【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【ミラルカ旅行】

152.ミラルカ旅行⑯ Side.レオナルド&ミーシャ

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それから暫くしてロキからの連絡が入った。

「ロキ?!」
『ああ、レオ。話はつけておきましたよ』
「よかった。セドリック王子、許してくれた?」
『厳罰をと言って俺に一任してくれたので、そちらまで追いかけてはこないと思います』
「そっか。良かった」

その言葉に俺だけではなく父も母もホッと安堵の息を吐く。

『フィリップには兎に角急いでそっちまでミーシャ嬢を迎えに行くよう言っておいたので、着いたら説明を』
「わかった」
『それからフィリップが来たら明日朝一番にミーシャ嬢を連れて城に来るよう伝えておいてください』
「了解!本当、ゴメン」
『悪いと思うなら二度とこんな風に連絡してこないでください。大体セドリック王子が楽しみにしていた旅行を台無しにするなんて本当に最悪です。俺としても彼女を許す気は一切ないので、そこはお忘れなく』
「お、お手柔らかに…」
『散々兄上との時間を邪魔されて俺が手を抜くとでも?』
「え?!」
『レオ?物事には限度と言うのがあるのを忘れないように』
「…はい」
『大体レオは俺と違って腰掛けじゃないんだから、もっと国を背負う覚悟を持ってると思ってましたけど?』
「ロキ…」
『レオがあれこれ国の為に動き回ってたのはそのためでしょう?それを台無しにするようなことをするなんて、ちょっと考えが足りなさすぎると思いますけど?馬鹿なんですか?』

(そ、そんなに俺を買ってくれてたなんて…)

滅茶苦茶感動するんだけど!

「お、俺ロキに誇ってもらえる大親友になれるように、もっとよく考えてしっかり動けるようになる!」
『是非そうしてください。なんだったら面倒事は全部自分が引き受けると胸を叩いてくれるくらいになってほしいです』
「え?!そんなに期待してくれるの?!」
『レオならできるでしょう?さっさと成長して、今後一切こちらに面倒事を持ち込まないでもらえたら助かります』

嬉しい…。そんなに言ってもらえるならもっともっと頑張らないと!

「ロキ陛下は本当にレオの教育係のようですわね」
「頼りになるな。本当に有難い限りだ」

こそこそと両親が話してるけど、ロキは教育係じゃなくて友達だから!
でもあの優しい声で言われると凄くやる気が出るから、うん、こういうお嫁さんが欲しいな。
癒し系という訳じゃないんだけど、やる気を引き出してくれるところがロキのいいところなんだよな…。
間違ってたらビシビシ叱ってくれて方向修正もしてくれるし、頑張ったら褒めてくれるし。大好き!
そうか!大親友系の奥さんを探せばいいのか!

(取り敢えずまずはユーフェミア王女とも話してみないと)

この件が片付いたら一度きちんと場を設けよう。
勿論緊張するからアルメリアに同席は頼んだ上で。




その後両親は下がっていって、俺達もそわそわしながらフィリップの迎えを待つことに。
急いで来てもガヴァムからミラルカはそれなりに距離があるから仕方がない。
そうして待っていると、無事にフィリップの乗ったワイバーンが到着した。

「ミーシャ!」
「お兄様!」

兄妹が目の前で抱擁を交わす。
フィリップはミーシャ嬢のざっくり切られた髪を見て唖然とし、何があったのかと聞いてきたのでブルーグレイの王太子の側妃に無礼を働いて殺されそうになり逃げてきたのだとありのままを伝えておいた。

「そ…そんな……」

事の重大性を把握し、フィリップが一気に蒼白になる。

「セドリック王子にはロキが話をつけてくれたんだけど、セドリック王子は厳罰を望んでいたらしいから覚悟はしておいてほしい。ロキから明日朝一番にミーシャ嬢を連れて城に来るように伝言も預かってるから、そのつもりで」
「わかりました」

フィリップは神妙な顔でそう口にして、俺に礼を言ってミーシャ嬢と共にワイバーンに乗る。
一応ミーシャ嬢にはワイバーンに乗りやすい服に着替えてもらったし、これならガヴァムまでの移動もスムーズだろう。

「お世話になりました」
「いや。気を付けて」

そうして二人はガヴァムへと飛び立っていく。
その姿を確認した後、俺は俺で鉱山ホテルへと戻ったのだった。


***


【Side.ミーシャ】

なんとかセドリック王子から逃れ、兄に迎えに来てもらうことができてホッとする。

「お兄様…ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い。ロキ陛下はこれで見逃してくださるほど甘くはない」
「でもカリン陛下にお願いしたら許していただけるでしょう?」

どうせ実権はカリン陛下が握っているし、きっとあの男がどんな酷いことを言おうと、涙ながらに訴えればこちらを優遇してもらえるはず。
精々謹慎処分くらいで済むのではないだろうか?
そう思ったのに、兄の表情はずっと強張っていて、事の深刻性を嫌と言う程こちらへと伝えてくる。

「あのセドリック王子が絡んでいて許してもらえるとでも?」
「…………」
「そもそもこうして国に帰れるだけでも運が良かったと思え」
「え……?」
「カリン陛下がブルーグレイでやらかした時は使節団の者達は全員首を刎ねられたと聞く。カリン陛下も快楽堕ちで正気を失っていた。それだけあの王子は冷酷なんだ。女子供でも容赦してくれると思うな」
「そ、そんな……」
「お前のその髪も…きっと序の口だ。そこから切り刻まれてもおかしくはなかったんだぞ?」
「…………」

その言葉にあの時の恐怖が蘇ってくる。
確かにあの時のセドリック王子は自分を嬲る気満々のように見えた。

「いいか。間違ってもロキ陛下の前で愚かなことを言うな」
「そ…それは……」
「お前がロキ陛下を嫌っているのも、陰で他の令嬢達と嘲笑っていることも知っている。だが、あの方はお前が思う程無能でも愚鈍でもない」
「で、ですが…!」

ここでそれをすんなりと認めることはできなかった。
ミラルカの皇王夫妻にもレオナルド皇子にも、セドリック王子にも目をかけてもらえる価値があの男にあるなんてどうしても信じられなかったのだ。

「明日、ロキ陛下の言葉にはおとなしく従え。セドリック王子がロキ陛下に一任した理由がきっとお前にもわかるはずだ」

それは……それだけの厳罰が下されると言うことなのか。
死ねと言われたら死ななければならないとでも?

(嫌よ…)

絶対にそれだけは認められない。
だから公爵家の邸に着いてすぐ、両親に泣きついた。
でも話を聞いた両親は蒼白になって、下手をしたら一族郎党皆殺し案件だと口にしてくる。
それほどセドリック王子にとってのあのアルフレッドの存在は大きかったらしい。
それから両親からも揃ってロキ陛下がどんな罰を言ってきても粛々と受け止めろと言ってきた。
最早ここまで来ると逃げ場はない。
明日朝一番に皆で城へ行こうと言われておとなしく自室へと向かったけれど、とても眠れる心境ではなかった。

「うぅ…。知らなかっただけなのに、どうしてこんなことに……」

そうしてグスグスと泣きながら私は酷い後悔に襲われたのだった。




翌朝、湯を浴び髪を整えてもらってからドレスに身を包み城へと向かう。
両親と兄も一緒だ。
そして案内されるままに王の元へと連れて行かれた。

「ロキ陛下。この度は我が娘ミーシャがとんでもないことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

父のその声に合わせて揃って頭を下げる。
そんな自分達にロキ陛下が声を掛けてくる。

「頭を上げてください。セドリック王子は俺に厳罰を求めはしましたが命を奪えとは言いませんでした」
「では?」
「ええ。セドリック王子が納得のいく罰を五つ考えたので、この場でくじを引いて頂けますか?」
「……わかりました」

全く威厳からは程遠いふざけた男が軽い調子でくじを引けと促してくる。
本当にどうしてこんな男が皆に一目置かれているのかがさっぱりわからない。
でもこの分ならそんなに酷い目には合わないのではないかと言う希望が頭をよぎった。
だから少し気も楽になって兄に任せることに。

「お兄様。私の代わりにくじを引いて頂けませんか?」
「ミーシャ!!」
「良いではありませんか。どんな罰でも私は粛々と受け止めますわ」

命を奪うようなものではないとさっきも言っていたし、気楽にいこう。
大体くじを引くためにあの男に近づくのすら嫌なのだ。
ここは兄に任せてしまいたい。
そう思ってそう言ったのに、これには父にまで叱られてしまった。

「ミーシャ!陛下に対して無礼にも程があるぞ?!」

けれどロキ陛下は気にした様子もなく兄へとくじを差し出した。

「フィリップ」
「は、はい…」

そうして引かれたくじを見て、この男はどこかつまらなさそうな顔で言葉を紡ぐ。

「三番ですね。では公爵家の領地没収の上、鞭打ちとミーシャ嬢の勘当を申し渡します」
「え?!」
「聞こえませんでしたか?平たく言えば本人と実家で罪を等分しろと言うことです。彼女には平民としてこれから一人で生きていってもらいます」
「そんなっ?!」
「納得がいかないのはわかります。俺だってそうですよ。一番軽い罰だったんですから。なんなら変えます?それでもいいですけど」

その言葉に父が恐る恐るロキ陛下へと尋ねにかかる。

「……ちなみに他のものといいますと?」
「一番は縛り上げて身動きが取れない状態にした上で泥沼に30回頭から沈める」
「…………」
「二番は鞭打ち百回の上、路地裏放置」
「…………」
「四番は輪姦した上で娼館落ち」
「…………」
「五番は媚薬を盛った上でワイバーンに全裸でぶら下げて国内一周です」
「三番!!三番でいいです!!」

私は思わずそう叫んでいた。
まさか本当に一番軽い罰だったとは思いもよらなかった。
兄のくじ運の良さを今日と言う程有難いと思ったことはない。
これには両親も兄も蒼白になりながら文句なしに三番でと賛成していた。
領地没収は正直かなり痛いし公爵家自体の没落は目に見えているが、こればかりは仕方がない。
一人で罰を受けて死にかけるより、一家で等分した方が自分的にはありがたかった。
家族としても、皆殺しよりかはマシといった心境だろう。

「ではこの件はこれをもって決着とします。ちなみにカトレシア公爵家からのミーシャ嬢への支援は一切認められません。名を変え、自力で住む家を探して、自力で職を得て、自力で生きていくように。それで餓死しようとこちらは一切助ける気はありませんのでよく考えて行動するように」
「は…はい……」
「本気で生きたいなら屋敷の使用人に物価を聞き、生きていく術を学んでから家を出ることです。猶予は一週間。それ以上は認めませんので」

そうして私はかなり痛い鞭で尻を叩かれ、一週間の猶予の間に必死に庶民の生活を学んで家を出ることになった。
名をミラと改め、僅かな路銀と着替えだけを手に街に出る。
最初は色々と凄く大変であの男を恨んだけれど、一週間で学んだことでなんとか生きていくことができた。

そうこうしているうちにロキ陛下が元王妃に殺されそうになるという事件が起こって、俄かに街が騒がしくなった。
その時、自分がこれまでどれほど思い違いをしていたのかが痛いほど理解することができた。
いつの間にかあの男は民に王として認められていたからだ。
認めていないのは貴族の…それも自分達のようにあの男とかかわりが少ないごく一部の者達だけだったのだと思い知った。

世話になっている下宿先のおかみさんが言っていた。
この洗濯用の魔道具はロキ陛下が即位したから庶民にも手が届く値で出回るようになったんだよと。
それまでは一つ一つ丁寧にゴシゴシと洗わないといけなかったらしい。
水の魔石が普通に出回るようになってわざわざ井戸まで水を汲みに行かずに済むのもロキ陛下のお陰だし、火力調整ができる魔道具が出回るようになって料理が格段にやりやすくなったのもそうらしい。
それまでは単純に火をつけるだけの魔石しか使えなくて大変だったんだとか。
そんなこと、全然知らなかった。
前王はそんな便利な道具は庶民には必要ないとばかりに税をかけ、商人達は仕方なく税の分だけ上乗せし貴族に売っていたのだとか。
そんな話を聞けば自分がどれだけ物を知らなかったのか、嫌でも思い知る。

(何よ……それならそう言いなさいよね)

これまで自分がどれだけ恵まれていたのか実感し、庶民が憤る気持ちが今、嫌と言うほどよくわかった。
そりゃあこれだけ生活を便利にしてくれた王を殺そうとしたら怒るに決まっている。
元王妃やそれに賛同した貴族達に報復したくなる気持ちも理解することができた。
まだひと月にも満たない庶民生活を送っている私だってふざけるなと思ったくらいなのだから、他の者達のその怒りの程が知れる。
今の私にはもう心の中にあの男を嘲笑う気持ちなんてこれっぽっちもなかった。

(大体家を出るまで一週間も猶予をくれるってどうなのかしら?)

確かに鞭で打たれたのは痛かったけれど、自分を嫌っているとわかり切っている相手に猶予を与えるなんて温情をかけ過ぎじゃないだろうか?
そもそもあの選択肢だって、わざと一番マシなものにしてくれたんじゃないか疑惑があるのだけど…。
だって別に紙に書いてあったわけではなく、くじ自体には番号しか書かれていなかったのだから、いくらでも誤魔化しはきいたのだ。
今更気づいて謝ったってどうしようもないけど、どうか無事でと初めてあの男を思い遣ったのだった。



****************

※そんな訳でミーシャ嬢は平民落ちとなりました。
ガヴァムサイドのお話はあちらを読んでいない方は、なんかあったんだなと軽く流していただくだけで大丈夫です。
次回はアルフレッド&セドリック視点となります。
宜しくお願いします。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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