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32.氷漬けにした犯人はこの魔物?

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宰相の無事を確認し、今日は皆疲れただろうからこの件については明日にしようと解散した後、俺達は一先ず夕食を囲んだ。
メンツは宰相、俺、ヒロ、ハイジの四人だ。
どうしてこうなったかというと、やはり宰相が不安そうにしていたからだった。
あんなことがあったのだ。
一人になりたくはなかったのだろう。
だから気持ちを和ませるために旅の間の話を色々と話し、ついでにハイジの強さも含めて語っておいた。

「ハイジの蹴りで盗賊もカテオロスの兵もみんな地に伏せたんですよ」
「あれは俺でも近寄りたくないって思ったな」
「そんなもの、相手が弱かっただけですわ。身体強化も使っていなかったのに倒される時点で軟弱なんです」
「ははっ。それが本当なら皆鍛錬が足りないのだな。ハイジはこんなに細いのだから」
幾分和んだ宰相がにこやかに相槌を打ってくるが、これは信じてないなと三人で苦笑してしまう。
とは言えここで宰相に攻撃をしろと言うつもりもないので、ここはサラリと流すことにした。

「まあそんなお転婆なハイジをサトルが機転を利かせて捕まえてくれたってわけなんですよ」
ヒロがその時の状況を思い浮かべながらずぶ濡れになったハイジの話を口にする。
「あれは酷かったですわ。私、一瞬アンデッドが出たのかと思って身構えてしまいましたもの。それなのに次の瞬間には抱き上げられてそのまま連行ですのよ?酷いと思いません?」
「それは凄いな。攻撃魔法が使えないのにあっという間に拘束してしまうとは…。さすがマナだ」
「ヴェルガー様?!」
ハイジは驚いているが、ハイジに同意するでもなく自分をほめて貰えてなんだか物凄く嬉しい気持ちになる。
「くっ…!実は既に両思いなのではなくて?!」
「…?単純に仲がいいだけだぞ?」
「そうだな。マナは頼りになると言うことを言いたかっただけなんだが…何かおかしかっただろうか?」
そうして二人でハイジの方を見遣ったが、何故かハイジだけではなくヒロにまで呆れたような顔をされてしまった。
「ハイジ、言っても無駄だぞ?自分達で気づいた時にでも笑ってやれよ」
「……そうですわね。そうしますわ」



そして、その後一つの問題が生じた。
ハイジの部屋割りだ。
客室にと最初は思ったのだが、ちょうど挨拶に来たウィンベル達の『彼女は罪人なので』という言葉を受け、一晩牢に入れるか俺たち誰かの部屋で軟禁するかのどちらかと言う話になってしまった。
寝室には鍵が掛けられるし万が一にでも問題が起こることはないのだが、ハイジは現状まだ宰相の婚約者という立場になるらしく、他の男と同室と言うのは避けるべきと言うのが宰相の言い分だ。
それはとてもよくわかるし、その通りだとも思う。
けれど誰あろう宰相を裏切った張本人を同室にしたくないと言うのが周囲の意見だった。
そこで俺は、そういうことなら自分も一緒に宰相の部屋に泊って安全確保に一役買おうかと口にしたのだが、それなら自分も一緒に泊ると言い出したのがヒロだった。
どうやら皆でワイワイ泊るのも面白そうとのことだった。
この異世界にきてから然程楽しいこともなかったらしく、こういうチャンスは逃したくないと言う思いで飛びついたらしい。
それに対して宰相は困ったような顔でそんなに大人数では寝る場所が足りないと言ってきた。
それはそうだ。
ソファを使うにしても精々が二人が限度だろう。
そうやってああでもないこうでもないと話し合っていると、ウィンベルが気を利かせてソファを別の部屋から運んできますと言って部屋から出ていった。
有難いことだ。

これで一安心と思ったところで、ふと嫌な感じがして反射的に全員に防御魔法の重ね掛けをする自分がいた。
「サトル?」
ヒロが不思議そうにこちらを見てくるが、俺は答えずそっと窓の方へと近づいていく。
なんだろう?
何となく悪意のようなものが近づいてくるような気がする。
気のせいだろうか?
そう思ったところで、思いもよらぬ乱入者が部屋へとやってきたのだった─────。


*****


グルルゥゥゥウウ……。

いきなり外から窓を突き破り目の前へと現れたのは、二回りほど大きいが赤い瞳をした豹のような魔物だった。
白い毛並みに包まれギラギラとした目を光らせる姿はどこまでも禍々しい。
しかもその身にただならぬほどの冷気を纏っていたため、もしかして王達を氷漬けにしたのはこの魔物なのではないかとさえ思った。
それは宰相達も同感だったようで、皆すぐさま散開し戦闘態勢をとって攻撃へと備える。

「来るぞ!」

突然始まった戦闘に緊張が高まる中、俺はここに更に誰かが乱入してきたらたまらないと扉へと結界を張った。
これで敵味方関係なくこれ以上誰かが介入してくることもないから戦いに集中しやすくなった。
そう冷静に判断する自分に魔物が氷のブレスを吐き出し周囲ともども凍り付かせていくが、部屋のあちらこちらが凍り付いたものの先に防御魔法を全員に掛けていたお陰で全員が無傷で済む。
そしてそれを受けてハイジが勢いよく魔物の懐へと駆け、鋭い蹴りを放った。

「はぁっ!!」
ドドドドドッ!!バキィッ!

どうやら魔物相手だからか身体強化魔法を使ったらしく、物凄い威力で連撃を繰り出し圧倒していく。
鼻っ面にやられたせいで魔物がたまらず後ろへと下がるが、そこをヒロが剣を手に追撃を掛ける。

「くらえ!」

そして雷魔法を付与した剣でズバッと切り込みとどめを刺しに行くが、魔物は素早く躱して事なきを得た。
そこからは激しい攻守のせめぎ合いだったが、俺が張った防御魔法はそう簡単には壊れないらしく、ヒロとハイジは不敵に笑いながら攻撃に専念し攻めて攻めて攻めまくる。
かなり強い魔物のように見えるが、二人の攻撃を受けて徐々にその体力が削られていっているのは明らかだった。
そもそも最大の攻撃である氷のブレスが効かないのだからこちらが有利なのは間違いない。
爪や牙も防御魔法を壊すほどには強くはないため、向こうがジリ貧になっていくのは仕方のないことだろう。

「ははっ!サトルの防御魔法は最強だな!」
「全くもってその通りですわ!サトルはそこでしっかりヴェルガー様を守ってくださいな」
「敵は俺達が倒す!いけるな、ハイジ!」
「ええ。任せてくださいな!」

ヒロの呼びかけにニッと笑い、ハイジがいつの間にかヒロから受け取っていたナイフを素早く一閃させる。
それと共に魔物の目が潰され、そこをヒロが一息に仕留めにかかった。
ひと際大きい断末魔の叫びが響き渡り、魔物の身体がその場で崩れ落ちる。

「やったか?!」

皆でその魔物を見遣ると、たちまちその身体はグズグズと形を崩してその姿を失くし、後には魔石と呼ばれる氷のような薄青の宝石が残されていた。
それを見て皆でホッと息を吐く。
何故この魔物が自分達を襲ったのかはわからないが、四人が揃っているこの状態で襲われたのは僥倖だった。
もし一人の時に襲われていたらきっとやられていたことだろう。

「終わった…のか?」

宰相が王達を氷漬けにした魔物は死んだのかと茫然としながらそう口にするが、それはどうかわからない。
そもそもあの魔物に王達や自分達を狙って襲うような知恵があるようには見えなかった。
それを考えるに、あの魔物は誰かの指示に従っていたと考える方が無難だろう。

「宰相。あの魔物が王達を氷漬けにした可能性は高いですが、裏にそれを操る者がいると考えた方がいいかもしれません。油断しないようにしてください」

もしそうであるなら恐らく狙いは宰相だと思われる。
この国を転覆させて得をする者は一体誰なのか?
周辺国の誰かなのか、この国の貴族なのか──────。
いずれにせよそのあたりを含めて慎重に調査をしておくべきだろう。

そこまで考えて、この分だと今日宰相に嫌がらせをした犯人と今のこの襲撃犯は恐らく別人だろうと思った。
襲撃犯の目的はこの国そのものだと思うので、ジフリートが犯人の可能性は低くなる。
そういった観点から、ジフリートをマークしつつも明日はあちこち歩きまわって他の不審人物がいないかを確認してみようと考えた。

「宰相。暫くは防御魔法をしっかり毎日かけておきますけど、ご自分でも自衛するようにしてくださいね」

ずっと傍にはいられないけれど、少なくとも防御魔法を掛けている間はある程度は安全なはずだ。

「サトルの防御魔法はある意味最強だから、心配いらないと思う」
「そうですわ。ヒロから聞きましたけれど、打撃だけではなく締め技なども効かないのでしょう?水にも濡れないようでしたし、多少の嫌がらせがあっても全く危険はないと思いますわ」
ヒロとハイジがそうやって太鼓判を押すのを見て宰相も少し安心したように笑った。
「そうか。それは頼もしいな」
さすが賢者と言いながら宰相がこちらを見遣り、安堵の笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「マナ、いつもありがとう」
「いえ。宰相のためならこれくらいなんでもないですよ」
そして嬉しい気持ちになりながらも、早く犯人を捕まえて安心させてあげたいと強く思ったのだった。


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