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14.※夜間の訪問者

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兄との話し合い後、気晴らしに街に出てはみたものの、落ち込んだ気持ちは全く浮上することができず、仕方なく闇医者のところで愚痴だけ溢して帰ってきた。
睡眠薬の一つでもくれればよかったのに、「自殺でもされたらカリン王子に殺されますから」と笑われて結局何ももらうことができなかったからだ。

「はぁ……」

今日はもう何もしたくない。
自分の愛した兄はもうどこにもいないのだ。
今日からは寂しく一人寝の日々が始まるのだと思うだけで気鬱になる。
こんな日は早く眠ってしまおうと思い、夕食も食べずにシャワーを浴びて、早々に眠りについた。




コンコン…コンコン……。

何処からかずっと扉を叩く音がする。

コンコン…コンコン……。

(煩いな…寝てるのに)

無視してもいいのだが、やけにしつこいのでつい声をかけてしまう。

「誰だ?」

そうやって不機嫌に問い掛けたのに返答はない。
けれどノックは続く。
仕方がないのでドアの前まで行って再度誰だと尋ねた。

そこで返ってきたのはか細い声。

「ご主人様…」
「…………え?」

そんなはずはない。
兄は確かに正気に返ったはずだと思うのに、寝起きのせいかあれは夢だったのではないかという思いが込み上げてきてしまう。
それともこれこそが夢の中なのだろうか?

「兄…上……?」

若しくは、正気に返ったのはたまたま新薬の効果が出ていただけの昼間だけだったと考えるのは夢見過ぎだろうか?

「ご主人様…一人にしないで……」

そんな不安げな声が聞こえてきて、俺はその気持ちのままドアを開いてしまう。
するとスケスケのガウンを着た兄が下に何もつけないまま腕の中に飛び込んできて、ギュウギュウと抱き着きながら一生懸命口づけてくる。
そんな兄に応えてやりたくなって、そのまま部屋の中に引き込んで鍵を掛けると、互いに求めあうように激しく口づけ合った。

「んっんふっ…」
「兄上…」

けれど少し落ち着いてから、何度も何度もキスしてくる兄にやっぱりおかしいと思い始める。
どう考えてもこんなに生々しい感触は夢であるはずがない。現実なのだろう。
それならどうして兄はここに来たのか?抱かれたかったからに決まっている。
『ご主人様』とわざとらしく言っているのもそのせいなのだろう。
これは以前の兄に戻ったのではなく、演技の可能性が高い。
何故なら兄は正気だったにもかかわらずあんな風に抱かれていたと言っていたからだ。

「ご主人様。やっと会えた」
「兄上…。正気に返ったはずでは?」

その証拠にそんな俺の疑問に答えようとはしない。
しかも徐ろに俺の前で跪き、前を寛げさせて躊躇いなく美味しそうに先を口へと含んで舌と手を使って俺を育てていく。

「んっんっ……」
「ふ…ぅ……。兄…上……」

うっとりと俺のものをしゃぶる兄は以前と何も変わらないように見えるが、これは演技なのだと必死に自分に言い聞かせる。
兄が考えていることが全くわからなくて混乱してしまうが、このまま流されるわけにはいかない。

「あ…早くこれ、欲しい……。ご主人様、早く抱いて?」

物欲しげに俺を見上げ求めてくる兄の姿に危うく絆されそうになるが、理性をかき集めてなんとか引き剥がすことに成功した。

「兄上!」
「ご主人様?」
「…………俺を都合よく性欲処理に使わないでください」

俺の砕けてしまった恋心を利用しないでほしい。そう言ったつもりだったのに、兄はそっと立ち上がると近くにあったソファに俺を押し倒して抱きついてくる。

「ロキ…好き」
「嘘つき……」
「本当に…ロキだけが好きなんだ」

何度でも信じてくれるまで言うからと兄は切なげに言うが、とても信じられないと突き放す。
それでも兄は俺の手を取って「ほら」と心臓の音を俺に伝えてくる。

「ロキと居る時だけ俺はドキドキするし、ロキにだけ抱かれたいと思う。その証拠に今日俺を襲おうとした兵達は急所を蹴り潰すくらい不快だった」
「…………え?」
「多分あいつらだろう?お前が言っていた、俺を抱いていた複数の男達は」

抱いてやると言って無理矢理襲おうとしてきたから返り討ちにしてやったと兄は不敵に笑った。

「お前が言ったんだ。俺はお前のものなんだろう?」
「そ…れは……」
「俺は…本当にお前だけがいい。お前に避けられるのは辛いし、大嫌いだと言って拒まれるのも嫌だ」
「…………」
「俺にはお前が必要だし、お前だけを愛してる。だから慰み者でいい。ずっとお前のものとして傍に置いてほしい」
「兄上……」
「……返事は?くれないのか?」
「う…っ、狡いですよ」

愛してるだけなら兎も角────お前が必要だなんてここで言うのは卑怯だと思う。

ずっとずっと誰かに言って欲しかった。
こんな自分にも価値があるのだと認めてもらえるその言葉は────自分の中で何よりも尊い大切な言葉だったから、そんな風に言われたらまた泣きたくなってしまうではないか。

(絆されたわけじゃない)

自分を必要としてくれていたあの可愛い兄と今の兄が重なったわけでもない。
それなのに、じわりじわりと胸に何かが込み上げてきてしまう。
真剣に俺を見つめる目に心射抜かれたわけでもないのに……何故か信じてみたくなってしまった。

「……俺は絶対に優しくなんて抱きませんよ?」
「ああ。寧ろヤバいくらい虐めてくれ」
「ブルーグレイで一体どんな酷い目に合ったんです?」
「冷たいドSな拷問官にありとあらゆる酷い目に合わされただけだ」

淡々とそう告げて、兄はまた俺にそっと口づけを落とした。

「間違ってもお前みたいに愛情を注いではこなかったから、二度と抱かれたいとは思わないがな」

お前だからこそこうして誑し込んででも抱かれたくなったんだと兄は秘密を明かすように囁いてくるから、実にあざとく感じて笑ってしまった。

「兄上…」

そして意を決してベッドへと移動し、兄を押し倒してみる。

「都合よくまた愛してもらえるなんて思わないでくださいね?」
「それはわかっている」

そう答えた兄の目はどこか優しくて、俺を嫌っていた頃の面影は全くと言っていいほど見つからなかった。

(本当に…このまま抱いていいのか?)

チラリとそう思うけど、それを望んでいるからこそ兄はここにこんな格好で来たのだろう。

「こんなスケスケのガウンで廊下を歩いてきたんですか?何時間あそこにいたんです?」
「さあ、どうだったかな?二時間くらいか?」
「誰にも見つかりませんでした?」
「ははっ…!部屋を出てすぐにミュゼが通りがかって驚愕してたから、演技で正気を失ったふりをしてやったら蒼白になってフラフラとどこかへ行ってしまったぞ?」
「悪い人ですね」
「お前を手に入れるためなら俺は何でもする」

もうお前しか欲しくないんだからと蠱惑的に笑う兄は以前とは違ったフェロモンを巻き散らしていたけれど、乳首を強く引っ張って耳の穴を舐めてやったらすぐに甘い声で啼き始めて、あっという間にいつもの兄へと堕ちていった。


***


「あ…あぁあっ!そこっ、そんなにコリコリしちゃダメッ!」
「ふふっ…ディルドを入れながら前立腺を虐められるのにも慣れてきましたね。もう指じゃなく俺のを挿れていいですか?」
「はぁ~…はぁ~…。あ……っ」
「そんなに物欲しげにして…本当にドMですね。全く……っ」
「あ────っ!!」
「ふっ…擦れる……っ」
「アッアッ…苦しいっ!壊れちゃうぅっ!」
「ははっ!こんなに広がって…。まさか本当に二本も咥えこむなんて思いもしませんでしたよ!」
「あぁぅっ!あ、そんなにしないでっ!」
「こっちもちゃんと動かしてあげますよ。ほら、気持ちいいんでしょう?」
「あひっ…!気持ちいいッ、気持ちいいぃッ!」
「今度また3Pでもしましょうか?今度こそ視姦してねっとりじっくり楽しませてもらいますよ。楽しみですね?」
「あっ、嫌っ嫌ぁっ!!」
「俺以外に抱かれるのにも慣れてください」

可愛い貴方が犯されるところを見たいんですって囁いたら、ものすっごく嫌そうな半泣き顔をされたからまた興奮してしまった。

「可愛いだけの兄上じゃなく、素面しらふの兄上を虐めるのもいいですね」
「ううぅ…っあ…ロキぃ…!」
「俺の恋人になってくれるなら兎も角、慰み者になってくれるって言いましたよね?それなら俺の性癖にとことん付き合ってください」
「ふぅぅっ…!あぁんっ!ひぃっ!激しッ激しいぃっ!あ、もぅ…好きにしてぇえぇっ!!」

理性と欲望の狭間で葛藤する兄を見て更に興奮し、結局抱き潰すほどしてしまったけれど、兄も白目で気持ちよさそうに気を失っていたから別にいいだろう。

一方的に利用されるのはお断りだけど、これはこれで悪くはない。

(見失った恋だけど……また一から貴方を好きになっていいですか?)

そんなことを思いながら、俺はそっと快楽堕ちした兄に口づけた。


****************

※カリン王子はどちらかというと元々策略家的イメージで書いてるんですが、快楽堕ちもしてるのでこんな感じになりました。
演技で演出して扉を開けさせて、情に訴えつつなし崩し的に事に及んで、ついでにロキの嗜虐心も満足させてガッツリ捕まえる作戦。
半分以上成功したけど、ロキの性癖を読み違えてちょっとだけ失敗って感じです。

次話がエピローグで、その後の二人を双方視点で書いていますのでよろしくお願いします。(R‐18)
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