【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
33 / 71

32.氷漬けにした犯人はこの魔物?

しおりを挟む
宰相の無事を確認し、今日は皆疲れただろうからこの件については明日にしようと解散した後、俺達は一先ず夕食を囲んだ。
メンツは宰相、俺、ヒロ、ハイジの四人だ。
どうしてこうなったかというと、やはり宰相が不安そうにしていたからだった。
あんなことがあったのだ。
一人になりたくはなかったのだろう。
だから気持ちを和ませるために旅の間の話を色々と話し、ついでにハイジの強さも含めて語っておいた。

「ハイジの蹴りで盗賊もカテオロスの兵もみんな地に伏せたんですよ」
「あれは俺でも近寄りたくないって思ったな」
「そんなもの、相手が弱かっただけですわ。身体強化も使っていなかったのに倒される時点で軟弱なんです」
「ははっ。それが本当なら皆鍛錬が足りないのだな。ハイジはこんなに細いのだから」
幾分和んだ宰相がにこやかに相槌を打ってくるが、これは信じてないなと三人で苦笑してしまう。
とは言えここで宰相に攻撃をしろと言うつもりもないので、ここはサラリと流すことにした。

「まあそんなお転婆なハイジをサトルが機転を利かせて捕まえてくれたってわけなんですよ」
ヒロがその時の状況を思い浮かべながらずぶ濡れになったハイジの話を口にする。
「あれは酷かったですわ。私、一瞬アンデッドが出たのかと思って身構えてしまいましたもの。それなのに次の瞬間には抱き上げられてそのまま連行ですのよ?酷いと思いません?」
「それは凄いな。攻撃魔法が使えないのにあっという間に拘束してしまうとは…。さすがマナだ」
「ヴェルガー様?!」
ハイジは驚いているが、ハイジに同意するでもなく自分をほめて貰えてなんだか物凄く嬉しい気持ちになる。
「くっ…!実は既に両思いなのではなくて?!」
「…?単純に仲がいいだけだぞ?」
「そうだな。マナは頼りになると言うことを言いたかっただけなんだが…何かおかしかっただろうか?」
そうして二人でハイジの方を見遣ったが、何故かハイジだけではなくヒロにまで呆れたような顔をされてしまった。
「ハイジ、言っても無駄だぞ?自分達で気づいた時にでも笑ってやれよ」
「……そうですわね。そうしますわ」



そして、その後一つの問題が生じた。
ハイジの部屋割りだ。
客室にと最初は思ったのだが、ちょうど挨拶に来たウィンベル達の『彼女は罪人なので』という言葉を受け、一晩牢に入れるか俺たち誰かの部屋で軟禁するかのどちらかと言う話になってしまった。
寝室には鍵が掛けられるし万が一にでも問題が起こることはないのだが、ハイジは現状まだ宰相の婚約者という立場になるらしく、他の男と同室と言うのは避けるべきと言うのが宰相の言い分だ。
それはとてもよくわかるし、その通りだとも思う。
けれど誰あろう宰相を裏切った張本人を同室にしたくないと言うのが周囲の意見だった。
そこで俺は、そういうことなら自分も一緒に宰相の部屋に泊って安全確保に一役買おうかと口にしたのだが、それなら自分も一緒に泊ると言い出したのがヒロだった。
どうやら皆でワイワイ泊るのも面白そうとのことだった。
この異世界にきてから然程楽しいこともなかったらしく、こういうチャンスは逃したくないと言う思いで飛びついたらしい。
それに対して宰相は困ったような顔でそんなに大人数では寝る場所が足りないと言ってきた。
それはそうだ。
ソファを使うにしても精々が二人が限度だろう。
そうやってああでもないこうでもないと話し合っていると、ウィンベルが気を利かせてソファを別の部屋から運んできますと言って部屋から出ていった。
有難いことだ。

これで一安心と思ったところで、ふと嫌な感じがして反射的に全員に防御魔法の重ね掛けをする自分がいた。
「サトル?」
ヒロが不思議そうにこちらを見てくるが、俺は答えずそっと窓の方へと近づいていく。
なんだろう?
何となく悪意のようなものが近づいてくるような気がする。
気のせいだろうか?
そう思ったところで、思いもよらぬ乱入者が部屋へとやってきたのだった─────。


*****


グルルゥゥゥウウ……。

いきなり外から窓を突き破り目の前へと現れたのは、二回りほど大きいが赤い瞳をした豹のような魔物だった。
白い毛並みに包まれギラギラとした目を光らせる姿はどこまでも禍々しい。
しかもその身にただならぬほどの冷気を纏っていたため、もしかして王達を氷漬けにしたのはこの魔物なのではないかとさえ思った。
それは宰相達も同感だったようで、皆すぐさま散開し戦闘態勢をとって攻撃へと備える。

「来るぞ!」

突然始まった戦闘に緊張が高まる中、俺はここに更に誰かが乱入してきたらたまらないと扉へと結界を張った。
これで敵味方関係なくこれ以上誰かが介入してくることもないから戦いに集中しやすくなった。
そう冷静に判断する自分に魔物が氷のブレスを吐き出し周囲ともども凍り付かせていくが、部屋のあちらこちらが凍り付いたものの先に防御魔法を全員に掛けていたお陰で全員が無傷で済む。
そしてそれを受けてハイジが勢いよく魔物の懐へと駆け、鋭い蹴りを放った。

「はぁっ!!」
ドドドドドッ!!バキィッ!

どうやら魔物相手だからか身体強化魔法を使ったらしく、物凄い威力で連撃を繰り出し圧倒していく。
鼻っ面にやられたせいで魔物がたまらず後ろへと下がるが、そこをヒロが剣を手に追撃を掛ける。

「くらえ!」

そして雷魔法を付与した剣でズバッと切り込みとどめを刺しに行くが、魔物は素早く躱して事なきを得た。
そこからは激しい攻守のせめぎ合いだったが、俺が張った防御魔法はそう簡単には壊れないらしく、ヒロとハイジは不敵に笑いながら攻撃に専念し攻めて攻めて攻めまくる。
かなり強い魔物のように見えるが、二人の攻撃を受けて徐々にその体力が削られていっているのは明らかだった。
そもそも最大の攻撃である氷のブレスが効かないのだからこちらが有利なのは間違いない。
爪や牙も防御魔法を壊すほどには強くはないため、向こうがジリ貧になっていくのは仕方のないことだろう。

「ははっ!サトルの防御魔法は最強だな!」
「全くもってその通りですわ!サトルはそこでしっかりヴェルガー様を守ってくださいな」
「敵は俺達が倒す!いけるな、ハイジ!」
「ええ。任せてくださいな!」

ヒロの呼びかけにニッと笑い、ハイジがいつの間にかヒロから受け取っていたナイフを素早く一閃させる。
それと共に魔物の目が潰され、そこをヒロが一息に仕留めにかかった。
ひと際大きい断末魔の叫びが響き渡り、魔物の身体がその場で崩れ落ちる。

「やったか?!」

皆でその魔物を見遣ると、たちまちその身体はグズグズと形を崩してその姿を失くし、後には魔石と呼ばれる氷のような薄青の宝石が残されていた。
それを見て皆でホッと息を吐く。
何故この魔物が自分達を襲ったのかはわからないが、四人が揃っているこの状態で襲われたのは僥倖だった。
もし一人の時に襲われていたらきっとやられていたことだろう。

「終わった…のか?」

宰相が王達を氷漬けにした魔物は死んだのかと茫然としながらそう口にするが、それはどうかわからない。
そもそもあの魔物に王達や自分達を狙って襲うような知恵があるようには見えなかった。
それを考えるに、あの魔物は誰かの指示に従っていたと考える方が無難だろう。

「宰相。あの魔物が王達を氷漬けにした可能性は高いですが、裏にそれを操る者がいると考えた方がいいかもしれません。油断しないようにしてください」

もしそうであるなら恐らく狙いは宰相だと思われる。
この国を転覆させて得をする者は一体誰なのか?
周辺国の誰かなのか、この国の貴族なのか──────。
いずれにせよそのあたりを含めて慎重に調査をしておくべきだろう。

そこまで考えて、この分だと今日宰相に嫌がらせをした犯人と今のこの襲撃犯は恐らく別人だろうと思った。
襲撃犯の目的はこの国そのものだと思うので、ジフリートが犯人の可能性は低くなる。
そういった観点から、ジフリートをマークしつつも明日はあちこち歩きまわって他の不審人物がいないかを確認してみようと考えた。

「宰相。暫くは防御魔法をしっかり毎日かけておきますけど、ご自分でも自衛するようにしてくださいね」

ずっと傍にはいられないけれど、少なくとも防御魔法を掛けている間はある程度は安全なはずだ。

「サトルの防御魔法はある意味最強だから、心配いらないと思う」
「そうですわ。ヒロから聞きましたけれど、打撃だけではなく締め技なども効かないのでしょう?水にも濡れないようでしたし、多少の嫌がらせがあっても全く危険はないと思いますわ」
ヒロとハイジがそうやって太鼓判を押すのを見て宰相も少し安心したように笑った。
「そうか。それは頼もしいな」
さすが賢者と言いながら宰相がこちらを見遣り、安堵の笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「マナ、いつもありがとう」
「いえ。宰相のためならこれくらいなんでもないですよ」
そして嬉しい気持ちになりながらも、早く犯人を捕まえて安心させてあげたいと強く思ったのだった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...