【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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13.周囲の者達 Side.カリン王子

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言っては何だが、俺はガヴァム王国で将来を期待されていた王太子だ。
ブルーグレイで失敗してしまったのは相手が一枚上手だったに過ぎない。
だから……ロキとの仲を改善するのはそんな俺には朝飯前のはず…。
そうして自分を奮い立たせて部屋を出た。

「……カリン王子?」
「ミュゼ」

改めて落ち着いてロキを説得しに行こうと廊下に出たところで、嘗ての俺の補佐官であり、昔からよく知る相手でもある男が歩いてきてついうんざりした目を向けてしまう。

「私がお分かりになるのですか?」
「ああ」

そう答えてやるとたちまち顔を輝かせて俺の前に跪いてきた。

「お帰りをお待ちしておりました」
「……どの口が」
「え?」
「いや。こちらの話だ。それよりもロキを見なかったか?」
「ロキ王子ですか?」
「ああ」
「わかりませんが…もしや暗殺者でも差し向けるのですか?」

復讐をするなら手伝いますがとサラリと言われ、こいつはこういう奴だと改めて思い知る。
利用できる奴をただ利用し、要らなくなったら処分する。
そこに余程の価値でも見出さない限り、あっさりと切り捨ててしまう。
裕福な公爵家嫡男特有の傲慢さを普段は綺麗に隠しているが、付き合いの長い俺には通用しない。
だから俺が王太子だった頃は何の問題もなかった。

でもきっとロキはそんなミュゼの本性を知らないだろう。
単純に表面的なところしか見ていないはずだ。
そもそも興味すらないからどうでもいいと考えていそうで心配になる。
このままでは利用されるだけ利用され、ただの傀儡になるだけだ。
だからこそ少しだけ探りを入れておくことにした。

「ロキの仕事ぶりはどうだ?」
「さて、どうでしょうか?本人的に頑張っていますし、やっと及第点と言ったところです。完璧な貴方とは比べるまでもない」

挙句に王の足まで引っ張っていらない仕事が増えたと憤っている。
これは良くない傾向だ。
けれどそれはきっとロキなりの復讐なのだろうと察することはできた。
ロキは王太子として責任をもって国を率いるつもりなどこれっぽっちもなく、降ってわいたチャンスを手にして復讐のために淡々と日々の仕事をこなしている。ただそれだけなのだ。
そこに国に対する思いなどは一切ない。
そうさせたのは他でもない、自分達だ。

「それよりももうお体の方は大丈夫なのですか?」
「いや。万全というわけではない。それ故に俺にはロキが必要だ。勝手に処分などは万が一にでも考えるな」
「御意。ブルーグレイへは如何いたします?報復はなさいますか?」
「国が滅んでいいなら好きにしろ」
「ははっ!早いか遅いかの違いなら私は遅い方を選びます。ご心配なく。まあそんなことにならないように上手くやってみるつもりではありますが…」

暗にロキはこのままでは国を滅ぼすから自分が好きなように操ってみせると言ってくるミュゼ。
そしてついでとばかりに冷たい笑みで俺を見据えてきた。

「貴方が王太子に返り咲くのは難しいですが、影の王となるのは可能ですよ?」

国を存続させたいならロキを操り人形にして裏で執政を行えばいいと、まるで悪びれる様子もなく言い放ってくる。
要するに協力関係を結ぼうという訳だ。

「どうせあの方が王位に就けば、裏で暗躍する者は増える一方。そうなるくらいならその座を貴方が押さえるのがベストです」
「…………まあ考えておこう」
「はい。ご英断感謝いたします」

(この腹黒が…)

結局効率良く自分の思い通りに国を動かしたいだけだろうに。
俺が使えると判断してのことだろうが、いつか痛い目に合わせてやりたいと思った。
本当に腹立たしい。
こんな輩ばかりの中にいたら確かに自衛の術を持たないロキはあっという間に潰されてしまうだろう。
あの闇医者の言っていたことはどこまでも正しいと言えた。

(ロキは俺が守ってやらないと…)

報酬は夜抱いてくれるだけでいいからなんとか元通りの関係に戻りたかった。
あの日々がもう戻らないのだとは思いたくもない。

そしてミュゼを見送り、本格的にロキを探してみることにする。
ミュゼがここにいるということは今日は午後から休日になっている日のはずだ。
仕事に向かったという可能性はないだろう。

そう思ってロキの部屋、庭園、温室、鍛錬場など居そうな場所へと次々足を運んでみたが、ロキの姿はどこにも見つからなかった。

(もしや…街に出たのか?)

その可能性は高い。
闇医者ともそこで出会ったと言っていたし、居場所を求めて抜け出していたとしてもおかしくはない。
けれどそれを考えると益々ここにはロキの居場所はなかったのだと痛感し、苦しくなってしまった。

「ロキ…」

そう言って切ない気持ちに襲われていると、訓練を終えたであろう兵達が歩いてくるのが見えた。

「あれ?カリン王子ではありませんか?」
「本当だ。カリン王子!」

何故か親し気に話しかけてくる男達。
そんな男達に誰だと問うような視線を向けると、あっさりとソレが判明する。

「もう忘れてしまいましたか?アンアン言って悦んで俺達と寝ていたではありませんか」
「そうですよ。もっと奥までいっぱい突いてって涎垂らして強請ってましたよね?」

どうやら彼らは父が俺に用意していた男達だったらしい。

「知らんな」

思い出したくもないと冷たく言い捨て背を向けると、グイッと肩を掴まれ腕の中へと閉じ込められた。

「まあまあ。そうツレなくしないでくださいよ。俺達みんな、貴方をロキ王子に取られて残念がってたんですよ?どうせロキ王子だけじゃ足りないでしょう?ちゃんと俺達が淫乱な貴方を満足させてあげますよ」

そんな下卑た言葉の数々に不快感が増していく。

(俺はこんな奴らに……悦んで尻を振っていたのか)

ロキとは雲泥の差だと思いながら、隙を突いて抜け出し思い切り急所を蹴り潰す。

「ぎゃぁあああっ!!」
「なっ?!」
「そんな汚いものは不要だ。他の奴らも潰されたくなければさっさとここから去れ!」
「ひぃっ!」

バタバタと慌てて駆け去っていく男達。
そんな姿を見遣って俺は大きく溜息を吐いた。

(あまり外を出歩くものではないな…)

これまでは基本的に部屋の中で安全に守られていたのだ。
周囲にいるのは口の堅い者達ばかりで、比較的安全な者達しか置かれてはいなかった。
食事だってちゃんとしたものばかりだったし、わざわざ俺の好物を用意してくれるなど、ロキの気遣いも見られた。

「ロキ…どこに行った?」

(早く帰ってこい)

そう願いながら空を見上げ遣る瀬無く息を吐くと、確実にロキを搦めとる作戦を考えるべく部屋へと戻った。


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※次からR-18に戻りますのでよろしくお願いします。
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