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【ロロイア国訪問】
157.ロロイア国へ①
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事の起こりは国王宛に届いた一通の手紙からだった。
ロロイア国は小国ではあるけれど薬に特化した国だ。
近々代替わりをする予定で、その息子とセドの顔合わせができたら嬉しいと言ってきたらしい。
確かにロロイア王は高齢だと話には聞いている。
最初の妻とは全く子宝に恵まれず、40才を過ぎてから今の王妃と結婚し、立て続けに三人の子に恵まれたらしい。
王太子のキュリアス王子は今27才だから国王は67才。いや、もう68か。
確かに譲位を考えたい頃合いだろう。
ただ年が年だけに馬車やワイバーンでの移動が辛く、申し訳ないがついでの時でいいので寄ってもらえたらとのことだった。
60代後半って結構はっきり分かれるよな。
騎士みたいに身体を鍛えてたらまだまだ現役って感じで元気な人も多いけど、デスクワークばかりで全く身体を動かしていないと腰にくるっていうし…。
ブルーグレイからしてみればちょっと図々しい申し入れだったが、ロロイアとは薬の取引も多いため無碍にもできず、まあついででいいのならとヴィンセント陛下が呑んだ次第だ。
「というわけで、アルフレッド。ロロイアまでセドリック王子の護衛としてついて行ってちょうだい」
姫が当然と言わんばかりにそんなことを言ってきたから俺はまたかと思いながら一応断って見せた。
「お断りします。俺は姫の護衛騎士なので」
「はいはい。そういうポーズはもういいから。素直に行ってきなさい」
「ポ、ポーズなんかじゃっ…」
「じゃあ言い換えるわ。どうせ貴方が断っても王子は連れて行くんだから、諦めなさい」
それは確かにその通りだ。
俺や姫が何と言おうとセドは絶対に俺を連れていくだろう。
余程の何かがなければ断ることは不可能だと思われる。
(仕方がない。諦めるか)
どうせ身軽に暗部だけ充実させて俺と二人で行きたいとかなんとか言ってくるんだろう。
まあもう慣れたし別にいいけど。
そんな俺に姫が思い出したように一通の手紙を差し出してきた。
「そういえば貴方宛てに手紙が来ていたわ。初めて見る名前だけれど、知り合いかしら?」
俺はその手紙を手に取って、そこにある名を見るや否やすぐさま手紙を開封しにかかった。
そこにあったのがゴッドハルトで世話になった軍医の名だったからだ。
ユーツヴァルト=アインリッヒ。
戦場における生命線とも呼べる軍医で、当時最前線で戦う俺にとってはトルセンと同じくらい身近で親しい相手でもあった。
今はゴッドハルトを離れていると聞いていたけれど、元気にしているだろうか?
そう思いながら手紙を読み進めると、今は魔道具が有名なフォルティエンヌ国にいて、近々その隣国である薬の国ロロイア国に移動し、仕入れを兼ねつつ暫く滞在する予定だと書かれてある。
ゴッドハルトに戻ったら近況も聞きたいし、また俺に会いたいとも書かれてあってちょっと嬉しく思った。
「そっか。でもロロイアに行くならそっちで会うのもありだよな」
偶々ではあるがそっちに行く予定があるんだから会えるなら早いほうがいい。
ゴッドハルトに行くには色々制約も出てくるし、逆にこのタイミングの方が問題なく会えるんじゃないかと思って、俺はすぐさま返事を書くことにした。
まあ『時間が合えば』という条件付きにはなってしまうけれど…。
そうして俺はあまり気の乗らなかったロロイア行きをちょっとだけ楽しみにすることとなった。
***
それから暫くして俺はセドと一緒にロロイア国へと向かった。
一応ユーツヴァルトの件も相談してみたら、二人きりで会うのはダメだけど一緒ならいいと言ってくれたから、城に入る前に街で会うことに。
「アルフレッド!」
青銀色の髪をした碧眼の男の懐かしい顔が俺を見つけて声を掛けてくる。
一見優男風だけど、割と鍛えてるのを俺はちゃんと知っていた。
医者は身体が資本だと戦場でもよく言ってたっけ。
「ユーツヴァルト。久しぶり!」
パンッとハイタッチして挨拶をすると、その流れで軽くハグされそうになったんだけど、そうなる前に俺は後ろからグイッと引っ張られてセドの腕の中に閉じ込められていた。
「そこまで許可した覚えはないぞ?」
ヒヤッとした声で囁かれて、思わずゾクッとしてしまう。
(これくらいで殺気立つなよな)
相変わらず独占欲が強い。
これくらい挨拶なんだから許せばいいのに。
そう思ったけど、それを察したセドが『じゃあ俺がロキと会った時にハグしても許せるか?』とか言われた。
なんだそれ?
「そんなの別にいいに決まって…」
そこまで言ってやっぱり嫌だって言ったら、滅茶苦茶笑われた。
なんだよ。笑うなよな。
「ムカつく!」
そうして悔しがってたら『仲が良いな』ってユーツヴァルトから言われてしまった。
こんなところを見られて恥ずかしいやらカッコ悪いやらでついセドに八つ当たりしてしまう。
「いいから離れろ!」
怒り心頭とばかりにグイグイ胸を押してセドから離れ、俺は改めてユーツヴァルトに向き直って、とりあえずどこか店に入ってゆっくり話そうと口にした。
ユーツヴァルトはゴッドハルトで荒くれ者相手に軍医として接していたから少々の殺気も受け流せるし、セドのことも怖がってなさそうだからきっと大丈夫だろう。
そう思いながら店へと入り、乾杯した後改めてセドを紹介して、ユーツヴァルトの方も自己紹介をしていた。
セドは全く好意的ではない目を向けていたけど、トルセンとも仲良くしてるんだからユーツヴァルトとも仲良くしてほしい。
「それで今はブルーグレイの城で姫の護衛騎士をしてるんだ」
「いや。そこは『セドリック王子の寵姫やってるんだ』でいいだろう」
「は?なんでわざわざ自分からアピールしないといけないんだよ?!」
人が折角護衛騎士を強調して言ったのに、あっさり寵姫とか返されて思わずユーツヴァルトを睨んでしまった。
「いや。そこは各地を転々としてる俺の耳にも届くくらいだし、隠す意味が分からないな」
「ぐっ…なんでそんなことに…」
「姫の演劇が広まった影響もあるだろうな」
「へ?」
「ああ、あれか。最初はブルーグレイでだけ公演されていたものが姫の許可を得て各国の劇場で公演され始めたとか」
その話を聞いて、そう言えば周辺国の来客をもてなしている際に姫が笑顔で『構いませんわ』と話しているのを何度か見掛けた気がする。
もしかしてそのせいで?
「どんな劇だよ?!セドが主役だろ?!」
結局内容を一度も見てないから俺は中身を知らないのだ。
「いや。あの劇の主役はアルフレッドだぞ?お前がセドリック王子に見初められて側妃になって寵愛されるっていう内容だと聞いた」
「はぁあ?!」
(そんなの聞いてない!!)
俺は思わず隣のセドに顔を向けた。
そうしたらとうとうバレたかと言わんばかりにあくどく笑っていた。
なんて奴だ!
「お前、知ってたな?!」
「当然だな」
「この性悪王子!俺が劇を観ないって知ってて黙ってるなんて…!」
「別に何も困らなかっただろう?」
確かにそうかもしれないけど、俺とセドの関係が勝手に各国に周知されていくのって恥ずかしいだろ?!
「セドの印象が良くなる目的の劇だって聞いてたのに!」
「実際よくなっているだろう?側妃にアルフレッドを迎えて性格が丸くなったと皆納得していたぞ?」
「……ま、まさかそっちだったなんて…」
「姫が監修したんだ。当然だな」
「ふん。どうせお前の性格も大きく改竄してるんだろ?」
「ロキ曰く『大体そのまま』らしいぞ?」
「……あの人の意見は大概おかしいから全く参考にならない」
そう言ったら思いっきり笑われた。
けれどそこでただ黙って二人のやり取りを見守ってくれていたユーツヴァルトが話に入ってきた。
「ロキというのはもしかしてガヴァムのロキ陛下か?」
「え?ああ、そうだけど。知り合いか?」
「いや。直接は知らないな。ただガヴァムに俺も知り合いの医者がいてな。そいつがロキ陛下と懇意にしてるんだ」
「へぇ」
誰だろ?
ロキ陛下が仲の良い医者なんてちょっと真っ当な医者じゃなさそうだけど。
そう思っていたら意外にもセドが答えをくれた。
「闇医者か」
「知ってるのか?」
「ああ」
セド曰くロキ陛下が懇意にしている医者といえば闇医者一択らしい。
実にシンプルだ。
「ロンとは十代の頃一緒に医術を学んだ仲なんだ」
ユーツヴァルトは闇医者と古い知り合いだったらしい。
世間は狭いとはよく言ったものだ。
「あいつはルーシャン王国出身なんだが、天才的な手術の腕で王の命を助けたものの…王の身に刃を突き立てたとか言って罪に問われてな、王の命を助けたということで死罪だけは許してやると言われて国外追放になったんだ」
「は?」
なんだその酷い話は。
そりゃあ裏に潜るわけだ。
「勿体ない話だ」
本当に。
まあそれでユーツヴァルトとその闇医者は長らく会ってはいないけど、手紙のやり取りだけはずっと続けているらしい。
そこでロキ陛下の名をちょいちょい見掛けていたのだとか。
「随分可愛がってるようだったから、一度会ってみたいとは思ってるんだが…なかなか機会もないし。この後ガヴァムまでロンに会いに行くついでに会えたらと」
そう言いながらユーツヴァルトは酒を傾けた。
ユーツヴァルトの気持ちはわかるけど、大丈夫かなという気がしないでもない。
「あの人、壊れてるしな…」
正直俺は苦手だ。
でもそんな俺を見てユーツヴァルトが楽し気に笑った。
どんな相手にも果敢に立ち向かっていた俺にも苦手なものがあったんだなと言われたらどうしようもない。
それから暫くユーツヴァルトと積もる話をしつつ昔の思い出話に花を咲かせたりしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。
セドは俺の昔の話が聞いていて楽しかったらしく、武勇伝を聞かせろとばかりにあれこれ聞いていた。
俺の黒歴史も多々含まれているから本気でやめてほしい。
そして明日はロロイアの城に行くからと言ってユーツヴァルトと別れ、俺達はその日の宿へと入った。
ロロイア国は小国ではあるけれど薬に特化した国だ。
近々代替わりをする予定で、その息子とセドの顔合わせができたら嬉しいと言ってきたらしい。
確かにロロイア王は高齢だと話には聞いている。
最初の妻とは全く子宝に恵まれず、40才を過ぎてから今の王妃と結婚し、立て続けに三人の子に恵まれたらしい。
王太子のキュリアス王子は今27才だから国王は67才。いや、もう68か。
確かに譲位を考えたい頃合いだろう。
ただ年が年だけに馬車やワイバーンでの移動が辛く、申し訳ないがついでの時でいいので寄ってもらえたらとのことだった。
60代後半って結構はっきり分かれるよな。
騎士みたいに身体を鍛えてたらまだまだ現役って感じで元気な人も多いけど、デスクワークばかりで全く身体を動かしていないと腰にくるっていうし…。
ブルーグレイからしてみればちょっと図々しい申し入れだったが、ロロイアとは薬の取引も多いため無碍にもできず、まあついででいいのならとヴィンセント陛下が呑んだ次第だ。
「というわけで、アルフレッド。ロロイアまでセドリック王子の護衛としてついて行ってちょうだい」
姫が当然と言わんばかりにそんなことを言ってきたから俺はまたかと思いながら一応断って見せた。
「お断りします。俺は姫の護衛騎士なので」
「はいはい。そういうポーズはもういいから。素直に行ってきなさい」
「ポ、ポーズなんかじゃっ…」
「じゃあ言い換えるわ。どうせ貴方が断っても王子は連れて行くんだから、諦めなさい」
それは確かにその通りだ。
俺や姫が何と言おうとセドは絶対に俺を連れていくだろう。
余程の何かがなければ断ることは不可能だと思われる。
(仕方がない。諦めるか)
どうせ身軽に暗部だけ充実させて俺と二人で行きたいとかなんとか言ってくるんだろう。
まあもう慣れたし別にいいけど。
そんな俺に姫が思い出したように一通の手紙を差し出してきた。
「そういえば貴方宛てに手紙が来ていたわ。初めて見る名前だけれど、知り合いかしら?」
俺はその手紙を手に取って、そこにある名を見るや否やすぐさま手紙を開封しにかかった。
そこにあったのがゴッドハルトで世話になった軍医の名だったからだ。
ユーツヴァルト=アインリッヒ。
戦場における生命線とも呼べる軍医で、当時最前線で戦う俺にとってはトルセンと同じくらい身近で親しい相手でもあった。
今はゴッドハルトを離れていると聞いていたけれど、元気にしているだろうか?
そう思いながら手紙を読み進めると、今は魔道具が有名なフォルティエンヌ国にいて、近々その隣国である薬の国ロロイア国に移動し、仕入れを兼ねつつ暫く滞在する予定だと書かれてある。
ゴッドハルトに戻ったら近況も聞きたいし、また俺に会いたいとも書かれてあってちょっと嬉しく思った。
「そっか。でもロロイアに行くならそっちで会うのもありだよな」
偶々ではあるがそっちに行く予定があるんだから会えるなら早いほうがいい。
ゴッドハルトに行くには色々制約も出てくるし、逆にこのタイミングの方が問題なく会えるんじゃないかと思って、俺はすぐさま返事を書くことにした。
まあ『時間が合えば』という条件付きにはなってしまうけれど…。
そうして俺はあまり気の乗らなかったロロイア行きをちょっとだけ楽しみにすることとなった。
***
それから暫くして俺はセドと一緒にロロイア国へと向かった。
一応ユーツヴァルトの件も相談してみたら、二人きりで会うのはダメだけど一緒ならいいと言ってくれたから、城に入る前に街で会うことに。
「アルフレッド!」
青銀色の髪をした碧眼の男の懐かしい顔が俺を見つけて声を掛けてくる。
一見優男風だけど、割と鍛えてるのを俺はちゃんと知っていた。
医者は身体が資本だと戦場でもよく言ってたっけ。
「ユーツヴァルト。久しぶり!」
パンッとハイタッチして挨拶をすると、その流れで軽くハグされそうになったんだけど、そうなる前に俺は後ろからグイッと引っ張られてセドの腕の中に閉じ込められていた。
「そこまで許可した覚えはないぞ?」
ヒヤッとした声で囁かれて、思わずゾクッとしてしまう。
(これくらいで殺気立つなよな)
相変わらず独占欲が強い。
これくらい挨拶なんだから許せばいいのに。
そう思ったけど、それを察したセドが『じゃあ俺がロキと会った時にハグしても許せるか?』とか言われた。
なんだそれ?
「そんなの別にいいに決まって…」
そこまで言ってやっぱり嫌だって言ったら、滅茶苦茶笑われた。
なんだよ。笑うなよな。
「ムカつく!」
そうして悔しがってたら『仲が良いな』ってユーツヴァルトから言われてしまった。
こんなところを見られて恥ずかしいやらカッコ悪いやらでついセドに八つ当たりしてしまう。
「いいから離れろ!」
怒り心頭とばかりにグイグイ胸を押してセドから離れ、俺は改めてユーツヴァルトに向き直って、とりあえずどこか店に入ってゆっくり話そうと口にした。
ユーツヴァルトはゴッドハルトで荒くれ者相手に軍医として接していたから少々の殺気も受け流せるし、セドのことも怖がってなさそうだからきっと大丈夫だろう。
そう思いながら店へと入り、乾杯した後改めてセドを紹介して、ユーツヴァルトの方も自己紹介をしていた。
セドは全く好意的ではない目を向けていたけど、トルセンとも仲良くしてるんだからユーツヴァルトとも仲良くしてほしい。
「それで今はブルーグレイの城で姫の護衛騎士をしてるんだ」
「いや。そこは『セドリック王子の寵姫やってるんだ』でいいだろう」
「は?なんでわざわざ自分からアピールしないといけないんだよ?!」
人が折角護衛騎士を強調して言ったのに、あっさり寵姫とか返されて思わずユーツヴァルトを睨んでしまった。
「いや。そこは各地を転々としてる俺の耳にも届くくらいだし、隠す意味が分からないな」
「ぐっ…なんでそんなことに…」
「姫の演劇が広まった影響もあるだろうな」
「へ?」
「ああ、あれか。最初はブルーグレイでだけ公演されていたものが姫の許可を得て各国の劇場で公演され始めたとか」
その話を聞いて、そう言えば周辺国の来客をもてなしている際に姫が笑顔で『構いませんわ』と話しているのを何度か見掛けた気がする。
もしかしてそのせいで?
「どんな劇だよ?!セドが主役だろ?!」
結局内容を一度も見てないから俺は中身を知らないのだ。
「いや。あの劇の主役はアルフレッドだぞ?お前がセドリック王子に見初められて側妃になって寵愛されるっていう内容だと聞いた」
「はぁあ?!」
(そんなの聞いてない!!)
俺は思わず隣のセドに顔を向けた。
そうしたらとうとうバレたかと言わんばかりにあくどく笑っていた。
なんて奴だ!
「お前、知ってたな?!」
「当然だな」
「この性悪王子!俺が劇を観ないって知ってて黙ってるなんて…!」
「別に何も困らなかっただろう?」
確かにそうかもしれないけど、俺とセドの関係が勝手に各国に周知されていくのって恥ずかしいだろ?!
「セドの印象が良くなる目的の劇だって聞いてたのに!」
「実際よくなっているだろう?側妃にアルフレッドを迎えて性格が丸くなったと皆納得していたぞ?」
「……ま、まさかそっちだったなんて…」
「姫が監修したんだ。当然だな」
「ふん。どうせお前の性格も大きく改竄してるんだろ?」
「ロキ曰く『大体そのまま』らしいぞ?」
「……あの人の意見は大概おかしいから全く参考にならない」
そう言ったら思いっきり笑われた。
けれどそこでただ黙って二人のやり取りを見守ってくれていたユーツヴァルトが話に入ってきた。
「ロキというのはもしかしてガヴァムのロキ陛下か?」
「え?ああ、そうだけど。知り合いか?」
「いや。直接は知らないな。ただガヴァムに俺も知り合いの医者がいてな。そいつがロキ陛下と懇意にしてるんだ」
「へぇ」
誰だろ?
ロキ陛下が仲の良い医者なんてちょっと真っ当な医者じゃなさそうだけど。
そう思っていたら意外にもセドが答えをくれた。
「闇医者か」
「知ってるのか?」
「ああ」
セド曰くロキ陛下が懇意にしている医者といえば闇医者一択らしい。
実にシンプルだ。
「ロンとは十代の頃一緒に医術を学んだ仲なんだ」
ユーツヴァルトは闇医者と古い知り合いだったらしい。
世間は狭いとはよく言ったものだ。
「あいつはルーシャン王国出身なんだが、天才的な手術の腕で王の命を助けたものの…王の身に刃を突き立てたとか言って罪に問われてな、王の命を助けたということで死罪だけは許してやると言われて国外追放になったんだ」
「は?」
なんだその酷い話は。
そりゃあ裏に潜るわけだ。
「勿体ない話だ」
本当に。
まあそれでユーツヴァルトとその闇医者は長らく会ってはいないけど、手紙のやり取りだけはずっと続けているらしい。
そこでロキ陛下の名をちょいちょい見掛けていたのだとか。
「随分可愛がってるようだったから、一度会ってみたいとは思ってるんだが…なかなか機会もないし。この後ガヴァムまでロンに会いに行くついでに会えたらと」
そう言いながらユーツヴァルトは酒を傾けた。
ユーツヴァルトの気持ちはわかるけど、大丈夫かなという気がしないでもない。
「あの人、壊れてるしな…」
正直俺は苦手だ。
でもそんな俺を見てユーツヴァルトが楽し気に笑った。
どんな相手にも果敢に立ち向かっていた俺にも苦手なものがあったんだなと言われたらどうしようもない。
それから暫くユーツヴァルトと積もる話をしつつ昔の思い出話に花を咲かせたりしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。
セドは俺の昔の話が聞いていて楽しかったらしく、武勇伝を聞かせろとばかりにあれこれ聞いていた。
俺の黒歴史も多々含まれているから本気でやめてほしい。
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