【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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63.俺の好きな人

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まさかまさかの展開だった。
ヒロが必殺の一撃を放とうとしたあのタイミングでまさかフィーアがジフリートを攻撃するなんて、誰も想像していなかったに違いない。
だって危ないじゃないか!
ヒロも慌てて空に攻撃逃がしてたし。
直撃したら絶対死んでたぞ?
え?何?フィーアってジフリートの事好きだったのか?
いや、でも刺してるしな…。違うか。
あそこで両手広げて庇ってたらきっと話は全然違ってたんだろうけどな。
なんか【魅了】とか使ってたし、意味が分からない。
もう安全ってことでいいのだろうか?
取り敢えず王太子の命令でフィーアの元で幽閉って処分が下ったから多分大丈夫…なんだよな?

内心パニックになりながらもなんとかそんな結論に至って、俺はへたり込む宰相の元まで走り寄った。
本当に宰相は頑張ったと思う。
怖いジフリートの元まで自力で歩いて行って、そこまでたどり着いたと思ったらジフリートに抱きしめられたり王太子に雷落とされたり…。
ヒロの攻撃も余波がきたらどうしようと思っただろうし、目の前でジフリートが串刺しにされたのも見ちゃったんだよな?
本当に可哀想すぎる。

宰相…ヴェルが一体何をしたって言うんだろう?
こんなに弱いのに精一杯頑張ってるじゃないか。
仕事が出来て地位があるからって全部抱え込まされて…弱音も吐かせてもらえない上に勘違いされて、結果こんなことに巻き込まれて…。

(俺が守ってあげたい…)

誰にも傷つけられないように自分の手で守ってあげたい。
自分の前では取り繕ったりせず、素のままの姿を見せて欲しい。
素直に頼ってもらえたらそれだけで嬉しい。

「宰相、怖かったですね」

腕の中で泣くヴェルの涙を俺の手で止めてやりたかった。
以前ヒロに人を見る目を養えとか言われたことがあったけど、宰相は文句なしに良い人だと思う。
それに……多分俺はこの人が好きなんだと思う。
なんだろう…。一人で生きていける人にたぶん俺は興味がないんだ。
日本で俺を助けてくれたあの人事部長は文句なしにカッコよかったけど、そこにあるのは尊敬と憧憬しかなかった。
『あんな人と恋愛関係になりたい』なんて当然ながら思うことはなかったし、どちらかと言うと『あんな人になりたい』って感じだ。
それと同じで、バイト時代も含めて付き合いたいと思える相手には出会ったことがなかった。
それは皆自分というものをある程度持っている上に、俺がいなくても全然大丈夫な人ばかりだったと言うのも大きいと思う。
俺自身、家庭のことでいっぱいいっぱいで恋愛をする余裕がなかったのもあるけど、自分を必要としてくれる人を心のどこかでずっと求めていたように思う。
執着してくる家族がずっと嫌だったし、敢えて歯向かって自己主張したことだってあった。
けれど聞く耳なんて持ってもらえなかった。
それって、【俺】という個人を見てくれているわけじゃなくて、【自分の子供】=【所有物】と思っているだけじゃないのか?
所有物が何を言っても聞く必要はない。俺の親はそんな感じだった。
だから俺は俺に向き合って話をちゃんと聞いてくれる、俺自身を愛してくれる人をどこかで求めていたような気がする。
そしてそんな相手を自分の手で守ってあげられたら……もう何も言うことはないと思った。
『守ってあげたい』─────。
エゴかもしれないけど、人として終わってるのかもしれないけど、俺が知った遅い恋はそんな思いを俺に抱かせたんだ。
ヴェルが本当に俺のことを好きでいてくれているなら…少し話を聞いてほしいと思った。
その上で出来ればずっと傍に居てもらえたら嬉しい────そう言ったら引かれてしまうだろうか?
重いということは重々わかっているから、そこで引かれてしまったらおとなしく身を引こうとは思うけど、もしも受け入れてもらえたらずっと大切にしたいと思う。

そう考えを纏めながらまだ泣いているヴェルの背をそっと撫で続けた。




一頻ひとしきり落ち着いたところでミルフィスから声を掛けられて、宰相が顔を上げる。
目が真っ赤になっていたからさり気なく回復魔法を掛けたら恥ずかしそうに礼を言われた。
そして放置していた王太子の元までみんなで挨拶へと向かった。
王太子はこうして面と向かって向き合うと意思がはっきりしたザ・王子という感じの人で、あの時の熱いパッションの曲を奏でてたのはこの人だなと言うのが一発でわかった。
そして後ろにそっと控えるのが王子の大事な女性。
彼女は控えめだけど内側にしっかりとしたものを抱えてる印象を受けた。
うん。演歌が似合う感じ。
やっぱりあの曲はまず間違いなく本人の内情を表すものに間違いはなさそうだ。
そんな風に思考が脱線していたところ、王太子の言葉に宰相が応える声が耳に届いてきた。

「もし…本当に叶えて頂けるのでしたら、出来るだけ早くカテオロスに帰らせて頂きたく」

それを聞いて俺は思わず瞠目してしまった。
宰相がカテオロスに帰ると聞いて、鼓動が跳ね上がる。
ここから宰相がいなくなる日がくるなんて思ってもみなかったからだ。
ずっと帰りたいと思っているのは知っていたけれど、それでもずっとなんだかんだとここにいるのだと思い込んでいた。
だから王太子があっさりと許可を出したことに衝撃を受けた。
しかもヴェルはそれを受けて物凄く喜んじゃってるし…。
それってやっぱり俺が好きって言うのも俺の勘違いなのかな?
でもそれならそれで自分の気持ちくらいはちゃんと伝えてからお別れしたい。
できれば…傍で働きたいって言うのが本音だけど。
だからここは取り敢えずついていくべきだろうと声を上げることにしたんだ。

「あ、宰相。カテオロスに帰るんですか?俺も一緒に行ってもいいですか?」

カテオロスに帰るならもうこうやって宰相と呼ぶこともなくなるのかなと思いながら、照れ隠しなしにちゃんとヴェルって呼べる日が来ればいいななんて思ってしまう自分がいたり…。
何気に早速恋心が暴走しそうで厄介だ。自制自制…。初恋怖い。
まあそんな俺の心境は兎も角として、これはきっとヴェルにとっては意外な言葉だったのだろう。
「一緒に?」と言いながら驚いた顔をしていたから、「ヒロもハイジもみんな帰るなら俺は宰相についていきたい」と言ってみた。
俺は単純に本心からそう言ったし、ついていくだけなら別に問題もないだろうから迷惑にもならないかなと。
断られる理由もないからこのまま丸く収まるだろうなと思ったんだが、何故かここで王太子が鬼畜な発言をしてきた。
カテオロスに帰っていいのは最大ひと月だって。
ぬか喜びさせるなんて…酷い!
ほら、ヴェルが愕然としながら詐欺だと落ち込んでしまったじゃないか。
本当に可哀想だ。
こうなったら励ますしかないよな。

俺でよかったら付き合うから、そんなに落ち込まないで欲しい。
俺の言葉でも料理でも魔法でもなんでも使えるものは使うから、元気を出してほしいんだ。
ヴェルが俺を必要だって言ってくれるならいくらでも尽くしたいと思う。
だから────これからも傍においてくれたら嬉しい。

そんな思いで声を掛けていると死んだ魚のような目が生き返った。
うんうん。ヴェルにはそんな感じでずっと生き生きしていて欲しいものだ。

取り敢えず胃袋を掴むためにリクエストのオムライスを作ろう。
中が半熟なオムレツを乗せたオムライスってこっちでは意外にもなかったんだって。
今日も美味しそうに食べるヴェルの顔を見る幸せに浸りたい。

それから────今日中にちょっと溢れ気味な「好き」って気持ちを伝えられるといいなと思った。



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