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【亡国からの刺客】
180.復讐の炎 Side.***
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国が沈む。
あの日のことを────俺は絶対に忘れない。
今は亡き祖国ヒルデガーシュは、小国ではあったが豊かで、ちょっとばかり野心家の多い国であった。
そんな中、一人の大臣が大国ブルーグレイの大臣と懇意になった。
大国に取り入り自国への利を図るという、ただそれ一つが目的だったという。
それはそれほど悪いことだっただろうか?
否。どこだって似たり寄ったりで何かしらはやっていることだろう。
なのに我が国は滅ぼされた。
ブルーグレイの冷酷な王太子、セドリックの手によって────。
親兄弟は皆殺し。
大臣達に対しても苛烈なまでの粛清が行われたと聞く。
俺はその話を与えられていた別邸で伝えられた。
ヒルデガーシュの王太子の双子の弟として生まれたばかりに表向き王家には存在していない存在にされてしまった、ただのスペアが俺だ。
有事が起こらない限りは不要な存在だが、もしもの時のために教育だけはしっかりと受けさせられていたと言っていい。
そして表向きは男爵家の子として密やかに育てられていたため、それ故にブルーグレイの目から逃れられたのだろう。
俺は話を聞いてすぐ、こっそりとその悪魔の顔を見に行った。
家の者には止められたが、居ても立ってもいられなかったのだ。
その際に一瞬だけ見たあの冷たい横顔を俺は今でも忘れることができない。
国が滅び、ブルーグレイに取り込まれた後、俺は細々と庶民に混じって生き続けた。
そんな俺の耳に時折入ってくるのはあの忌々しい悪魔、セドリックの話。
どうやら国を滅ぼしたという話で他国からも身内からも恐れられたらしく、縁談の類はほぼ全滅なのだとか。
俺はその話を聞いて『ざまあみろ』と思った。
あんな悪魔の血なんて滅びてしまえばいい。
それが本心だった。
なのに流石ブルーグレイと言うべきか。
金に物を言わせて借金国から姫を買い、そのまま嫁へと据えた。
そこに愛などはなく、完全なる政略結婚。
その際、何を思ったのかその姫の護衛騎士まで一緒に娶ったのだとか。
頭がおかしいとしか思えない。
そう思ったが、後になってその騎士がかの有名な英雄の片腕、アルフレッドだと聞いて納得がいった。
つまり優秀な人材を囲う為に、逃げられないよう娶ったのだ。
実にあの男らしい悪辣さだと思った。
その後、姫との間に無事に跡継ぎが産まれたと聞いた時は苛立ちが湧いた。
あの男に天罰が下る日は来ないのかと。
あれだけ好き勝手している鬼畜をどうして神は罰しないのだろう?
いつ天罰が下ってもおかしくはないはずなのに、あの男はのうのうと生きている。
(この世に神などいないのか?)
そんな中、更に俺の神経を逆撫でするようにあの悪魔の良い噂が広がり始めた。
しかもブルーグレイ国内だけではなく、他国にまで及んでいるのだとか。
(何故だ?!)
国が滅び自分はこんなみじめな暮らしを余儀なくされているというのに、どうしてあの悪魔だけがトントン拍子に幸せを掴んでいくのか。
結婚してから性格が丸くなっただと?
(絶対に嘘だ!)
そうは思うものの、それは劇にもなっているのだと教えられ、とても盛況だとも聞いた。
あまりに皆が絶賛しているから俺もなけなしの金をはたいて観に行ってみた。
けれどその内容はとんでもない捏造そのもので、腹立たしさが増しただけだった。
嘘八百の内容に反吐が出そうになる。
それから暫くしてロロイア国の王族をほぼ皆殺しにし、なし崩し的にブルーグレイの属国にしたという話が飛び込んできた。
その話を最初に聞いた時は『やはり悪魔は何も変わっていなかった。これで皆が正しい認識を取り戻すはずだ』とほくそ笑みながら思ったものだが、時が過ぎると何故か美談に代わっていて酷く驚いた。
(あの男が愛妻家?他国の王との友情を大事にしている?あり得ない!)
そんな人間的感情を持ち合わせているなんてあり得るはずがない。
なのに皆が皆口を揃えて言うのだ。
「以前は心配もしたものだが、セドリック王子もすっかり落ち着いてくれたのだな」
「ブルーグレイは素晴らしい王子に恵まれた。先は安泰だな」
その言葉を受け、俺は我慢の限界を迎えてしまった。
(何が先は安泰だ)
こんな国に先などあってたまるものか。
こうなったら跡継ぎであるあの悪魔の子供を始末してやろう。
計画を練りに練ってから実行に移さねば。
絶対に失敗は許されない。
そして俺は違法な手段で金を作り、ブルーグレイの裏組織の者達へと接触を図った。
多少たらい回しにされてしまったが、結果的に王宮に忍び込んでもいいという輩と契約することができたし、問題はない。
後は情報を集め、彼らを上手く使って王孫であるセドリック王子の子、ルカを殺せばいい。
警備は厳重だろうが、隙は必ずできるはず。
そう思っていた矢先にアルメリア姫が兄の結婚式の為国王と共にミラルカへ行くという話を聞いた。
これはチャンスだ。
恐らく愛息であるルカも連れて行くことだろう。
そう思っていたのに、裏の者が『ルカ坊ちゃんはどうやら風疹の症状が出たとかで、城に置いてかれることになったようだぜ』と情報を掴んできた。
それならそれで早い段階で城へと侵入させ、病状が落ち着いて皆がホッとしたところで狙うのも手だろう。
そう思ったが、裏の者達はアルフレッドが側にいる限りは難しいと言い出した。
それならアルフレッドが油断した時か、もしくは傍を離れざるを得なくなったタイミングを狙った方が確実だと。
実行するのは自分ではなくこの者達だ。
その辺りはある程度任せよう。
俺は後継であるルカの首が取れればそれでいいのだから。
(息子が死んであの悪魔の顔がどう歪むのか…考えるだけで楽しいな)
クッと嗤いながら俺は胸の中で復讐の炎が確かに燃え上がるのを感じた。
あの日のことを────俺は絶対に忘れない。
今は亡き祖国ヒルデガーシュは、小国ではあったが豊かで、ちょっとばかり野心家の多い国であった。
そんな中、一人の大臣が大国ブルーグレイの大臣と懇意になった。
大国に取り入り自国への利を図るという、ただそれ一つが目的だったという。
それはそれほど悪いことだっただろうか?
否。どこだって似たり寄ったりで何かしらはやっていることだろう。
なのに我が国は滅ぼされた。
ブルーグレイの冷酷な王太子、セドリックの手によって────。
親兄弟は皆殺し。
大臣達に対しても苛烈なまでの粛清が行われたと聞く。
俺はその話を与えられていた別邸で伝えられた。
ヒルデガーシュの王太子の双子の弟として生まれたばかりに表向き王家には存在していない存在にされてしまった、ただのスペアが俺だ。
有事が起こらない限りは不要な存在だが、もしもの時のために教育だけはしっかりと受けさせられていたと言っていい。
そして表向きは男爵家の子として密やかに育てられていたため、それ故にブルーグレイの目から逃れられたのだろう。
俺は話を聞いてすぐ、こっそりとその悪魔の顔を見に行った。
家の者には止められたが、居ても立ってもいられなかったのだ。
その際に一瞬だけ見たあの冷たい横顔を俺は今でも忘れることができない。
国が滅び、ブルーグレイに取り込まれた後、俺は細々と庶民に混じって生き続けた。
そんな俺の耳に時折入ってくるのはあの忌々しい悪魔、セドリックの話。
どうやら国を滅ぼしたという話で他国からも身内からも恐れられたらしく、縁談の類はほぼ全滅なのだとか。
俺はその話を聞いて『ざまあみろ』と思った。
あんな悪魔の血なんて滅びてしまえばいい。
それが本心だった。
なのに流石ブルーグレイと言うべきか。
金に物を言わせて借金国から姫を買い、そのまま嫁へと据えた。
そこに愛などはなく、完全なる政略結婚。
その際、何を思ったのかその姫の護衛騎士まで一緒に娶ったのだとか。
頭がおかしいとしか思えない。
そう思ったが、後になってその騎士がかの有名な英雄の片腕、アルフレッドだと聞いて納得がいった。
つまり優秀な人材を囲う為に、逃げられないよう娶ったのだ。
実にあの男らしい悪辣さだと思った。
その後、姫との間に無事に跡継ぎが産まれたと聞いた時は苛立ちが湧いた。
あの男に天罰が下る日は来ないのかと。
あれだけ好き勝手している鬼畜をどうして神は罰しないのだろう?
いつ天罰が下ってもおかしくはないはずなのに、あの男はのうのうと生きている。
(この世に神などいないのか?)
そんな中、更に俺の神経を逆撫でするようにあの悪魔の良い噂が広がり始めた。
しかもブルーグレイ国内だけではなく、他国にまで及んでいるのだとか。
(何故だ?!)
国が滅び自分はこんなみじめな暮らしを余儀なくされているというのに、どうしてあの悪魔だけがトントン拍子に幸せを掴んでいくのか。
結婚してから性格が丸くなっただと?
(絶対に嘘だ!)
そうは思うものの、それは劇にもなっているのだと教えられ、とても盛況だとも聞いた。
あまりに皆が絶賛しているから俺もなけなしの金をはたいて観に行ってみた。
けれどその内容はとんでもない捏造そのもので、腹立たしさが増しただけだった。
嘘八百の内容に反吐が出そうになる。
それから暫くしてロロイア国の王族をほぼ皆殺しにし、なし崩し的にブルーグレイの属国にしたという話が飛び込んできた。
その話を最初に聞いた時は『やはり悪魔は何も変わっていなかった。これで皆が正しい認識を取り戻すはずだ』とほくそ笑みながら思ったものだが、時が過ぎると何故か美談に代わっていて酷く驚いた。
(あの男が愛妻家?他国の王との友情を大事にしている?あり得ない!)
そんな人間的感情を持ち合わせているなんてあり得るはずがない。
なのに皆が皆口を揃えて言うのだ。
「以前は心配もしたものだが、セドリック王子もすっかり落ち着いてくれたのだな」
「ブルーグレイは素晴らしい王子に恵まれた。先は安泰だな」
その言葉を受け、俺は我慢の限界を迎えてしまった。
(何が先は安泰だ)
こんな国に先などあってたまるものか。
こうなったら跡継ぎであるあの悪魔の子供を始末してやろう。
計画を練りに練ってから実行に移さねば。
絶対に失敗は許されない。
そして俺は違法な手段で金を作り、ブルーグレイの裏組織の者達へと接触を図った。
多少たらい回しにされてしまったが、結果的に王宮に忍び込んでもいいという輩と契約することができたし、問題はない。
後は情報を集め、彼らを上手く使って王孫であるセドリック王子の子、ルカを殺せばいい。
警備は厳重だろうが、隙は必ずできるはず。
そう思っていた矢先にアルメリア姫が兄の結婚式の為国王と共にミラルカへ行くという話を聞いた。
これはチャンスだ。
恐らく愛息であるルカも連れて行くことだろう。
そう思っていたのに、裏の者が『ルカ坊ちゃんはどうやら風疹の症状が出たとかで、城に置いてかれることになったようだぜ』と情報を掴んできた。
それならそれで早い段階で城へと侵入させ、病状が落ち着いて皆がホッとしたところで狙うのも手だろう。
そう思ったが、裏の者達はアルフレッドが側にいる限りは難しいと言い出した。
それならアルフレッドが油断した時か、もしくは傍を離れざるを得なくなったタイミングを狙った方が確実だと。
実行するのは自分ではなくこの者達だ。
その辺りはある程度任せよう。
俺は後継であるルカの首が取れればそれでいいのだから。
(息子が死んであの悪魔の顔がどう歪むのか…考えるだけで楽しいな)
クッと嗤いながら俺は胸の中で復讐の炎が確かに燃え上がるのを感じた。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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