【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【亡国からの刺客】

190.※怒りを抑えて Side.セドリック

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アルフレッドを無事に取り戻しはしたものの、本人は無自覚に嫉妬を煽ってくるし、反省の色が全く見えないからイライラが増した。

どうしてくれようか?
そんな気持ちで寝室へと放り込み、一旦頭を冷やして即主犯を捕らえるべく各所に指示を出しにいくことにする。
このまま主犯を放置していたらいつまで経ってもアルフレッドがそちらばかりを気にするだろうし、それが何よりも気に入らないと思ったのだ。
剣のことで頭がいっぱいなのはまだ許せても、他のことはダメだ。
アルフレッドを翻弄するのは自分だけでいい。
そんな思いでいっぱいだった。

つまり────。

「主犯の男は確実に殺せ」

これ以上悪さができなくなるよう、シグマグループを壊滅させ、主犯を引きずり出し、とどめを刺す。
それが何より急務だ。
だからハウルから手に入れた情報をもとに、主犯の男を始末する方向で暗部に指示を出した。
逃げても無駄なようにきっちり始末するよう念押しもしておいたし、恐らく大丈夫だろう。

そして恐らく王宮内にシグマの者はまだ潜んでいるはず。
侵入者対策はしっかりとってはいるが、まだまだ抜けがあるらしい。
主に新人の節穴が原因のようだが、既に侵入された後だから仕方がない。
おびき出してこちらも早急に処分だ。
情報を限定的に絞り、罠を張り一網打尽にする。
恐らくそちらに関しては今夜中にはケリがつけられるだろう。
それだけの隙はわざと作っておいた。
これで動かないならまた別の手を考えなければならないが、さてどうなることか…。

そんなことを考えていたところで俺に客が来たと知らせが入った。
誰だと思ったら闇医者だった。
そう言えば約束をしていたなと思い出す。

「セドリック王子。約束通り参上しました。土産はこれで大丈夫でしょうか?」

そう言いながら手持ちのマジックバッグから一振りの剣を取り出す闇医者にため息が出た。
医者相手とは言えボディチェックが甘すぎる。
いや。そもそも担当の者がマジックバッグの存在自体を知らなかったのかもしれない。
これは新たに周知しておかねばと考えを纏める。
そして改めて土産の剣へと目を向けるとそれは実に見慣れたもので、文句を言うのも馬鹿馬鹿しいと思った。

「それはアルフレッドの剣か?」
「ええ。裏に流されそうになっていたので回収しておきました」
「礼を言う」
「いえ。今回の毒耐性薬の報酬に上乗せしていただくか、恩を今後何らかの形で返していただくかはお任せします」

恩を売る気満々の笑みに少々苛立ちが湧く。

「この王宮に堂々と無許可で剣を持ち込むお前を、牢に放り込んでやってもいいんだが?」

ただでさえアルフレッドのことで沸点が低い俺をこれ以上苛立たせるなと牽制を込めて殺気を向けてやるが、闇医者はそれをあっさりといなしてしまった。

「ふっ…。それをして、貴方に何か利益でも?」
「ないな。逆に不利益しか思いつかん」
「でしょうね」

(やはり裏の者には通用しないか)

やるだけ無駄だと余裕で流す闇医者にこちらはあっさり引き下がらざるを得ない。
それが更に鬱憤へと繋がってしまった。
ここはさっさと話を切り上げるに限る。
本題に入ってしまおう。

「それよりもアルフレッドの件だが、あの脳筋は今日攫われてな」
「やはりそうでしたか」

なんとなく剣が流れてきたから察していたと闇医者は言う。

「今日はこの後仕置きをしてやる予定だ。剣は先に渡しに行かせてもいいが、処置の方はその後になると思っておけ」
「別に構いませんよ。そうそう。仕置きと言えば、最近裏で面白い物ができたんですよ」
「ほぉ?魔道具か?」
「いいえ。オーダーメイドの玩具です」
「ふん。拷問官向けに買えとでも?」
「どちらかと言うと夫婦の閨用ですね。本物そっくりの質感、形、大きさを模したものが作れるんですよ」
「似たようなものは以前からあっただろうに」
「ええ。ですが今回のものは硬すぎないのがポイントなんですよ。購入した貴族の方々にはかなり高評価を頂いているようです」
「ちなみにそれは俺の物とそっくり同じものも作れるということか?」
「ええ。オーダーメイドですからね。質感などを指定していただければ後はシャメルの画像からでも余裕で作れます。お一つ如何です?」
「なるほど」

それなら購入してアルフレッドに使わせてみるのはありかもしれない。
他の玩具なら兎も角、俺の物で自慰をしているのを見るのはより一層楽しそうだ。
満足度が違う。

「振動機能などのオプションもつけられますので、もしご要望があれば是非に」
「検討させてもらおう」

まあまあ良い情報だったし、今回の持ち込みの件を不問にすると言ってやったら、闇医者は満足げに笑った。

「機嫌も直られたようで良かったです」

気づけば確かに先程までずっとあったイライラが自分の中で鳴りを潜めていた。
なんだか既視感を感じ、闇医者を見ると訳知り顔で笑みを浮かべている。

「不思議そうですね?」
「ああ。既視感を感じてな」
「ふっ。ロキ陛下と話された時と似ていましたか?」

そう言われれば確かにそうかもしれない。
あれはもしかして闇医者から得たスキルだったのだろうか?

「…………何か俺に言いたいことでもあったのか?」

そして冷えた頭で考えたところで、闇医者が何らかの目的をもって俺を落ち着かせにかかったと悟る。

「はい。ハウルから伝言です。シグマを潰すなら裏に正規の依頼を回すように、と」
「ふん。なるほどな」

勝手に騎士達を動員され組織を潰されると裏の秩序が乱れると言ったところか。
やるなら自分達の手でやった方がまだマシということのようだ。
わからなくはない。

「わかった。そちらに関してはお前達の流儀に従おう」
「ありがとうございます」

それからそちらに関しても手続きを取り、その後姫達を極秘に隣室へと移させた。
これで作戦は完璧なはず。

「ちなみに闇医者」
「なんでしょう?」
「この王宮に侵入するルートを、お前は知っているか?」
「さあ。私にはわかりかねます」

ヒュッ。

剣を抜き、首筋へと突きつけるが闇医者は動じることなく笑みを浮かべている。

「この狸が」
「買いかぶり過ぎですよ。私はただの医者ですからね。今日も正面からきちんと来たでしょう?」

それは確かにその通りではあった。

(ロキならここで何かしらの思い付きを口にしてくれたかもしれないが、この男から聞き出すのは無理か)

そもそも闇医者はガヴァムに本拠地を置いているのだ。
他国の王宮のことなど知らぬ存ぜぬで切り抜けられてしまう。
たとえ知っていたとしても決して口は割るまい。
だから舌打ちし、剣を下ろして本来の仕事へと促してやることに。

「ならば本業にいそしんでもらおうか」
「もちろんです。そのために来たんですから」

一筋縄ではいかないこの男ではあるが、味方につけておいた方が有用なことに変わりはない。
そう考えながら俺は闇医者を引き連れ、アルフレッドの元へと向かった。


***


(……やはりダメだな)

先程まで落ち着いていたというのにアルフレッドを前にすると怒りがぶり返してしまった。
先に闇医者に話させ後ろで見ていたが、ダメなものはダメだった。
どうやら今回の件について俺はかなり腹が立っていたようだ。
発信器があったからすぐに取り戻すことができたが、それがなければ後手に回って他国に連れ去られ、最悪売り飛ばされていた可能性が高い。
それを考えるだけで腸が煮えくり返りそうな怒りに襲われる。

しかも本人は抵抗するでもなく大人しく男の腕の中におさまっていた。
それが何より許せなかった。
なのにそれをアルフレッドはこれっぽっちもわかってはいないのだ。
これが怒らずにいられるだろうか?

何とか平静を装い接したつもりだが、きっとずっと目は笑っていなかっただろう。
アルフレッドもそれはわかってはいたようだが────。

(ヤバいな)

このまま怒りのままにアルフレッドを抱いたら腹上死させてしまうかもしれない。
もしくは以前の時のような快楽堕ちかのどちらかだ。
ここはそうならないためにもなんとか理性を総動員させて自分を律しよう。

一つ目の枷は耐毒薬。
流石の俺も寝込んでいる相手に無茶はしない。

二つ目はベッド以外で抱いて、ついでになるべく奥まで挿れずにゆっくりらすようにヤろう。
その方が暴走せずに済みそうだ。
現状報告も交えて話せば、尚理性が働いて暴走せずに済むかもしれない。

アルフレッドに腹は立っているが、犯して殺したいわけではない。
念には念を。
そう考え、姫の元へ報告書やらを届けさせた上で夕餉を摂った。
そんな風に時間を置いたお陰で少しだけ心も落ち着き、余裕も出たように思う。

(全く…)

これほど俺が気を遣ってやる相手などアルフレッド以外には存在しないというのに、それをわかっているのかいないのか、アルフレッドは文句を言ってくるから質が悪い。

「は…ぁああっ!ひ、酷いぃっ…!」
「こんなに美味しそうに咥えこんでいて、よく言う」
「そ、それでももうちょっと気遣えよ!んぅっ…」
「俺以外の男の腕の中に大人しく抱かれていたお前が悪い」

慣らさず挿れても今のアルフレッドなら大丈夫だと俺は知っている。
精一杯気遣ってやってる俺に何を言うのやら。
取り敢えずこの後耐毒薬の投与があるのだ。
焦らして虐めて少しでも反省を促してやろう。
酷くしてやるのは回復後でいい。

(その時になれば今より溜飲は下がって加減ができるだろうしな)

そう思っていたのに……。

(焦らすな?奥まで挿れろ?────俺をそんなに煽って、ヤリ殺されたいのか?)

必死に歯止めをかけてるこんな状態の俺に物欲しげにねだるとはいい度胸だ。

(こいつは全く反省していないな)

心底腹が立ったせいで、焦らして虐めた後にねだらせてイかせてやるつもりだった気持ちはあっという間に霧散してしまう。

「喜べ、アル。気が変わった。お前にぴったりの仕置きを思いついたぞ?耐毒薬を使えば、俺の時のように副作用で媚薬効果が出る可能性もあるだろう?」

反省が見られないこの男にはこれくらいした方がいいだろう。

「欲しくて欲しくてたまらない状態で放置された後、そんな症状が出たら楽しそうじゃないか?」
「なっ…!こ、この鬼畜!!」

アルフレッドは俺を鬼畜と罵るが、そうさせたのはお前だと言ってやりたい。

襲撃犯達への対策は万全で、お前が寝込んでも何も問題はない。
そうして心配事は何もないと伝え、仕置きとして焦らしに焦らしてギリギリのところでイかせずに、そのまま放置してやろう。
他のことに思考を割く暇がない分しっかりと反省を促せるはずだ。

「さあアルフレッド。もう少しだけ可愛がってからお預けにしてやろう」
「ひっ?!あっ、や、やだっ…!あっあっ…!」

いつもと違うお仕置きにアルフレッドが身悶える。
これはこれで興奮するな。
俺が欲しい欲しいと何度も口にして啼く様はこちらの荒んだ心を満たしていく。
そうして十分心を満たしたところで意地悪く宣告してやるのだ。

「そろそろいい頃合いだな。アルフレッド。お待ちかねのお預けの時間だ」
「やっ、嫌だっ…!」

抜かれたくないと俺を締め付けてくるアルフレッドにゾクゾクしてたまらない。

(ああ、最高だ)

そう思いながら引き抜いてやり、そのまますまたで俺だけ達してやった。

「うぅ…酷いぃ…」
「いい顔だ。今度こそしっかり反省してもらおうか」

『一人でイくなよ』と恨みがましく俺を見つめてくるアルフレッドだが、そもそもこれがお仕置きだとわかっているのかと言ってやりたい。

(少しは反省しろ!)

アルフレッドを虐めてだいぶ溜飲は下がったが、どうやらまだまだ反省はできていない様子。
仕方がないから、耐毒薬で寝込んでいる時にも少し可愛がってやることにしよう。
無理をさせない程度なら別に構わないだろう。

そう思いながら愛しいアルフレッドの唇を塞ぎ、俺を求め熱く見つめてくる眼差しを堪能したのだった。


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