20 / 71
19.攻撃力の高い令嬢を助けました
しおりを挟む
この状況は一体どういうことなのだろうか?
助けを求めていたのは一人だけ元気そうな20才くらいの若い女性だ。
上質な落ち着いた色合いのワンピースのようなドレスを着ているが、その漂う雰囲気はいかにも高位の貴族令嬢といった感じでこの場にそぐわない雰囲気を醸し出している。
「え…っと?」
思わずといったようにそう戸惑いの声を上げると、彼女は勢いよくこちらへと目を向けてきた。
「そこのお二方!助けてくださいませ!」
「えっと…その一体何が…?」
「それが……」
彼女が目にうっすらと涙を浮かべながら語ることには、昨夜御者一人を連れて馬車で国境へと向かっていたところ突如盗賊が現れ、それに驚いた馬が暴れて馬車が横転してしまったらしい。
しかも御者はその時の衝撃で気を失い、自分一人で盗賊と向き合う羽目になってしまったらしい。
「……えっと、それで、この盗賊達は何故みんな倒れてるんでしょう?」
その御者が起きてから倒したのならその姿がないのもまた不思議だ。
「そんなもの、私が倒したに決まっていますわ。御者はいつの間にか逃げてしまいましたし、私一人では横転した馬車を起こせないし、御者の真似事もできませんし、難儀していたのです」
「…………」
後半は実によくわかるが、前半が俄かには信じられなかった。
彼女はどこからどう見ても深層の令嬢といった風情なのに、盗賊6人を一人で倒したというのは本当なのだろうか?
そんな思いがあったのでついその場で固まってしまっていたのだが、そこで盗賊の一人がうめき声を上げながら目を覚ました。
「う…」
そしてふらふらしながら立ち上がったかと思うと、ゆっくりとこちらへと視線を向け、彼女の姿を認識した途端蒼白になった。
「ひっ…!化け物!」
その言葉を聞いたご令嬢は目にもとまらぬ速さで盗賊の元へと駆け、ドレスの裾を両手でちょいとつまみ上げたかと思うと、物凄い速さでドドドッ!と盗賊へと蹴りを入れあっという間に倒してしまった。
彼女が履いているのはヒールなので物凄く痛そうだ。
「結婚前の女性に対し、失礼な発言は慎んでいただきたいですわ」
冷ややかな視線がまるで女王様のようだ。
どうやら彼女には逆らわない方が賢明だと理解するには十分な出来事だった。
「取り敢えずその盗賊たちは縛って近くの村に連れて行った方がいいだろうな」
ヒロがそう言いながらよいしょと横転した馬車を持ち上げ、元の状態へと起こす。
さすが『勇者』。俺とはレベルが違う。
「車輪は大丈夫そうだし、馬の方は怯え…いや、一応落ち着いているようだからなんとかなるだろう」
そして盗賊達を次々縛り上げ、馬車へと詰め込む。
「ちょっと!私に盗賊と一緒に乗れと仰るのですか?!」
令嬢が怒ったようにそう言うが、ヒロはどこまでもマイペースだ。
「俺がこっちの馬に乗るから、あんたはそっちの馬に乗ればいい。見たところ貴族の令嬢なんだろう?乗馬くらいできるんじゃないのか?」
「…………まあできますけれど」
そして俺は御者席に腰掛け、馬にはヒロと令嬢が跨りゆっくりと村の方へと進むことになった。
彼女は名前を『ハイジ』と名乗った。
実になじみ深い名前でなんだかほっこりしてしまう。
平和なアルプスとは程遠いご令嬢っぽいが、なんとなく親近感が湧いた。
村に着くとまだ早い時間のためか人けが無く、仕方がないので馬車を宿の裏へと置かせてもらい先に部屋へと戻ることにした。
「襲うつもりじゃないでしょうね?」
いや、こんな怖い令嬢襲ったら瞬殺されそうだし、そうじゃなくても襲ったりしないぞと思ったので、フルフルと首を振る。
ヒロの方もどうやら同じような心境だったようで、物凄く嫌そうな顔をしながら短く言い切った。
「そうするくらいならこいつを襲った方が百倍安全だ。俺は蹴り潰されたくない」
その方が大事なところに危険がないからと俺を指さしながら紡がれた言葉に、俺もうんうんと頷いたのだが、何故かその言葉を聞いて彼女は『まあ!』と驚いたような顔をした。
「それなら安全ですわ。安心してお邪魔させていただきますわね」
そして優雅な笑みを浮かべながら、どこか楽し気に部屋へと入る。
「まあ小汚い狭い部屋だこと。お茶くらい入れてくださらない?喉が渇きましたわ」
ハイジは椅子に座るなりやれやれと言わんばかりにそんなことを口にしてくるが、生憎まだ食堂も空いていない時間帯だ。
喉が渇いているなら水を飲むしかない。
「今はこれしかないんだ。悪いな」
そう言って水差しから水を汲んで渡すと、彼女は不服そうにしながらも受け取ってくれた。
どうやら本当に喉が渇いていたようだ。
「それで?何故わざわざ危険な夜に馬車を走らせて国境に向かっていたんだ?」
ヒロがそこが理解できないという表情で口火を切る。
それはそうだろう。
彼女がいくら強いからと言って、わざわざ危険な夜間に馬車を走らせることはないはずだ。
余程の急ぎの案件でもあったのだろうかと疑問に思うのは別におかしなことではない。
「国境に何かあったのか?」
これだけの強さだ。
もしかしたら何らかの事情で戦いにでも向かう最中だったのかもしれないと思い、一応尋ねてみる。
すると彼女は何やら難しい顔をした後、隣国に用があって急いでいたのだと答えた。
「婚約者が危篤だと聞いたので、慌てていたのですわ。きっともう間に合わないとは思うけれど、できるだけ早く向かいたいとは思っていますの」
どこか沈痛な表情でそう告げた彼女になんだか同情してしまう。
けれど……何故か嘘が含まれているような気もして、積極的に関わらない方がいいような気がしたので当り障りなく会話をするよう心掛けた。
俺のこういう時の勘はよく当たるのだ。
助けを求めていたのは一人だけ元気そうな20才くらいの若い女性だ。
上質な落ち着いた色合いのワンピースのようなドレスを着ているが、その漂う雰囲気はいかにも高位の貴族令嬢といった感じでこの場にそぐわない雰囲気を醸し出している。
「え…っと?」
思わずといったようにそう戸惑いの声を上げると、彼女は勢いよくこちらへと目を向けてきた。
「そこのお二方!助けてくださいませ!」
「えっと…その一体何が…?」
「それが……」
彼女が目にうっすらと涙を浮かべながら語ることには、昨夜御者一人を連れて馬車で国境へと向かっていたところ突如盗賊が現れ、それに驚いた馬が暴れて馬車が横転してしまったらしい。
しかも御者はその時の衝撃で気を失い、自分一人で盗賊と向き合う羽目になってしまったらしい。
「……えっと、それで、この盗賊達は何故みんな倒れてるんでしょう?」
その御者が起きてから倒したのならその姿がないのもまた不思議だ。
「そんなもの、私が倒したに決まっていますわ。御者はいつの間にか逃げてしまいましたし、私一人では横転した馬車を起こせないし、御者の真似事もできませんし、難儀していたのです」
「…………」
後半は実によくわかるが、前半が俄かには信じられなかった。
彼女はどこからどう見ても深層の令嬢といった風情なのに、盗賊6人を一人で倒したというのは本当なのだろうか?
そんな思いがあったのでついその場で固まってしまっていたのだが、そこで盗賊の一人がうめき声を上げながら目を覚ました。
「う…」
そしてふらふらしながら立ち上がったかと思うと、ゆっくりとこちらへと視線を向け、彼女の姿を認識した途端蒼白になった。
「ひっ…!化け物!」
その言葉を聞いたご令嬢は目にもとまらぬ速さで盗賊の元へと駆け、ドレスの裾を両手でちょいとつまみ上げたかと思うと、物凄い速さでドドドッ!と盗賊へと蹴りを入れあっという間に倒してしまった。
彼女が履いているのはヒールなので物凄く痛そうだ。
「結婚前の女性に対し、失礼な発言は慎んでいただきたいですわ」
冷ややかな視線がまるで女王様のようだ。
どうやら彼女には逆らわない方が賢明だと理解するには十分な出来事だった。
「取り敢えずその盗賊たちは縛って近くの村に連れて行った方がいいだろうな」
ヒロがそう言いながらよいしょと横転した馬車を持ち上げ、元の状態へと起こす。
さすが『勇者』。俺とはレベルが違う。
「車輪は大丈夫そうだし、馬の方は怯え…いや、一応落ち着いているようだからなんとかなるだろう」
そして盗賊達を次々縛り上げ、馬車へと詰め込む。
「ちょっと!私に盗賊と一緒に乗れと仰るのですか?!」
令嬢が怒ったようにそう言うが、ヒロはどこまでもマイペースだ。
「俺がこっちの馬に乗るから、あんたはそっちの馬に乗ればいい。見たところ貴族の令嬢なんだろう?乗馬くらいできるんじゃないのか?」
「…………まあできますけれど」
そして俺は御者席に腰掛け、馬にはヒロと令嬢が跨りゆっくりと村の方へと進むことになった。
彼女は名前を『ハイジ』と名乗った。
実になじみ深い名前でなんだかほっこりしてしまう。
平和なアルプスとは程遠いご令嬢っぽいが、なんとなく親近感が湧いた。
村に着くとまだ早い時間のためか人けが無く、仕方がないので馬車を宿の裏へと置かせてもらい先に部屋へと戻ることにした。
「襲うつもりじゃないでしょうね?」
いや、こんな怖い令嬢襲ったら瞬殺されそうだし、そうじゃなくても襲ったりしないぞと思ったので、フルフルと首を振る。
ヒロの方もどうやら同じような心境だったようで、物凄く嫌そうな顔をしながら短く言い切った。
「そうするくらいならこいつを襲った方が百倍安全だ。俺は蹴り潰されたくない」
その方が大事なところに危険がないからと俺を指さしながら紡がれた言葉に、俺もうんうんと頷いたのだが、何故かその言葉を聞いて彼女は『まあ!』と驚いたような顔をした。
「それなら安全ですわ。安心してお邪魔させていただきますわね」
そして優雅な笑みを浮かべながら、どこか楽し気に部屋へと入る。
「まあ小汚い狭い部屋だこと。お茶くらい入れてくださらない?喉が渇きましたわ」
ハイジは椅子に座るなりやれやれと言わんばかりにそんなことを口にしてくるが、生憎まだ食堂も空いていない時間帯だ。
喉が渇いているなら水を飲むしかない。
「今はこれしかないんだ。悪いな」
そう言って水差しから水を汲んで渡すと、彼女は不服そうにしながらも受け取ってくれた。
どうやら本当に喉が渇いていたようだ。
「それで?何故わざわざ危険な夜に馬車を走らせて国境に向かっていたんだ?」
ヒロがそこが理解できないという表情で口火を切る。
それはそうだろう。
彼女がいくら強いからと言って、わざわざ危険な夜間に馬車を走らせることはないはずだ。
余程の急ぎの案件でもあったのだろうかと疑問に思うのは別におかしなことではない。
「国境に何かあったのか?」
これだけの強さだ。
もしかしたら何らかの事情で戦いにでも向かう最中だったのかもしれないと思い、一応尋ねてみる。
すると彼女は何やら難しい顔をした後、隣国に用があって急いでいたのだと答えた。
「婚約者が危篤だと聞いたので、慌てていたのですわ。きっともう間に合わないとは思うけれど、できるだけ早く向かいたいとは思っていますの」
どこか沈痛な表情でそう告げた彼女になんだか同情してしまう。
けれど……何故か嘘が含まれているような気もして、積極的に関わらない方がいいような気がしたので当り障りなく会話をするよう心掛けた。
俺のこういう時の勘はよく当たるのだ。
29
お気に入りに追加
1,405
あなたにおすすめの小説

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。


転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる