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9.勇者が怒ってくれました
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「まあ…虐めと言うほどでもないんだが、食事がな…全くでないから、自分で作ろうとは思ってるんだ」
それを聞いたヒロは思い切り目を見開いた。
「はぁ?!」
「いや、そんなに深刻じゃないからな?昨日の夕飯は宰相の夜食を分けてもらったし、今朝はお前から貰っただろう?昼もこうしてありつくことができた。ただ黙ってたら何も用意されないと言うだけの話だ」
自分から動かないとご飯が食べられないんだと口にすると、ヒロは呆気に取られた後、思い切り怒りを露にした。
「ふざけるな!」
バンッと思い切りテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。
怒りの対象は俺ではなく周囲の者達のようだった。
「落ち着け。一応部屋は用意されてるし、それだけでも少しはマシだろう?」
その言葉にヒロは渋々席に座り直し、食事を再開する。
「……部屋はまともなんだろうな?」
その問いに俺は軽く笑って、元聖女の部屋で、お前の部屋の6分の1くらいのコンパクトな部屋だぞとサラッと答えると、またしても怒りが爆発した。
「なんっだそれ!なんだそれ?!ふざけてんのか?!そうなのか?!」
わかっていて言ったのだが、ヒロはブチ切れて食後に部屋に案内しろと言ってきた。
「まぁそう怒るなよ。部屋はそのうち変えてもらうつもりだし、お前の部屋とは違っていいところだってあるんだぞ?」
はぁはぁと怒りで興奮し荒い息を吐いているヒロを落ち着かせるべく、努めてにこやかにその言葉を口にする。
「なんとミニキッチンとミニ冷蔵庫があるんだ!」
「ふざけんな!ミニ冷蔵庫なら俺の部屋の寝室にだってあるわ!」
あ、そうなんだ。
いいなと思いながら固まっていると、もういいと言ってヒロは勢いよく席を立ち、宰相に直談判してやると言ってきた。
「二日目で気づけて良かった!これでお前まで日本にさっさと帰ったらシャレにならないところだった!」
そうなったらこの国を滅ぼしてやるところだと暗く笑うヒロの姿に、それは勇者じゃなくて魔王の仕事では?と思わず突っ込みを入れたくなってしまった。
そしてササッと残った食事を片付けてヒロと共に宰相のところへと足を運ぶと、そこには優雅に豪勢な食事を楽しむ宰相───ではなく、書類片手にサンドイッチをつまんでいる姿が見られた。
「……宰相」
何をしてるんだと思ってみていると、宰相がこちらに気づき笑顔でどうしたのかと尋ねてくる。
どうやら午前中順調に仕事が進んだことで機嫌がかなりよいようだ。
でもこれはないと思う。
「いや、書類置いてちゃんと食べましょう?!」
一国の宰相が何を手抜きしているのだろう?
がっつり食べろとは言わないが、ただでさえ疲れているようだしもう少し食に気を遣ってほしい。
こんな軽食では腹持ちも悪い。
せめてさっき自分が食べたランチくらいの量は食べればいいのに…。
「そうは言ってもあまり食欲がないんだ」
「そんなことを言って食べなかったら倒れますよ?」
もう駄目だ。
物凄く料理を作ってやりたい!
胃に優しい食べ物なら食べられるのではないだろうか?
きっとストレスで胃がやられているんだろう。
それならそれでストレスの元になっているであろうこの人の仕事をもっと手伝ってやりたい。
正直やばいくらい庇護欲がわいてきて、今すぐ何かしてやりたくてしょうがないんだが……。
「ちょっと待っててください!俺が今すぐ何か食べやすくて消化に良いもの作ってきますから!」
そうしてたまらず部屋を飛び出そうとしたところで、ガシッとヒロに肩を掴まれて、引き戻された。
「ちょっと待て!宰相の事よりもまずは自分のことからだろう?!」
そんな叱咤の言葉にそうだったと我に返る。
確かにヒロが言うようにここへは自分の待遇改善を申し出るために来たはずだったのに、自分は何をやろうとしていたのだろう?
宰相のキャラがどうしようもなくてつい暴走するところだった。
「……悪い」
そんなやり取りをしていると、呆気に取られていた宰相が目を丸くして何のことだと尋ねてくる。
それを聞き、これ幸いとヒロが俺の首を腕でホールドして現状を訴え始めた。
「こいつ!食事は用意してもらえないわ、部屋は狭いわで大変なんだ!宰相が知っててやってるなら絶対に許さない!場合によっては今すぐ俺の部屋に連れて行くから!」
そうして宰相を思い切り睨みつけるものだから、可哀想に、宰相はそのまま固まってしまった。
「これからこいつの話が本当かちょっと見にいってくる!それ次第ですぐに荷物を移すんで、そのつもりで!」
それだけを言うとヒロはその怒りのままに俺の身体を引きずりながら部屋の外へと連れ出そうとする。
そんな俺達に宰相がハッと我へと帰り、慌てて自分も同行すると言って、結局三人でそこへと向かうことになった。
それを聞いたヒロは思い切り目を見開いた。
「はぁ?!」
「いや、そんなに深刻じゃないからな?昨日の夕飯は宰相の夜食を分けてもらったし、今朝はお前から貰っただろう?昼もこうしてありつくことができた。ただ黙ってたら何も用意されないと言うだけの話だ」
自分から動かないとご飯が食べられないんだと口にすると、ヒロは呆気に取られた後、思い切り怒りを露にした。
「ふざけるな!」
バンッと思い切りテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。
怒りの対象は俺ではなく周囲の者達のようだった。
「落ち着け。一応部屋は用意されてるし、それだけでも少しはマシだろう?」
その言葉にヒロは渋々席に座り直し、食事を再開する。
「……部屋はまともなんだろうな?」
その問いに俺は軽く笑って、元聖女の部屋で、お前の部屋の6分の1くらいのコンパクトな部屋だぞとサラッと答えると、またしても怒りが爆発した。
「なんっだそれ!なんだそれ?!ふざけてんのか?!そうなのか?!」
わかっていて言ったのだが、ヒロはブチ切れて食後に部屋に案内しろと言ってきた。
「まぁそう怒るなよ。部屋はそのうち変えてもらうつもりだし、お前の部屋とは違っていいところだってあるんだぞ?」
はぁはぁと怒りで興奮し荒い息を吐いているヒロを落ち着かせるべく、努めてにこやかにその言葉を口にする。
「なんとミニキッチンとミニ冷蔵庫があるんだ!」
「ふざけんな!ミニ冷蔵庫なら俺の部屋の寝室にだってあるわ!」
あ、そうなんだ。
いいなと思いながら固まっていると、もういいと言ってヒロは勢いよく席を立ち、宰相に直談判してやると言ってきた。
「二日目で気づけて良かった!これでお前まで日本にさっさと帰ったらシャレにならないところだった!」
そうなったらこの国を滅ぼしてやるところだと暗く笑うヒロの姿に、それは勇者じゃなくて魔王の仕事では?と思わず突っ込みを入れたくなってしまった。
そしてササッと残った食事を片付けてヒロと共に宰相のところへと足を運ぶと、そこには優雅に豪勢な食事を楽しむ宰相───ではなく、書類片手にサンドイッチをつまんでいる姿が見られた。
「……宰相」
何をしてるんだと思ってみていると、宰相がこちらに気づき笑顔でどうしたのかと尋ねてくる。
どうやら午前中順調に仕事が進んだことで機嫌がかなりよいようだ。
でもこれはないと思う。
「いや、書類置いてちゃんと食べましょう?!」
一国の宰相が何を手抜きしているのだろう?
がっつり食べろとは言わないが、ただでさえ疲れているようだしもう少し食に気を遣ってほしい。
こんな軽食では腹持ちも悪い。
せめてさっき自分が食べたランチくらいの量は食べればいいのに…。
「そうは言ってもあまり食欲がないんだ」
「そんなことを言って食べなかったら倒れますよ?」
もう駄目だ。
物凄く料理を作ってやりたい!
胃に優しい食べ物なら食べられるのではないだろうか?
きっとストレスで胃がやられているんだろう。
それならそれでストレスの元になっているであろうこの人の仕事をもっと手伝ってやりたい。
正直やばいくらい庇護欲がわいてきて、今すぐ何かしてやりたくてしょうがないんだが……。
「ちょっと待っててください!俺が今すぐ何か食べやすくて消化に良いもの作ってきますから!」
そうしてたまらず部屋を飛び出そうとしたところで、ガシッとヒロに肩を掴まれて、引き戻された。
「ちょっと待て!宰相の事よりもまずは自分のことからだろう?!」
そんな叱咤の言葉にそうだったと我に返る。
確かにヒロが言うようにここへは自分の待遇改善を申し出るために来たはずだったのに、自分は何をやろうとしていたのだろう?
宰相のキャラがどうしようもなくてつい暴走するところだった。
「……悪い」
そんなやり取りをしていると、呆気に取られていた宰相が目を丸くして何のことだと尋ねてくる。
それを聞き、これ幸いとヒロが俺の首を腕でホールドして現状を訴え始めた。
「こいつ!食事は用意してもらえないわ、部屋は狭いわで大変なんだ!宰相が知っててやってるなら絶対に許さない!場合によっては今すぐ俺の部屋に連れて行くから!」
そうして宰相を思い切り睨みつけるものだから、可哀想に、宰相はそのまま固まってしまった。
「これからこいつの話が本当かちょっと見にいってくる!それ次第ですぐに荷物を移すんで、そのつもりで!」
それだけを言うとヒロはその怒りのままに俺の身体を引きずりながら部屋の外へと連れ出そうとする。
そんな俺達に宰相がハッと我へと帰り、慌てて自分も同行すると言って、結局三人でそこへと向かうことになった。
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