【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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29.どうしてこんな目に…ー宰相視点ー

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ゆっくりと意識が浮上する。
自分は一体どうしたのだろうか?
何となく体が痛い気がする。
そしてクラクラする頭を支えようとしたところでふとその生臭いにおいに気がついた。

「……え?」

スースーする胸元。
飛び散る白い液体。
鼻を突く青臭い臭気。
それらから導き出される答えを一瞬で理解し、血の気が引くのを感じた。

「ひっ!!」

慌てて自分の衣類を確認するが、胸元以外に乱れはない。
けれど自分にかけられている液体が男のソレだというのは疑いようがなかった。

これは一体何がどうしてこうなったのだろう?
自分に一体何が起きたのか?
正直大声で叫ばなかった自分を褒めてやりたいと思った。

パニックになりそうな状況の中で、『常に冷静であれ』と教育されてきたために現状を分析しようと思考し始める自分がいる。
そうして心臓が凍り付きそうなほどの動揺を抱えながら懸命に状況を分析するに、どうやら眩暈で倒れた自分にこんな嫌がらせをした誰かがいたのだという結論に至った。
「う…うぅ…」
そこまで答えを出したところで堪えきれない吐き気に襲われて思わずその場で吐き戻してしまう。
一体誰が何のためにこんなことをしたのかはわからないが、例の氷漬けの件といい今回の件といい、この国を乱そうとする者が存在するということだけは確かだと思えた。

今ここで自分が気を病んで執務から離れれば国を回せるものがいなくなってしまう。
他の公爵家の者もいるにはいるが、エリバン公爵家の嫡男はまだ12才と10才と幼いしバニシュ公爵家に至っては嫡男がなく娘だけしかいない。
彼女は昨年婿養子を迎え、今は結婚して幸せに暮らしているので政治に駆り出されることもないことだろう。
ちなみに現在王太子が他国に留学に行っているのだが、こちらは半年前から手紙を送れども送れども返事が返ってきたことはない。
今現在どうしているのか─────。
こちらも折を見て勇者に様子を見に行ってもらった方がいいのかもしれないと思った。

「はぁ……できればもうすぐにでもカテオロスに帰りたい」

無理な事だとは重々承知しているが、それでも愚痴をこぼしたくて仕方がなかった。
どうして仕事を頑張っているだけなのにこんな目に合わなければならないのか。
誰も好きでやっているわけではないというのにこんな嫌がらせをされるなんてと信じられない思いでいっぱいになる。

マナは魔王はいないのではと言っていたが、もしかしたらその通りかもしれない。
確かに落ち着いて考えればアクアブロンシュタルトに固執する理由がよくわからないからだ。
大国を相手にする方がずっと周辺国に恐怖や混乱を齎す事ができるだろう。
あんな氷柱を生み出すほどの魔法を使える者が他にいるのかという疑問はあるが、この嫌がらせの犯人が魔王でないという事くらいはわかるし、考えられるとすればこの国に恨みを抱く者の可能性の方が高い。
そう考えるとこの国を乱そうとする犯人は部下を抱える者である可能性が出てきた。
貴族の誰かだろうか?
今回の件は下っ端のしでかした事なのだと考えれば辻褄があうような気もする。
いずれにせよその考えも含めて、勇者一行の持ち帰る情報を聞いてからよく話し合い対策を考えなくてはならないのは確かだった。

一先ず吐き戻せるものは吐き出したし、身繕いをしなければとカラカラと紙を巻き取り白濁を拭っていく。
きっと自分は今死んだ魚のような目をしていることだろう。
それくらい気分的にはどん底だった。
日々の仕事に押し潰されそうな中、プライベートでは婚約者に裏切られ、変態男にこんな目に合わされたのだ。
嘆くなと言う方が無理な話だ。
どんな思惑が裏にあろうとここで騒ぎ立てればこれを行った犯人が喜ぶだけだという思いもあった。
何が悲しくてこんな最低な輩を喜ばせなければならないのか。
流石にそれだけは御免だと思った。

「……愚痴を聞いてもらいたい」

ストレスの捌け口が欲しい。
今は一体何時だろうか?
昼からずっとここにいたのならもしかしたら部下達が自分を探しているかもしれない。
けれどこのまま執務に戻ることなどできはしないから、なんとか人目につかないよう自室に帰ってシャワーを浴びたかった。

「マナ……お前に会いたい」

小さく呟かれたその言葉に切なさが滲む。
犯人が誰かわからない今、この王宮にいるものは誰も信用がならないと感じていた。
もしかしたらここ最近の寒気は誰かが自分へと向けていた悪意だったのかもしれないと今更ながらに思い至る。
そうなると頼れるのは今王宮にいない勇者一行だけ─────。
早く帰ってきて欲しい。
そして大丈夫だと言ってほしい。

早くここから出なければと思うけれど、誰も信用できない現状に身体が震え、そのまま暫くその場で頭を抱えてしまう自分がいた…。

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