【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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17.国際会議②

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「ロキ王子。国際会議に参加されると伺いました」

そう声を掛けてきたのはリヒターだった。
リヒターは近衛騎士なのでその際には同行してくれるらしい。
正直色んな意味で有難かった。
メンバー的にどうも変態が多くなりそうで心配していたのだ。
リヒターはそう言った意味で一番真面なので頼もしかった。

「ロキ王子。ちなみに剣術や体術はどれくらいできますか?」
「自衛的な意味合いでか?一応一通り習った“つもり”ではあるけど…」
「……なるほど。では少しだけ確認させてください」

俺の言い方にきっと何か察することがあったんだろう。
リヒターはちゃんと自分の目で確かめたいと思ってくれたらしい。
そして訓練場で一通り見てもらったのだが────。

「どうやら最悪な指導者に教えられたようですね。最低限しか身についていないようです」

ここで俺自身がダメだったとは言ってこないリヒターの優しさが身に染みる。
確かにこれまで自分に剣や体術を教えてきた相手は皆最悪だったからある意味その言葉は正しいのだが、周りからすれば『教えられているのにできない不出来な王子』でしかなかった。
こんな風に正しく理解してくれる相手は初めてで、正直戸惑いを隠せないし、どんな顔をすればいいのかもわからない。

「大体わかりました。では国際会議に出発するまでに改めてそのあたりを教えるのと、他にもロキ王子に合った武器があるかもしれないのでそちらも吟味してみましょう。向いている武器はいざという時必ず役に立つと思いますので」

それと共にリヒターからは国際会議に向けて王太子としての気構えや周辺諸国についての勉強もするよう言われてしまった。
正直全く気乗りはしなかったが、それに対してもリヒターが時間を作って教えてくれると言うのでお願いすることに。
しかもモチベーションが上がるようにと兄も同席させてくれるらしい。

それからの日々は思った以上に充実していて、初めて剣や体術、武器の訓練が楽しいと思え、また勉強も楽しむことができた。

「リヒターは教えるのが上手いな」
「そうですか?ロキ王子は呑み込みが早い方だと思いますよ?寧ろこれまでの教師がダメだったんじゃないでしょうか?」
「ああ…まあそうかもしれないな。中身以上に暴力しか振るわれてなかったから、折角覚えても忘れる羽目になったりしていたし。どちらかというと自主的に覚えたこと以外はほとんど記憶にない」

リヒターとは随分親しく話すようになっていたからついつい気が緩んでいらないことまで口を滑らせてしまったが、まあ構わないだろう。
特に言い触らすような奴でもないし、事を荒立たせるようなタイプでもないから。

「なるほど…。もしや体術や剣術の方もですか?」
「ああ。体で覚えろと言って毎回最後にはサンドバッグにされていたからそもそも覚える気になれなかった。だから最低限でも身についていたのなら良かった方じゃないか?」
「…………カリン王子?ご存じで?」

そう訊かれた兄は真っ青になっていたが、別にこれ自体は兄のせいではない。

「兄上は関係ないだろう?」
「わかっていますよ。ただの確認です。俺に力になれることがあるのなら是非使ってやってください」
「ああ」
「それに、そういうことなら尚更ロキ王子が今回外に出る機会を作れてよかったと思いましたよ?」
「そうか?」
「ええ。こうして色々覚える切っ掛けにもなりましたし、他国の文化に触れることにも繋がるので貴方にとって必ずプラスになるはずです」
「…………」
「ロキ王子には今回の国際会議を通して色んなことを知って頂いて、その視野を広げて頂きたいです」
「そうか…」
「あまり興味はなさそうですが……そうですね。例えばロキ王子がカリン王子を楽しませている道具達。あれらは我が国ではどうしても淫靡なものと取られがちですが、実は夫婦で楽しむ気軽なアイテムと思われている国もあったりしますよ?」
「へぇ…」

それは意外だ。

「他にもロキ王子の適性に合った鞭ですが、あれも武器の一つとして闘技場で使われる国があったり…」
「それは凄いな」
「ええ。攻撃だけではなく相手の武器を絡め取り無力化するため、警吏が常に持ち歩いている国もあったりします」
「ああ、そういう使い方もありなのか」
「そうです。他には────」

そう言いながらいろんなことを教えてくれるリヒター。
気づけばすっかり話に聞き入ってしまっていた。
そしてそんな俺を見てなにやら急に対抗するかのように王太子としての心構えなどを教え始めた兄。
そんな二人のお陰で、俺は国際会議の場であるミラルカ皇国に旅立つまでにかなりの成長ができたのだった。


***


【Side.カリン王子】

ロキが宰相の勧めで急遽国際会議に出席することになった。
正直降って湧いたような話に「迷惑な…」と思っていたのだが、リヒターと話している内容を聞いて真っ青になってしまった。
昔から父はロキに厳しかったが、そんな虐待まがいの状況だったなんて思いもよらなかったのだ。
これでは父が言っていた『不出来な弟』とは大きく違ってくるではないか。
『教育係に教えられてもできない』のと『そもそも教育係に覚えさせる気がなかった』では大違いだ。

その証拠にたったひと月ちょっとでリヒターから教えられる内容をロキはぐんぐん吸収していった。
これでは教育係達がクズだったと言っているようなものだ。
あの闇医者が言っていた壊れたロキはそのせいだったのだと思い知らされた気分だった。

そして父の言葉を信じて疑わなかった当時の自分にも嫌気が差す。
どうして自分はロキのことをもっと見てやらなかったのだろう?
気づいていたら手を差し伸べることもできたのではないだろうか?
つくづくどうかしていたとしか思えない。

父はそんなにもロキのことが嫌いだったのだろうか?
ただのスペアだからどうでも良かったのだろうか?
それとも教育係達の虐待行為自体を知らなかった?
そこが気になって仕方がなかった。
だから────暗部を放ち、父の周辺を探らせた。

何もなければそれでいい。
そう思いながらせめてものロキへの償いにと王太子としての心構えや周辺諸国のことをしっかりと教えてやる。
リヒターは流石高位貴族の息子なだけあって博識だったが、自分だって負けてはいない。
ロキに必要とされるのは俺だとばかりに張りきって教えてやった。

それから暫くして暗部からの報告が入った。
それによると国際会議に赴くロキをこれ幸いと暗殺しようと企んでいることが判明。
どうやら俺が昼間真面になっているのをじっくり吟味し、これならロキ亡き後『仕方なく』王太子に戻しても大丈夫だと踏んだようだ。
父からすれば体裁が整えばそれでいいのだろう。

ロキを暗殺しようと思ったのは、ロキがいなくなれば大臣達が元通りになると思ったのが大きいらしい。
それに加えロキがいなくなれば俺がロキに抱かれるという醜聞もなくなるというのもあるようだ。
本当にふざけた父親だ。
今更自ら切り捨てた息子を王太子に戻そうと企み、虐待して育てた息子を更に殺そうとするなど……。

(これが実の親だと?)

俺も人のことは言えないが、それでもロキを始末しようなんて考えたこともない。
それなのにこの父親はあっさりとそんな計画を立てたのだ。

「……虫唾が走る」

思わずそう呟いたところで暗部がどうしますかと訊いてきたので俺達が国際会議から戻るまでに隠居させてやれと言っておいた。
あんな父親が王であるなどとても認められない。
さっさと退位願いたいものだ。
これで全てが伝わったようで、その暗部はお任せ下さいと言って姿を消した。
後はロキが暗殺されないようこちら側で気をつけておけばいいだけだ。

(覚えていろ…。この計画を立てたこと、必ず後悔させてやる)

そう思いながらギリッと強く奥歯を噛みしめた。
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