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5.宰相との遭遇
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「……マナ、か?」
そこにいたのはどこか疲れた顔をしたアイスブルーの宰相だった。
名前はまだ知らないのでとりあえずニコリと笑顔で頭を下げる。
「先程はご期待に沿えなくてすみません」
一応目上の相手だしここはこう言っておくのが正解だろうと下手に出たのだが、向こうは向こうで逃げ出した手前バツが悪そうに表情を歪めた。
「…いや。こちらこそ何の説明もなく去ってしまって申し訳なかった」
そして『ここには自分を探しにきたのか?』と問われたのではっきりと違うと答えた。
「ヒロ…あ、いや『勇者』からここに図書室があると聞いて覗きに来ただけです」
「そうか」
そしてどこかホッとしたように息を吐くとそっと立ち上がり椅子を引いてくれた。
意外にも優しい。
「字が読めないだろう。見たい本があれば持ってくるし、読んで欲しいなら少しなら付き合うこともできるから言ってくれ」
せめてもの罪滅ぼしだと言わんばかりに宰相はそう言ったのだが、それに対して俺は首をかしげてしまった。
(読めない……とは?)
こうして話せるのだから当然読むこともできるのだろうと思っていたのだがそれは間違いだったのだろうか?
そう思って一番近くの本棚を見遣ったのだが、そこには見慣れない字が並んではいるものの自動翻訳とでもいうのだろうか?普通に読むことができた。
「あの…持ってきていただけるのは嬉しいですけど、字は読めるみたいなんで大丈夫ですよ?」
普通に考えて宰相は忙しい職業のはずだ。
あまり引き留めて仕事の邪魔をするのも申し訳ないので正直にそう申告したのだが、その言葉に宰相は少なからず驚いたようだった。
「…!字が読めるのか?」
本当に?とこちらを見てくるので、仕方がないから手近な本を手に取り指で字をなぞりながらその表紙の字を読む。
「ええ。これは『これであなたも今日から立派な刺客!回避不能の毒殺法!』でしょう?」
「……!!凄い!正解だ!」
正直こんな眉唾本が王宮の図書室に置かれているのはどうかと思う。
『大丈夫なのか?この国は』とやはり思わずにはいられない。
ちょっと……いや、だいぶ積極的に自分が手を貸した方がいいんじゃないかと心配になってきてしまうではないか。
何となくだが、無力な自分でも何か役に立てるのではないかと哀れみにも似たような気持ちになってしまうからどうしようもない。
もしかしてヒロもそのせいで勇者を請け負ったのかなとふと思った。
「えっと…ちょっと色々本を見させていただいてもいいでしょうか?」
取り敢えず最初に手に取った本が本だけに、使える本があるのかどうか確認する意味で一通り見させてもらうことにした。
そんな俺を気にしてくれたのか、宰相自らが何故か図書室内を案内してくれることになった。
「ここからここが政治経済、あちらは図鑑などが並んだ棚で、こちらは伝記や物語、あの壁一面は他国から取り寄せた貴重な資料類で──────」
と色々説明を受けながら広大な図書室内を案内してもらったのだが、ザッと見ただけで三割くらいは眉唾物の書籍があったとだけ言っておこう。
ここまでくれば王宮図書室と言うより街の娯楽図書館と言っても良いのではないだろうか?
とは言え使えそうなものがあったのは確かで、完全に【使えない図書室】という訳でもなかった。
だからそれを数冊手に取って、最初の席へと持っていき集中して読むことにした。
これでも記憶力には自信がある。
そして読み始めた自分に宰相は満足したのか、そのまま「ではこれで」と言って仕事へと戻っていった。
そこにいたのはどこか疲れた顔をしたアイスブルーの宰相だった。
名前はまだ知らないのでとりあえずニコリと笑顔で頭を下げる。
「先程はご期待に沿えなくてすみません」
一応目上の相手だしここはこう言っておくのが正解だろうと下手に出たのだが、向こうは向こうで逃げ出した手前バツが悪そうに表情を歪めた。
「…いや。こちらこそ何の説明もなく去ってしまって申し訳なかった」
そして『ここには自分を探しにきたのか?』と問われたのではっきりと違うと答えた。
「ヒロ…あ、いや『勇者』からここに図書室があると聞いて覗きに来ただけです」
「そうか」
そしてどこかホッとしたように息を吐くとそっと立ち上がり椅子を引いてくれた。
意外にも優しい。
「字が読めないだろう。見たい本があれば持ってくるし、読んで欲しいなら少しなら付き合うこともできるから言ってくれ」
せめてもの罪滅ぼしだと言わんばかりに宰相はそう言ったのだが、それに対して俺は首をかしげてしまった。
(読めない……とは?)
こうして話せるのだから当然読むこともできるのだろうと思っていたのだがそれは間違いだったのだろうか?
そう思って一番近くの本棚を見遣ったのだが、そこには見慣れない字が並んではいるものの自動翻訳とでもいうのだろうか?普通に読むことができた。
「あの…持ってきていただけるのは嬉しいですけど、字は読めるみたいなんで大丈夫ですよ?」
普通に考えて宰相は忙しい職業のはずだ。
あまり引き留めて仕事の邪魔をするのも申し訳ないので正直にそう申告したのだが、その言葉に宰相は少なからず驚いたようだった。
「…!字が読めるのか?」
本当に?とこちらを見てくるので、仕方がないから手近な本を手に取り指で字をなぞりながらその表紙の字を読む。
「ええ。これは『これであなたも今日から立派な刺客!回避不能の毒殺法!』でしょう?」
「……!!凄い!正解だ!」
正直こんな眉唾本が王宮の図書室に置かれているのはどうかと思う。
『大丈夫なのか?この国は』とやはり思わずにはいられない。
ちょっと……いや、だいぶ積極的に自分が手を貸した方がいいんじゃないかと心配になってきてしまうではないか。
何となくだが、無力な自分でも何か役に立てるのではないかと哀れみにも似たような気持ちになってしまうからどうしようもない。
もしかしてヒロもそのせいで勇者を請け負ったのかなとふと思った。
「えっと…ちょっと色々本を見させていただいてもいいでしょうか?」
取り敢えず最初に手に取った本が本だけに、使える本があるのかどうか確認する意味で一通り見させてもらうことにした。
そんな俺を気にしてくれたのか、宰相自らが何故か図書室内を案内してくれることになった。
「ここからここが政治経済、あちらは図鑑などが並んだ棚で、こちらは伝記や物語、あの壁一面は他国から取り寄せた貴重な資料類で──────」
と色々説明を受けながら広大な図書室内を案内してもらったのだが、ザッと見ただけで三割くらいは眉唾物の書籍があったとだけ言っておこう。
ここまでくれば王宮図書室と言うより街の娯楽図書館と言っても良いのではないだろうか?
とは言え使えそうなものがあったのは確かで、完全に【使えない図書室】という訳でもなかった。
だからそれを数冊手に取って、最初の席へと持っていき集中して読むことにした。
これでも記憶力には自信がある。
そして読み始めた自分に宰相は満足したのか、そのまま「ではこれで」と言って仕事へと戻っていった。
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