【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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19.攻撃力の高い令嬢を助けました

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この状況は一体どういうことなのだろうか?
助けを求めていたのは一人だけ元気そうな20才くらいの若い女性だ。
上質な落ち着いた色合いのワンピースのようなドレスを着ているが、その漂う雰囲気はいかにも高位の貴族令嬢といった感じでこの場にそぐわない雰囲気を醸し出している。
「え…っと?」
思わずといったようにそう戸惑いの声を上げると、彼女は勢いよくこちらへと目を向けてきた。
「そこのお二方!助けてくださいませ!」
「えっと…その一体何が…?」
「それが……」
彼女が目にうっすらと涙を浮かべながら語ることには、昨夜御者一人を連れて馬車で国境へと向かっていたところ突如盗賊が現れ、それに驚いた馬が暴れて馬車が横転してしまったらしい。
しかも御者はその時の衝撃で気を失い、自分一人で盗賊と向き合う羽目になってしまったらしい。
「……えっと、それで、この盗賊達は何故みんな倒れてるんでしょう?」
その御者が起きてから倒したのならその姿がないのもまた不思議だ。
「そんなもの、私が倒したに決まっていますわ。御者はいつの間にか逃げてしまいましたし、私一人では横転した馬車を起こせないし、御者の真似事もできませんし、難儀していたのです」
「…………」
後半は実によくわかるが、前半が俄かには信じられなかった。
彼女はどこからどう見ても深層の令嬢といった風情なのに、盗賊6人を一人で倒したというのは本当なのだろうか?
そんな思いがあったのでついその場で固まってしまっていたのだが、そこで盗賊の一人がうめき声を上げながら目を覚ました。
「う…」
そしてふらふらしながら立ち上がったかと思うと、ゆっくりとこちらへと視線を向け、彼女の姿を認識した途端蒼白になった。
「ひっ…!化け物!」
その言葉を聞いたご令嬢は目にもとまらぬ速さで盗賊の元へと駆け、ドレスの裾を両手でちょいとつまみ上げたかと思うと、物凄い速さでドドドッ!と盗賊へと蹴りを入れあっという間に倒してしまった。
彼女が履いているのはヒールなので物凄く痛そうだ。
「結婚前の女性に対し、失礼な発言は慎んでいただきたいですわ」
冷ややかな視線がまるで女王様のようだ。
どうやら彼女には逆らわない方が賢明だと理解するには十分な出来事だった。
「取り敢えずその盗賊たちは縛って近くの村に連れて行った方がいいだろうな」
ヒロがそう言いながらよいしょと横転した馬車を持ち上げ、元の状態へと起こす。
さすが『勇者』。俺とはレベルが違う。
「車輪は大丈夫そうだし、馬の方は怯え…いや、一応落ち着いているようだからなんとかなるだろう」
そして盗賊達を次々縛り上げ、馬車へと詰め込む。
「ちょっと!私に盗賊と一緒に乗れと仰るのですか?!」
令嬢が怒ったようにそう言うが、ヒロはどこまでもマイペースだ。
「俺がこっちの馬に乗るから、あんたはそっちの馬に乗ればいい。見たところ貴族の令嬢なんだろう?乗馬くらいできるんじゃないのか?」
「…………まあできますけれど」
そして俺は御者席に腰掛け、馬にはヒロと令嬢が跨りゆっくりと村の方へと進むことになった。
彼女は名前を『ハイジ』と名乗った。
実になじみ深い名前でなんだかほっこりしてしまう。
平和なアルプスとは程遠いご令嬢っぽいが、なんとなく親近感が湧いた。



村に着くとまだ早い時間のためか人けが無く、仕方がないので馬車を宿の裏へと置かせてもらい先に部屋へと戻ることにした。
「襲うつもりじゃないでしょうね?」
いや、こんな怖い令嬢襲ったら瞬殺されそうだし、そうじゃなくても襲ったりしないぞと思ったので、フルフルと首を振る。
ヒロの方もどうやら同じような心境だったようで、物凄く嫌そうな顔をしながら短く言い切った。
「そうするくらいならこいつを襲った方が百倍安全だ。俺は蹴り潰されたくない」
その方が大事なところに危険がないからと俺を指さしながら紡がれた言葉に、俺もうんうんと頷いたのだが、何故かその言葉を聞いて彼女は『まあ!』と驚いたような顔をした。
「それなら安全ですわ。安心してお邪魔させていただきますわね」
そして優雅な笑みを浮かべながら、どこか楽し気に部屋へと入る。
「まあ小汚い狭い部屋だこと。お茶くらい入れてくださらない?喉が渇きましたわ」
ハイジは椅子に座るなりやれやれと言わんばかりにそんなことを口にしてくるが、生憎まだ食堂も空いていない時間帯だ。
喉が渇いているなら水を飲むしかない。
「今はこれしかないんだ。悪いな」
そう言って水差しから水を汲んで渡すと、彼女は不服そうにしながらも受け取ってくれた。
どうやら本当に喉が渇いていたようだ。

「それで?何故わざわざ危険な夜に馬車を走らせて国境に向かっていたんだ?」
ヒロがそこが理解できないという表情で口火を切る。
それはそうだろう。
彼女がいくら強いからと言って、わざわざ危険な夜間に馬車を走らせることはないはずだ。
余程の急ぎの案件でもあったのだろうかと疑問に思うのは別におかしなことではない。
「国境に何かあったのか?」
これだけの強さだ。
もしかしたら何らかの事情で戦いにでも向かう最中だったのかもしれないと思い、一応尋ねてみる。
すると彼女は何やら難しい顔をした後、隣国に用があって急いでいたのだと答えた。
「婚約者が危篤だと聞いたので、慌てていたのですわ。きっともう間に合わないとは思うけれど、できるだけ早く向かいたいとは思っていますの」
どこか沈痛な表情でそう告げた彼女になんだか同情してしまう。
けれど……何故か嘘が含まれているような気もして、積極的に関わらない方がいいような気がしたので当り障りなく会話をするよう心掛けた。
俺のこういう時の勘はよく当たるのだ。


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