【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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56.恥ずかしすぎて逃げ出してしまった

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切るところが上手く見つけられなくて少し長くなってしまいました。
すみませんorz

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「サトルはこのまま宰相についていてやってくれ」

容体が変わったらすぐに対処できるよう傍についてやれと言ってくれるヒロに感謝し、横たわる宰相のベッド脇に控え様子を見遣る。
フィーアには重ねて礼を言って、ヒロが宰相を見つけた時の状況を詳細に教えて欲しいと言いながら別室へと連れて行った。
ミルフィスの方はどうやらこの後ジフリートの方に行くとのことだったので、念のため再度防御魔法を重ね掛けし、ハイジと行動してくれるよう頼んでおく。
流石に一人で立ち向かうには危険すぎる─────。

「宰相……」

グッタリした宰相の額に滲む汗がその辛さを物語っているように見えて、何もできない自分が嫌になってくる。
こういう時に役に立てない自分が凄く無力で遣る瀬無かった。
そうして暫く無力感に打ちひしがれていたのだが、そう言えばと思い至る。
先程これは相性の悪い魔力を吸収してしまったが故の言わば食あたり状態なのだと聞いた気がする。
それならばもしかしたら薬草粥を食べれば少しは良くなるではないかと思いついた。
水分を取り、消化のいい食べ物で胃を休めてしっかり休めば良いのではないだろうか?
そう思い立ち、すぐさま厨房へと走って薬草粥を作った。
そしてコトコトと炊いた粥を手に部屋へと戻ると、宰相は先程と同じように横たわったまま辛そうにしていた。
このままではさすがに食べさせることはできない。

「宰相?起きれますか?」

そう声を掛けるとうっすらとではあるが目を開けてこちらを見てくれる。
「薬草粥を作ってみたので、少しでいいので食べてみてください」
そう声を掛けてはみるものの、宰相から返ってくる反応は薄い。
もしかしたら胃がまだまだ気持ち悪いのかもしれない。
「水、飲んでからにしましょうか」
冷たい水を飲んだら少しは気分もマシになるだろうか?
先程聖水はあまり効果がなかったようだからここにあるのはただの水だが……。
そう思ったところで「そうだ!」と思った。
ジフリートの魔力が気持ち悪かったのなら、自分の魔力はどうだろうか?
これでも一応聖属性持ちだから、うまくいけばそちら方面で治療の効果を上げられるかもしれない。
そう思って宰相へと声を掛ける。
「宰相。俺の魔力、吸収できませんか?」
ダメ…だろうか?
様子を窺いながら宰相へと問いかけるが、頭が朦朧としているのか返事はない。
仕方がないので「こんな感じかな?」と試しにグラスの水へと魔力を付与してみる。
これは聖水とはまた少し違うのでやってみる価値はあるだろう。
魔法で吸収するのとは違うだろうが、少しでも自分の魔力は無害だとアピールしてみたかった。
そして宰相の身体を少し起こしてそのグラスをそっと口元へと近づけて飲ませようと試みてはみたけれど、口の端から零れ落ちてしまい少ししか口に含ませることができなかった。
けれどその少しではあったものが意外にも効果を見せる。
「う…マナ…?」
そんな風に宰相が声を出したのだ。
これは期待大!
「宰相!辛いでしょうけど、これ、頑張って飲んでください!」
そう言いながら懸命にグラスを傾けるがやはりその量は微々たるものしか宰相の口へ入っていかなくてやきもきしてしまう。
「宰相!ちょっと無理矢理ですけど、治療なので許してくださいね!」
少しでも早く宰相に元気になってほしくて、やっと見つけた治療法を確実に生かしにかかる。
魔力を含ませたグラスの水をそのまま口に含んで、動けない宰相へとそのまま口づけ流し込むという荒業に出たのだ。
一回キスした仲だしきっと許してもらえるはず!
そしてコクリと宰相が飲み込んだのを確認したところで口を放し、そっと様子を窺ってみる。
「宰相?大丈夫ですか?」
見ると宰相は先程よりもずっと顔色がよくなっていて、力の入っていなかった指がキュッと袖を掴んできた。
「マナ…もっと…くれないか?」
そんな言葉にホッと安堵して、親鳥のように請われるままに口移しで水を飲ませていく。
「ん…ふ…ぅ…」
相当喉が渇いていたのだろうか?水を与えるたびに嬉しそうにする宰相が可愛すぎる。

(愛しい…ってもしかしてこういう時に使うのかな?)

恋とか愛とかそんなものは分からないけれど、この気持ちは何故かその言葉が一番しっくりくるような気がして、なんだか面映ゆい気持ちになった。
自分みたいな存在でもこの手で助けてあげられる人がいる────それが凄く自分が必要とされているように感じられて嬉しかったのかもしれない。
この国に来てから自分にもできることが意外なほどあるというのを知って、それが積もり積もって自信に繋がってきたような気がする。
それは突き詰めれば宰相のお陰なことが多くて……今度改めてきちんと御礼を言いたいなと思った。

そうしてグラスの水が空になったところで少し名残惜しい気持ちを抱えながら宰相へと問いかけた。
「宰相?もう大丈夫ですか?一応薬草粥も作ってみたんですけど…」
その言葉に宰相の表情がひと際嬉しそうに綻び、それを見てまた胸が満たされていくのを感じる。
「欲しい」
どうやら今の魔力水でかなり体調は良くなったようだ。
「いいですよ。じゃあ少しずつ食べてくださいね」
先程吐いたばかりなのだ。ここは胃がびっくりしないように少しずつ食べた方がいいだろう。
そう思いながら一匙一匙ふぅふぅと冷ましながらそっと口へと運んでいく。
「美味しいですか?」
「ああ。凄く美味しい」
そう言って笑ってくれる宰相の姿を見れるのが嬉しくて、俺は今までにないほど穏やかな気持ちで笑みを浮かべた。




「それにしても、どうしてそこまで無理して魔法を行使したんです?」
食べ終わって一息ついたところで俺はこうなった経緯について宰相へと尋ねてみた。
ジフリートから逃げ出せて本当に良かったとは思うが、それでこちらが倒れては本末転倒な気がする。
けれど詳しく聞くとこの方法で逃げて正解だったなと思えた。
ジフリートは宰相を自分の部屋に連れ込んでレイプしようと企んでいたらしいのだ。
恐怖で動けない状況だったことから察するに、そりゃあ無理してでも魔力を枯渇させて逃げ出した方がずっとマシだっただろうと思えた。
バレないように少量ずつ魔力を吸い取ってたら間に合わなかっただろうし、部屋に連れ込まれる直前に無理して一気に吸い取ったのも理解できる。
大体からしてジフリートの魔力が胃もたれレベルでなければ宰相も倒れなかったことだろう。
単純に美味しくない魔力だったのが災いしただけの話だった。
とは言えまた危険な状況になった時同じ方法が使えるかと言われれば答えは否だ。
今回はジフリートにこちらの手の内がバレていなかったから上手く逃げられたのだ。
それに召喚獣とハイジが対峙していたというのも良い方に向いたと言える。
恐らくではあるがジフリートは目を覚ましたらすぐに召喚獣を使って逃走を図るだろう。
これで宰相を諦めるとは思えないし、また狙ってくるのは確実だ。
今回の件でジフリートに宰相の属性がばれてしまった上、まだあちらにはフィーアもいるから余計に油断はできない。
対策を取られてはこちらの動きも封じられてしまうだろう。
フィーアには今回偶々たまたま助けてもらえたものの、この先どう転ぶのかは全く読めないし、以前塔の前で見せつけられた姿(ベートーベンの『運命』の迫力は凄かった)から予測するに、あの男もまた戦ったら強いのだろうと思う。
そんな中、【吸収】後に身動きが取れなくなってしまうのは非常に危険だ。
なんとか宰相がすぐに動けるようにできないだろうか?

「宰相。今回の件って、いわゆる食あたりみたいなものだと思うんですけど…。合わない魔力を吸収した時にですね、ペッとその分だけを外に吐き出すことってできないですかね?」

口に入れて食べちゃマズいものって意外とすぐに判断がついて、ペッと吐き出すよな?
それを魔力でも似たようなことが出来ないかと思ったんだが……。

「ん~…相手に返すわけにはいかないと必死だったが、そうか放出…か」

そうやって考える宰相を見るに、やろうと思えばできることなのかもしれない。
それならそれでこれから練習すればよいのではないだろうか?
実際に出来るかを確認して、できるようならスムーズにそれが出来るように練習する。
そうしたら吸収直後は体調を崩したとしても、すぐさま放出して、逃げる体力くらいは取り戻せるのではないだろうか?
そこまで道筋が見えたら後は実行に移すのみ!

「宰相!試しに俺の魔力、吸ってみてくれませんか?」

そうして提案してみると、宰相は最初驚いたように目を見開いたが、恐る恐ると言うようにこちらへと腕を伸ばして魔法を使ってくれた。
それと同時にズズッと魔力が自分の身体から抜けるような感覚がして少し力も抜けてしまう。
どうやらちゃんと宰相へと自分の魔力は吸収されたらしい。
これで放出を試してもらえたらいい練習になるだろう。

「じゃあ今度は今吸った分を放出してみてください!」

だから意気込んでそう言ってみたのに…。

「え?嫌だ」
「なんで?!」

あまりの即答に思わず素で突っ込みを入れてしまう。
けれど宰相はプイッとそっぽを向いて頑なに実行しようとはしてくれない。
(なんでだ?!)
「マナの魔力はジフリートとは違って優しく包み込むようでこう…まるでふわふわのオムレツのような美味しい魔力なんだ。放出するなんて勿体ない。絶対に嫌だ」

まさかのオムレツ味ーーーーー!
この食いしん坊さんめ!

「宰相!オムレツなら後で作りますから!ね?放出してください!」
「嫌だ」
「お願いします!」
「断る」
「頼みますから!」
「無理」
「宰相~~~!」

もういっそのこと名前呼びからのおねだりに変えようかなとちょっと思い始めたところで、コンコンとノックの音が響いてヒロが顔を出してきた。
「何を騒いでるんだ?お?宰相、元気になったのか?」
「ヒロ!」
天の助けとばかりにパッとそちらへと顔を向けると、そこにはよかったなと言わんばかりの笑みを浮かべたヒロがいた。

「ヒロからも言ってくれよ!宰相が……」

そうして今の状況を一から説明したのだが、それを聞いたヒロはそれは俺の方が悪いと口にしてきた。
どうやらジフリートの魔力で気持ち悪くなったのを俺の魔力が癒したから、宰相がそれを放出したがらないのは当然だとのことだった。
また症状がぶり返したらどうするんだと言われて、そう言われてみればそうかと理解した。

「確かに……宰相すみません」
「わかってくれればいいんだ」
そしてどこかホッとしたような顔をする宰相に、それならばと口にする。
「今日は仕方がないですけど、明日以降はちゃんと練習してくださいよ?」
「…………それはマナとか?」
「ええ」
「凄く美味しいから日を改めても放出できそうにないんだが?」
「…………」
どうやら宰相的にはやっぱり俺の魔力を放出する気は一切ないらしい。
そんなにオムレツ味が気に入ったのだろうか?
これには正直困ってしまう。
(卵の食べ過ぎは体に悪いのになぁ…)
実際には卵ではなく魔力だから一概に体に悪いとは言えないとは思うのだが、それはそれ、これはこれだ。
ここまで頑なに拒否されると溜息も出るというものだ。
そうして重い溜息を吐いたところで、それなら他の奴に任せたらいいじゃないかとヒロが提案してきた。

「宰相。試しに俺の魔力吸って放出してみてください」

そんな言葉に宰相の方もすんなり頷き、素直に実行へと移す。

吸収からの────放出。

それが実行されたことは訊くまでもなくすぐにわかった。
音楽と共にブワッと空気が宰相から噴出されるのがはっきりと感じ取れたからだ。
「すごいな」
これには放出した宰相の方も驚いていた。
「さすが勇者だな。何と言うか…特大極上ステーキを山盛り食べている気持ちになった」

何それ美味しそう!
食べ過ぎたら胃もたれしそうだけど、これは物凄く満足できる美味しい魔力ってことではないのだろうか?
羨ましい…。
そして放出時に聞こえた音楽が某ノリの良いヒップホップで楽しかった。
けれどこれはどうも俺にしか聞こえないようで、ヒロに話を振っても何のことかわからないという顔をされたことから判明した。
どうやら俺の耳にだけその場に放出された魔力が音楽になって届くらしい。
なんでだろう?
もしかして【聖女】や【聖者】が相手の心境を把握して癒すのに使うスキルだったりするのだろうか?
まあこの件に関しては気になるなら後でスキルをチェックして調べてみればいい。
残念なのはそれを共有できる相手がいないこの悲しい事実─────。

「そっか…残念だな。塔で聞いた音楽とかも楽しかったのに……」

そうしてポツリと残念そうに溢したところで、宰相が徐にじゃあまだ残っていそうなジフリートの魔力と自分の魔力も順に放出してみようかと口にしてきた。
「マナが楽しいなら色々試してみてもいいだろう?」
特にジフリートの残滓は排出できるなら全部排出したいと、じっくり掻き集めるように時間をかけてから放出を試みたようだった。
その結果─────。

「げっ…」

ジフリートの魔力はよりにもよってデスメタルか……うっ、この曲調は俺も苦手だ。
これを受けてジフリートの魔力が宰相に合わなかったのが凄くわかった気がする。
真面目な宰相のことだ。これは確かに理解できないと感じて気持ち悪くなることだろう。
そして次に宰相の魔力が控えめに放出されたのだが……。

(ちょっと待ってくれ……!)

いや、耳に心地良いバラードだけど、これって……思い切り片思いソングだ!
これはもしかしてもしかしなくても俺向けか?!

「すみません!宰相!もう、もういいので…!」

真っ赤になりながら慌てて止めたら物凄く不思議そうに首を傾げられたが、直球で不意打ちのように聴かされた俺としては理解せざるを得ない状況に陥っていた。
本人無意識でこれとか……本当に心臓に悪い。

(この人……俺の事、そういう意味で好きってことなのか?!)

遠回しに言ってくるような微妙な歌詞の曲ならこんな風には思わなかったと思う。
でもこの曲は最初から最後まで好き好きと言っているような女性アーティストの曲なのだ。
叶わないとわかっているけど、自分じゃダメかな?と切ない気持ちを綴りながらもストレートに気持ちを伝えてくる、そんな曲。
昔友達と待ち合わせていた時にコンビニで流れていた曲で、こんな可愛く好き好きアピールされたら嫌でも気づくだろうな~と微笑ましい気持ちで甘酸っぱく聞いていた、ずばりその曲だったのだ。
その歌詞と、ここ最近の自分に対する宰相の行動とがなんとなくシンクロされていくような気がして────。

(ちょっと今は顔見れない────!)

俺は思わず隣にいたヒロの服を引っ掴んで部屋から飛び出してしまったのだが、この場合仕方がないと思う。うん。


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