【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【亡国からの刺客】

186.囚われた英雄の片腕 Side.***&闇医者

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目の前で英雄の片腕として名を馳せた男の身体が崩れ落ちる。
それを見て俺は歓喜に震えた。
憎いあのセドリックが寵愛しているという噂の男が、今まさに自分の手の中にあるのだから。

(さて、どうしてやろうか)

散々男達に犯しつくさせてから城へと送り届けてやるのも一つの手だろう。
寵愛が本当ならきっとこれほどダメージを与えられる方法はないはず。
けれど『本当に?』と言う気持ちもなくはない。
何故ならセドリックに愛情などというものが存在しているなんてとても思えなかったからだ。
極悪残忍。冷酷非情。そんな言葉で言い表されてばかりの男。それがセドリックだ。
それを裏付けるかのように、城に潜入していた裏の者達の話によると、あの男は自分の息子にさえ愛情なんて欠片も見せてはいなかったらしい。
そんな男が血の繋がっていない相手に情など掛けるだろうか?

答えは否だ。
それなら辱めて返すのではなく、手の届かない場所へと連れ去る方がずっといいだろう。
きっとあの男のことだ。
あっさりと切り捨てるはず。

捕まった時点で腱を切られでもしていたら騎士としては二度と使い物にならないし、そうなったら英雄の片腕の名もなんの意味もなさなくなる。
わざわざ探し出しても既にその状態になっていたら探すだけ無駄。
そう考え、きっと追うことさえしないだろう。
寧ろ城の警備にこそ力を入れ、注意を払い、警戒レベルを上げてくるに違いない。
きっと奴ならそうするはず。

「城に潜入させている者はあと何人だ?」
「あと6人だな」
「そうか」
「この男はどうする?」
「…………拘束を念入りにしてどこか他の国へ連れ出してくれないか?」

ないとは思うが、いざという時の切り札にならないとも限らない。
熟慮の末、どこかに監禁し居場所だけは把握しておいて、万が一の時のために殺すことだけはしないでおこうと決めた。

「他国へ?それは俺達が好きに選んでもいいのか?」
「ああ。国はどこでも構わない。好きにしてくれ」

そう言うと裏の者はヒューッとご機嫌に口笛を吹いた。

「んじゃ、このまま頂いてくぜ」

そしてアルフレッドを担ぎ上げ、ついでとばかりに剣も拾い上げると、ぞろぞろと連れ立って男達は出て行った。

「ああ、そうだ。王宮に潜んでる奴らへの指示はこれでやれ。最近出回りだした便利な道具だ。使い方はそいつに聞けばいい」

去り際にアルフレッドを抱えた男がそんなことを言いながらとある機器を投げ寄こしてきた。
使い方は一人残った男が教えてくれる。
なるほど。非常に便利だ。
これなら指示もすぐに出せるだろう。

今回利用させてもらった裏の男達の組織がどれほどの規模かは知らないが、あの王宮に潜入できるだけの腕はあるようだし人数は少なくても確実に依頼は果たしてもらえるはず。
それだけの額は支払った。

(次こそ子の命を奪い、ブルーグレイを脅かしてやろう)

そしてできるならセドリックの命も────。

そう思いながら俺は、機器を手に昏く笑った。


***


【Side.闇医者】

デルタのアジトで昔馴染みのハウルと話していると、裏ルートに流れる前の品々に大物が飛び込んできたと報告が上がってきた。
なんとそれは特注のオリハルコン製の剣らしい。

「それが装飾は少ないものの如何にも業物って感じで、絶対元の持ち主は相当の腕前だと思うんすよね!」

これは高値が付くぞと喜び勇んで報告する男には悪いが、それはもしかしてもしかしなくてもアルフレッドの剣ではないだろうか?

「ハウル」
「……嫌な予感しかしないな」

そう言ってハウルはすぐにその剣をこちらに持ってくるよう指示を出した。

先程ハウルから聞いたが、先日ブルーグレイの王宮内でルカ殿下暗殺事件が起こったそうだ。
実行したのはとある男から依頼を受けたシグマグループ。
ここはデルタと敵対しているグループではあるが、組織の規模としてはそこそこ大きい。
何故かと言うと、他の組織からはみ出た者や有能とは程遠い小悪党を全部引き受けているグループだからだ。
勿論全部が全部使えない雑魚と言うわけではなく、それなりに腕は立つが手段を択ばず悪逆の限りを尽くしたいような悪党もいるため内部ではそれなりに序列もある。
ハウルの話では、その中でも上位の者達が今回多々王宮に忍び込んだのだろうとのことだった。
まあ当然と言えば当然だが、ルカ殿下襲撃の実行犯達はセドリック王子とアルフレッドに粛清されたとのこと。
そして懲りずに次の計画も立てているとのことだったが……。

「剣がここにあるということは、アルフレッドがやられたということか?」

そんな腕の立つ者がシグマにいただろうかと首を傾げてしまう。

「まあ英雄の片腕とは言え一人じゃどうしようもないこともあるだろうし、何かドジでも踏んだんじゃないか?」
「なるほど。なくはないかもな」

正攻法ではアルフレッドに分があれど、もしかしたら裏の者達の罠にでも嵌ったのかもしれない。
とは言えこの後のセドリック王子の怒りは、きっとルカ殿下を襲撃された時以上に大きくなることだろう。
それだけ彼の寵愛は確かなものだから、容易に想像がつく。

「手を回しておいた方がいいか?」
「そうだな。取り敢えず今夜王宮に呼ばれているし、剣は俺が届けておこう」
「助かる」
「シグマは最悪壊滅させられるだろうし、他のグループに根回しは必要だろうな」
「そうか。すぐ手を打っておこう」

セドリック王子に組織を潰されて迷惑をこうむるのは他のグループの裏の者達だ。
あぶれた者達がやけになって悪行を働けば、確実に火の粉が飛んでくる。
それをあらかじめ知っていて対処しておくのと、何も知らず翻弄させられ躍起になって火消しをするのとでは大違いだし、ここは情報を流しておくのが先決と言えた。

「間に合いそうなら剣を届けたついでに裏に正式に依頼書を回すよう伝えておこう」
「そうしてくれ」
「後はそうだな。シグマにもし使えそうな奴がいたら確保してガヴァムへ送ってくれてもいいぞ?訓練施設に放り込んでこちらで使えるようにするから」
「他のグループの奴ならまだしもシグマだぞ?正気か?」

ハウルがそう言うのもわからなくはない。
シグマは他のグループに比べ下種な者が多いからだ。

「使える使えないはこちらで判断する。それに多少反抗的でも大抵の奴は薄皮か爪を剥いでやったら従順になるぞ?」
「…………寒っ!」
「まあ使い物にならなかったら勝手に淘汰されるし、気にするな。ガヴァムはある意味覚悟と実力がなかったら生き残れない場所だ。それに輪を乱した瞬間味方が敵になる場所でもある。生き残れるかはそいつ次第だと言っていいだろう」
「絶対就職したくない場所だな」
「ふっ。そのスリルがいいという奴は大勢いるぞ?まあ死にたくないなら今なら王宮で暗部になるという手もあるが。そちらは多少抜けていても生きていけるし、平和ボケしたやつにはもってこいかもな」
「ロキ陛下が引退したらお前達裏の奴らは全員王宮から撤退するし、その後釜におさまれるってことか。気楽で良さそうだな」

ハハハと軽やかに話すハウルだが、彼は余程のことがない限りここから離れることはないだろう。

「取り敢えずシグマの動向は今すぐ調べておいた方がいいな。アルフレッドをオークションにかけるとなったら鎖に繋ぐか腱を切って動けなくして転がすかだろう。前者ならまだいいが、後者ならシャレにならん。下手をすればオークションを開いた国にも火の粉が飛ぶぞ?」
「そうだな。腱を切られたら側妃としては使えても、騎士としては人生が終わったも同然だ。まあ値を吊り上げたいシグマからすれば恐らく鎖で繋ぐ方を選ぶだろうし、どうせオークションにかけられる前にセドリック王子はアルフレッドを取り戻すだろうが…」

そう。以前ならまだしも、今はアレがあるから居場所の特定はすぐにできる。
それ故にセドリック王子の耳にアルフレッドがいなくなったと情報が入れば即身柄を確保しに動くだろう。

「なんだ?やけに物知り顔だな?」
「ああ。セドリック王子には以前発信器を渡してあるからな」
「は?それって暗殺者用のアイテムじゃなかったか?」
「いや。うちの陛下の近衛騎士が発想の転換をしてくれたのがきっかけで、こういう時に使えるようになっているんだ。それがある限り位置を見失うことはないし、すぐに居場所を特定して保護することができる」

それこそワイバーンで逃げられようと追うことは容易だ。
ターゲットを逃がさない裏の暗殺者ご用達のアイテムから逃げられる輩など早々いない。
そしてそんなものを側妃がわざわざ身に着けているなんてシグマの連中は思いもしないはず。
だからこそそれを外して捨てるという発想にもならない。
簡単に追いかけて捕まえられるという寸法だ。

「まあだとしても、アルフレッドは取り戻せても、捕まるのはやっぱりシグマの連中だけだろうな」

ハウルの言葉は的を射たもので、その通りだと自分も思った。
目的が目的だけに、主犯が同伴する可能性は極めて低い。
けれどそれでいい。
セドリック王子は頭の切れる王子だ。
カッとなって短絡的に馬鹿なことをするそこら辺の間抜けとは違い、怒ったら如何にして相手を追い詰め酷い目に合わせるかをきっちり考えてその通りに実行してくる男でもある。
恐らく事を起こせば今度こそ確実に犯人を捕らえにかかるだろう。
それこそ幾つもの手を打ってでも。
だからこそ恐いのだが、そこら辺をわかっていない者がいるのもまた事実。

「亡国の亡霊が何をしようとセドリック王子が本気で動けば何も出来まい」

放っておいてもどうせ捕まって殺される運命しかない。
アルフレッドに手を出した時点で逃げることなど不可能だろう。

「ああ。それじゃあ闇医者。剣の方は頼んだぞ」

なるようにしかならないのだから、今は自分達にできることをやろう。
ついでにそれを盾にセドリック王子に恩を売るのも悪くはない。
そう思いながらその場を後にした。


****************

※忘れられてそうなので一応補足。発信機については、134、135、137話あたりをご参考下さい。
宜しくお願いしますm(_ _)m
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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