【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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33.氷が解けたその後に

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※前半ジフリート視点、後半主人公視点です。




「くそっ!」
魔物が倒されたその頃、ジフリートは壁を殴りつけながら自分の浅はかさを呪っていた。
あまりにも賢者が邪魔だったからと言って、さすがに気が急き過ぎた行動だったと今更ながらに思い知る羽目になったからだ。
マナと言うあの男の側にはいつだって『勇者』がいるのを失念していた。
そして勇者は魔物の天敵だ。
自分の召喚獣が倒される可能性があるなど簡単に想像ができたと言うのに、どうして一人になったタイミングを見計らって攻撃しなかったのかと歯噛みしてしまう。
王達でさえ凍り付かせたあの魔物の強さに驕っていたゆえの過ちだ。

「……また新しい召喚獣と契約しなければ」

今度は炎を使える魔物がいいだろうか?
それとも風属性か─────。

「炎で燃やし尽くすのも、風で切り刻むのもいいが、水で無様に溺れさせるのも一興かもしれないな」

いずれにせよあの男を排除できるのならなんでもいい。
そう思っていたところで、コンコンと軽いノックの音が部屋へと響いた。
こんな遅い時間に一体誰だろうと思い、誰何の声を掛けると扉の向こうからは自分の天敵ともいえるような相手の楽しそうな声が聞こえてきた。

「ジフリート殿。どうやら失敗したようですね」
「…………何のことかわかりませんね」
「ふふっ…そんな素直ではない貴方も好みですよ」
「お戯れを。扉を開ける気はありませんので、ご用件がないならどうぞお引き取りを」
「ああ、いいんですよ。ただ貴方の落ち込んだ声を聞きに来ただけですからね」

明らかに全て把握していると言わんばかりのその言動にドキッと胸が跳ねる。
この男が周囲にそれをバラすとは一切思えないが、油断のならない相手だと言うことだけは確かだ。

「天国から地獄とはまさにこのことでしょうね。ヴェルガー様はマナと言う男にすでに骨抜きにされている様子」
「…………」
そんなことはわざわざ言われなくても十分すぎるほどわかっていることだ。
「切り札を使ったとしても、そこから逆転して貴方のものにできる可能性はほぼゼロに近いでしょうね」
その言葉にもしや王太子の件まで把握されているのかと冷や汗をかく。
「ああ、ご心配には及びませんよ?あの方は留学されている。そうでしょう?」
「………なんのことを仰っておられるのかわかりかねます」
「いいんですよ。そうそう。協力が欲しくなったらいつでもお声掛けください。悪いようにはしませんから」
そんな悪魔の取引に従ったら何をさせられるかわからないので断固としてお断りだ。
「貴方は本当に強かでいらっしゃいますね」
「そうでしょうか?私は欲望に忠実なだけですよ?」
嫌味を言っても笑顔で受け流してくるこの男には何を言っても通じるような気がしない。
齢16でこれなのだから、将来が空恐ろしく感じられる。
「ふふっ。本当に楽しいですね。ジフリート殿の遊びを見るのも、勇者の周辺を観察するのも実に面白い。暫く良い退屈しのぎができそうです」
「…………」
こちらが黙ったのをいいことに男はその場からそのまま立ち去ってしまう。
きっとこの状況を心底楽しんでいるのだろう。
兄の友人の弟ではあるが、どうしても好きになれない相手だった。
「…………余計な茶々が入る前にさっさとヴェルガー様を手に入れなければ…」
いっそあのマナと言う男を縛り上げて脅しでも掛けようか?
それならヴェルガーもおとなしく言うことを聞くかもしれない。
必死に恥辱に耐える姿は想像するだけで美味しいような気もする。
そのためにはやはり新たな召喚獣の存在が必要になってくるだろう。

「……また生贄を用意しなければ」

前回は兄を事故に見せかけ殺し生贄に捧げたが、今回は誰が適任だろうか?
「ああ…そういえば氷が解けたらこれ以上ないほどの贄になりそうな者がいたな」
どうせ氷漬けになっていた者達は皆とっくに死んでいるだろうし、まとめて贄に捧げても何ら問題はないことだろう。
「そうだ。そうしよう」
そうしてクスクスと笑いながら次の策を練る。
先程の者のことは気になるものの、気にしても仕方がない。
どうせあの男はこの計画を邪魔することなどないのだから─────。


***


「ヴェルガー様!広間の氷が解けたとの報告が上がってまいりました!」
翌朝四人で朝食を食べていると慌てたように宰相の部下がやってきてそう報告を入れた。
それによるとこれまでずっと解けなかった氷が昨夜からジワジワと解け始めていたらしく、深夜の兵の見回りの時に周囲が水浸しになっていたことから発覚したらしい。
それを聞いて宰相が顔色を変えて慌てて部屋を飛び出したので俺もヒロ達と共に一緒にそちらへと向かうことにした。



広間はかなり水浸しで、そこには氷漬けにされていたと思しき人達が皆の手で丁寧に横たえさせられていた。
顔色は皆悪く、こと切れているのが見て取れる。
そんな状況に沈痛な気持ちになるが、ふと思い立って生き残っているものは誰かいないだろうかと魔法で確かめてみることにした。
一人くらいは助かっていてほしい。
もしも仮死状態で生き残っている人がいたら助けてやりたい。
そんな思いから魔法でサーチを掛ける。
すると奥の方にほんのりと生体反応が感じられる者を発見した。
どうやらその場の誰も彼が最早生きてはいないと判断しているらしく、他の遺体と同様に運ばれようとしていたので慌ててそちらへと走っていった。
「待って!待ってください!」
そして彼の傍まで近寄ると急いで回復魔法を唱え、次いで治癒魔法で凍傷を治しにかかった。
それと共に彼の表情に赤みが差し、呼吸が通常に戻るのを感じた。
それを見て周囲から感嘆の声が上がる。
「ミルフィス様!ミルフィス様が生き返られたぞ!」
どうやらこの青年はミルフィスという名前らしい。
「マナ!ミルフィス殿が助かったというのは本当か?!」
その騒ぎに宰相が飛んできて、彼の方へと視線を向ける。
どうやら知り合いらしく、宰相は涙を流さんばかりに喜んでいるように見えた。
「ミルフィス殿!」
そうして声を掛けた宰相の声で青年の長いまつげが震え、ゆっくりとその瞳が開かれる。
「ヴェルガー…殿?」
「ああ、そうだ!良かった!」
そうして喜ぶ宰相に彼は何かを伝えようと口を開きかけるが、宰相はそれを差し止めて今は休むようにと口にした。
「そなたが助かっただけでも本当に良かった」
そんな言葉にミルフィスは自分に起こったことを思い出し状況を把握したのか、そっと周囲を見回しどこか苦しそうに俯きながら唇を噛みしめていた。


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