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【亡国からの刺客】
192.犯人確保 Side.セドリック
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アルフレッドが疲れ切って眠りに落ちたのを見てベッドからそっと下りる。
良い感じに媚薬効果は抜け、汗をかいたお陰で熱の方も落ち着いた。
これなら後は暗部に護衛を任せて俺は俺の仕事をしに行っても大丈夫だろう。
そう考えアルフレッドの身を清め服を着せてやってから部屋を出た。
時刻は既に深夜に及んでいる。
奴らが事を起こすなら皆が寝静まる頃を狙うはず。
その前に────。
「セドリック様」
先に放っておいた暗部が主犯である亡国の生き残りを捕まえたと報告を入れてきた。
ハウルから貰った情報は正しかったらしく、男は情報にあった通りの場所をねぐらにしていたのだとか。
今回大々的に騎士達を派遣し捕まえに行くのではなく、密かに暗部を差し向けておいたことから、特に裏の者達を刺激することもなかったはず。
問題は『確実に殺せ』と指示を出したにもかかわらずこんな風に生け捕りにしてきたということだ。
「見知った顔だったか?」
「はい。それ故に念のため殺さず連れて参りました」
「そうか」
その暗部は当時ヒルデガーシュの王族について調査させたうちの一人だったから、彼らの顔や特徴などを把握していた。
今回の主犯に、恐らく無視できないほど王族の特徴が見られたのだろう。
だから殺す前に念のため俺に指示を仰ぎたかったと。
「まさか本当に王族の生き残りがいたとはな」
皆殺しにしたはずが漏れがあったとは────。
「男は今牢の方に入れておりますが、確認なさいますか?」
「そうだな。別に会わなくても構わんが…もしその男が本当に王族の生き残りだったなら、恨みごとの一つや二つくらい聞いてやらんこともない」
そう言いながら牢へと足を運ぶと、そこにはいつか見た亡国の王族────あれは王太子だっただろうか?その男と似た面立ちの男がいて思わず目を眇め見た。
(似ているな。もしや双子だったのか?)
そのために生まれた時から隠されて育てられた王子だった可能性もなくはない。
そうだとするなら恐らくそのせいで情報から漏れていたのだろう。
そして男の方はどうやら俺の顔を見知っていたらしく、俺の姿を見るなり思い切り睨みつけてきた。
「セドリック…!」
憎々し気にこちらを見る男に俺はただ冷たい眼差しを向けてやる。
「ヒルデガーシュの亡霊が…今更俺に復讐か?」
国が滅んでから数年。
復讐するにしても随分遅い気がする。
「そうだ!俺はずっとお前が憎かった!お前が…っ、俺の家族を殺したお前が、のうのうと幸せになるなど、許せるものかっ!」
「そうだな」
その気持ちは分からなくはない。
だがそもそも先にこちらに牙をむいた方が悪いのだ。
完全なる逆恨みだろう。
気にかける価値すらない。
「ヒルデガーシュは腐った国だった。滅ぼされたのは自業自得だろう?逆恨みも甚だしい」
そう切って捨ててやると、男はギリッと歯を噛み締め、更に言い募ってくる。
「大国に取り入ろうとして何が悪い!そんなもの、どこの国だってやっているだろう?!」
その言葉を聞き、どうやら根本的なことをこの男は分かっていないのだと察してしまう。
きっと聞きかじった情報だけを真に受けたのだろう。
「ただ取り入るだけならお前の言う通りだっただろう。だが…あの国の馬鹿共はこちらの大臣を使って内部を腐らせようとしていた。それを食い止め報復に滅ぼしてやったことのどこが悪い?俺は何も間違ったことはしていないぞ?この国を守るのは俺の義務だからな」
あの際は父でさえただの大臣との癒着に過ぎないと判断していたが、初めて父から任された仕事だったこともあり張り切って調べさせたらなかなかどうしてふざけた計画が明るみに出たのだ。
そんなものが出たら当然叩き潰すに決まっている。
二度と真似する輩が出てこないよう見せしめも兼ねて国ごと滅ぼしてやったら、俺の名が恐怖と共に世界中に広がり、嫁の来てがなくなってしまったことだけが俺にとっての痛手だったと言える。
(あれだけは大誤算だったな)
逆に言うとそれ以外はどうでもよかった。
つまらない世の中の誰がどんな評価を自分に下そうと全く興味などなかったのだから。
俺が人間らしくなったのはアルフレッドのお陰だ。
そんな愛するアルフレッドを俺から奪おうとする輩は、当然叩き潰すまで。
「くだらん話はもう終わりだ。お前にはしっかり罪を償ってもらおうか」
拷問官は三人。
果たしてこの男は寝ずにどれだけ苦痛に耐えられるだろう?
「他にも何か企んでいないか余さず聞き出せ。生きてさえいればどんな拷問をしようと構わん」
「はっ!」
「聞き出せることがなくなり『死にたい』と言い出したら煮るなり焼くなり好きにしろ。判断はお前達に任せる」
「仰せのままに」
「離せっ!セドリック…!お前など死んでしまえ!!この悪魔が!!」
血を吐くような男の罵りがその場に響くが、その言葉は何一つ俺の胸に響くことはない。
「残念だが、悪魔と呼ばれることには慣れているんでな」
それこそ姫が陰で俺のことをそう呼んでいることだって知っている。
だが俺にとってはそんなものはただの呼称のひとつに過ぎないし、死ねと言われて傷つくほど繊細な心だって持ち合わせてはいない。
良くも悪くも、俺を翻弄し傷つけることができるのは愛するアルフレッドただ一人。
他の者はただ、俺の掌の上で踊り続ければいい。
***
【Side.侵入者達】
俺達は忍び込んだ王宮内で息を殺し、セドリック王子の息子 ルカの命を狙っていた。
ミラルカから王と王太子妃であるミラルカの姫が帰還してから益々警備が厳しくなり、思うように身動きが取れなくなってしまったが、皆が寝静まった頃合いならまだ動くことはできる。
幸い昼間に王子の側妃が攫われたと大騒ぎになっていたから、騎士達の目がそちらへと向いている間に下調べはすることができたのだ。
仲間達が他国に掻っ攫ってオークションにかけるという目論見は頓挫してしまったが、こればかりは仕方がない。
何せ相手は英雄の片腕だ。
意表を突いて拘束し、そのまま拉致できただけでも奇跡のようなもの。
上手くいく方が元々おかしかったのだ。
臨時ボーナスを狙うより、ここは堅実に依頼の方をこなし、成功報酬を頂く方がいいに決まっている。
そう考え、姫達が眠っているはずの部屋へと音もなく向かった。
辺りは流石に警備が厳重だ。
一度危ない目に合っているのだから当然と言えば当然だろう。
けれどこの眠り薬には早々対策を取ることはできないはず。
(これは裏で出回ってる特殊な予防薬を飲んでないと防げないんだからな)
そして自信満々に辺り一面に眠り薬を散布した。
風に乗って広がるタイプの粉薬だから、知らず知らずの間に吸い込んで昏倒させることができる。
そうこうしているうちに一人二人と倒れるように眠りについたため、素早く廊下を進んでいった。
今日こそは確実に殺れる。そう思ったのだが────。
ドスッ!!
ベッドの膨らみに勢いよく剣を突き立てたところで嵌められたのだと知った。
(しまった!罠か?!)
気づけば何故かピンピンしている騎士達に囲まれていて、自分ともう一人は捕獲されていた。
「確保しました」
これで無事に事件は解決だと騎士達は安心している。
(甘いなぁ…)
依頼主から指示されたのはこれだけではないというのに。
『セドリックを殺せ』
仲間はあと四人。
彼らはそちらの依頼へと向かっている。
自国の王子だろうが関係ない。
依頼料を受け取ったからにはどんな依頼でもこなして見せる。
それが俺達シグマだ。
(精々油断してくれよな?)
そう思いながら表面上はしおらしく振舞い、俺達は牢へと連行されたのだった。
良い感じに媚薬効果は抜け、汗をかいたお陰で熱の方も落ち着いた。
これなら後は暗部に護衛を任せて俺は俺の仕事をしに行っても大丈夫だろう。
そう考えアルフレッドの身を清め服を着せてやってから部屋を出た。
時刻は既に深夜に及んでいる。
奴らが事を起こすなら皆が寝静まる頃を狙うはず。
その前に────。
「セドリック様」
先に放っておいた暗部が主犯である亡国の生き残りを捕まえたと報告を入れてきた。
ハウルから貰った情報は正しかったらしく、男は情報にあった通りの場所をねぐらにしていたのだとか。
今回大々的に騎士達を派遣し捕まえに行くのではなく、密かに暗部を差し向けておいたことから、特に裏の者達を刺激することもなかったはず。
問題は『確実に殺せ』と指示を出したにもかかわらずこんな風に生け捕りにしてきたということだ。
「見知った顔だったか?」
「はい。それ故に念のため殺さず連れて参りました」
「そうか」
その暗部は当時ヒルデガーシュの王族について調査させたうちの一人だったから、彼らの顔や特徴などを把握していた。
今回の主犯に、恐らく無視できないほど王族の特徴が見られたのだろう。
だから殺す前に念のため俺に指示を仰ぎたかったと。
「まさか本当に王族の生き残りがいたとはな」
皆殺しにしたはずが漏れがあったとは────。
「男は今牢の方に入れておりますが、確認なさいますか?」
「そうだな。別に会わなくても構わんが…もしその男が本当に王族の生き残りだったなら、恨みごとの一つや二つくらい聞いてやらんこともない」
そう言いながら牢へと足を運ぶと、そこにはいつか見た亡国の王族────あれは王太子だっただろうか?その男と似た面立ちの男がいて思わず目を眇め見た。
(似ているな。もしや双子だったのか?)
そのために生まれた時から隠されて育てられた王子だった可能性もなくはない。
そうだとするなら恐らくそのせいで情報から漏れていたのだろう。
そして男の方はどうやら俺の顔を見知っていたらしく、俺の姿を見るなり思い切り睨みつけてきた。
「セドリック…!」
憎々し気にこちらを見る男に俺はただ冷たい眼差しを向けてやる。
「ヒルデガーシュの亡霊が…今更俺に復讐か?」
国が滅んでから数年。
復讐するにしても随分遅い気がする。
「そうだ!俺はずっとお前が憎かった!お前が…っ、俺の家族を殺したお前が、のうのうと幸せになるなど、許せるものかっ!」
「そうだな」
その気持ちは分からなくはない。
だがそもそも先にこちらに牙をむいた方が悪いのだ。
完全なる逆恨みだろう。
気にかける価値すらない。
「ヒルデガーシュは腐った国だった。滅ぼされたのは自業自得だろう?逆恨みも甚だしい」
そう切って捨ててやると、男はギリッと歯を噛み締め、更に言い募ってくる。
「大国に取り入ろうとして何が悪い!そんなもの、どこの国だってやっているだろう?!」
その言葉を聞き、どうやら根本的なことをこの男は分かっていないのだと察してしまう。
きっと聞きかじった情報だけを真に受けたのだろう。
「ただ取り入るだけならお前の言う通りだっただろう。だが…あの国の馬鹿共はこちらの大臣を使って内部を腐らせようとしていた。それを食い止め報復に滅ぼしてやったことのどこが悪い?俺は何も間違ったことはしていないぞ?この国を守るのは俺の義務だからな」
あの際は父でさえただの大臣との癒着に過ぎないと判断していたが、初めて父から任された仕事だったこともあり張り切って調べさせたらなかなかどうしてふざけた計画が明るみに出たのだ。
そんなものが出たら当然叩き潰すに決まっている。
二度と真似する輩が出てこないよう見せしめも兼ねて国ごと滅ぼしてやったら、俺の名が恐怖と共に世界中に広がり、嫁の来てがなくなってしまったことだけが俺にとっての痛手だったと言える。
(あれだけは大誤算だったな)
逆に言うとそれ以外はどうでもよかった。
つまらない世の中の誰がどんな評価を自分に下そうと全く興味などなかったのだから。
俺が人間らしくなったのはアルフレッドのお陰だ。
そんな愛するアルフレッドを俺から奪おうとする輩は、当然叩き潰すまで。
「くだらん話はもう終わりだ。お前にはしっかり罪を償ってもらおうか」
拷問官は三人。
果たしてこの男は寝ずにどれだけ苦痛に耐えられるだろう?
「他にも何か企んでいないか余さず聞き出せ。生きてさえいればどんな拷問をしようと構わん」
「はっ!」
「聞き出せることがなくなり『死にたい』と言い出したら煮るなり焼くなり好きにしろ。判断はお前達に任せる」
「仰せのままに」
「離せっ!セドリック…!お前など死んでしまえ!!この悪魔が!!」
血を吐くような男の罵りがその場に響くが、その言葉は何一つ俺の胸に響くことはない。
「残念だが、悪魔と呼ばれることには慣れているんでな」
それこそ姫が陰で俺のことをそう呼んでいることだって知っている。
だが俺にとってはそんなものはただの呼称のひとつに過ぎないし、死ねと言われて傷つくほど繊細な心だって持ち合わせてはいない。
良くも悪くも、俺を翻弄し傷つけることができるのは愛するアルフレッドただ一人。
他の者はただ、俺の掌の上で踊り続ければいい。
***
【Side.侵入者達】
俺達は忍び込んだ王宮内で息を殺し、セドリック王子の息子 ルカの命を狙っていた。
ミラルカから王と王太子妃であるミラルカの姫が帰還してから益々警備が厳しくなり、思うように身動きが取れなくなってしまったが、皆が寝静まった頃合いならまだ動くことはできる。
幸い昼間に王子の側妃が攫われたと大騒ぎになっていたから、騎士達の目がそちらへと向いている間に下調べはすることができたのだ。
仲間達が他国に掻っ攫ってオークションにかけるという目論見は頓挫してしまったが、こればかりは仕方がない。
何せ相手は英雄の片腕だ。
意表を突いて拘束し、そのまま拉致できただけでも奇跡のようなもの。
上手くいく方が元々おかしかったのだ。
臨時ボーナスを狙うより、ここは堅実に依頼の方をこなし、成功報酬を頂く方がいいに決まっている。
そう考え、姫達が眠っているはずの部屋へと音もなく向かった。
辺りは流石に警備が厳重だ。
一度危ない目に合っているのだから当然と言えば当然だろう。
けれどこの眠り薬には早々対策を取ることはできないはず。
(これは裏で出回ってる特殊な予防薬を飲んでないと防げないんだからな)
そして自信満々に辺り一面に眠り薬を散布した。
風に乗って広がるタイプの粉薬だから、知らず知らずの間に吸い込んで昏倒させることができる。
そうこうしているうちに一人二人と倒れるように眠りについたため、素早く廊下を進んでいった。
今日こそは確実に殺れる。そう思ったのだが────。
ドスッ!!
ベッドの膨らみに勢いよく剣を突き立てたところで嵌められたのだと知った。
(しまった!罠か?!)
気づけば何故かピンピンしている騎士達に囲まれていて、自分ともう一人は捕獲されていた。
「確保しました」
これで無事に事件は解決だと騎士達は安心している。
(甘いなぁ…)
依頼主から指示されたのはこれだけではないというのに。
『セドリックを殺せ』
仲間はあと四人。
彼らはそちらの依頼へと向かっている。
自国の王子だろうが関係ない。
依頼料を受け取ったからにはどんな依頼でもこなして見せる。
それが俺達シグマだ。
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