【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【亡国からの刺客】

181.暗殺未遂

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レオナルド皇子の結婚式参列の為ミラルカへと行っていた姫がようやく帰ってくると連絡が入った。
旅程は順調で、後十日ほどでこちらに到着するらしい。

レオナルド皇子とユーフェミア妃が新婚旅行を兼ねて同行しているとのこと。
そのため城での受け入れ準備を万事整えていてほしいとの連絡も受けた。
姫からすればユーフェミア妃は義姉にあたる方だし、失礼はできないと言ったところだろう。
だから俺は張り切って皆に声を掛けて準備を整えることにした。

セドはセドで相変わらず仕事が忙しいらしいから、これについては俺に任せると言ってもらえた。
側妃の立場もあることだし、好きにしてくれていいと。
なるほど。それなら確かに文句などはどこからも出なさそうだ。

そうしてお互いにバタバタ忙しくしていたから、きっとどこかで油断が出たんだと思う。

「アルフレッド殿。お忙しい中申し訳ございません。少々お耳に入れておきたいことがありまして」

そう言われて内容を確認をするとセドの暗殺が計画されているという話だったから目を丸くしてしまった。

(あのセドを暗殺できる輩なんて存在しないんじゃないか?俺でも勝てない時は勝てないからな)

俺としょっちゅう手合わせしている関係でセドの剣の腕は上がる一方だし、それに加えて毒耐性も万全だ。
夜は夜で俺も一緒だから、たとえ最中に襲われても対処はできるし、寝込みなんて襲えるはずもない。
それこそ余程の手練れを多数用意して用意周到に計画しても、セド暗殺なんて不可能に違いない。
だから一笑に付した俺はおかしくはないだろう。
その時の俺は『やれるものならやってみろ』くらい思っていた。

それにそんな話を聞いて黙っているセドじゃない。
きっといつものように適切に対処するだろうと思ってた。
だから…まさかセドがその話を聞いてなかったなんて思わなかったんだ。




そして今、俺は焦りに焦っていた────。

遡ること一時間前。
やっと準備にひと段落ついたとセドの執務室へ報告がてらやってきた時の事。
セドもちょうどタイミングよく仕事のキリが良かったのか休憩に入ったのだけど、セドが徐にイチャついて来ようとしたから何とかそれを躱そうと『そうだ!』と声を上げた。

「結局お前の暗殺計画って誰がやろうとしてたんだ?」

けれどそれに対するセドの答えは簡潔だった。

「何のことだ?」
「え?何ってお前の暗殺計画があるって昨日聞いたんだけど?」

それを聞きセドはすぐさま動いた。
俺に話をしてきた者を呼び寄せすぐさま詳細を聞いたのだ。
呼び出された男は冷や汗をダラダラかきながら『三日前に裏の者が正面から堂々と乗り込んできまして…』と切り出し、やっと詳しいことが明らかになった。

それによると三日前に裏の者と思われる者がセドに取り次いでほしいと言ってきたのだそうだ。
対応にあたった門番は新人だったらしく、裏の者のことを何も知らなかったとかで、『怪しい者は入れられない』と追い返そうとしたんだとか。
でもその翌日どうやって入り込んだのか城内をうろついていたところを巡回兵が発見して、また取次ぎをしろと言ってきた為そのまま牢へと入れたのだそうだ。
そこでセドに話が行けばよかったのだけど、ここで別の新人による連絡ミスが発生。
上官はそれに気づいた時、真っ青になったらしい。
まあセドにそのまま報告したら殺気が飛んでくるのは明白だし、下手をしたら揃って首が飛ぶ案件。
慌てて取り調べを行い内容を把握。
とは言え裏の者が話した内容が『王子の暗殺計画』だった為、緊急性は低いと判断。
セドの側には俺がいることも多いし、セド自身も相当の手練れだ。
『セドリック王子を暗殺できる者なんて早々いない』という気の緩みが出た様子。
ホッとしつつ一先ず警備を厳しくするよう指示を出した上で俺へと話をし、セドの安全を図ったとのこと。

気持ちはわかる。
でもセドへの一報は必要だったと思う。
たとえ報告と共に殺されそうになったとしても。
俺に報告したからいいやはどう考えても悪手だろう。
現にセドは物凄く怒ってて、殺気立ってるし。

俺は側妃ではあるけど基本的に姫の護衛騎士だ。
ブルーグレイ側の報連相システムには介入できてない。
だから今回みたいに世間話的に話題を振って初めてセドに話が伝わる。
それをわかってなかったんだろうか?

「お前の処分は追って伝える。首を洗って待っていろ」

その言葉と共に放たれた強烈な殺気で泡を吹いて気絶した男を放置し、セドはすぐさまその裏の者が入っている牢屋へと急行した。

「やっと来たのかよ」

男は俺も見たことがある者で、大層ご立腹だった。
当然だろう。
折角情報を持ってきたのに牢になんて入れられたのだから。

「それで?ルカの暗殺が計画されているらしいな?」

それを聞き、俺は蒼白になった。
暗殺の話がセドではなくルカ殿下の方だったのだから。

ブルーグレイ側の騎士達も頻繁に巡回しているし、ミラルカサイドの侍女や護衛騎士達が常にがっつり傍に居て守ってはいるが、万が一がないとは言い切れない。
もしかしたら犯人達は周到に準備を整えて実行に移すのかもしれないと考えたら即、身体が動いていた。
そんな俺の背に男から声がかけられる。

「決行は今日の午後2時前後だそうだ。おっとヤバいな。下手をしたらそろそろ侵入されて殺されそうになってるんじゃないか?」

ハハハと男が笑いながらそんなことを言ってきた為慌てて時計へと目をやると時刻は1時27分だった。

俺とセドはそこから急いでルカ殿下の元へと走った。




ルカ殿下がいる部屋の方へ向かうとそこには眠り薬か何かで眠らされた侍女や騎士達がそこかしこに倒れていて、本当に殺される一歩手前の状況に陥っていた。

「悪く思うなよ」

そう言いながらルカ殿下に刃を向ける賊の男。
当然だがそれを許す俺達じゃない。

俺は男の腕を素早く斬り飛ばし、ルカ殿下の身を奪い返す。

「ぎゃああっ!!」

そしてそれを確認すると共にセドは暗部に指示を出し賊の退路を断ち、自らの手で賊の首を一刀のもと切り落とした。
他の賊達はそれを見て一気に逃げ腰になるが、当然逃がすはずがない。
暗部も参戦して三人だけ生かして他は皆処分されてしまう。

「さて。どこのどいつの仕業か聞かせてもらおうか」

セドがそう凄んだタイミングで殺気が刺激になったのかルカ殿下が眠りから目を覚ましてしまった。

部屋に漂う血の匂いと倒れ伏した者達の姿を目にして、ルカ殿下は俺の腕の中で大泣きし始めてしまう。
慌てて抱き寄せて視界を塞ぐが匂いはどうしようもないし、一刻も早くここから連れ出してやることしかできなかった。

で、だ。
当然と言えば当然だが、ルカ殿下は余程怖かったのかそれ以降俺から離れなくなってしまった。
姫のいない今、頼れるのは俺だけだと言わんばかりだ。
俺も姫から大事なルカ殿下を預かったのに対処が遅れトラウマを持たせてしまったのが申し訳なくて、ついつい請われるままに側に居てしまう。
まあ俺は元々護衛騎士だから四六時中傍で守るのは吝かではないのだが、それを気に入らないのがセドだった。

夜は自分との時間だろうと言って聞かず、俺から離れないルカ殿下を『寝かしつけ』と称して殺気で気絶させ、俺から毎夜引き剥がす始末。
昼間も然程変わらず『昼寝の時間だ』と言ってここでも気絶させる横暴さ。
本当に酷い。

見かねた他の騎士や侍女が面倒を見てくれてはいるけど、俺の名を呼んでぐずることが増えたとか。
姫が帰ってきてからもこれが続いたらと考えるだけで胃が痛くなってくる。
なんとか落ち着いてくれればいいのだけど。

ちなみにセド曰く、ヴィンセント陛下と姫がミラルカに行っている隙を突いて、警備の手薄な場所から侵入されてしまったとのこと。
護衛としてベテランの者達をかなり姫達の方へ割いていたために起こった隙とも言えるかもしれない。
それくらいの残された者達の問題が顕著に表面化した事件でもあった。
セドが恐ろしい笑みで全員しごき直しだと言っていたのが印象的だった。

そして今回は俺はじめ他の者達もレオナルド皇子達を受け入れる態勢を整えるのに目がいっていたのも悪かったんだと思う。
一つ一つは些細なことでもそれが重なるとこうして重大な問題へと繋がってしまう。
申し訳なさ過ぎてどう責任を取ればいいのかと頭を悩ませた。

そんな落ち着かない中、姫とヴィンセント陛下が帰還した。

「アルフレッド!ただいま」

結果、満面の笑みの姫に俺は厳罰覚悟で跪いた。

「姫。姫の信頼を裏切る形となり、大変申し訳ございません!」
「どうしたの?」
「詳細は後程お話しますが、筆頭騎士長としてクビにされても仕方のないことをしてしまいました」
「責任感の強い貴方が畏まった上でそこまで言うということは、セドリック王子とイチャついている間にルカが危ない目にでもあったとかかしら?」

なかなか鋭い指摘にぐうの音も出ない。

「言い訳はしません。どうぞお好きにご処分を」
「…………わかったわ。話をきちんと聞いてから処分は言い渡すから、まずは立ってちょうだい」

そしてテキパキと指示を出した後、俺を連れて部屋へと向かった。


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