【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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20.トラブルの予感がするけど、気のせいかな?

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その後朝食をとるために頃合いの時間にハイジを伴い階下へと降りると、同行者たちが驚いたような顔でこちらを見てきた。
「え?」
どうやら昨日は居なかったはずの女性を連れていたので驚かれたらしい。
「今朝ジョギング中に助けたんだ。国境まで行きたいらしいから、後で御者の手配ができないか村の人に聞いてみようと思って」
皆が起きるまで部屋で休んでもらっていたのだと告げると、ハイジの方をジロジロと見た後大きく頷かれた。
「なるほど。どうやら貴族のご令嬢のご様子。それならどうせ行く先は同じなのですし、我々が同行すればよいのではないでしょうか?」
「そうですね。勇者様に騎士に魔道士。護衛としてもこれ以上心強い者も他にいないでしょう」
皆が口々に勇者とハイジにそう話すが、ああやっぱり自分は頭数に入ってないんだなとちょっとだけ悲しくなった。
(まあいいけど)
こうして疎外されるのには別に今に始まったことではないし、なんだったら日本にいた時だって学生時代はクラスでボッチなことの方が多かった。
俺に下手なことをすると親が飛んでくると噂になっていたからそこはまあ仕方がない。
とは言えそんな自分にだって友人はいなくもなかった。
こっそり校内でだけ話す趣味友達や、たまたまクラス委員で仲良くなった奴なんかがそうだ。
特にクラス委員の奴とは結構仲良くさせてもらい、彼女を守る護身術の練習をしたいから公園で一緒にやってほしいと拝み倒され、親にバレないようにと気遣われてわざわざ遠方の公園で特訓に付き合った思い出がある。
自転車で長距離を走って汗を流しアイスを食べるのはなかなか楽しかったのだが、最終的には親にバレてあいつには迷惑を掛けてしまった。
けれど、それでも『じゃあ校内なら問題ないだろう』と最後まで仲良くしてくれた気のいい奴だった。
大学が別々になったから卒業後はそれっきりだが、もしも同窓会があるのならあいつに会いにだけは行きたいなと思っていた。
どのみちもう会うことはないのだろうけれど……。

そうして少しだけしんみりしていると、ヒロがこちらへと話を振ってきた。
「サトル!そんなわけでハイジも一緒に国境線に行くことになったんだけど、大丈夫か?」
そんな風に尋ねてくるが、これはもう決定事項も同じことだから断ることなく『いいんじゃないか』とだけ答えておいた。
どうせ皆が話さない気詰まりな馬車内なのだ。
一人増えようと二人増えようと同じことだろう。
たった一日のことだし、積極的に関わらなければ厄介事には巻き込まれないはず……。
そう自分を納得させて笑顔で彼女に向き合うことにした。
「よろしく」
「こちらこそ。勇者一行に同行できて光栄ですわ」
ニッコリと笑った彼女の表情がほんの僅か引き攣っていたのに気づいたが、他の面々は気づかないようだったので少しだけ心配になる。

(これ…宰相の知り合いとかじゃないといいけど…)

他の王宮関係者なら別に構わないけれど、あの不運な宰相関連じゃないといいなとつい願ってしまう。
今頃あの人はどうしているのだろうと思いながら窓の外へと目をやり、澄み渡る青空へと目を向けて小さく溜息を吐いた。


*****


その頃宰相の領地であるカテオロスでは財源確保のための対策がとられると同時に、アーデルハイト捜索隊を編成していた。
令嬢一人を追うくらい容易いことだと10人ほどの領兵で捜索にあたらせ、その後を追わせる。
所詮は世間知らずの令嬢だ。
足取りはすぐに掴め、どうやら隣のトレッド領を経由して国境線へと向かい、そのまま隣国である大国レジェトリアスに入る予定だったとみられる。
とは言えただの令嬢が従者連れとは言えなんの伝手もなく大国へと入国しても生きていくすべはないだろう。
冒険者が跋扈する国とは言え、従者はあくまでも一使用人にすぎず戦いには不向きだ。
とても冒険者として生計を立てることなどできはしないし、アーデルハイトが持ち出した金品だけで生活が続くとも思えない。
ここ最近の彼女の金遣いの荒さから見てもそれは間違いないだろう。
補佐達はそのあたりを説得材料にしてなんとか彼女の身柄を確保し、上手く奪っていった金品を戻してほしいと思っていた。

「アーデルハイト様の馬車の目撃情報は?」
「それが、追手に気づいたのか夜間に馬車を走らせたようで、その後の目撃証言が得られません」
「……それなら国境線で先に待ち伏せをした方が確実かもしれんな。もしかしたら野盗にでも襲われてそれっきりという可能性もあるが、それならそれで確証さえ得られれば野盗退治だけして領に帰るだけだ。暫くは様子を見ながら国境線で待つことにしよう」
領兵の隊長がそう判断すると皆が一斉に頷き、馬の手綱を握り国境線へとひた走る。

そんな皆の思いはただ一つ。
(ヴェルガー様を裏切ったアーデルハイトは絶対に捕らえてみせる!)
────ただそれだけだった。

これまでヴェルガーの側で働いてきた者達はヴェルガーの人となりをよく把握している。
その上でアーデルハイトに絶対の信頼を置いていたのもよく見知っていた。
今回の件ははっきり言ってそれを裏切る大罪だ。
とても許せるものではない。

「絶対に捕まえるぞ!」

たとえアーデルハイトが夜間移動のため護衛の傭兵を雇っていたとしても全て蹴散らすまでの話だ。
そう気合いを入れて、領兵達は国境線へと向かったのだった。


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