【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【ミラルカ旅行】

156.ミラルカ旅行⑳

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長いようで短かった一週間が終わりを告げた。
結局後半はずっと温泉のある部屋に泊まって、セドと剣を合わせたり、折角だしと一緒に庭園を歩いてみたり、ワイバーンに乗って街に出てみたりと色々楽しんだ。
特にミラルカの街をセドと歩くのは新鮮で、俺が案内するという楽しみもあって凄く良かった。

ちょっと想定外だったのはあの穴場の剣を振る場所。
その近くの庭園がまさかエッチOKの庭園で、予約を入れたら貸し切れるなんて知らなかったから、セドに連れ込まれた時は焦りに焦る羽目に。
あちこちに身体が痛くならないクッションが利いたベンチやら籐製のベンチやらよくわからないぷよぷよ素材のベンチやらが置かれてあって「どこでやりたい?」と楽し気にセドから聞かれて恥ずかしくて仕方がなくて、逃げようとしたのに結局捕まって好きに抱かれてしまった。
立ったままでできる場所も色々あるから便利だなってセドはクスクス笑ってたけど、それってどうなんだ?!
至れり尽くせりにも程がある、何とも言えない庭園だった。

まあそんなある意味俺達らしい時間を過ごしている間にユーフェミア王女に襲撃とかがあったらしく、急遽城の方で保護することになったらしいけど、そこは旅行で来ている自分達ではなく当然ながらミラルカの騎士団が対応してくれたから、巻き込まれずには済んだ。
ここで巻き込まれていたら流石にセドもレオナルド皇子を許さなかっただろうし、話を聞いた時はちょっとホッとしたくらいだ。

そうして無事に最終日を迎えて、俺達は挨拶をしてからブルーグレイへと出発することに。
姫はユーフェミア王女と話していたけど、俺とセドはレオナルド皇子の元へ。

「気をつけて」
「はい。レオナルド皇子も」

俺はそうやってちゃんと別れの挨拶をしたのに、セドはまだ怒ってるのかレオナルド皇子を一瞥して終わりだった。
流石に酷くないか?根に持ちすぎだろ。
しょうがないからセドの分も俺が挨拶しつつ、ついでに色々話してたんだけど、長いと言って首根っこを掴んで回収されてしまった。
ちょっと何かあったら連絡を入れて欲しいって言って、近況報告は姫に入れてもらったら俺にも伝わるからって話してただけなのに。

「行くぞ」

帰りはセドが最初にワイバーンを操縦してくれるらしく、俺を片腕で抱き込んで手綱を握る。

「いや。別に抱き込む必要はないだろ」
「俺がそうしたいからしてるんだ」

そう言ってセドがチュッとキスを落としながら「お前が大事だと知っているだろう?」なんて囁いてくるから真っ赤になってしまう。
なんでこんな口説き文句みたいなこと言いだした?!
あれか?
俺がうっかり口を滑らしたのが悪かったのか?!
でも「旅行は楽しかったか?」って聞かれたから「やっぱ温泉の部屋が良かったかな。星降るような場所でなんてお前らしくなくてドキッとしたし。あんまり雰囲気重視とかやめろよな。俺、意外とそういうの慣れてないし本当ヤバいから。頭の中お前一色になったらどうしてくれるんだよ」ってちょっと茶化して言っただけなんだけど?!

「アルフレッド。帰りはずっとこうして抱きしめてやろうか?」

(甘い!甘すぎる!)

俺に向けられる目がすっごい甘い!
前に嫌だと思ったこともあるけど、今はそうでもないからちょっと困る。
しかも空の上だから剣も振れないし、逃げ場がない!

「うぅ…反則だ」

行きも大概だったけど、帰りはその比ではない。
そうして帰りはずっとセドのことで頭がいっぱいにさせられて、宿でも散々愛されて、姫に『ハートが乱舞してるわね』と揶揄われるくらいイチャイチャしてしまったのだった。


***


それから無事にブルーグレイへと到着したものの、その時にはすっかり疲れ果てていた。
旅行中の報告がないか後でこっちに残していた護衛騎士達に聞きに行かないといけないし、荷物をさっさと片付けるため早く部屋に戻ろうと思ってたら、ガヴァムから贈り物が届いていると言って何やら大きな箱を手渡された。
棺桶サイズのデカい箱だけど、まさかミーシャ嬢の死体とか入ってないよな?
いや。ロキ陛下なら縛られたミーシャ嬢とかの可能性の方が高いか?
ドッキリとかだったらどうしよう?
そんな事を思いながら添えられていた手紙に目を通したら、どうやらこれはお詫びの品らしい。
よかった。
それなら安心だ。
そこにはミーシャ嬢が失礼をして申し訳なかったと言うことと、詫びの品を送るから是非受け取ってほしいと言う旨が書かれてあった。
とは言えあのロキ陛下からの贈り物なんて嫌な予感しかしない。
送り返したらダメだろうか?

「そもそも、そんなのいらないだろ」

そこまでしてもらう必要はないんだけどと思いながら恐る恐る箱を開けて、俺はピタリと動きを止めた。

「こ、これはっ!」

最高級の剣の手入れセット!
しかもちゃんとオリハルコンの剣専用のもの!
それと合わせて添えられてあるのはシンプルなアダマンタイト製の懐剣!

「え?!何これ!凄いんだけど?!」

正直こんなピンポイントで嬉しい物を贈ってもらえるとは思ってもみなかった。
どうせエロアイテムじゃないのかと思っていただけに、感動もひとしおだった。
そして贈り物はもう一つ。

「抱き枕?」

サイズ的にはちょうどセドの身長と同じくらいの大きめサイズ。
どうやらこれのせいでこれだけ大きな箱になったようだ。

「えっと…なになに?」

もう一度手紙に目を向けると、この抱き枕には数か所ポケットがついているらしい。
『そこにセドリック王子と同じ匂いの香り袋を入れたら寂しい夜も安心して眠れますよ』と書かれてあった。

「セドの香り…」

(うっ…ちょっと嬉しいかも)

恥ずかしくはあったけど、ちょっと嬉しくてつい頬を緩めたら、パッと横から手紙を取り上げられてしまう。

「ふん。ロキめ…」
「なんだよ。返せよ!」

そう言ってどこか満足げに見えるセドから手紙を取り戻したら、揶揄うように囁かれてしまった。

「それで?香り袋は必要か?」
「う……」

正直前の俺ならこんな風に聞かれた途端、即「そんなのいらない!」って言っただろうけど、旅行中はずっと一緒だったし、これから仕事がまた忙しくなるのは確実なのを思うと流石にそう言い切るのは気が引けた。
だから────。

「……お前が…これから仕事が忙しくなるなら?」

言い難くはあったもののそうやって答えたんだけど、言われた方のセドは嬉しそうに笑って俺を抱き締めてくる。

「仕事が忙しくてもちゃんと可愛がってやるからな」

そうして『香り袋はすぐに届けさせる』と言って意外なほどあっさりと俺を解放してくれた。

「別に今すぐじゃなくていいし」
「素直じゃないな」
「煩いな」

もうこの後荷物を片付けたら鍛錬場に行ってくるからとビシッと言って、俺はそのままセドと別れた。
本当に揶揄うのは勘弁してほしい。

でもここでそう言えばとふと思った。
ロキ陛下ってこういう時、割と色々贈ってくるんだけど、レオナルド皇子ってこういうことはしないんだなと。
単に思いつかないだけなのか、その場で丸く収まればいいと思って安心しているだけなのか。
そもそもセドが喜ぶ物がわからないから送れないだけなのか…。

別に絶対とは思わないけど、相手の心象もこういうちょっとした気遣いで変わってくるんだなぁとさっきのセドを見て何となく思った。
だって「ロキめ」と言った時のセドはどことなく嬉しそうだったんだ。
今回の贈り物は俺宛だったけど、何故か俺だけじゃなくセドも満足させていた。
手紙なんてセドならあのままその辺に捨ててもおかしくはなかったのに、そうならなかったってことはそのあたりの配慮がロキ陛下はちゃんとできてたってことだろう。

対してレオナルド皇子はセドに謝るのもなかなかしなかったようだし、このあたりがまだまだ皇太子としてダメなところじゃないかなと思ってしまう。
まあ、だからこそしっかり者の奥さんをもらって、ミラルカを潰さず末永く繁栄させていってもらいたいと思うのだけど。

何はともあれ俺がうっかり後押ししてしまった相手と上手くいかずに済んで、今回ばかりはホッとした俺だった。


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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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