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35.え?そんな!台無しだ!
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暫く歩くといつの間にか森は抜けきり、その塔のある場所までたどり着いた。
正直言って拍子抜けである。
けれど耳元でクスクスと笑うような声が聞こえたような気がしたので、森の中に悪戯妖精でもいたのかなとふと思った。
ファンタジーなこの世界になら居てもおかしくはないかもしれないと自然に思い至ったからだ。
もしそれが本当なら自分の迷子も料理長のせいではないかもしれないので、戻ったらヒロにでも聞いてみようと取り敢えず塔の周囲を回って人を探すことにした。
「う~ん…誰もいないな」
見事なまでに誰もいない塔を前にどうしたものかと塔を見上げる。
この中になら人はいるだろうか?
そう思って一応サーチの魔法を掛けて探ってみると、どうやら地下に二人ほど人の気配があるのが感じられた。
恐らく塔の管理人か誰かだろう。
そう思って取り敢えず『お邪魔します』と言いながらそっと塔の扉へと手を掛ける。
あまり人の出入りがなさそうではあるが扉はすんなりと開き、中は美術館か博物館のように綺麗に色々なものが飾られていた。
どうやらここはギャラリーのような場所らしい。
「あれ?」
けれどどうやら掃除は行き届いてはいないらしく、あちらこちらに埃が降り積もっていて折角の美術品の数々が埃をかぶってしまっていた。
「勿体ないなぁ…」
もしかして管理人が老齢で掃除ができず困っているのだろうか?
もしそうなら宰相に言って誰か人を借りれないか聞いてみた方がいいのかもしれない。
きっと氷漬け事件で王宮が大変だったせいで管理人達も安易に言い出せなかったとかそういうことなのだろうと察せられた。
半年以上放置されたらさすがにこうもなるかと思わずため息が出てしまう。
けれどそこでふと、足元にある足跡が一方向へとのびていることに気がついた。
これはきっと管理人の足跡に違いない。
恐らく食事をとりに行ったり王宮に戻ったりするために行き来した跡なのだろう。
「これなら地下に行くのも簡単だな」
そう思ったところでいきなり背後から声が掛けられた。
「失礼。そちらにいらっしゃるのは賢者様ではありませんか?」
そこに立っていたのは二人の男性。
しかも一人は自分がよく知る宰相の部下、ジフリートだった。
ジフリートの手には何故か二人分の食事のトレーが乗せられている。
ちなみにもう一人はまだ年若い見知らぬ男だ。
一体彼は何者なのだろうか?
「えっと……」
これはもしかしてもしかしなくても地下にいる管理人達に持ってきた食事ということなのだろうか?
そう思ってちらりと見知らぬ男の方へと視線を向けると、ニコッと邪気のない顔で微笑まれた。
「初めまして。私の名はフィーア=レッヒェルン。こちらの塔の副管理人を務めさせていただいております」
「初めまして。俺は真中 悟と言います」
「お噂はかねがね。賢者様とこのようなところでお会いできたのも何かの縁でしょう。少し外でお話致しませんか?旅の話など聞かせて頂けると非常に嬉しいのですが」
そう言われ今度はジフリートの方を見遣ると、いつものように笑みを浮かべながら嫌味をぶつけてきた。
「いつものようにヴェルガー様にまとわりついていないと思ったら、手伝うことなくまさかの芸術鑑賞ですか。さすが賢者様はどこまでも自由ですね。これを機にヴェルガー様から離れて頂けると嬉しいのですが」
「…………」
本当に性格の悪い奴だなと思いながらも、ここで迷子になったなどと言ったら嘲笑われるだけだろうなと思いグッと耐える。
けれどそこでこれ以上険悪な空気にならないようにか、フィーアと名乗った男がやんわりと間に入ってくれた。
「すみません賢者様。ジフリート殿は昔からヴェルガー様の信奉者でして…。彼が絡むとどうしても警戒心が増して不用意に近づく者にこうして噛みつきがちになってしまうのです。どうぞお許しください」
その言葉には気心が知れた者らしい慈しみさえ感じられて、少しだけジフリートに対する印象が変わった気がする。
まさかこんな冷静で穏やかなタイプが知り合いにいるとは思ってもみなかったからだ。
これだけ言いたい放題しても噛みつかないということは、彼はジフリートよりも立場が上の貴族なのかもしれない。
そして近くにこんなストッパー役がいるのなら早々おかしなことはしないだろうと思えた。
けれど一応念のため確認しておくに越したことはない。
「あの、フィーア…様は宰相とお知り合いで…?」
「いいえ。残念ながら私はヴェルガー様には面識がなく、ジフリート殿から話を聞くくらいのものなのです。なので賢者様の口から彼の話を聞かせて頂けたら嬉しく思います」
にこやかに話す彼の態度はとても自然で、嘘をついているようには全くと言っていいほど見えなかった。
「ではジフリート殿。申し訳ないですが食事の方を管理人にお届けいただけますか?私は外で賢者様とお話をしてこようと思いますので」
「……わかりました」
年若い副管理人に促されてもジフリートは反発することなくそのまま素直に地下へと向かっていく。
一見年が離れているように見えるが、一体どういった知り合いなのだろうか?
「ふふっ。随分不思議そうですね」
「あ、いえ」
「いいんですよ。彼は私の兄の友人の弟でしてね。昔から親しくさせていただいているのです」
クスクスと楽しげに笑いながら彼が自然に塔の外へと誘ってくれるので、そのまま後ろをついて行く。
「それにしても驚いたでしょう?塔の中があまりにも埃まみれで」
「え…ええ」
それは確かに自分も思った。
あれではゆっくり見て回るどころではないし、こうして会話するだけでも埃が気になってしまうことだろう。
「私が副管理人になったのはつい最近でして、本当に折角賢者様に足を運んでいただいたにもかかわらず行き届かず申し訳ありません」
「あ、いや。今日は本当にたまたま来ただけなんで、気にしないでください」
きっと迷子にさえならなければ自分はここには来なかったことだろう。
「そうですか?そう言っていただけるとありがたいです」
ニコッと笑ってくれる彼にホッと安堵の息を吐くが、それを見てなんと言うか隙のない笑みをした少年だと思った。
彼はまだ年若いが、きっと将来はのし上がって立派な職に就くことだろうことが容易に想像できた。
そして暫く彼と話しを弾ませながらゆっくりと塔の周囲を歩いていると、どこからか音楽らしき音が聞こえてきた。
それは昔流行ったというアップテンポなノリのいい曲だった。
祖母がたまに料理を作りながら機嫌よく歌っていたので自分も覚えていたのだ。
思えばあの頃はテンションの低い自分を励まそうと場を盛り上げてくれていたのだろう。
けれど聞こえてきた曲はそれだけではなかった。
その曲よりも小さな音でそれに重なるようにひっそりと聞こえてきたのは某演歌だった。
こちらも切ない音色が印象的でつい口ずさみたくなる有名なものだ。
大波がザブンザブンと見えるかのようにこぶしを利かせた元曲が思い出される。
(なんだこの組み合わせ?!面白すぎるんだけど!)
全然曲調が違うのに相乗効果なのか妙に自分のツボに嵌って、つい顔がにやけてしまう。
だからもっと聞きたくなってその音楽に耳を澄ませて音の出所を探ろうと足を止めたのだが、彼の方もそれに気がついたのか一緒に足を止めた。
「…………賢者様。もしや何か感じておられますか?」
「え?」
もしや彼にはこの音楽が聞こえていないのだろうか?
いや、こんなところでこんな懐かしい曲を聞けるとは俺も思ってもみなかったが、もしかしたら貴族には聞きなれなさ過ぎて不快だったのかもしれない。
「あ~…申し訳ない。つい口ずさみたくなる見知った曲が流れてきたもので…」
「曲…ですか?失礼ですがどのような?」
「え?聞こえないですか?ほら、この熱い魂の叫びのような曲と悲壮感に包まれたような曲ですよ」
「…………」
フィーアには聞こえていないのだろうかと思いつつも、何かを思案している様子に気を遣ってくれているのかもと口を噤む。
「ちなみにどのような曲調でしょう?」
「え?あ、ほらここ、フンフンフンフフン、フ、フンフンフンフフーン♪この後叫ぶところが最高ですよね!祖母が好きでよく歌ってたんですよ」
そして一番魂の叫びを乗せるべきところを満面の笑みで口にしようと思ったところで、いきなり横入りしてくる音が耳へと飛び込んできた。
ジャジャジャジャーン!ジャッジャッジャ、ジャーン!!
(ベ、ベートーベン?!)
そんなバカなと思わず呆気に取られて固まってしまったが、目の前のフィーアが凄絶な笑みを浮かべながらこちらを見てきたので正体はこいつかとすぐにわかった。
どうやら余程先程の曲が気に食わなかったらしい。
見るからに貴族という感じの彼にはやはり苦痛だったのだろう。
まさかあの曲と演歌が突然乱入してきたクラシックに台無しにされるとは思ってもみなかった。
なんて高度な妨害をしてくるのだろうかこの男は────!
(折角のミラクルなソウルが…!)
がっかりだと思いながら項垂れていると後ろから満面の笑みでジフリートがやってきた。
その表情はいつものようなものとは違い心底嬉しそうにも見える。
どうやら俺が楽しんでいた曲をフィーアが台無しにした様子を見て喜んでいるらしい。
「さて、お話も終えられたようですし王宮までご案内いたしましょうか。『迷子の賢者』を助けたと言えばきっとヴェルガー様も私に深く感謝してくださるでしょう」
(バ、バレてる?!)
そんなバカなと思わず仰け反るが、そこには笑顔で立つフィーアの姿があってそれはそれで怖かった。
先程のベートーベンは俺の恐怖心を煽るには十分だったのだ。
「ジフリート殿。あまり賢者様を虐めては可哀想ですよ?まさかこの年で迷子ということはないでしょう」
(それ、明らかにわかってて言ってないか?!)
ある意味ジフリートよりもひどいと思いながら、ズキズキと痛む胸を押さえつつ素直に王宮まで案内してもらうことにする。
あの────二つの曲は一体何だったのだろうと、そう思いながら……。
正直言って拍子抜けである。
けれど耳元でクスクスと笑うような声が聞こえたような気がしたので、森の中に悪戯妖精でもいたのかなとふと思った。
ファンタジーなこの世界になら居てもおかしくはないかもしれないと自然に思い至ったからだ。
もしそれが本当なら自分の迷子も料理長のせいではないかもしれないので、戻ったらヒロにでも聞いてみようと取り敢えず塔の周囲を回って人を探すことにした。
「う~ん…誰もいないな」
見事なまでに誰もいない塔を前にどうしたものかと塔を見上げる。
この中になら人はいるだろうか?
そう思って一応サーチの魔法を掛けて探ってみると、どうやら地下に二人ほど人の気配があるのが感じられた。
恐らく塔の管理人か誰かだろう。
そう思って取り敢えず『お邪魔します』と言いながらそっと塔の扉へと手を掛ける。
あまり人の出入りがなさそうではあるが扉はすんなりと開き、中は美術館か博物館のように綺麗に色々なものが飾られていた。
どうやらここはギャラリーのような場所らしい。
「あれ?」
けれどどうやら掃除は行き届いてはいないらしく、あちらこちらに埃が降り積もっていて折角の美術品の数々が埃をかぶってしまっていた。
「勿体ないなぁ…」
もしかして管理人が老齢で掃除ができず困っているのだろうか?
もしそうなら宰相に言って誰か人を借りれないか聞いてみた方がいいのかもしれない。
きっと氷漬け事件で王宮が大変だったせいで管理人達も安易に言い出せなかったとかそういうことなのだろうと察せられた。
半年以上放置されたらさすがにこうもなるかと思わずため息が出てしまう。
けれどそこでふと、足元にある足跡が一方向へとのびていることに気がついた。
これはきっと管理人の足跡に違いない。
恐らく食事をとりに行ったり王宮に戻ったりするために行き来した跡なのだろう。
「これなら地下に行くのも簡単だな」
そう思ったところでいきなり背後から声が掛けられた。
「失礼。そちらにいらっしゃるのは賢者様ではありませんか?」
そこに立っていたのは二人の男性。
しかも一人は自分がよく知る宰相の部下、ジフリートだった。
ジフリートの手には何故か二人分の食事のトレーが乗せられている。
ちなみにもう一人はまだ年若い見知らぬ男だ。
一体彼は何者なのだろうか?
「えっと……」
これはもしかしてもしかしなくても地下にいる管理人達に持ってきた食事ということなのだろうか?
そう思ってちらりと見知らぬ男の方へと視線を向けると、ニコッと邪気のない顔で微笑まれた。
「初めまして。私の名はフィーア=レッヒェルン。こちらの塔の副管理人を務めさせていただいております」
「初めまして。俺は真中 悟と言います」
「お噂はかねがね。賢者様とこのようなところでお会いできたのも何かの縁でしょう。少し外でお話致しませんか?旅の話など聞かせて頂けると非常に嬉しいのですが」
そう言われ今度はジフリートの方を見遣ると、いつものように笑みを浮かべながら嫌味をぶつけてきた。
「いつものようにヴェルガー様にまとわりついていないと思ったら、手伝うことなくまさかの芸術鑑賞ですか。さすが賢者様はどこまでも自由ですね。これを機にヴェルガー様から離れて頂けると嬉しいのですが」
「…………」
本当に性格の悪い奴だなと思いながらも、ここで迷子になったなどと言ったら嘲笑われるだけだろうなと思いグッと耐える。
けれどそこでこれ以上険悪な空気にならないようにか、フィーアと名乗った男がやんわりと間に入ってくれた。
「すみません賢者様。ジフリート殿は昔からヴェルガー様の信奉者でして…。彼が絡むとどうしても警戒心が増して不用意に近づく者にこうして噛みつきがちになってしまうのです。どうぞお許しください」
その言葉には気心が知れた者らしい慈しみさえ感じられて、少しだけジフリートに対する印象が変わった気がする。
まさかこんな冷静で穏やかなタイプが知り合いにいるとは思ってもみなかったからだ。
これだけ言いたい放題しても噛みつかないということは、彼はジフリートよりも立場が上の貴族なのかもしれない。
そして近くにこんなストッパー役がいるのなら早々おかしなことはしないだろうと思えた。
けれど一応念のため確認しておくに越したことはない。
「あの、フィーア…様は宰相とお知り合いで…?」
「いいえ。残念ながら私はヴェルガー様には面識がなく、ジフリート殿から話を聞くくらいのものなのです。なので賢者様の口から彼の話を聞かせて頂けたら嬉しく思います」
にこやかに話す彼の態度はとても自然で、嘘をついているようには全くと言っていいほど見えなかった。
「ではジフリート殿。申し訳ないですが食事の方を管理人にお届けいただけますか?私は外で賢者様とお話をしてこようと思いますので」
「……わかりました」
年若い副管理人に促されてもジフリートは反発することなくそのまま素直に地下へと向かっていく。
一見年が離れているように見えるが、一体どういった知り合いなのだろうか?
「ふふっ。随分不思議そうですね」
「あ、いえ」
「いいんですよ。彼は私の兄の友人の弟でしてね。昔から親しくさせていただいているのです」
クスクスと楽しげに笑いながら彼が自然に塔の外へと誘ってくれるので、そのまま後ろをついて行く。
「それにしても驚いたでしょう?塔の中があまりにも埃まみれで」
「え…ええ」
それは確かに自分も思った。
あれではゆっくり見て回るどころではないし、こうして会話するだけでも埃が気になってしまうことだろう。
「私が副管理人になったのはつい最近でして、本当に折角賢者様に足を運んでいただいたにもかかわらず行き届かず申し訳ありません」
「あ、いや。今日は本当にたまたま来ただけなんで、気にしないでください」
きっと迷子にさえならなければ自分はここには来なかったことだろう。
「そうですか?そう言っていただけるとありがたいです」
ニコッと笑ってくれる彼にホッと安堵の息を吐くが、それを見てなんと言うか隙のない笑みをした少年だと思った。
彼はまだ年若いが、きっと将来はのし上がって立派な職に就くことだろうことが容易に想像できた。
そして暫く彼と話しを弾ませながらゆっくりと塔の周囲を歩いていると、どこからか音楽らしき音が聞こえてきた。
それは昔流行ったというアップテンポなノリのいい曲だった。
祖母がたまに料理を作りながら機嫌よく歌っていたので自分も覚えていたのだ。
思えばあの頃はテンションの低い自分を励まそうと場を盛り上げてくれていたのだろう。
けれど聞こえてきた曲はそれだけではなかった。
その曲よりも小さな音でそれに重なるようにひっそりと聞こえてきたのは某演歌だった。
こちらも切ない音色が印象的でつい口ずさみたくなる有名なものだ。
大波がザブンザブンと見えるかのようにこぶしを利かせた元曲が思い出される。
(なんだこの組み合わせ?!面白すぎるんだけど!)
全然曲調が違うのに相乗効果なのか妙に自分のツボに嵌って、つい顔がにやけてしまう。
だからもっと聞きたくなってその音楽に耳を澄ませて音の出所を探ろうと足を止めたのだが、彼の方もそれに気がついたのか一緒に足を止めた。
「…………賢者様。もしや何か感じておられますか?」
「え?」
もしや彼にはこの音楽が聞こえていないのだろうか?
いや、こんなところでこんな懐かしい曲を聞けるとは俺も思ってもみなかったが、もしかしたら貴族には聞きなれなさ過ぎて不快だったのかもしれない。
「あ~…申し訳ない。つい口ずさみたくなる見知った曲が流れてきたもので…」
「曲…ですか?失礼ですがどのような?」
「え?聞こえないですか?ほら、この熱い魂の叫びのような曲と悲壮感に包まれたような曲ですよ」
「…………」
フィーアには聞こえていないのだろうかと思いつつも、何かを思案している様子に気を遣ってくれているのかもと口を噤む。
「ちなみにどのような曲調でしょう?」
「え?あ、ほらここ、フンフンフンフフン、フ、フンフンフンフフーン♪この後叫ぶところが最高ですよね!祖母が好きでよく歌ってたんですよ」
そして一番魂の叫びを乗せるべきところを満面の笑みで口にしようと思ったところで、いきなり横入りしてくる音が耳へと飛び込んできた。
ジャジャジャジャーン!ジャッジャッジャ、ジャーン!!
(ベ、ベートーベン?!)
そんなバカなと思わず呆気に取られて固まってしまったが、目の前のフィーアが凄絶な笑みを浮かべながらこちらを見てきたので正体はこいつかとすぐにわかった。
どうやら余程先程の曲が気に食わなかったらしい。
見るからに貴族という感じの彼にはやはり苦痛だったのだろう。
まさかあの曲と演歌が突然乱入してきたクラシックに台無しにされるとは思ってもみなかった。
なんて高度な妨害をしてくるのだろうかこの男は────!
(折角のミラクルなソウルが…!)
がっかりだと思いながら項垂れていると後ろから満面の笑みでジフリートがやってきた。
その表情はいつものようなものとは違い心底嬉しそうにも見える。
どうやら俺が楽しんでいた曲をフィーアが台無しにした様子を見て喜んでいるらしい。
「さて、お話も終えられたようですし王宮までご案内いたしましょうか。『迷子の賢者』を助けたと言えばきっとヴェルガー様も私に深く感謝してくださるでしょう」
(バ、バレてる?!)
そんなバカなと思わず仰け反るが、そこには笑顔で立つフィーアの姿があってそれはそれで怖かった。
先程のベートーベンは俺の恐怖心を煽るには十分だったのだ。
「ジフリート殿。あまり賢者様を虐めては可哀想ですよ?まさかこの年で迷子ということはないでしょう」
(それ、明らかにわかってて言ってないか?!)
ある意味ジフリートよりもひどいと思いながら、ズキズキと痛む胸を押さえつつ素直に王宮まで案内してもらうことにする。
あの────二つの曲は一体何だったのだろうと、そう思いながら……。
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