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11.油断大敵

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召喚されてから5日────。
あれから俺は広い部屋へと変えてもらうことができた。
けれど相変わらずここに居る者達は本当に自分には冷たい者達ばかり。
宰相と勇者が気にかけてくれているし、ご飯も一緒に食べるぞと言われ一緒に取る様になったので当面の問題は解決したと思っていたのだが─────問題は昨日発生した。

夕飯時、突然目の前にステータスウィンドウのようなものが現れたのだ。
『なんだこれ?』と思ってそこに書かれた文字を目で追う。

【微量の毒物を検出しました。浄化しますか? YES/NO】

え?毒物の浄化?
そんなものYESに決まっている。
微量とは言え毒物は毒物だ。
場合によっては倒れるかもしれないし、そうでなくてもトイレとお友達になりそうで嫌だ。

「YESっと」

そしてそれを選んだ瞬間自分の中からふわりと何かが出ていった感覚があり、次いで目の前の皿が一瞬白く光ってすぐに元通りになった。

どうやらこれが浄化らしい。
よくわからないがさすが異世界。
もしやこれは召喚された者に対する独特のシステムなのだろうか?
親切な機能があるんだなと思いながらホッと息を吐いたのだが、それを見た勇者が目を見開いてこちらを凝視していることに気がついた。
「…?どうかしたのか?」
「……サトル。今何かやったのか?」
「え?ああ、食べようと思ったら変なステータスウィンドウみたいなのが目の前に出てきたから」
「…………なんて書いてあった?」
「へ?【微量の毒物を検出しました】ってあったけど?」
これ便利な機能だなと笑顔で言ったら、蒼白になってヒロは勢いよく立ち上がった。
「食べるな!」
「ええっ?!」
そうは言ってももう浄化しているし大丈夫なのだが、ヒロは最後まで聞かずに宰相を呼べと近くにいた自分の従者らしき者に言い放っていた。
それから暫くしてバタバタと宰相が慌てたようにやってきて場が騒然となる。
「マナ!」
蒼白になりながら飛んできた宰相がすぐさま自分の方へと近づいてきて大丈夫かと尋ねてきてくれる。
「いや、大丈夫ですよ?ちゃんと浄化したんで、もうあれは食べても問題ありませんから」
一応そう言ってみるが、宰相は心配そうだ。
「くそっ!誰がこんなことを!」
許せんとヒロの方もご立腹だ。
一口も食べてないから全然大丈夫なのに……。
「マナ。犯人が分かるまで暫く自分で料理を作れるか?食材は厨房でもらえるようにしておくから」
きっと以前自分で夜食を作ると宣言していたので宰相はそんな風に提案してくれたのだろう。
ついでに道具も借りれるよう厨房には言っておくからと言ってくれたので、素直に感謝は伝えておいた。
どういう意図があったのかは知らないが、毒を盛られるのはあまり気持ちのいいものではない。
犯人が単独なのか複数なのかわからないし、それなら自分で料理を作った方がずっと安心だろうと宰相の提案を有難く受けさせてもらうことにした。
ついでに何かあった時用に薬草園の薬草の使用許可ももぎ取っておいた。
大丈夫だとは思うが、先ほどのように警告がない場合の対策もちゃんと考えておいた方がいいだろうと思ってのことだ。

ちなみにうちの両親は過干渉な性格ではあったが共働きだったので一応料理は早い段階で覚えていた。
教えてくれた今は亡き祖母には感謝しかない。

『知っとかんと絶対苦労するからな。家事はきっちり一通り覚えて、早めに自立した方がええよ』

そうやって教えてくれる祖母に当時はどうしてそんな風に言われるのだろうと思わないでもなかったが、今ならよくわかる。
さっさと親から逃げられるだけのスキルを身につけろと言ってくれていたのだ。
その時の経験から一通り家事は覚えることができたし、家を出た後でその経験は随分生かされたと思う。
それがまさか異世界に来ても役立つことになるとは思ってもみなかったが…。
取り敢えず料理の基礎はわかっているから、きっと多少調味料等が変わっても何とかなることだろう。

(そうだな…。念のため一応後で図書室で料理の本も確認してみるか)

もしかしたらフグとかのように毒がある魚をこちらの無知をいいことに差し出してくる輩もいるかもしれないし、念には念をと頭を巡らせる。
まだまだこちらに来て日は浅いのだ。
用心しておくに越したことはない。

こうして自分の食べる分は自分で作ることになったので、それから俺は宰相の仕事の手伝いだけではなく、時間を見つけては図書室や薬草園など他の場所にも足を運ぶようになったのだった。


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