもらえるだろう。
(さて。じゃあそろそろ兄上のところに戻ろうかな…)
そう思いながらバルコニーから会場へと戻ったのだが……。
「兄上?」
見る限り兄の姿が見当たらない。
どうしたのだろう?
(トイレにでも行ったのか?)
そう思いながら他の面々の姿も探してみるが、ミュゼもリヒターもいない。
辛うじて遠くに宰相と外務大臣の姿は確認できたので、何か聞いてないか聞きに行こうかとそちらへと向かう。
すると途中で後ろから話しかけられて驚いた。
「ロキ王子」
「はい?」
「もしや兄君をお探しですか?」
「え?ええ、まあ」
「兄君なら先程ミラルカの皇太子と一緒にあちらの扉から出ていかれましたよ?」
何やら深刻そうな顔をしていたと言ってこられたが、正直相手の言葉を信用する気はない。
何故なら本当に深刻な事態が起こったのなら、きっとリヒターを寄越したはずだからだ。
「そうですか。ご親切に」
だからにこやかに礼だけ言い、再度宰相の方へと向かうことにしたのだが、今度はまた別の人物に引き止められてしまった。
振り返るとそこにいたのは会議で見かけたどこかの大臣。
その大臣はその時見かけた鞭について聞いてきたので鞭仲間なのかと思い少し話してみたのだが、どうやら使うよりもコレクションする方が好きみたいで熱く語られてしまった。
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