【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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69.ヒロの帰還

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「ヒロ、準備はいいか?」

この日、朝早くから俺はヒロの部屋を訪れていた。
そこには既に準備済みのヒロの姿がある。
こちらに来たばかりの頃に着ていたのだろう、今時の流行を取り入れた洒落た服装をするヒロ。
でもこちらでの服や軽鎧、剣を持つ姿をすっかり見慣れていた俺には物凄く違和感が感じられる服でもあった。

「なんか筋肉ついたせいか腕のあたりとか色々キッツイんだよな~。帰ったら絶対すぐに服買いに行こう」

細身なシルエットのシャツはどうやら窮屈になったようで前のボタンも閉められなかったらしく、まるっきり同じという訳ではなく諦めてこっちのインナーも使ったらしい。
それでも違和感なく収まっているところが上手いもんだなと思った。
さすがはお洒落なイケメンリア充だ。

「じゃあ、宜しくな?」

そして清々しく笑ったヒロに俺は微笑んで、立ち会うと言ってくれたヴェルとハイジの前でその魔法を発動させた。

「【帰還魔法(リターンフェノム)】!」

それと同時に淡く白い光がヒロの身を包み込み、ふわりと優しい風が吹き抜けたと思うと同時にその姿は跡形もなく消え去っていた。

「……本当に…呆気ないほど一瞬だったな」

もう会えない俺の親友────。
それを思うと勝手に涙が流れていた。
そんな俺をヴェルが優しく抱き寄せて、泣いていいと言ってくれた。

「うっ…ぐすっ……」

ハイジの方も号泣だ。
やっぱりヒロのことが好きだったんじゃないだろうか?
なんだかんだ仲も良かったみたいだし…。

そんなことを思っていたら突然部屋の中を一陣の風が吹き抜け、なんだろうと思ったら次の瞬間トサッと軽い音を立てて血まみれのヒロが戻ってきた。

「「「え?!」」」

一瞬魔法に失敗したのかと思って、焦って回復魔法を唱える。
俺のせいで死んだらどうしようと必死だった。
けれど、呻き声を上げて身を起こしたヒロは先程とは服装も違っていて、少し大人びた姿に変わっていた。

「おおっ?!俺、生きてるじゃん!」

その声は確かにヒロのもの。
けれど────顔を上げたヒロはどう見ても俺とあまり年が変わらなくなっていた。

「サトル!ただいま!」

笑顔で爽やかに言ってるけど……。

「ヒロ!ヒロッ!ヒローーーー!うぁあああん!」

思考がストップしてしまった俺とは違って、ハイジがそんなヒロに思い切り抱き着きながら泣きじゃくる。
そんなハイジを受け止めてヒロが随分と懐かしそうな目をしながら優しく背を撫でた。
「なんだハイジ。お前、こんなに小柄だったっけ?」
「煩いですわ!黙って……その胸を貸しなさい…っ!ぐすっ…」
そうして一頻りハイジが落ち着くのを待つことになった。




それから腰を落ち着けて改めてヒロから事情を聴いたんだが、それによると、無事に日本に帰りついたヒロは帰れたことに感激しつつ当初の予定通り友人たちとバンドを組んで充実した大学生活を満喫したらしい。
で、数年経ち大学卒業を控えたその日、バンドの練習帰りに夜道を歩いていると居眠り運転のトラックが突っ込んできたのだとか。
電柱とトラックに挟まれて身動きできないまま「このまま死ぬのかな」と思った時に、こういう時俺がいたら回復魔法とか使ってくれただろうなって思って思わず笑ってしまったらしい。
そこで懐かしい面々を思い出して、最後に会いたかったなと思いつつ俺の名を口にしたらこっちに戻ってきていたのだとか。
年数が経っていたし、まさかそれで本当にこっちに戻ってきて助けてもらえるとは思ってもみなかったらしい。
助けられて本当に良かった。
でも……。

「あのさ、言い難いけど、その状況でこっちに戻ってきたならもう戻れないと考えたほうがいいぞ?」

正直俺同様、帰ったら死亡コースまっしぐらだ。
けれどヒロはそれに対してあっけらかんと言った。
「別にいいぞ?やりたいこと全部やってきたし、その結果があれだったってことだろう?それならもうこっちで普通に生きるけど?」
そして変わらない笑顔ではっきりと言い放つ。
「あっちだと折角覚えた魔法も剣術も全然使えなかったしな!ブランクはあるけどまた鍛え直して、今度は隣国で冒険者になる!その方が絶対楽しそうだしな!ついでに歌も広めたらもっと楽しくなりそうだし!」
実にヒロらしい前向きな言葉だ。
そんな言葉にハイジがパッと顔を上げる。
「そういうことなら私もヒロとパーティーを組んで冒険者になりますわ!」
「お、いいな!ハイジが一緒なら心強いし。なんならサトルもついて来ればいいのにな。無理とは思うけど」
そして笑顔でこっちを見た後、ハイジに「宜しくな」と言って拳をコツンとぶつけあっていた。
(なんかいい感じ…)
二人を見てるとそのうち上手くいくんじゃないかなと思わず笑みが零れ落ちてしまった。

そんな俺にヴェルがそっと手を伸ばしてきて、腰を抱かれた。
「ヴェル?」
「……私も、トモのようにマナをサトルと呼んでもいいだろうか?」
その顔は少しだけ拗ねているようにも見えて、妙に可愛く見えた。
ヒロが助かったのはいいが、予想外にヒロの年齢が上がって気安い感じで名を呼んだから複雑になったらしい。

でもこれって…もしかしてヴェルはまだ気づいてないのかな?
「別にいいですけど…サトルってただの本名ですからね?愛称っていう意味ではマナの方がそうですからね?」
「…………え?」
驚き過ぎて目を瞠ってるヴェルも可愛い。
「だから、俺の名前は真中悟(まなかさとる)。こっち風に言い直すとサトル=マナカ。ヒロもそうで、こっち風に言うとヒロ=トモヤなんですよ。つまり、ヴェルはずっと勘違いして愛称で呼んでたってこと」

それはヴェルにとってもあまりにも衝撃的な事実だったようで、驚き過ぎて声も出ないようだった。
「宰相!本当に気づいてないとかウケる!」
ヒロがゲラゲラ笑い出すが、そんなに笑ったら可哀想だ。
そういう所もヴェルの持ち味なのに。

「ヴェル。だから、これからもマナって呼んでくれたら嬉しいんだけど…?」

ここで俺のことをマナと呼んでいる人は何人かいるけれど、それは例外なく『マナ様』で、マナと呼び捨てで呼ぶのはヴェルだけだ。
だからできればヴェルにはそのままマナと呼んでもらいたい。
そう言ったら少し照れたようにしながら俺を「マナ」と優しく呼んでくれた。


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