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59.牢から出る日―マリウス視点―
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上からいつもよりも荒々しい足音が聞こえてくる。
一体誰だと思っていると、現れたのはジフリートだった。
けれどいつもとは違いその手に食事のトレイは手にしていない。
代わりに鳥の魔物を従え怒りも露にやってきたのだ。
「ひっ…」
ノーラが怯えたように小さく悲鳴を上げたので庇うように前へと出る。
「どういうつもりだ」
睨みつけるようにそう尋ねると、ジフリートはギラギラと光る眼で「出ろ」と言った。
「おかしな真似をすれば愛しい婚約者の命はありませんよ?」
そして牢を出た突端、魔物の口にノーラを咥えさせてこちらを牽制してくる。
これでは魔物を攻撃することもできない。
牢を出てわかったのだがこの魔物は異様に魔力が高い。
一体何を代償にしてこんな魔物を従えることに成功したのだろう?
恐らく自分の最大魔法でも一撃で倒すことは不可能なのではないだろうか?
それにジフリートの方もそうだ。
以前会った時よりも格段に魔力が上がっているような気がする。
これではノーラを盾にとられていなくとも、自分一人で倒すことはできないだろう。
けれどあの忌々しい牢からは出られたのだ。
これからどんな状況が待ち受けているのかはわからないが、一先ずヴェルガーの姿を確認した瞬間魔法を放てるようにはしておこうと魔力を練り上げる。
そうしておとなしくジフリートに従い階段を上がっていくと、そこは確かに塔の地下だったことが分かった。
(やはり聖者様の情報は正しかった)
そんな風に高揚する心を胸に光溢れる地上に出ると、そこには沢山の兵が武器を手に控えていた。
「ジフリート!お前の罪は明らかだ!おとなしく投降しろ!」
そんな言葉を投げかけられるがジフリートの方は自分を人質に取っているため全く怯むことがない。
「誰がおとなしく投降すると?ヴェルガー様のお陰で私の魔力は格段に上がっている。お前たち如きを蹴散らすなど容易いというのに…」
そしてジフリートが魔獣へと一言声を掛ける。
「ゴミを片付けろ」
その言葉と共に魔物が耳障りな声で鳴きながら激しい風魔法を発動させて兵達を吹き飛ばす。
それは父王の風魔法に勝るとも劣らぬ威力で、そのすさまじさに目を瞠るほどだった。
しかも連続で魔法の行使が出来るようで、周囲はまるで嵐のように風が吹き荒れている。
「マリウス様?ヴェルガー様がこちらに来られるまでのご辛抱ですよ?ヴェルガー様が来られたら私がこの魔物に乗せて一緒に他国へと飛んでいきますので」
「逃げる気か?」
「ええ。私は愛しいヴェルガー様さえいてくださったら他には何もいりませんので」
その言葉に確信する。
ヴェルガーはこの国を乗っ取るために画策したが、ジフリートの方はヴェルガーに魅了されただけなのだと。
そしてそれ故にことが明るみに出たこのタイミングで自分を盾にし、二人で逃げようと思ったのだ。
このまま国に留まってもヴェルガーもジフリートも死刑は確実なのだから────。
愛の逃避行を行うために鳥の魔物を召喚したと考えると納得がいく。
そう考えるとやはりここはヴェルガーが父達をその隠し持っているであろう莫大な魔力を使い氷漬けにし、ジフリートを操って自分を幽閉したのはまず間違いのない事実だろう。
言ってみればジフリートもまた被害者。
恐らく自分を害さなかったのはフィンの存在が大きかったのだろう。
ここで自分を始末してしまえばフィンは敵に回る可能性が高い。
あの男はああ見えて怖い男だ。
敵に回すよりは上手く使って味方につける方が得策だ。
そんな風に今回のあらましを一通り予測し終えたところで、待ち望んでいた復讐の相手がやってくるのが見えた。
「殿下!」
その表情はあきらかに心配しましたという表情を取り繕ってはいるが、そんな顔でこちらに来てジフリートと合流したところで豹変するのだろう。
こちらを突き飛ばして鳥の魔物へと跨り、何食わぬ顔でジフリートに手を差し伸べて二人揃って逃げ出すつもりなのだ。
(させるか……!)
そうなったら未だに口に咥えられているノーラが空から落とされて殺されてしまうではないか。
(絶対にそんなことはさせない!)
そんな思いが自分を突き動かす。
「ヴェルガーーーーーー!」
練りに練った魔力を噴き上げながら、全力で自身の持つ最大魔法を唱え上げる。
「下れ!【轟雷】!」
ドガァアアアアッ!!
それは物凄い質量を持ちながらビリビリと空気を大きく振るわせて、激しい轟音を響かせながらヴェルガーの上へと落とされた。
これで終わりだと思った。
ジフリートには悪いが、ヴェルガーをこのまま逃がすわけがない。
けれど、もうもうと舞う砂煙が晴れてきたところでその声は聞こえてきた。
「宰相?!無事ですか?!」
そこに立っていたのは白い衣に身を包んだ見たことのない男。
しかもよく見ると彼が庇ったであろうヴェルガーの周囲には強力な防御結界魔法が展開されていて、それを一目見て彼が何者なのかをすぐさま理解することが出来た。
彼は自分が誰よりも尊敬している【聖者】────その人なのだと。
一体誰だと思っていると、現れたのはジフリートだった。
けれどいつもとは違いその手に食事のトレイは手にしていない。
代わりに鳥の魔物を従え怒りも露にやってきたのだ。
「ひっ…」
ノーラが怯えたように小さく悲鳴を上げたので庇うように前へと出る。
「どういうつもりだ」
睨みつけるようにそう尋ねると、ジフリートはギラギラと光る眼で「出ろ」と言った。
「おかしな真似をすれば愛しい婚約者の命はありませんよ?」
そして牢を出た突端、魔物の口にノーラを咥えさせてこちらを牽制してくる。
これでは魔物を攻撃することもできない。
牢を出てわかったのだがこの魔物は異様に魔力が高い。
一体何を代償にしてこんな魔物を従えることに成功したのだろう?
恐らく自分の最大魔法でも一撃で倒すことは不可能なのではないだろうか?
それにジフリートの方もそうだ。
以前会った時よりも格段に魔力が上がっているような気がする。
これではノーラを盾にとられていなくとも、自分一人で倒すことはできないだろう。
けれどあの忌々しい牢からは出られたのだ。
これからどんな状況が待ち受けているのかはわからないが、一先ずヴェルガーの姿を確認した瞬間魔法を放てるようにはしておこうと魔力を練り上げる。
そうしておとなしくジフリートに従い階段を上がっていくと、そこは確かに塔の地下だったことが分かった。
(やはり聖者様の情報は正しかった)
そんな風に高揚する心を胸に光溢れる地上に出ると、そこには沢山の兵が武器を手に控えていた。
「ジフリート!お前の罪は明らかだ!おとなしく投降しろ!」
そんな言葉を投げかけられるがジフリートの方は自分を人質に取っているため全く怯むことがない。
「誰がおとなしく投降すると?ヴェルガー様のお陰で私の魔力は格段に上がっている。お前たち如きを蹴散らすなど容易いというのに…」
そしてジフリートが魔獣へと一言声を掛ける。
「ゴミを片付けろ」
その言葉と共に魔物が耳障りな声で鳴きながら激しい風魔法を発動させて兵達を吹き飛ばす。
それは父王の風魔法に勝るとも劣らぬ威力で、そのすさまじさに目を瞠るほどだった。
しかも連続で魔法の行使が出来るようで、周囲はまるで嵐のように風が吹き荒れている。
「マリウス様?ヴェルガー様がこちらに来られるまでのご辛抱ですよ?ヴェルガー様が来られたら私がこの魔物に乗せて一緒に他国へと飛んでいきますので」
「逃げる気か?」
「ええ。私は愛しいヴェルガー様さえいてくださったら他には何もいりませんので」
その言葉に確信する。
ヴェルガーはこの国を乗っ取るために画策したが、ジフリートの方はヴェルガーに魅了されただけなのだと。
そしてそれ故にことが明るみに出たこのタイミングで自分を盾にし、二人で逃げようと思ったのだ。
このまま国に留まってもヴェルガーもジフリートも死刑は確実なのだから────。
愛の逃避行を行うために鳥の魔物を召喚したと考えると納得がいく。
そう考えるとやはりここはヴェルガーが父達をその隠し持っているであろう莫大な魔力を使い氷漬けにし、ジフリートを操って自分を幽閉したのはまず間違いのない事実だろう。
言ってみればジフリートもまた被害者。
恐らく自分を害さなかったのはフィンの存在が大きかったのだろう。
ここで自分を始末してしまえばフィンは敵に回る可能性が高い。
あの男はああ見えて怖い男だ。
敵に回すよりは上手く使って味方につける方が得策だ。
そんな風に今回のあらましを一通り予測し終えたところで、待ち望んでいた復讐の相手がやってくるのが見えた。
「殿下!」
その表情はあきらかに心配しましたという表情を取り繕ってはいるが、そんな顔でこちらに来てジフリートと合流したところで豹変するのだろう。
こちらを突き飛ばして鳥の魔物へと跨り、何食わぬ顔でジフリートに手を差し伸べて二人揃って逃げ出すつもりなのだ。
(させるか……!)
そうなったら未だに口に咥えられているノーラが空から落とされて殺されてしまうではないか。
(絶対にそんなことはさせない!)
そんな思いが自分を突き動かす。
「ヴェルガーーーーーー!」
練りに練った魔力を噴き上げながら、全力で自身の持つ最大魔法を唱え上げる。
「下れ!【轟雷】!」
ドガァアアアアッ!!
それは物凄い質量を持ちながらビリビリと空気を大きく振るわせて、激しい轟音を響かせながらヴェルガーの上へと落とされた。
これで終わりだと思った。
ジフリートには悪いが、ヴェルガーをこのまま逃がすわけがない。
けれど、もうもうと舞う砂煙が晴れてきたところでその声は聞こえてきた。
「宰相?!無事ですか?!」
そこに立っていたのは白い衣に身を包んだ見たことのない男。
しかもよく見ると彼が庇ったであろうヴェルガーの周囲には強力な防御結界魔法が展開されていて、それを一目見て彼が何者なのかをすぐさま理解することが出来た。
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