【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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60.ある意味三つ巴だな

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皆で塔へと駆け付けると、そこには王太子を盾にし、魔物に女性を咥えさせ人質に取っているジフリートがいた。
先に来ていた兵達は魔物に吹き飛ばされたのか、あちらこちらで蹲ったり倒れたりしている。
これは俺の出番だろうとそっちに回復魔法を唱えようとしたところで、突然こちらに目を遣った王太子が物凄く憎しみを込めた声で宰相の名を叫んだ。

「ヴェルガーーーーーー!」

それと同時に大気が動き、物凄い質量が王太子の方へと集まっていくのを感じ、これは危険だとわかった。
勿論危険なのは名前を呼ばれた宰相だ。

「下れ!【轟雷】!」

そんな声と共にそれは物凄い質量を持ちながらビリビリと空気を大きく振るわせて宰相の上へと落とされる。

ドガァアアアアッ!!

これは直撃したら確実に死んでしまうレベルの魔法だった。
(王太子怖い!)
そう思いながらも宰相を守るためにそれが宰相へと直撃する前に既に魔法を発動させていた。

「【聖守護結界(ホーリースポット)】!」

これはずっと張り続ける類の魔法ではないが、狭い範囲で強力な魔法をも防御しきってしまう魔法だ。
レベルが上がってから覚えたので使ったことはなかったのだが、今ほど咄嗟に使えてよかったと思ったことはない。
防御魔法を重ね掛けしていたとは言え、下手をしたら宰相が大怪我をしてしまうところだった。

「宰相?!無事ですか?!」

無事なのは見たらわかるのだが、あまりのことに腰が抜けてしまっている。
生まれたての小鹿みたいにプルプル震えてて可愛いけど、ジフリートにまた攫われたら大変だと思い回復魔法を掛けておいた。
それにしても王太子は何か誤解しているのではないだろうか?
ジフリートではなく助けに来たこちらを攻撃してくると言うのもおかしな話だ。
もしやあの魔物に咥えられている彼女を助けたければこちらを攻撃しろとでも予め脅されていたのだろうか?
それにしては物凄く憎々し気に宰相を攻撃してきたような気がするのだが─────。
それにジフリートは宰相のことが好きなはずだから、攻撃するなら俺にしてくるはずなのに……。
(状況がよくわからないな)
そうして油断せず様子を窺いながら宰相に手を差し伸べて立ち上がらせていると、今度はこちらを向きながら王太子が吠えた。

「聖者様!何故です?!どうしてそんな男を庇うのですか?!」
「え?いや、庇うだろう?だって味方だし」

けれどその言葉は王太子にはそのままの言葉通りには受け取ってもらえなかったようで、なんだか明後日の方向へ話が飛んでしまった。

「聖者様!もういいのですよ?敵の懐に自ら飛び込みあわよくば改心させようとなさっておられたのですよね?もうそんな風にそんな卑劣な男に心を砕く必要などありません」

卑劣?
誰のことを言っているのだろうか?
もしかして宰相か?
悪意もなければ脅威もない。物凄く安全な人なんだけどな。
どこをどうとったらそうなるのだろうか?
そうして首を傾げていると、王太子はまるで全てわかっているのだと言わんばかりに言葉を続けた。

「その男が王位簒奪を狙い、その隠し持った強大な氷魔法で王や大臣達を氷漬けにしたことは既に聞き及んでいるのです。しかもその手腕と色香でジフリートを誑かし、私達を捕らえさせ塔へと幽閉していたのです。そのように温情を掛ける必要など一切ありません」

はっきり言ってその話を聞いて、誤解だと突っ込みを入れたくなってしまった。
今のはどこの誰の話だろう?
宰相はそんな悪事を企める人なんかじゃない。
そもそも王達を氷漬けにしたのは宰相ではなくジフリートが召喚していたであろうあの時倒した魔物だろう。
王太子達を幽閉したのもジフリートだ。
ジフリートが宰相に執着しているのは確かだが、黒幕が宰相というのはかなり無理があると思うのだが…。
大体からして政務だって誰もやる人がいないから仕方なくこなしていただけだし、国のために宰相は宰相なりに一生懸命頑張っていたのに…。こんな風に勝手な思い込みで誤解されたら可哀想だ。
もしかして王太子は宰相の為人ひととなりをあまり知らないのだろうか?
それならそれでわからなくはないが、少しは状況をちゃんと見て話してほしいと思う。
(本当にこの国の人は思い込みが激しくて誤解ばかりするな……)
どうやらこれはジフリートが何かを吹き込んだわけではなく、王太子も例外なく勘違いしやすい質だったというだけの話らしい。
それがわかって、俺は思わず大きな溜息を吐いてしまった。

「ヴェルガー。こうしてその罪が明るみに出て、ジフリートと共に他国へと逃亡しようとしているこの状況!最早言い逃れなどできないぞ?聖者様。その悪党については私自らの手できっちりと始末をつけますので、どうかその優しい癒しの手は他の者へとお使いください」

王太子が何故か俺には優しいんだが…ご飯が美味しかったからだろうか?
そんな簡単に餌付けされたら問題ですよ?危機感持ってください!
初対面なのにちゃんと聖者だってわかってくれているのは嬉しいが、何にせよ取り敢えずその宰相に対する誤解だけは早く解いておきたい。
一体王太子の中で宰相はどれだけ悪役と化してしまっているのだろう?
下手に攻撃力が高いだけにこの勘違いは厄介過ぎる。
大体ジフリートと宰相が他国へ逃亡なんてどこからそんな想像が膨らんだのだろう?
宰相はジフリートをあんなに怖がっているのだから、一緒に逃亡なんてあるはずもないのに……。

さて、どう言えばこの状況を打開できるかとミルフィスの方へと視線を向けたところで、その声はその場へと響いた。

「マリウス様?次にヴェルガー様に攻撃すればその場で婚約者の命はなくなるものとお考えを」

それは誰あろうジフリートだった。
どうやら先程の制止する暇もないほどの凄まじい雷撃はかなり衝撃的だったようで、彼の逆鱗に触れてしまったらしい。
まあそれはそうだろう。
宰相を手に入れたいのにその前に殺されてしまっては元も子もないのだから。

「マリウス様……ッ!」

ジフリートはいつの間にか鳥の魔物の上へと乗り、剣を手にしながら女性へと突きつけ、ツッ…と頬に一筋の赤い傷をつけているため王太子も固まらざるを得ない。
ジフリートのその目は爛々と輝いていて、ただの脅しでないことは一目でわかった。
恐らく宰相を傷つけた瞬間、彼女の首は落とされてしまうことだろう。

「ノーラ!くっ…卑怯な!」

この状況は正直どう動けばいいのか全く分からない。
あのノーラと呼ばれた女性の命も大事だし、宰相をおとなしく渡すわけにもいかない。
一体どうしたものか─────。
けれどジフリートはこの場の主導権は自分にあると言わんばかりに妖艶に微笑み、言い放つ。

「さあ、ヴェルガー様?安全は確保しましたので、ノーラ様をお助けしたいのならどうぞこちらへ」

にこやかにも見える笑みを浮かべながら宰相へと選択を迫るジフリートが憎らしい。

「宰相!行っちゃだめだ!」

そんな状況で反射的に俺はそう口走ってしまったが、次の瞬間物凄い風圧がすぐ横を駆け抜けていった。
ヒュバッと音が耳元で鳴ると同時に、パリンと自分に掛けていた防御魔法が一枚砕ける音を聞く。
どうやらミルフィスが言っていたようにジフリートの攻撃力は上がっているらしい。
まさか防御魔法を一枚とは言え砕いてくるとは思わなかった。
連発されるとさすがに辛い状況に追い込まれてしまうだろう。
当然それを予想してジフリートはどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべてきた。

「賢者様?動かない方が賢明ですよ?……さあヴェルガー様。どうぞこちらへ」

この状況でこんな風に言われたら優しい宰相は行かざるを得ないではないか。

「私が行けば…マナと彼女を助けてくれるのか?」

震える声で宰相が真っ直ぐにジフリートへと問いかける。
けれどジフリートはそれには答えず、ただ笑みを浮かべるだけだ。

「…わかった」

そんなジフリートを見て、何かを決意したような声でしっかりと歩を進めた宰相は毅然としていて凄くかっこよかった。
本当は怖いのに、彼女を確実に助けるために自らジフリートのところへ行こうとしている宰相がすごく眩しくて、このままおとなしくジフリートに渡すなんて冗談じゃないと思った。
だから────俺はサッとヒロとハイジ、ミルフィスに視線を向け、すぐにでも動けるように合図を送った。

(宰相は易々とは渡さない!!)

そんな強い想いを持った途端、何故か内から力が湧いてきて、目の前に透明なステータス画面が現れて淡い光を放ち始める。

(なんだ?)

そこに書かれていたのは新しく使えるようになった魔法だった。

****************

【聖母の加護】愛を知り、守りたいと強く願うことにより解放される特殊聖魔法。一定時間全ての物理攻撃、魔法攻撃を無効にし、受けたエネルギーを全てカウンターアタックへと変換することができる。

****************

何このチート魔法?
攻撃魔法とは少し違うが、これって相手が強ければ強いほどカウンターで勝手にやられてくれる魔法なのでは?

とは言えこの土壇場でこの魔法が解放されたのは非常に嬉しい。
取り敢えず宰相には掛けておくべき魔法だろう。
これなら最悪ジフリートに空へと逃げられ、宰相が逃げようとして落下したとしても死なずに済む。
そして────ついでに王太子とあの女性にも掛けておけば尚安心だ。
この三人の身の安全さえ確保できれば後は四人でジフリートと魔物を倒せば済む話だからだ。
そう考えを纏めて、宰相の背中に向けて魔法を唱える。

「【聖母の加護】!」

それと共にごっそりと魔力が体から出ていくのを感じる。
どうやらこの魔法はかなり魔力消費の激しい魔法らしい。
まあそれだけ凄い魔法ということなのだろう。
けれど流石にこれを連発はできそうにない。
仕方がないので王太子とあの女性は防御魔法の重ね掛けにしようと考え直し、すぐさま魔法を発動させた。


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