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【シャイナー陛下の婚礼】
179.従兄弟の結婚式⑪ Side.アルフレッド&セドリック
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メルケ国に滞在はできたもののユーツヴァルトの情報は全く入ってはこなかった。
アンシャンテの追っ手に捕まったという話も入ってはこないままセドと約束した三日が過ぎてしまう。
心残りではあるけど約束は約束だ。
仕方がないと割り切ってワイバーンでブルーグレイへと帰ることに。
「はぁ…」
ワイバーンの手綱を握りながらそうやって溜息を吐いていると、セドに後ろから抱きしめられてそっと髪にキスを落とされた。
「そう落ち込むな。何かわかったらお前にも教えてやる」
今はセドのそんな言葉だけが慰めだ。
だから気を遣わせないようできるだけ明るく振舞って、一週間かけてブルーグレイへと帰った。
「おかえりなさい、アルフレッド!アンシャンテは楽しかった?」
「ええ…まあ」
楽しかったかと聞かれたら全く楽しくはなかったけど、ここは敢えて言う必要はない。
「キャサリン妃とは私は会ったことがないけれど、どんな方だった?」
「え?えぇと……王子やロキ陛下と話が弾む変わったご令嬢でした」
「まあ!あのセドリック王子と話が弾むだなんて…とてもよくできた方なのね」
なかなかいないわと姫もこれには驚いた様子。
「きっととても素敵な方ね」
「ええ、そうですね。花嫁姿もとっても綺麗でしたよ」
「そう。私は見られなくて残念だったけど、お兄様の結婚式には来られるのかしら?会えたら嬉しいのだけど」
「多分来ると思いますよ?会えたらよろしくお伝えください」
「わかったわ」
そして話がひと段落ついたところで、途中の街で買ったお土産を姫へと渡す。
物としては気に入ってもらえたけど、どうしてアンシャンテのお土産じゃないのかと不思議そうに首を傾げられた。
でも流石に俺の友人がロキ陛下を暗殺しようとした云々は姫には言えそうにないから、そこは適当に誤魔化すしかない。
姫はレオナルド皇子の結婚式でロキ陛下とも会うはずだし、余計に言うに言えなかった。
「ちょっと忘れてて…」
「ふふっ。いいのよ。どうせあの王子のせいでしょ?気にしないで」
何故か姫の中でセドが悪者になっていたけど、この辺りは日頃の行いがものを言うのだろうか?
なんだか罪悪感で胸が痛かった。
「どう?似合うかしら?」
俺が選んだ髪飾りは最近大人っぽくなってきた姫にとてもよく似合う。
「とてもよく似合ってます」
「そう。ありがとう」
嬉しそうに笑う姫。
この笑顔を俺は護衛騎士として守りたい。
だからもし、ユーツヴァルトのように理不尽な理由でこの笑顔を奪おうとする輩が出てきたら俺はきっと許さないだろうし、それが知り合いであったとしてもきっと今回のように牢に放り込んででも止めると思う。
「ユーツヴァルト…。ごめんな」
きっと俺は冷たいんだろう。
でも、ユーツヴァルトの気持ちよりもリヒターの気持ちの方が百倍理解できたから、どうしても逃がしてやるなんてできなかった。
俺ができることと言えば、ただ友情を優先できなくて悪かったと謝ることくらい。
「トルセンに…手紙でも書こうかな」
そんなことを口にしながら俺は遣る瀬無い思いを抱え、これが最後だとそっと一筋の涙を流したのだった。
***
【Side.セドリック】
ワイバーンでブルーグレイに戻る道すがら、ユーツヴァルトに毒を盛るよう命じた暗部から連絡が入る。
時間的にちょうど宿に泊まるタイミングだったため、会話もアルフレッドに訊かれずに済んだ。
『すべてご命令通りに』
「そうか」
ユーツヴァルトからすれば驚いたことだろう。
自分を庇護してくれているメルケ国の王子の目の前で毒に倒れる羽目になったのだから。
「怪しまれずに済んだか?」
『はい。即効性の高い眠るように死ねる毒【ナイトメアの慈悲】を使いましたので』
なるほど。
ロロイアでユーツヴァルトがロキに手渡していた毒はそんな名前なのか。
悪夢であるナイトメアの慈悲とはまた言い得て妙な名の毒だ。
とは言え苦しまずに死ねた方が余計な伝言も残されずに済んだだろう。
「死体はどうした?」
『そちらはメルケ国の方で一般庶民としてではありますが、火葬後手厚く葬られたようです』
「そうか」
メルケ国は長く戦火の中にあったため、死体を埋める場所がなくなるという理由から、確か火葬の習慣があったはず。
これで万事解決だ。
アルフレッドには敢えて死んだとは告げず、行方不明で通してもいいかもしれない。
これ以上悲しませるのも可哀想だし、わざわざ知らせる必要もないだろう。
「ご苦労だった。後は情報収集だけして引き上げろ」
『かしこまりました』
思ったように事が進んで満足だ。
こちらに迷惑をかけてくるような輩はさっさと処分に限る。
「さて、今日もアルフレッドを慰めてやるとするか」
いつまでもユーツヴァルトのことで頭をいっぱいにされるのも癪だ。
これを機に優しく接して俺の評価を上げよう。
そんなことを考えながら宿へと入った。
その翌日。シャイナーから連絡が入った。
どうやら俺がユーツヴァルトに手を出したのではないかと考えたらしい。
『セドリック。あの男はお前が殺したのか?』
「ククッ。随分な言いがかりだな」
『言い掛かりなものか。俺があいつにとどめを刺そうと思っていたのに!』
「それはご褒美の機会を奪って悪かったな?」
『~~~~っ!』
シャイナーとしては自分の手でユーツヴァルトにとどめを刺してロキからご褒美をもらいたかったのだろう。
手柄を横取りされたと怒っていたが、手を打つのが遅い方が悪い。
「シャイナー。あれは自殺だった。それで問題はないだろう?何を怒る必要がある」
『…………』
「これでどの国にも実害はなく丸く収まった。そうだろう?」
『…………』
言葉はないが悔しそうな空気は嫌というほど伝わってくる。
「カリンもお前もまだまだだ。もっと精進するんだな」
そう言ってからツンナガールを切ってやった。
「セド!姫へのお土産買ってきた!」
アルフレッドが向こうの通りから嬉しそうに駆けてくる。
「良いものは見つかったか?」
「ああ!結局髪飾りにしてみた」
そう言いながらどんな髪飾りにしたのかを嬉しそうに話してくるアルフレッド。
アンシャンテで買うことはできなかったが、いいものが見つかったのなら良かった。
けれど次の言葉に俺は一気に機嫌が悪くなってしまう。
「それで、こっちはその髪飾りと色がお揃いのネックレス!」
「……誰用だ?」
「え?」
「見るからに男物だろう?それは」
まさか自分と姫でお揃いにするつもりかと不機嫌に訊くと、慌てたように手を振られた。
「え?!違う違う!」
「じゃあ誰のだ?」
そう尋ねたら、何故か俺用だという答えが返ってきた。
(何故俺が姫とお揃いにしなければならない?)
どうせお揃いならアルフレッドとがいい。
そう思ったのだが、別に姫とは夫婦なんだからいいじゃないかと返された。
でもほんのりと頬を染めそっぽを向いているから、何かしら裏があるように思えて仕方がない。
「アル。何か思惑があるなら早めに吐いた方が身のためだぞ?」
「セドは今回俺の我儘に付き合ってメルケ国に寄ってくれたし、何かお礼をしたいなって思ってたんだよ。それだけだ!」
「…………それで何故姫とのお揃いが出てくる?」
「そ、それは……」
そこからは脅しに脅して何とか吐かせることに成功した。
その際物凄く言い難そうにアルフレッドはこちらをチラチラ見ながらたどたどしく言葉を紡いできたのだが、要約すると先に俺へのプレゼント用にネックレスを購入したのだという。
綺麗な青で俺に似合いそうだと選んでくれたようだ。
その流れで『そう言えば姫も最近深めの青色が好きだった』と思い出し、髪飾りを購入したのだとか。
つまりアルフレッドの中では珍しく姫よりも俺を優先した、ということらしい。
それを言って俺が調子に乗るのも癪だから逆に言っただけで、別に姫とのお揃いをメインにしたわけじゃないからと逆ギレ気味に言われた。
こういうところはアルフレッドの可愛いところだが、誤解を生むからやめてほしいものだ。
「アルフレッド」
「なんだ?」
「そういう時は素直に言え」
「嫌だ!」
「どうして?」
「だから!お前が調子に乗るからだって言ってるだろ?!」
「お前が俺を大好きだとわかるから嬉しいんだが?」
「そういうところだぞ?!」
そうやって噛みついてくるアルフレッドを絡めとり、耳元で『素直にならないと酷いぞ?』と言ってやったら真っ赤になりながら必死に逃げ出そうとし始めた。
本当にいつまで経っても諦めない奴だ。
無駄だというのに。
「俺のアル。取り敢えずそのネックレスを買った店に案内しろ。お前にも俺が似合うものを選んでやる」
「い、嫌に決まってるだろ?!」
「案内しないなら帰ってから似たような色合いの宝石をあしらった首輪を特注で作って、無理矢理揃いにするだけだ。いいのか?」
「く、首輪?!」
絶対嫌だと叫んでアルフレッドはあっさりと店へと案内してくれた。
本当に単純だ。
でもとある会話から、俺はそこでは買わずにやっぱり国に帰ってから特注で作らせようと思い直した。
その会話はと言うと────。
「なあセド…」
「なんだ?」
「お前に買ったそのネックレスだけど」
「ああ」
「それ、お揃いで買ってもらったらさ、俺の瞳の色に合わせたっぽくならないかな?」
「…………確かにお前の瞳の色だな」
「だろ?だからさ、やっぱりお揃いで買うのはやめとかないか?」
「……そうだな」
そうか。そういうことか。
つまりアルフレッドは自分の色を俺につけてほしかったのだ。
ということは俺がアルフレッドに贈るならエメラルドにすべきだろう。
「わかってくれたか?」
「ああ。よくわかった。帰ったらすぐに作らせるから楽しみにしていろ」
「……へ?」
「俺の色を身につけたかったならそう言えばいいのに」
「……?」
「素直じゃないお前を理解するのはなかなか難しいな」
「ちょっと待て。絶対何か勘違いしてるだろ?!」
「してないぞ?お前の愛情を再確認しただけだ」
「?!?!絶対何か勘違いしてる!絶対だ!!」
可愛く憤るアルフレッドを綺麗に受け流し、俺は清々しい風を感じながら『やはり平穏が一番だ』と笑ったのだった。
アンシャンテの追っ手に捕まったという話も入ってはこないままセドと約束した三日が過ぎてしまう。
心残りではあるけど約束は約束だ。
仕方がないと割り切ってワイバーンでブルーグレイへと帰ることに。
「はぁ…」
ワイバーンの手綱を握りながらそうやって溜息を吐いていると、セドに後ろから抱きしめられてそっと髪にキスを落とされた。
「そう落ち込むな。何かわかったらお前にも教えてやる」
今はセドのそんな言葉だけが慰めだ。
だから気を遣わせないようできるだけ明るく振舞って、一週間かけてブルーグレイへと帰った。
「おかえりなさい、アルフレッド!アンシャンテは楽しかった?」
「ええ…まあ」
楽しかったかと聞かれたら全く楽しくはなかったけど、ここは敢えて言う必要はない。
「キャサリン妃とは私は会ったことがないけれど、どんな方だった?」
「え?えぇと……王子やロキ陛下と話が弾む変わったご令嬢でした」
「まあ!あのセドリック王子と話が弾むだなんて…とてもよくできた方なのね」
なかなかいないわと姫もこれには驚いた様子。
「きっととても素敵な方ね」
「ええ、そうですね。花嫁姿もとっても綺麗でしたよ」
「そう。私は見られなくて残念だったけど、お兄様の結婚式には来られるのかしら?会えたら嬉しいのだけど」
「多分来ると思いますよ?会えたらよろしくお伝えください」
「わかったわ」
そして話がひと段落ついたところで、途中の街で買ったお土産を姫へと渡す。
物としては気に入ってもらえたけど、どうしてアンシャンテのお土産じゃないのかと不思議そうに首を傾げられた。
でも流石に俺の友人がロキ陛下を暗殺しようとした云々は姫には言えそうにないから、そこは適当に誤魔化すしかない。
姫はレオナルド皇子の結婚式でロキ陛下とも会うはずだし、余計に言うに言えなかった。
「ちょっと忘れてて…」
「ふふっ。いいのよ。どうせあの王子のせいでしょ?気にしないで」
何故か姫の中でセドが悪者になっていたけど、この辺りは日頃の行いがものを言うのだろうか?
なんだか罪悪感で胸が痛かった。
「どう?似合うかしら?」
俺が選んだ髪飾りは最近大人っぽくなってきた姫にとてもよく似合う。
「とてもよく似合ってます」
「そう。ありがとう」
嬉しそうに笑う姫。
この笑顔を俺は護衛騎士として守りたい。
だからもし、ユーツヴァルトのように理不尽な理由でこの笑顔を奪おうとする輩が出てきたら俺はきっと許さないだろうし、それが知り合いであったとしてもきっと今回のように牢に放り込んででも止めると思う。
「ユーツヴァルト…。ごめんな」
きっと俺は冷たいんだろう。
でも、ユーツヴァルトの気持ちよりもリヒターの気持ちの方が百倍理解できたから、どうしても逃がしてやるなんてできなかった。
俺ができることと言えば、ただ友情を優先できなくて悪かったと謝ることくらい。
「トルセンに…手紙でも書こうかな」
そんなことを口にしながら俺は遣る瀬無い思いを抱え、これが最後だとそっと一筋の涙を流したのだった。
***
【Side.セドリック】
ワイバーンでブルーグレイに戻る道すがら、ユーツヴァルトに毒を盛るよう命じた暗部から連絡が入る。
時間的にちょうど宿に泊まるタイミングだったため、会話もアルフレッドに訊かれずに済んだ。
『すべてご命令通りに』
「そうか」
ユーツヴァルトからすれば驚いたことだろう。
自分を庇護してくれているメルケ国の王子の目の前で毒に倒れる羽目になったのだから。
「怪しまれずに済んだか?」
『はい。即効性の高い眠るように死ねる毒【ナイトメアの慈悲】を使いましたので』
なるほど。
ロロイアでユーツヴァルトがロキに手渡していた毒はそんな名前なのか。
悪夢であるナイトメアの慈悲とはまた言い得て妙な名の毒だ。
とは言え苦しまずに死ねた方が余計な伝言も残されずに済んだだろう。
「死体はどうした?」
『そちらはメルケ国の方で一般庶民としてではありますが、火葬後手厚く葬られたようです』
「そうか」
メルケ国は長く戦火の中にあったため、死体を埋める場所がなくなるという理由から、確か火葬の習慣があったはず。
これで万事解決だ。
アルフレッドには敢えて死んだとは告げず、行方不明で通してもいいかもしれない。
これ以上悲しませるのも可哀想だし、わざわざ知らせる必要もないだろう。
「ご苦労だった。後は情報収集だけして引き上げろ」
『かしこまりました』
思ったように事が進んで満足だ。
こちらに迷惑をかけてくるような輩はさっさと処分に限る。
「さて、今日もアルフレッドを慰めてやるとするか」
いつまでもユーツヴァルトのことで頭をいっぱいにされるのも癪だ。
これを機に優しく接して俺の評価を上げよう。
そんなことを考えながら宿へと入った。
その翌日。シャイナーから連絡が入った。
どうやら俺がユーツヴァルトに手を出したのではないかと考えたらしい。
『セドリック。あの男はお前が殺したのか?』
「ククッ。随分な言いがかりだな」
『言い掛かりなものか。俺があいつにとどめを刺そうと思っていたのに!』
「それはご褒美の機会を奪って悪かったな?」
『~~~~っ!』
シャイナーとしては自分の手でユーツヴァルトにとどめを刺してロキからご褒美をもらいたかったのだろう。
手柄を横取りされたと怒っていたが、手を打つのが遅い方が悪い。
「シャイナー。あれは自殺だった。それで問題はないだろう?何を怒る必要がある」
『…………』
「これでどの国にも実害はなく丸く収まった。そうだろう?」
『…………』
言葉はないが悔しそうな空気は嫌というほど伝わってくる。
「カリンもお前もまだまだだ。もっと精進するんだな」
そう言ってからツンナガールを切ってやった。
「セド!姫へのお土産買ってきた!」
アルフレッドが向こうの通りから嬉しそうに駆けてくる。
「良いものは見つかったか?」
「ああ!結局髪飾りにしてみた」
そう言いながらどんな髪飾りにしたのかを嬉しそうに話してくるアルフレッド。
アンシャンテで買うことはできなかったが、いいものが見つかったのなら良かった。
けれど次の言葉に俺は一気に機嫌が悪くなってしまう。
「それで、こっちはその髪飾りと色がお揃いのネックレス!」
「……誰用だ?」
「え?」
「見るからに男物だろう?それは」
まさか自分と姫でお揃いにするつもりかと不機嫌に訊くと、慌てたように手を振られた。
「え?!違う違う!」
「じゃあ誰のだ?」
そう尋ねたら、何故か俺用だという答えが返ってきた。
(何故俺が姫とお揃いにしなければならない?)
どうせお揃いならアルフレッドとがいい。
そう思ったのだが、別に姫とは夫婦なんだからいいじゃないかと返された。
でもほんのりと頬を染めそっぽを向いているから、何かしら裏があるように思えて仕方がない。
「アル。何か思惑があるなら早めに吐いた方が身のためだぞ?」
「セドは今回俺の我儘に付き合ってメルケ国に寄ってくれたし、何かお礼をしたいなって思ってたんだよ。それだけだ!」
「…………それで何故姫とのお揃いが出てくる?」
「そ、それは……」
そこからは脅しに脅して何とか吐かせることに成功した。
その際物凄く言い難そうにアルフレッドはこちらをチラチラ見ながらたどたどしく言葉を紡いできたのだが、要約すると先に俺へのプレゼント用にネックレスを購入したのだという。
綺麗な青で俺に似合いそうだと選んでくれたようだ。
その流れで『そう言えば姫も最近深めの青色が好きだった』と思い出し、髪飾りを購入したのだとか。
つまりアルフレッドの中では珍しく姫よりも俺を優先した、ということらしい。
それを言って俺が調子に乗るのも癪だから逆に言っただけで、別に姫とのお揃いをメインにしたわけじゃないからと逆ギレ気味に言われた。
こういうところはアルフレッドの可愛いところだが、誤解を生むからやめてほしいものだ。
「アルフレッド」
「なんだ?」
「そういう時は素直に言え」
「嫌だ!」
「どうして?」
「だから!お前が調子に乗るからだって言ってるだろ?!」
「お前が俺を大好きだとわかるから嬉しいんだが?」
「そういうところだぞ?!」
そうやって噛みついてくるアルフレッドを絡めとり、耳元で『素直にならないと酷いぞ?』と言ってやったら真っ赤になりながら必死に逃げ出そうとし始めた。
本当にいつまで経っても諦めない奴だ。
無駄だというのに。
「俺のアル。取り敢えずそのネックレスを買った店に案内しろ。お前にも俺が似合うものを選んでやる」
「い、嫌に決まってるだろ?!」
「案内しないなら帰ってから似たような色合いの宝石をあしらった首輪を特注で作って、無理矢理揃いにするだけだ。いいのか?」
「く、首輪?!」
絶対嫌だと叫んでアルフレッドはあっさりと店へと案内してくれた。
本当に単純だ。
でもとある会話から、俺はそこでは買わずにやっぱり国に帰ってから特注で作らせようと思い直した。
その会話はと言うと────。
「なあセド…」
「なんだ?」
「お前に買ったそのネックレスだけど」
「ああ」
「それ、お揃いで買ってもらったらさ、俺の瞳の色に合わせたっぽくならないかな?」
「…………確かにお前の瞳の色だな」
「だろ?だからさ、やっぱりお揃いで買うのはやめとかないか?」
「……そうだな」
そうか。そういうことか。
つまりアルフレッドは自分の色を俺につけてほしかったのだ。
ということは俺がアルフレッドに贈るならエメラルドにすべきだろう。
「わかってくれたか?」
「ああ。よくわかった。帰ったらすぐに作らせるから楽しみにしていろ」
「……へ?」
「俺の色を身につけたかったならそう言えばいいのに」
「……?」
「素直じゃないお前を理解するのはなかなか難しいな」
「ちょっと待て。絶対何か勘違いしてるだろ?!」
「してないぞ?お前の愛情を再確認しただけだ」
「?!?!絶対何か勘違いしてる!絶対だ!!」
可愛く憤るアルフレッドを綺麗に受け流し、俺は清々しい風を感じながら『やはり平穏が一番だ』と笑ったのだった。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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